アメリカ大学は本当に合格しにくくなっているか  

とある友人と話していたときのこと。子どもの進学の話になり、全米ランキングでも上位の大学を卒業している彼女いわく、「私の時代はそれほど競争率も高くなく入学できたけれど、今受験しろといわれたら、きっと私は合格しないだろう・・・」。実はこのような話は案外よく耳にします。「GPAもテストスコアもほぼ満点に近く、スポーツでも活躍しアワードもたくさんあるようなスター・スチューデントが○○大学に合格しなかった・・」という話もよく聞きます。スタンフォード大学の合格率は約5%だそうで、きっと不合格の95%の学生もスタンフォードを受験するくらいだから、きっとそれなりにかなり優秀ななずで、その中にはたくさんのスター・スチューデントが隠れていることでしょう。エリート大学の合格はまさに宝くじに当たるようなもの・・とも。こんな話で不安が不安をあおり、15校とか20校とか受験するという話も聞きます。でも、それ、鵜呑みにするのはちょっと違うようです。今日はその話・・。

確かに合格率は下がっている・・

 

確かに上位校での合格率はぐんぐん下がってきています。しかしながら、「だから、入るのが難しくなった・・」と結論づけるのは、ある部分で合っていて、ある部分では間違っています。

まず、合格率の計算ですが、合格率=合格者数÷受験者数ですね。合格率が下がるためには、1) 合格者数が少なくなるか、2) 受験者数が多くなるか、あるいはそのどちらもの効果が必要です。1)の合格者数は比較的年々安定路線で推移するはずで、激減することはあまりありません。実は、昨今の合格率の低下は、2)の受験者数の増大によるところが多いのです。

受験者サイドのはなし・・・

 

学生が受験する大学の数は大きく増加傾向にあります。アメリカの大学は、日本のように「大学に出向いていって受験」する必要がある場合はほとんどなく、アプリケーションフォームにテストスコアやGPAなどを記入して、必要に応じエッセイや推薦状などを付けて送信すればよく(といっても、サンクスギビング休暇返上で取り組む姿は目にしますけど・・)、最近ではほとんどがオンラインで行われるので、「もう1校余分に受ける」ことに対する労力がそれほど大きくありません。受験料も日本に比べれば安いうえ、Common Applicationという統一フォームで複数の大学を同時受験できることもあり、1校追加はワンクリックで済む場合もあります。Common Applicationで受験できる大学は、7,8年前には300校程度だったのが、現在では500校以上まで増えています。

「合格率は非常に下がっているので、受かるかどうかはふたを開けるまでわからない」という不安とあいまって、受験校の数はどんどん上昇しています。1990年には7校以上受験する学生は全体の9%にすぎなかったのが、2011年では29%を占めたそうです(National Association for College Admission Counseling)。2014年には、16.5%の学生が、11校以上20校までを受験すると答えたそうです(Naviance)。

さらに、大学選びがナショナルレベルに広がる傾向が顕著です。オンライン情報が充実し、大学についての情報集めや比較検討が容易になり、、また写真やビデオなどで大学の雰囲気なども感じられるようになり、自分の住む州や近隣の州を越えたレベルで受験することも増えました。

さらに、近年では海外からの留学生数も上昇傾向です。2013-2014年の大学/大学大学院の留学者数は886,052人だそうで、アメリカの全大学生の4%が留学生とのこと。2000年以降留学生の数は72%も増え、国として多いのは、中国、インド、韓国でした。授業料をフルに支払う留学生は大学側にもおいしい存在で、そのうえ学力も高いというのなら申し分ないでしょう。

余談になりますが、韓国のKorean Minjok Leadership Academyというエリート校があります。毎年、アイビリーグやその他のトップスクールに続々と留学生を送り込んでいます。ここの学生の平均SATスコアは2260(2007年)というデータがあり、おどろくばかりです(平均ですよ、学校平均!)。この学校は全寮制で日々のスケジュールがWebに載っていました。すごい脱線ですけど、掲載させてください。

minjok academy

なんと8時間目まである授業。その後も自習時間がばっちり。。こんな人たちとも競わねばならないとは、アメリカの高校生も大変なものです。

 

大学サイドのはなし・・・

 

ここまでは受験生の側のお話でしたが、今度は大学側を見てみましょう。

実はこの合格率(英語でいうとSelectivity)というのは、大学にとってもとても大切な数字です。なぜなら、合格率が低ければ低いほど、大学ランキングが上がるからです。毎年発表される大学ランキングは、大学にとっては死活問題であり、ランキングを決めるのはさまざまな要素があるものの、この合格率はとにもかくにもそのうちの主要要素というわけです。

