リタイヤメント資金の賢い引き出し方(1) - 相続と複数口座

今、リタイヤメント資金をがんばって貯めている方もいらっしゃるでしょう。また、長年、一生懸命働いて、もう少ししたらリタイヤしたいと準備段階に移ろうとしている方もいらっしゃるでしょう。大事に大事に貯めたリタヤメント資金ですから、大事に使いなるべく長持ちさせたいですね。自分がいつまで生きるかわからないけれど、それまで資金が尽きないできちんとあることが大切である一方で、せっかくのリタイヤメントの時期、楽しいこともたくさんして大切な人との思い出もつくって有意義に暮らすために十分な生活費も確保したいものです。今まで、アメリカのファイナンシャルプラニング業界では、リタイヤメント資金を貯めるというトピックに関してはたくさんの情報がありました。ここ何年かで、401(K)など確定拠出プランでの自己責任時代に生きてきたベビーブーマーがリタイヤメントに入りつつあり、リタイヤメント資金の引き出し方、使い方ということにも焦点が当たるようになってきました。今回は、貯める方ではなくて使う方、ここに焦点を当てたいと思います。

 

使うフェーズのほうが難しい

 

以前の記事でも取り上げましたが、リタイヤメント資金は、貯めるフェーズより使うフェーズのほうがずっと難しいです。

 

実は貯めている段階で注意しなければならないことは比較的シンプルで、基本を押さえれてポートフォリオとアロケーション調整の枠組みを組めば、あとはただお金を入れ続けるだけで大丈夫といっても過言ではありません。低コストのインデックスファンドを選び、自分のリスク許容度に応じてアロケーションをしたら、あとは市場が良くても悪くてもただただ長期的に持ち続けるというシンプルなやり方が多くの人にとってベストです。          401(k)などは月々の給与から天引きで積み立てるので、Dollar cost averaging(ドルコスト平均法)の効果が享受でき、自然とファンドが高い時には少し買い、安い時にはたくさん買いつつ、効率的に積み立てを進めることができます。

 

ところが反対に引き出して使うフェーズは、今までのポートフォリオが増えるというプラス方向から減るというマイナス方向に方向が180度変わります。月々の生活費を確保するという目的と元本をなるべく減らさないで資金を長持ちさせるというふたつの目的を、バランスをとりつつ市場の状態もかんがみながら実行していかねばなりません。市場がどうなるかと自分の健康状態や寿命という「決定的な」情報は誰にもはっきりとわかりませんから、このプラニングは至難の業です。

 

参考   リタイヤメント資金-「貯める」より「使う」フェーズが難しい

リタイヤメント資金を長持ちさせる・・・

 

また、401(k)、Traditional IRA、Roth IRA、SEP IRA、HASなどいろいろなタイプの口座に複数のアカウントがある方も多いでしょう。夫婦で働いていらっしゃった方は、夫婦それぞれに口座があるでしょう。引き出す時にはかかる税金のことも考慮せねばなりません。また、401(k)やTraditional IRAには、RMD(Required Minimum Distribution)の設定があり、70歳半以上のひとは毎年引き出さないとペナルティが課せられる定まった額が規定されています。毎月いくらを、どの口座からどのように現金化すればいいのかは決して簡単な問題ではありません。

 

以下でステップバイステップで考えの進め方を見ていきましょう。

 

お子さんに資産を残したいというニーズがあるか

 

まずはじめに考えるべきことは、お子さんに資産を残したいというニーズがあるかどうかです。これは実はリタイヤメント資金を貯めている段階からはっきりさせておいたほうがいいことです。まとまった資産を現金なり不動産という形で相続させたいというニーズがある場合は、相続にふさわしい形で資金を準備したほうがよいからです。

 

もちろん自分が寿命をまっとうしてまだ残る資産があればお子さんに相続されるのは自然のことでしょう。このような「余ったら相続」と、当初からはっきりと相続させることをゴールにして資産運用するのとは全く違います。

 

たとえば元本部分はそのまま遺産として残す形で、自分たちは利回りで生活することを目標とする方もいらっしゃるでしょう。ただこれは金利の低い昨今では、先立つ元本がかなりないとなかなか成り立ちません。ある程度リスクをとりつつ安定性も考えたポートフォリオで年間2%くらいしか定期的に頼れる利回りがないとすると、月々$3,000の生活費を利子だけで確保しようとしたら、($3,000×12)÷0.02=$1.8ミリオンのポートフォリオが要ります。また病気になったり、介護が必要になれば、月々$3,000では済まないかもしれません。ソーシャルセキュリティ、企業年金、アニュイティなどの固定収入が十分でない場合には、とくに都市部などでは月々$3,000では生活が成り立たない場合もあるでしょう。よって多くの人が、利回りだけでは足りず元本も切り崩しながら生活をしていくことになるかと思います。

 

