私がHMOを選ぶわけ

我が家の健康保険はいつもHMOと決まっています。一度POSにしたことがありましたが、すぐにHMOに戻しました。健康保険についてはいろいろな考え方があると思いますが、今日は、あるきっかけでHMOが我が家には最適だと再確認した出来事をお話ししたいと思います。

我が家の健康保険は主人の雇用主の提供する保険を使っています。いろいろな種類の保険が6種類提供されており、そこから自分にあったものを選ぶことになっています。その中には最近注目されているHigh Deductible Planもあり、Health Savings Accountと組み合わせて提供されており雇用主が一定額をAccountに入れてくれるので、病気をしなければ金銭的には案外お得感が高いものもあります。ただ、我が家にとっての医療保険の役割は、「大病をして大きな手術をしても、個人負担ほとんどないようにプロテクションがあるもの」と割り切っているので、どれだけ手術してもどれだけ検査してもどれだけ入院しても、Copayの$250だけ払えばあとは全額カバーされる現在のプランを選んでいます。また、HMOではネットワーク内の医師しか使えませんが、もっとフレキシブルに医師を選べるPPOも提供されていますが、現在のHMOでは選べる医療グループが充実しており、特にネットワーク外に出る必要はないとみてHMOで満足しています。

 

Surprise BillならぬSurprise EOB?

普段は健康で定期健診以外医者に行ったことのない私たち夫婦でしたが、最近主人の首にしこりが見つかり、何度かあちこちの医療機関で受診することになりました。HMOですので、Primary Care Physician(PCP)にまず会い、そこから専門家に回してもらいます。超音波検診の結果、おそらく心配するようなものではないということになり、しこりは実は液体性のものであることもわかりました。ほっておいてもいいかもしれないとも言われたのですが、結局、のどの不快感があるということで、Aspirationと呼ばれる処置をしてもらい中身を吸引して出してもらいました。この処置はOutpatientで、かなり素早く終わったと聞いています。取り出したものの組織検査も行ってもらい、悪性ではないことも確認されました。

 

それで終わりと思っていたら、後で保険会社からExplanation of Benefit(EOB)が来ました。来たところまではいいのですが、よく見てみたらその処置の全額がAmount Not Allowed(健康保険でカバーされたない金額)だとして表示されています。たくさん項目がありますが、全額合計すると$3,800ほど。HMOだし、PCPのReferralをもらい、Approvalを確認したうえで処置を受けているので、これは何かの間違いだと思い、すぐ保険会社(Health Net)に連絡したところ下記のようなメールが来ました。

 

Thank you for your inquiry. The claim you refer to has been processed and denied by Health Net, as it is the financial responsibility of your Participating Physician Group (PPG). Please be advised the claims have been to forwarded to your Participating Physician Group (PPG), for processing.

訳: お問い合わせありがとうございます。ご質問の医療費申請はHealth Net(保険会社)は支払いを拒否しました。なぜなら医療費負担責任はあなたのParticipating Physician Group(PPG)にあるからです。申請処理はあなたのPPGに移されました。

 

このPPGというのは、Medical Groupと呼ばれたり、Independent Physicians Associationなどと呼ばれたりするようですが、要は保険会社と契約して医療サービスを提供する医療団体ということです。上のメッセージの意味するところは、保険会社はこの医療措置について医療費負担を直接行いませんが、保険会社と契約関係にあるPPGがこの医療措置をApproveし医療処置の提供を行い、そのうえ医療費を負担する責任があります・・ということです。それなら保険会社は私たちに最初から誤解を招くようなEOBなど送ってこなければいいと思うのですが、どういうわけか手元に届いたということです。EOBは単に保険補償の説明書であり、請求書ではありません。とにもかくにも、その後、私たちのところにはどこからも請求書は送られてこず、医療費負担はCopayの$20だけでした。

 

HMOでなかったら・・・

この経験を通して、HMOの医療保険を持っていてよかったと再確認しました。もちろんこれはどなたにでも当てはまるケースではなくて、それぞれのご家庭で最適な医療保険は異なりますから、私たちの考えを押し付けるものではありません。ただ、巷によく出回っている情報では、HMOはフレキシビリティがないのであまりよくない・・PPOのほうが使い勝手が良い・・として、保険の一面性だけが強調されている気がしています。反面でHMOが提供する消費者保護のしくみにはあまり焦点があたっていません。ここではその部分を掘り下げてみたいと思います。

 