各大学は合格率を下げるために、、合格者数÷受験者数の公式のなかの分母の増加に努めています。我が家の息子がはじめてのSATを受けたころから、いろいろな大学から立派なパンフレットが送られてくるようになりました。その中には名前も知らなかったような大学もあれば、YaleやStanfordなどの華々しい大学もあります。パンフを送ってきてくれるのなら、きっと自分が合格圏内に入っているのかなどとうれしくなったりもするのですが、実はこれ、何の意味もありません。中には、個人名が美しくタイプされたパーソナルレターもありますし、ずっしりと重い写真集もあります。これらはすべて、分母の受験者数を増やすための努力に他なりません。学生が合格圏内に入っていようと入っていなかろうとそれは問題ではなく、ただ単にできるだけ多くの学生に受験してもらいたいのです。なるべくたくさんの学生に受験してもらって、なるべくたくさんの学生を不合格にすることで合格率をできる限り低くし、それによって大学ランキングを維持する・・というのが大学側のニーズです。

たとえばシカゴ大学の例。。。以前はシカゴ大学は頑固にCommon Applicationに参加せず、独自の受験フォームを使っていました。ところが、ランキング上の競合校であるノースウエスタン大学やペンシルバニア大学が続々とCommon Applicationに移行し、受験者数増加à合格率低下のルートをたどると、頑固なシカゴ大学もCommon Applicationへの移行を決断せざるを得なくなりました。

その結果は? 2007年から2013年までにシカゴ大学の受験者数は20,000人増え、合格率は24%下がりました。2007年に9位だったランキングは、2014年には5位になりました(もちろん、これには他の要因もあるでしょうが)。

もちろんこのような努力はシカゴ大学だけではなく、どこの大学もがんばっていることです。下は、受験者数の伸びを示しています。大学が必死にがんばっている様子が、見えてきそうですね。

college selectivity

大学によっては、すでに名前入りの受験アプリケーションフォームを用意したり、アプリケーションフォームを短くして受験しやすくしたり、あるいは受験料をゼロにするなど、受験者獲得のための工夫は尽きません。

ちなみに、SATテストを運営している団体であるCollege Boardは、大学向けにStudent Search Serviceというサービスを行っていて、大学から情報を受け取ることに同意した学生600万人のデータを大学に売っています。テストスコアやZIPコード、希望の専攻、GPAなどなど、必要なクライテリアで学生をスクリーンし、住所やe-mailアドレスを一件34セントで売るのだそうで。学生からはお金をとって受験させ、大学からはお金をとって学生の情報を与える・・おいしいビジネスですね、College Board・・・。

消費者として考えておくこと

 

ということで、分母が増えての合格率の低下。競争は激しくなったといえば、確かになったわけですが、ひとりの学生がいくつもの大学を受験するので分母が増えた部分が大きいということです。ひとりでいくつもの大学を受験することはできても、ひとりでいくつもの大学に入学することはできないわけで、その意味ではちょっとほっとします。しかもエリート大学について、巷でよく言われる「合格は宝くじ状態」というのは、この場合なんだか安心する要因にもなりえます。この言葉の意味は、同じ学生でもA大学には受かったのに、同等レベルかそれ以下のB大学には不合格という、かなりランダムなパターンが見受けられ、優秀だからといって安定的に多くの大学に合格するということが難しいということらしいですが、それはきっといいことと思いませんか?なぜなら、スーパーに優秀な学生がどこの大学も総ナメで合格してしまったら、そうでない学生にまったくお鉢が回ってこないということになるわけで。スーパーに優秀な学生でも宝くじ状態というのは、きっとそうでない学生にとっても宝くじ。損な宝くじもあれば、得な宝くじもあるということで。(といっても、ある路線以上に優秀でないと、そもそも話にならないかもしれないけど。。う~ん、当たらない宝くじは多いが、当たりは少ないから、確率的にはきびしいのか。。ま、それはおいておいて。。)。

そして、この合格率の低下傾向は、とくにランキング上位のエリート校で激しいということも大きな救いです。中位以降の大学では、それほど合格率の低下に注力していない大学も多く、そういう学校ではレベルさえ合っていればかなり高い確率で合格できます。たとえば、以下はCollegedata.comで、Moderately Competitive(Entr. Diff.: そこそこの競争率)で、フレッシュマンの満足度(Fresh. Sats.)が90%以上、4年以内の卒業率(Grad. Rate)70%である優良大学のリストです。これらの大学は合格率は50%以上、中には75%というところも。合格率がそれほど高くないからといって、それが即、その大学が「良くない大学」ということを意味しないのはおわかりですね。そもそも合格率は、受験者数の操作で作られるものなわけですから。

つまるところ、合格率の低さや高さはある程度参考にするにとどめ、そこにあまりに注目しすぎないということでしょうか。必ずしも、合格率が低い=良い大学、合格率が高い=悪い大学ということではないことを心にとめておきたいものです。合格率はあくまで「操作された」数字であることを忘れないで。。

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2 responses to “アメリカ大学は本当に合格しにくくなっているか  ”

  1. 興味深く読ませていただきました。
    私はシカゴ大学で去年まで研究者をしていまして、大学生に実験を教えていました。
    彼らは去年2014年に卒業したのですが、入りにくくなってしまったシカゴ大学のことをボヤいていました。
    彼らが言うには、4年前のボクたちなら今年入学できないとおもう。でも、TAで下級生を教えていると、僕たちよりも凄くできるかというとそうでもない。学生のレベルは殆ど変わってない、とのことでした。
    ランキングは操作された数字、という解釈、まさにそうですね。

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