同様な考えが不動産投資にも当てはまります。不動産投資は月々のインカムを生むので、リタイヤメント後の生活のために何件か不動産を持っておきたいという方もいらっしゃるでしょう。上の例であれば月々、税金や諸経費など差し引き後の純キャッシュフローで$3,000を安定的に得るために、CAPレートが5%だとすれば、($3,000×12)÷0.05=$720,000、3%だとすれば($3,000×12)÷0.03=$1.2ミリオンの元本が要ります。不動産の場合は元本は不動産価値として固定(不動)なので、すぐに現金化できません。必然的に、すぐに現金が必要なことになった場合に対応できるよう、ある程度ほかに現金化しやすい資金もある程度あることも前提です。よって、相続のために利子部分だけ、あるいはレンタルインカムだけに頼れる状態であるためには、かなり十分なリタイヤメント元本があることが前提になります。

 

参考 株にする、不動産にする? - どっちがいいかの問題(2)

 

またこのように利回り確保、レンタル収入確保のための投資ポートフォリオは、ダイバーシフィケーションの概念に基づいたバランスのとれたポートフォリオを組むという目的からはずれがちという特徴もあります。たとえば不動産なら、いくつかの物件に比較的大きな金額が集中した形の投資になりますのでリスク分散という面からは△です。また、ポートフォリオの場合も、利回り確保のために最適化すると、どうしても安定的に利子を生む債券や、配当金を定期的に出す株などを中心とした投資媒体を選ぶことになり、長期的に運用するポートフォリオのアロケーションとしては決して最適ではないかもしれません。よって、もっと出るはずの利回りをみすみす見逃して、ある程度現金利回りを確保するということにもなります。ただ、前述のとおり、ある程度のまとまった元本があり、運用利回りは多少犠牲にしても、月々の定期利子・レンタル収入が確保できて、あとは子どもに残せればそれがベストという余裕のある富裕層には、このやり方でも問題ないかもしれません。

 

参考 正しく投資を理解する – 投資ファンドの種類はいくつか適当?(1)

 

 

以下では、相続を第一ゴールにしないグループ(目安としてリタイヤメント資金$1.5ミリオン~2ミリオン程度以下)で、元本も切り崩しつつ老後の生活をしていく人々を念頭に置いて話を進めます。

どの口座から引き下ろすか

 

401(k)、403(b)、457(b)、Traditional IRA、Roth IRA、SEP IRA、Simple IRAなどその他のIRA、HSA、その他の一般の投資アカウント(税優遇がないのでTaxable Accountと呼ばれます)など複数のタイプの口座に資金が散らばっているという方も多いでしょう。どの口座から引き出していくかは、1)それぞれの口座にRMD(Required Minimum Distribution)の設定があるか、2)税優遇措置(税遅延で運用)があるかと、3)自分の現在のタックスブラケットと将来的なタックスブラケットを比較することとの3側面から考える必要があります。

通常は以下の優先順位で口座からの引き出しを行うことをお勧めします。

  • RMDのある口座:401(k)、403(b)、457(b)、Traditional IRA、SEP IRA、Simple IRAなどRMD(Required Minimum Distribution)が必要とされている口座。70歳半以上になると、好むと好まないとにかかわらず、RMDとして、強制的にポートフォリオに一定パーセンテージ(予想寿命による)を掛けた額を引き出す必要があります。これはマストですので、回避できません。うっかり引き出しを忘れると手痛いペナルティがあります。

参考 このままでいいのかな? – リタイヤメントプラニング(2)

  • RMDを満たした後は、税優遇措置のない普通の投資口座(Taxable Account)の利回り部分(利子や配当)を使います。なるべく税優遇措置のある口座(上記のRMDの設定のある口座のRMD対象外の部分やRoth IRA)はそのままとっておいて、税優遇を受けながら増やすほうが得だからです。

 

  • 上記2の後は、上記の普通の投資口座の元本部分を切り崩します。

 

  • 上記3の次は、現在のタックスブラケットと将来的なタックスブラケットを比較する必要があります。将来的なタックスブラケットのほうが低くなる(たとえば、今はパートで働いているが将来はやめるので労働収入が低くなるとか、現在は旅行できる体力があるので引き出し額が大きいが、そのうち体が動かなくなれば生活費は縮小するはずなので引き出し額も少なくなるなど)と予想される場合は、Roth IRAなど所得税課税なしで引き出せるものから引き出します。

 

  • 最後の段階は、401(k)、403(b)、457(b)、Traditional IRA、SEP IRA、Simple IRAなどの税優遇措置がある口座の、RMD以外の部分から追加で引き出します。

 

なお、将来的のタックスブラケットのほうが上がると予想される場合は、4と5が反対になります。

 

401(k)、403(b)、457(b)、Traditional IRA、SEP IRA、Simple IRAななど所得税控除で積み立てができた口座は、引き出した金額全部が所得としてカウントされ、所得税がかかります。

 

(注:ご参考までに追記します。もしもお子さんへの相続を最適化することをお考えなら、1. 税優遇措置のある口座(相続者に対してフルに所得税課税)、2.普通の投資口座(相続した時点での市場価格が基準値になる<Step-up basis>のでキャピタルゲインが少なくて済む)、3.RothIRA(相続者に対して課税ゼロ)の順が好ましいと思います)

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