バックドアIRAを知る

所得が一定以上になると、ふつうであれば税控除が効くはずのTraditional IRAへの積み立てに税控除が適用されないようになると同時に、Roth IRAへの積み立ても許されなくなります。これらの所得層にポピュラーなIRAへの積み立て方法に、バックドアIRAというものがあります。いったん、Traditional IRAに税控除なしで積み立て(Non-deductible IRAと呼ばれる)、その後すぐにRoth IRAにロールオーバーするというやり方です。こうすることで、直接Roth IRAに積み立てることが許されなくても、Non-deductible IRAを介することで結局はRoth IRAに積み立てたのと同じ効果を得るわけで、これが「バックドア」という言葉のゆえんです。

バックドアIRAとは?

シングルで$117,000、夫婦で$184,000以上の所得だとRoth IRAへの積み立ては許されなくなります(2016年度数字。限度額やIRAの基本情報はこちら)。また、このレベルの収入だと通常のTraditional IRA(積み立て額に税控除策あり)も利用できません。そこでNon-deductibleのTraditional IRAに積み立てをします。ひとり$5,500、配偶者の分$5,500も合わせれば夫婦で$11,000までの積み立てが可能です(50歳以上なら、一人$6,500が積み立て可能)。積み立てはMoney Market Fundなどに一時的に入れて置き、その後、すぐにRoth IRAにロールオーバーします。

Non-deductible Traditional IRAの積み立て元金はすでに所得税がかかっていますのでロールオーバー時には非課税ですが、利回りは課税されます。ただ、Traditional IRAへの入金からRoth IRAへのロールオーバーまでの期間が短ければ、その間の利回りは非常に小さいので、事実上は課税部分はゼロ(か、あっても微小)ということになります。

ただ、この方法をとるにあたって、ひとつ気を付けたいことがあります。それは、税控除で積み立てたリタイヤメント口座が他にないことです。このような口座は、たとえばTraditional IRA(Non-deductibleでない)、SEP-IRA、SIMPLE IRAなどです。

これらの口座を所有していると、ロールオーバーが不可能なわけではありませんが、思わぬ税金がかかったり、タックスリターン上の管理が煩雑になるという問題がでてきます。これらの口座ある場合、実際のロールオーバーはNon-deductible Traditional IRAからなされたのであっても、税法上は、Non-deductible Traditional IRAとその他の税控除で積み立てた口座とから均等に引き出してロールオーバーが行われたとみなされ、その他の口座は税控除で積み立てているため、ロールオーバー時に所得税を支払うことが求められるのです。よって、これらの口座をお持ちの場合は、基本的にはバックドアIRAの利用はお勧めしません。

なお、同様に税控除で積み立てる401(k)や403(b)などはこの限りに該当せず、所有していてもバックドアIRAが複雑になることはありません。この利点を利用し、税控除で積み立てたTraditional IRAがある場合、401(k)などにロールオーバーして問題となる口座をなくし、そのうえでバックドアを利用するという方法もあります。利用にあたっては、専門家にご相談ください。

 

どのくらい待ってロールオーバーすべきか?

あまりに早くロールオーバーすると、Non-deductible Traditional IRAに積み立てたのは、もともとRoth IRAへお金を動かすためであり、本来なら不可能なRoth IRAの直接の入金を目的としたものとみなしますよ(つまり「Illegalとみなす」ということ)・・・というルールがあります。直接Roth IRAへ積み立てたのと同等とみなされれば、実際にRoth IRAに積み立てられないはずなのに積み立てた額(たとえば、夫婦で$184,000以上の収入があるのに、$11,000をロールオーバーしたのであれば、$11,000全額)に対して6%のペナルティ税がかかります。もしこれを年々繰り返していたのであれば、このペナルティ税は毎年かかります(引き出すまで)。

このルールはStep Transaction Doctrinesと呼ばれるものですが、これを憂って、ロールオーバーはすぐしないで、ある程度の期間待ってからするほうが安全だというする見方があります。人によっては、6か月とか1年待ったほうが安全という人もいますが、これはどうやらかなり主観的なもののようです。

確かに「直接Roth IRAへ積み立てたのと同等=Illegalだと判断される」可能性はゼロではありませんが、少なくともこれまでの変遷を見るにこれは確率的にはかなり低いことのようです。年々のペナルティ税を課されて参った・・・というような話は、あまり聞いたことがありません。また、IRSがこのことを大きな問題として、「バックドアIRAは違法です」というような警告を出すということもありません。また、どのくらいの期間がたってからロールオーバーしたかという情報は、タックスリターンで監査が入り、情報を提供することを求められれば明らかになるかと思いますが、通常のタックスリターンでロールオーバーを申告するForm8606には期間を記入する箇所がありません。もし監査が入った場合も、ロールオーバーが1週間以内なら「違法」だが、3ヵ月なら「違法でないのか」というとそのようなガイドラインはどこにも見当たりません。

ということで実質上、バックドアIRAはloopholeとして放置されている・・というのが多くの人の意見で、私も同感です。ですので、バックドアIRAを利用するならば、すぐにロールオーバー(多くの場合、金融機関の処理上のしばりで、当日はロールオーバーが可能でないことがあるので、翌日など)してもよいのではないかと思います。だたし、再度申し上げますが、これはあくまで主観的な判断となります。

 

やり直しも効きます・・

もし何らかの理由でロールオーバーをしなかったほうがよかった・・と後悔したなら、ロールオーバーをしなかったことにして元に戻すことができます。Non-deductible Traditional IRAのステイタスに戻すということです(Recharacterizationと呼ばれる)。Recharacterizationをしたい理由としては、たとえば、税金がかからないと思ってロールオーバーしたのに、実は他にもTraditional IRAなど非課税で積み立てた口座が存在していて、税処理が煩雑になってしまうことがわかった(上記であげたとおり)などです。Recharacterizationには期限があり、ロールオーバーをした年の翌年10月15日までとなっています。

できなくなるかもしれないけれど・・・

2015年の3月に発表された2016年度のオバマ予算案では、各種の増税施策が含まれていましたが、そのうちの一つがこのバックドアIRAをなくすというものでした。考えてみれば、高額所得のために、税優遇措置のあるRoth IRAへの積み立てはできません・・・とうたっておきながら、Non-deductible Traditional IRAを経由すれば実は積み立てられるというのも理にかなわない話であるわけで、今まで放置されてきたこの方法を正式に禁止するということです。

実際のところはその後、バックドアIRAの禁止はとりあえず見送られ、2016年度はそのまま見過ごされることになりました。ただ、禁止の可能性は十分残っています。もしかしたらいつまでも見過ごされるかもわからない一方で、急きょ禁止される可能性もあるということを理解しておいたほうがよさそうです。

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