もし、我が家の医療保険がPPOであった場合、ともすると今回のケースは俗に呼ばれる”Surprise bill”(びっくり請求)に行きつくことになります。Consumer Reports National Research Center調べによる、最近2年間の間に、アメリカに住む人の三分の一近くが、健康保険が思ったようにカバーしなかったために後でSurprise billを受け取ったことがあるということです。

 

Surprise billは、保険でカバーされると思った医療処置が実はカバーされていなかったということから起こるものです。たとえば、内科医に紹介されたので当然保険のネットワーク内だと思った専門医が実はネットワーク外だったとか、手術にかかわる医師やテクニシャンが数多くいて、たとえばそのうち麻酔科医が保険のネットワーク内でなかったとか、手術にかかわる様々な医療サービスのうち、たとえば組織検査のサービスだけは保険の適用外だった。。など様々なケースがあります。このような問題によってSurprise billが発生しないようにするためには、自分の保険ポリシーをよく知り、医療措置を受ける前に必ずその内容と保険のカバーについてチェックすることが必要になります。具体的には、下記のような点についてです。

 

  • 専門医などにかかる場合には特に、ネットワーク内の医師であることを事前に確認すること。いつも行っている内科医にRefer(紹介)されたからといって、その専門医がネットワーク内だと勝手に決めつけないこと。
  • 手術を受ける際は、外科医、麻酔科医、Labワークをするテクニシャン、組織検査などをする病理学医などすべての工程に関わる関係者がネットワーク内であることを確認すること。
  • 紹介された専門医がネットワーク外であったら、同じ専門の医師をネットワーク内に見つけること。

 

  • MRI、PET、CTなどのテストやその他の診断テストはPre-authorizationが必要な場合がほとんどなので、入手し証拠として保管しておくこと。
  • 医療措置を受けるときには、ネットワーク内かどうかの確認、必要な医療措置の詳細、保険でのカバー額、Pre-authorizationなどの記録をきちんと控えておく。請求書がきたら、それと照合し、不合理なところがあれば確認するが、その場合も、保険会社、病院、クリニックなどいつ誰とどんな話をしたかについて記録をとっておくこと。
  • PPOやEPOではネットワーク外の医師へ直接受診することが可能であるが、その場合は、医療措置がいくらであり、そのうちのいくらを自己負担することになるのか、あからじめ確認すること。
  • もしもSurprise billが来たら、明細書をリクエストし、間違った請求がないかをチェックする。間違いは高い確率で発生しているので、受けていない医療措置が入っていないか、コーディングのエラーなどで間違った措置にすり替わっていないかなどを詳しくチェックすること。そのうえで、間違った項目を正し、不適正な価格を修正する処置をリクエストすること。
  • 医療費の請求書はぜったいにほおっておかないこと。不可解だなと思ったらすぐに連絡して確認すること。医療費の請求はほおっておくと思ったよりも早くCollection Agencyに回ることもあり、これは極力さけたいところ。
  • 人のいうことを鵜呑みにしないこと。医者は保険のネットワークに入ったり外れたり、つねに変化がある。医者自信は保険の請求について無知なこともあり、請求事務をやっている人も、あまりに多くの保険会社のあまりに多くの保険プランを扱っており、すべてを把握しているわけではない。誰か訳が分かる人が解決してくれると思わず、自分の医療と保険のことは自分が良く把握して、相手の間違いを正すことができるくらいの情報をそろえておくこと。

 

これに目を通すだけで、医療知識も少なく、病院のしくみもよくわからない個人が、これを全部やることの大変さが伝わってきますね。具合が悪いので医者にかかるのに、こんなことを心配しなければならないとは余計に具合が悪くなりそうです。これらの問題は、HMOでは全部解決されるわけではないものの、随分と負担が軽くなります。

 

HMOの利点

HMOと一言に行っても、いくつかのタイプがあり、Kaiserのように、HMO保険会社と病院・医療スタッフが一体になっている(HMOが医者を雇っている)タイプや、HMOを提供している保険会社が医師グループ(Participating Physicians GroupとかMedical Groupと呼ばれる)と契約し、HMOは一定契約額をGroupに支払い、GroupがHMO契約に基づいた医療サービスを提供し、医師への支払いはGroup内で行われるタイプなどがあります。

 

