Roth IRAとTraditional IRAどちらを選ぶ 2020年限度額

401(k)と並んで、リタイヤメント準備のためによく使われるIRA(Individual Retirement Arrangements)。IRAにはいろんな種類がありますが、その中でももっともよく使われるのはRoth IRAとTraditional IRAです。2020年度の数字を入れた比較表をお届けします。積み立て限度額や控除対象となる限度額などを確認いただくとともに、どちら選んだ方がよいのかの考えかたもまとめました。

以下、選択のための3つの要素を考えます。

収入

収入によって、Roth IRAは積み立て可能な額が決まります。Traditional IRAは収入にかかわらず積み立ては可能ですが、職場のリタイヤメントプランに参加しているかしていないかと収入によって、所得税控除できる額が変化します。

高額所得者は、Roth IRAは利用不可であるうえ、Traditional IRAに控除なしで積み立てることしかできないということになります。控除なしに積み立てるTraditional IRAはNon-deductible IRAと呼ばれます。Non-deductible IRAは積み立て時も控除なし、引き出し時も課税でいいとこなしではありますが、ただ運用利回りは引き出すときまで課税されない(税遅延)の利点がありますので、ふつうに利回りが課税されるインベストメントに比べると、運用額を早く増やせるという利点があります。また、所得制限にひっかかってRoth IRAには積み立てができない場合に、いったんNon-deductible IRAに積み立てて、それをRoth IRAのコンバートするという方法(バックドアIRA)も使われることもあります。

バックドアIRAを知る

Traditional IRAでは、夫婦のおひとりが職場のリタイヤメントプランに参加しており、配偶者は参加していない場合は、夫婦のそれぞれで控除対象額が異なってきます。リタイヤメントプランに参加している方は比較的低い所得でも控除が制限・不可になります。配偶者は比較的高い所得まで控除が可能です。

タックス・ブラケット

基本的に、Roth IRAは積み立ててるときに所得税を払い、引き出すときは無税(所得に数えられない)でOKであるのに対し、Traditional IRAは積み立てるときには無税(所得控除により所得税を減らす)、引き出すときには所得税を払うというものです。一生懸命はたらいて貯めたリタイヤメントの資金を、リタイヤした後に使うという典型的なケースでいけば、積み立て時は勤労所得がそれなりにあるわけで所得税率は相対的に高く、リタイヤした後は所得がそれなりに低下し、所得税率は相対的に低くなるというのがふつうでしょう。この場合、他の条件が一定であれば、Traditional IRAに積み立てる時点で節約できる税金のほうが、Roth IRAで引き出すときに節約できる税金より多くなります。つまり、Traditional IRAに積み立てたほうが有利です。

反対に、現在失業中であるとか、あるいは一時的な不景気のため所得が激減したため、タックス・ブラケットが今年は低く、将来リタイヤした後のほうがかえって税率が高くなるというようなケースもあるでしょう。その場合は、Traditional IRAに積み立てる時点で節約できる税金は比較的小さく、将来Roth IRAで引き出すときに節約できる税金のほうが多くなります。つまり、Roth IRAに積み立てたほうが有利です。

また、連邦税だけでなく州税も考慮に入れたほうがいいかもしれません。今住んでいるのが比較的、州の所得税の高い州(New York, New Jersey, California, Oregon、Hawaiiなど)で、リタイヤメント後は所得税の低い州(Florida, Texas、Nevadaなどは州の所得税ゼロ)に引っ越すというのであれば、Traditional IRAのほうが有利、その反対であればRoth IRAのほうが有利ということになりますね。

その中庸で、現在の税率と引き出し時の税率が同じというのであれば、節約できる税金のことだけにフォーカスすれば、どちらでも同じということになります。

最近ではアメリカの国家赤字ため、将来にわたって税率は上がり続けるだろうという考え方が強くなってきています。本来ならばリタイヤメント後は所得が低くなり税率が下がるはずであるところ、国家的に全体の税負担が上がらざるを得ないため、自分のリタイヤメント後の税率は、今支払っている税率より高くなるであろう(たとえ所得が下がっても!です)という危惧が存在するわけです。なんだかちょっと考えるだけで暗くなりそうですが、もしそう信じるのであればRoth IRAのほうが有利ということになりますが、これはあくまで予想ですからなんともいえません。

また、追加ですが、カレッジなどの高等教育のためにはどちらのIRAからもペナルティーなしで引き出して使うことができますが、税金は払わねばなりません(Roth IRAの場合は利子のみに対して)。この場合は、積み立て時の税率とカレッジのために引き出し時(リタイヤメント後ではなくて)の税率の比較になり、当然後者のほうが高いということもありえます。そうなると、Roth IRAのほうが有利ということになります。

つまるところ、Roth IRAとTraditional IRAどちらが有利かは、積み立て時に払う税金と引き出し時に払う税金のどちらが少ないかの問題になるということですね。。

エステイト・プラニング(相続対策)

