これからどうなる、私たちのソーシャルセキュリティー?

私たちがリタイヤするとき、ソーシャルセキュリティーは頼りになるのでしょうか?約束されたベネフィット額はそのままもらえるのでしょうか?ソーシャルセキュリティーの将来については、いろいろな見方があり、さまざまな人がさまざまなことを言っています。悲観的なものもあれば、楽観的なものもあり。将来予測はたくさんの前提を基になされるので、前提がそのまま実現するか誰にもわからず、結局本当のところどうなるかは神のみぞ知るです。2014年のSocial Security Trustees Report(ソーシャルセキュリティー基金の管財人によるレポート)というのが発表されました。Bad NewsとGood Newsをまとめてみました。

 

Bad News

 

上のレポートの内容はソーシャルセキュリティーシステムの破綻というこれまでの予想を再確認するものでした。ソーシャルセキュリティーには実はふたつの独立した基金が存在し、ひとつはDisability Program(障害者基金)、もうひとつはRetirement Program(正確にはOld Age and Survivors Fundでリタイヤメントと遺族年金基金)です。Disability Programは2016年に破綻、Retirement Programは2034年に破綻という予想でした。破綻というのは、このまま何の改正・改善がなされないまま時がたてば、それぞれの基金で給付する必要があるベネフィットの総額が、ソーシャルセキュリティー税として徴収する税金よりも多く、それぞれの基金に蓄積された積み立て資産を少しずつ食いつくし、2015年なり2033年なりには積み立て資産がゼロになり、支払われるべきベネフィットをすべて支払うことができなくなってしまうということです。若手の稼ぎ手が減り、結果的にソーシャルセキュリティー税収が減る一方で、ベネフィットを申請するシニア層は増えていくという構図は、日本でもアメリカでも同じです。

2016年に破綻が予想されるDisability Programを維持するために、本来はRetirement Programに入るはずのソーシャルセキュリティー税をDisability Programに割り当てるという提案がなされており、これは当面のDisability Programの支払い能力を確保するものの、Retirement Programの破綻を早める危険もあります。なんらか根本的対応がなされなければ、一時的な資金の流用だけで、それぞれのProgramの維持という解決は見ません。

以降ここではRetirement Programの方に焦点をあてますが、このような状況を背景に、ソーシャルセキュリティーはないものと思ったほうがいいとか、できる限り早く申請してもらえるうちにもらえるだけもらっておいたほうがいいというような悲観的な意見も耳にします。

現在50代の人たちはおそらく現在約束されているベネフィットがもらえると予想されるが、それより若い世代の人たちはベネフィットが低くなる心構えが必要とする意見もあります。また、50代の人であってもリタイヤメント当初のベネフィットから年々物価上昇に合わせて増額される率が、政府が約束している3.5%ではなくなる可能性が高いので、1.5%とか2.0%というような保守的な増加率を見込んだほうがよい(つまりリタイヤメント後期には、ベネフィットの実質上の減少となる)とする見方もあります。

リタイヤメント後の生活でソーシャルセキュリティー年金だけでは生活が成り立たない場合も多いでしょう。しかしながらソーシャルセキュリティーはアメリカでのリタイヤメントの大切な柱であることには変わりなく、それをまったく除外しては老後の生活を考えることは困難なケースがほとんどです。いったいそのあたりのところどうなんでしょうか。

 

Good News

 

上記の悲観的な見方に対し、楽観的な見方も存在します。Retirement ProgramからDisability Programへの税収割り当ては、Retirement Programの大きさに対しDisability Programの規模がかなり小さいものなので、Retirement Programの枯渇に大きなインパクトがあるものではないという試算も。

また、将来の破綻が叫ばれる中においても、実は2013年には基金の資産バランスは増えたとの報告もあります。Retirement Programは2013年に$680ビリオンをベネフィットとして給付しました。税収は$646ビリオンでベネフィットの給付必要額には$34ビリオン及びませんでしたが、利子収入が$98ビリオンあったため、結果として積み立て資産バランスが差し引き$64ビリオン増えました。少なくともこの2013年の持ち直しは明るい材料ではあります。

また「破綻(insolvency)」という言葉はいかにもソーシャルセキュリティーのシステムが終わりを告げ、よってベネフィットも支払われなくなるというような響きがありますが、そうではありません。「破綻」とは、その年に支払いが必要なベネフィットの額をすべてカバーするだけの十分な税収と積み立て資産がないという意味で、その年のベネフィットがまったく支払われないという意味ではありません。破綻を迎える2033年であっても、100%のベネフィットの給付は無理なものの、その年のソーシャルセキュリティー税収から、支払われるべきベネフィットの75%の額は支払いが可能だと試算で出ています。