基本的なHMOのしくみは、Primary Care Physician(PCP)と呼ばれる内科医・家庭医などを選択すること、定期健診はもちろん、専門医を必要とするような病状であっても、まずは必ずこのPCPにコンタクトし、PCPが必要に応じ特殊テストや専門医へ紹介状(Referral)をだし、それに従って専門医療サービスを受けるということになります。HMOは法律によって、被保険者が必要とするとき必要なサービスを受けられるようにサービスのavailability, accessibility, qualityを確保することを義務付けられています。一部では、HMOだと専門医にみてもらいにくいなどという誤解もあるようですが、とくに著名な心臓外科医に手術してもらいたいとか、特殊な経歴の専門医にどうしてもみてもらいたいという特別なケースでない限り、十分な専門性を備えた専門医が確保されているはずです。また、救急のとき、旅行中で緊急性の高いときは、ネットワーク外で医療措置を受けてもカバーされることになっています。

 

PPOやEPOが登場した後では、これらのポリシーがPCPを通さなくとも専門医に直接会えるという利点がPRされ、一方でそれが許されないHMOはフレキシビリティが低く使い勝手が悪いなど、HMOの欠点をとりあげた記事が多くなりました。ただ、物事は、いつも白黒はっきりしていることばかりではなく、長所ばかりのものもなければ短所ばかりのものもないのが普通です。スピードの速い人というのは、よく言えばてきぱき屋、悪く言えば短気というように、一つの特徴がよく出れば長所、悪く出れば短所というのが世の実際です。HMOもしかりで、一つ一つの特徴は短所にもなり長所にもなります。まとめるとこんな感じ。

 

HMOの場合

短所 長所
PCPを選択しなければならない。医療サービスを受けるときには必ずPCPを通してReferしてもらわねばならない。 PCPは患者の医療サービス・コーディネーターであり、適切な専門医を見つけること、その専門医がネットワーク内であることを確認し、Referral処理をするとともに、必要なPre-authorizationを取得するまでがすべてPCPの責任であり、患者の責任ではない。
エマージェンシーや旅行中の場合などの特別なケースを除いて、基本的にネットワーク内のみの利用となり、ネットワーク外のサービスは保険の対象外となる。 PCPを通して、PCPがアレンジしてくれた医療サービスを受ける限り、数十ドル(診察)~数百ドル(手術や入院)のCo-payだけの自己負担で、それ以上の請求書を受け取ることは基本的にない。* 最近では、とくに低コストHMOを中心に、入院などの場合にはCo-insurance的な負担%を設定しているものもあります。できれば定額Copayのものを選ぶほうが安心です。

HMOはHealth Management Organizationの略であり、このManagementが実は大きなキーワードです。HMOは患者のHealth IssueやServiceをManageしてくれる医療組織だということです。Manageされるので患者のサイドからすると専門医の選択などにおいて完全なる自由はないものの、ManagementはPCPが引き受けてくれるので、ネットワーク外のサービスを思いがけなく使ってしまったり、保険の対象外のサービスを受けてしまったり、Pre-authorizationが必要だと知らずに検査をうけてしまったりして、あとで法外な請求がくることからは一切解放されるということです。基本的にいつも定額のCo-payだけが自己負担で、それ以外に医療費がかかることはほぼないということでもあります。

上の表のミラーイメージとでもいいましょうか、短所と長所を逆にしたものがPPOやEPOなどの保険です。

PPOなどの場合

短所 長所
患者自身が医療サービスの選択やコーディネートに自主的にかかわる必要がある。適切な専門医を見つけること、その専門医がネットワーク内であることを確認し、必要なPre-authorizationの取得をするなど、医療コーディネートに積極的にかかわり確認をする責任は患者にある。 PCPが必要ない場合が多く、患者は自由に専門医を選ぶことができる。
自己負担率が高くなるが、ネットワーク外に出で医療サービスを受ける自由がある。 受ける医療措置、関わる医者やテクニシャン、かかる医療費、適用されるCo-insuranceの%、Deductibleの計算などを確認し、自己負担を確認する必要がある。請求に問題があった場合に、解決するのも自己責任。

自由と引き換えに大きな責任も負うことになっているのがわかりますね。長所は短所、短所は長所であると同時に、自由の裏には義務もあり、不自由の裏には保護があるという具合です。

我が家では、この医療コーディネートの責任を負いたくないという気持ちが強いのです。どんな大きな病気をしても、度重なる検査が必要でも、とにかくネットワークの内だの外だの、保険の対象だの対象外だの、医療費がいくらくらいかかるかや、請求の複雑さなど、ましてや事後の請求問題など、なにも気になくてよいHMOが自分たちに最適だと思っています。