引き出しに関しての大きな違いは、Minimum Required Distributions (最低引き出し額)の設定の有無です。Traditional IRAの場合、72 歳になった時点で、最低限引き出さねばならない額というのが発生します。この額は、その時点での予想寿命から割り出されるものです。リタイやメント資金がふんだんあるわけではなく、ソーシャル・セキュリティー・ベネフィトではカバーしきれない生活費をリタイヤメント資金でまかなうことが必要な場合(つまり、大多数のフツウの人たちにとって)は、このMinimum Required Distributionsは大きな問題にならないでしょう。

しかし、あなたが富裕層でIRAからは特にお金を引き出さなくても老後の生活がなりたっていくような場合は、このMinimum Required Distributionsは面倒なものです(そんな立場になりたいですけれども・・・)。しかしながら、もし、Roth IRAでお金を貯めていたとしたら、このMinimum Required Distributionsがありませんので、一生涯、非課税のままお金を貯めて置けます。

また、本人が死亡した場合は、IRAのお金はそのベネフィッシャリー(受益者、相続者)に引き渡されますが、Traditional IRAの場合は、資金を引き出したときにベネフィシャリーが自分の収入として税金を払います。一方、Roth IRAの場合は、すでに死亡した本人が税引き後で積み立てているわけですから、ベネフィシャリーが引き出す時点で税金を払う必要がありません。言い換えれば、ベネフィシャリーに代わって税金を払ってあげたうえで、ベネフィシャリーがいつ引き出しても非課税で使える資金を残してあげるということになります。このように、Roth IRAは、リタイヤメント資金の積み立てという本来の目的に加えて、相続税対策にも使われることがあるようです。

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28 comments

  1. 今回の記事も勉強になりました。
    質問ですが、もしもROTH IRAを残して亡くなった場合は遺産相続として口座自体は自分の名前でそのまま残せるのでしょうか?これがINHERITED IRAと呼ばれるものなのでしょうか?ビネフィシャリを明記する事が一番大事だと思いますが他に気を付ける点はあるでしょうか?
    よろしくお願いします。

    1. ご本人が亡くなると、自動的に指定されたベネフィシャリに相続されます。それがおっしゃるとおりInherited IRAで、ベネフィシャリを指定すること、ご家族構成が変わったらベネフィッシャリ指定を更新することがたいせつです。

      1. 有難うございます。勉強になりました。そうしましたらPrimary BeneficiallyとSecondary Beneficiallyを決めることが必要ですね。

  2. いつも勉強になります。ありがとうございます。

    初めて、2017年からTraditionalとRothに拠出を始めました。
    拠出後に間違いを見つけ、対処に困っています。お知恵を頂けませんでしょうか。

    Traditionalの控除可能額以上に誤って拠出をしてしまったことに気づき、Non-deductibleになっているであろう部分をどうしたらよいものか調べています。拠出可能額を超えた場合の対処については沢山出てきますが、求めている答えを見つけられずに困っております。本記事にバックドアについて記載がありましたので質問させていただきました。

    下記に状況まとめます。

    ・申告ステータスは夫婦ジョイント(私は職場のリタイアメントプランあり、妻は専業主婦)
    ・収入は$101,000~$121,000の間で、Traditionalの控除減額フェーズ ←ここで控除可能額の計算を間違えました
    ・拠出したのは、計$11,000。内訳は、私が計$5,500(Traditionalに約7割、Rothに約3割)、妻が計$5,500(Spousal分でTraditional 10割)
    ・Rothへの拠出は引っかからない(収入が$189,000未満のため)が、私がTraditionalへ拠出した一部(300ドルほど)が、計らずしてNon-deductibleになってしまっている状態

    上記のNon-deductibleになっている部分(300ドルほど)については、何か対策を講じるべきものなのでしょうか?Rothにコンバートするべきなのでしょうか?このまま放置しているとどうなってしまうのでしょうか?

    ご教授頂けますと大変幸甚です。宜しくお願いいたします。

    1. タックスリターン時に、Deductibleの分だけ控除(Form 1040のLine 32 IRA Deduction)し、Non Deductible分はForm 8606(Non Deductible IRA) で報告します。もしもこれからもNon Deductible IRAを積み立てる予定になるのなら、Deductible IRAとNon Deductible IRAとを別管理しておいたほうが将来引き出しのときなど楽かと思います。金融機関に連絡すると相談に乗ってくれると思います。

      1. ご回答ありがとうございます。勉強になります。
        金融機関に相談せぬまま、こちらに相談させて頂いておりました。処遇に関しては、口座を開設したVanguardに問い合わせてみます。ありがとうございました。

      2. First buyerとしてコンドを購入したいと考えております。Traditional IRAとRoth IRA両方ある場合、どちらかのみ合計$10,000の非課税でしょうか?又はそれぞれ$10,000、合計$20,000でしょうか?
        もし、どちらかの場合Roth IRAで引き出す方が得策なのでしょうか?
        アドバイス宜しくお願い致します。

          1. ありがとうございます。家族はいませんので$10000が限度の様ですね。よく検討してみます。

  3. いつも為になる記事、有難うございます。一つ質問ですが、もしも$5,000あったとして、$2,500 – Traditional / $2,500 – Rothというように、分散して投資することもありなのでしょうか。それとも基本100%をどちらかにした方がいいのでしょうか。

  4. Roth IRAについて、59歳半(59 1/2)という表現をよく見るのですが、これは59歳6ヵ月ということですか。
    それとも59歳の半分だから…54、5歳???
    教えていただけたらありがたいです。
    59歳半(59 1/2)のような表現は米国でよくある表現なのでしょうか?