昨今、ソーシャルセキュリティーの危機として叫ばれるこの「破綻」ですが、実はシステムが破綻しそうになったのははじめてのことではなく過去にも何度かありました。レーガン大統領の時代1981年には、「1983年にシステムが破綻する」という予測がでました。これは、1970年代の高い物価上昇率と高失業率があいまって、ソーシャルセキュリティー税の減収とベネフィットの申請増加による結果でした。また長期的な傾向として、寿命の延びによる生涯ベネフィットの増加とベビーブーマー後の労働者数の減少という背景も存在し、1983年の法改定で、フルリタイヤメント年齢が当時の65歳から66歳、ひいては67歳まで引き上げられると同時に、ソーシャルセキュリティー税率も引き上げられました。その結果、その後30年間はソーシャルセキュリティーシステムは無事維持され続けてきました。

今回の破綻予測でも、ソーシャルセキュリティー税の増税、高所得者層のベネフィット減、フルリタイヤメント年齢の引き上げなど(おそらくこれらのコンビネーション)が必要であるというところでは明白です。ソーシャルセキュリティーはアメリカの老後にとって柱となるシステムであり、政治家は自分の立場を守るためにも、ベネフィット減というのは一番避けたいところであるので、それ以外のところに解決策を求める可能性が高いという見方があります。一理あります。数%の増税と68歳へのフルリタイヤメント年齢の引き上げなどがもっともらしい解答ではないかという見方です。少なくとも、過去の危機では、ベネフィット減ではなくベネフィットを保護する方向で動きました。

ソーシャルセキュリーはフルリタイヤメントを待たずもらえるうちにもらっておくという考えは、このような歴史を見る限りはあまり理にかないません。ベネフィット提供の仕方に変更があるとすれば、申請者の生年月日によって変更がなされ、ベネフィットをもらい始めたのが早ければ変更の影響を受けないというわけではありませんでした。また、破綻に拍車をかけないためにも、政府は早期受給を助長するような策はさけ、リタイヤメント年齢に近い人々のベネフィットは約束どおり保護するという向きをとるであろうという読みもあります。かえってフルリタイヤメント以前に受給を始めれば、早期申請のためのベネフィット減ため、生涯受給額が激減することにもなりかねません。早くもらったほうがいいという考え方はしないほうがいいかと思われます。

 

ということで、ソーシャルセキュリティーシステムが破綻の危機を迎えているのは確かですが、リタイヤメント年齢に近い現在50代の人々は特に、ソーシャリセキュリティがまったくもらえない、あるいは早くもらったほうがいいという状況は考えにくいということのようです。また、最悪でも(何の施策もとられなかった場合でも)現在の試算では約束の額の75%は受給可能となっていること、政府はベネフィット減は極力避けようとするだろうことから、私たちはある程度のベネフィット減は念頭に置きながらも、ソーシャルセキュリティーを老後の財源としてまったく除外して考える必要はないという状況を把握しておきたいというところでしょう。。。

将来のベネフィットがどのようになっていくかは誰にも正確に予想することができませんが、ファイアンシャルプラニング上は、楽観的すぎる分析を防ぐため、ベネフィットが将来的に25%減として計算するという方法がよくとられます。もっと保守的にシュミレーションしたいのであれば50%減という数字を使うこともあります。リタイヤ当初のベネフィット減はなくとも、その後物価上昇率に応じたベネフィット増加率が低くなる可能性もあるので、ある程度保守的な数字を使って計算することをお勧めしています。

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2 comments

  1. 初めてコメントいたします。アメリカで仕事をしている者としてはソーシャルセキュリティの行方が気になっていますので、大変参考になりました。ありがとうございました。
    日本の年金も破綻するのでは?と言われて久しいですが、「破綻」の解釈も明解で、なるほど、と納得しました。日本もアメリカも高齢化社会(日本は超高齢社会になってしまいましたが・・・)、現役勤労者への負担は増える一方ですね。夫とわたしはぎりぎりで大丈夫そうですが、68歳まで受給できなくなるとしたら(現段階ではわたしの年齢は67歳受給)、それまで働き続けないといけないのか、と思うと、ちょっと不安になります。それに、息子が60代になる頃にはどうなっちゃうのかなあ、とか。いろいろときりがありませんね。
    これからもブログ記事、楽しみにしています!

    1. kayさん、コメントいただいておりましたのに、お返事が遅れまして申し訳ありません。コメントをいただいていた旨の通知がうまく届いておりませんでした。
      たしかに受給開始がどんどん延びていくのはちょっと不安ですが、でも最近は70歳とか80歳とかいっても一昔前とは違いみなさん若いですよね。
      健康に気をつけ、がんばれ~ということでしょうか。。。これからもよろしくお願いします。

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