この考え方をみなさんに押し付けるつもりは毛頭ありませんが、ただHMOのこの良さがあまりとりあげられることがないのは事実で、もしこれを知ったらHMOにしたかった・・と思う人もいらっしゃるかもしれないという思いから、この記事を書きました。

 

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8 comments

  1. HMOですか。私の会社は今のところの PPOしか提供していないのですが、保険内容は毎年何かしら変更になるので、来年の Enrollment はもしかしたら選択肢にあるかもしれませんね。良い勉強になりました。

    1. そうですか。HMOはある意味で「ちょっと古い」と思われがちなので、選択肢にない場合も多いのかもしれません。。

  2. 息子にアレルギーがあり、突発的に口の周りが腫れ上がりぐったりしてしまったので、ERに連れていき、診察して事なきを得たのですが、後ほど、保険会社が支払いを拒否してきました。内容が、症状が緊急を要しないからでした。親の立場から緊急か緊急ではないかなどの判断はしがたく、非常に憤慨しました。
    数か月前、誤ってホットプレートに手を付けてしまい、火傷をしたとき、保険会社の24時間ナースコールに電話をし、こういう状態なのだが、保険はカバーするかと泣いている息子を横に、先に確認をとってから病院に連れていきました。

    アメリカの保険会社との付き合いには考えさせられました。

    1. そうですね。辟易しますよね。保険会社が支払いを拒否した場合、保険会社にアピールしたり、州の保険管轄部門にアピールすることもできます。保険会社は、後で被保険者がアピールしてくることも想定しつつ、支払い拒否してくることもあるのではないかと思います。保険のベネフィットについての詳細をまとめた冊子(お手元になければ、オンラインサイトにあるはずです)に、どういう場合にER,どういう場合にUrgent Careにいくべきかという説明があるはずですので、それをあらかじめ読んでおいて、近くのERと近くのUrgent Careを確認して、こういう場合にはここにいくという心づもりをつくっておくとよいかもしれません。。多くの場合、ERよりUrgent Careのほうが、待ち時間も短かったりもします。

  3. こちらのサイトは参考になるのでよく拝見しています。
    仕事の関係で保険はそれなりには詳しいのですが、最近はHMO自体を提供していない会社が多いと思います。出張や多くの州に事業所がある場合、設定が難しいですし。確かにコスト面ではHMOのほうがいいと思います。ただ、私の住むエリアではHMOを受けない一般内科医も多いので、PCPの選択の時点でかなり医療の幅が狭まってくるのは確かです。夫婦ともに大病をしてOut Of Pocketの年間限度額をヒットするような状況を何度か経験しましたが、死ぬか生きるかの病気でSpecialistへのアクセスや医療の選択肢を考えるとやはりPPOで良かったなあ、と思います。まあ、人により価値観が違いますのでどちらが良いとは言えませんけれどね。

    1. コメントありがとうございます。やっぱり地域差がかなりあるのでしょうね。きっと州での差もあるのでしょうね。たしかにアメリカ全国どこでも一概にはHMOがいいとは言えないと思います。確かに私の住むところは、HMOでも大きな病院を巻き込んだネットワークがいくつか存在し、専門医を選ぶのにも今のところは苦労したことがありません。ただ、ものすごい病気をしたことがないのも一因だと思います。HMO自体が提供されなくなってきていること、またHMOであっても内容的には一昔前のHMOっぽくないものもたくさんあるようにも思います。あくまで自分にある選択肢の中で、状況ごとに最適なものを選ぶということが必要ですね。

  4. 本当にこのような情報の共有はありがたいです。PPOの保険でネットワーク外の病院に救急車で搬送されました。150万円の請求が来て驚かされました。全てのHMOの保険は救急でネットワーク外に運ばれたとしても、保険会社がカバーしてくれるのでしょうか?
    また、一般の治療はPCPを選択さえすれば、ネットワーク外で治療することは一切ないということですよね。だったら、私も多少の不便があろうとHMOの保険の方がメリットが大きいような気がします。

    1. 救急については、Benefitの冊子に明確に記述があるはずです。Emergency、Urgencyなどの定義も含まれていて、どういうときにネットワーク外でもOKなのかも書いてあるはずです。ネットワーク内の専門医であってもPCPを通してしかアクセスできないHMOは、ネットワーク内の医療サービスコーディネートがPCPの責任ですから、おっしゃるとおりネットワーク外にうっかり出ることはないはずです。もちろん、医療事情はどんどん変化するので、確認はできるだけしたほうがいいと思います。

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