  5. いつも勉強になる記事をありがとうございます!
    1つ質問なのですが…
    Roth IRAとTraditional IRAの違いの中で、Rothの方は利子や運用益が非課税とあり(条件はありますが)、それを考えると、素人の私には絶対Rothの方が良いプランじゃないの?と思うのですが、そうでもないのでしょうか・・;

      1. 早速の返信、ありがとうございます。
        再度すみません…
        確認したいのですが、Rothは5年以上掛けていて受取時59.5歳以上であれば、利子や運用益が受取時に非課税で丸々もらえるのに、Traditionalの方は、受取時には課税されちゃうんですよね?
        だったら、Rothの方が良いのかと思ったのですが…

        それとももしかしてRothの方は、利子や運用益も積み立て中に積立金と共に課税されるのでしょうか?
        何か見落としている点があれば、教えていただけると助かります…

        1. おっしゃるとおりですが、「タックスブラケット」のセクションに説明があるとおり、どちらが得かは、積み立て時と引き出し時のタックスブラケットによります。
          Rothは積み立て時に課税された少ない元金で運用がはじまります。Traditionalは課税されず大きい元金で複利で伸びますから、たとえ引き出し時に課税されてもそれが積み立て時より低い税率なら、総合的に得になります。

          1. なるほど…
            非課税という言葉だけに目がくらんでいましたが…(/ω\)
            タックスブラケットと、大きな元金による複利の効果も考慮すべきなのですね。
            適切なアドバイス、ありがとうございます!

  6. 英語のサイトだけでは分り辛い内容も詳しく教えて下さるのでいつも参考にさせていただいています。本当にありがとうございます。
    いくつか質問させて下さい。
    在米10年になりますが、貯金に疎く、今まで夫婦共に勤務先のTRS(403b)のみでの拠出をしていました。
    ・例えば半年後に必要になるかもしれないsavingにある金額を2020年内と2021年1月に各々上限でRoth IRAに入れるのは得策ではないと思われますか?
    ・今年になりTRSのみだったretirment programがTax-Sheltered Annuity Program、Deferred Compensation Plan(457?)などのプランが加わりretirement providersも5社ほど追加になりました。今まで積み立てていたTRSの一部を新しいproviderにrolloverすることが可能なのか、可能であれば一部でも移して運用を分散した方が良いのかなど迷っています。
    ご教授いただけますでしょうか。どうぞよろしくお願いします。

    1. はい、半年後に必要になるお金はIRAには入れないほうがいいと思います。何のメリットないです。
      403(b)から457へのロールオーバーは、ロールオーバー先が決めているルールによりますが、可能なことが多いと思います。
      ただ、ロールオーバーをしないと投資ができないのでしょうか?403(b)のなかで投資ファンドは提供されていませんか?

  7. Roth IRAを始めようか検討中の者です。
    二つ質問があります。
    他のサイトで読んだのですが、Roth IRAのアカウントは毎年お金を入れ続けなければならず、もし一年でも入れない年があれば、その後は入れることができず、引き出すのみしか出来なくなると書いてあったのですがこれは正しい情報でしょうか。
    夫の会社で401kをしていますが、Roth IRAを始めることで気をつけなければならない事はありますでしょうか。

    よろしくお願いします。

    1. Roth IRAにまつわる法律自体にはそのようなルールはありません。入れるか入れないか、いくら入れるか、年々判断することができます。
      401(k)とRoth IRAでの併用で気を付けることは、個人個人の状況でいろいろ変わってきますが、一般的には年収限度にひっかからないかと、所得税控除(401)と所得税課税後(Roth IRA)積み立てのバランスをどうとるかかと思います。

  8. 41KとRoss IRAの併用について質問です。
    今年はレイオフになったため41Kは終了しましたが
    ひき続きそのまま口座を保持しています
    昨年3月(レイオフになるまで)の41Kの積立額は1100ドル程度です
    昨年のRossIRAの場合、上限の$7,000 迄積み立てる事は可能でしょうか?

  9. 有難うございます。
    このサイトを初めて知り、これからバックナンバーを
    読んで勉強させて頂きます。
    レイオフになるまで、一時間でも長く頑張って残業を
    こなして来ましたが、お金の勉強をおろそかにしていた事
    反省です。
    言い換えればまだリタイアー迄あと10年あるので
    いい機会を与えてくれたと思ってきちんと自分の投資について考えてみます

    1. 人生は季節というものがありますから、きっと今がお金のことを学ぶその時なのだと思います。
      残業をして頑張られたのも、それはその季節だったのでしょう。。。

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