株にする、不動産にする? - どっちがいいかの問題(1)

あなたは株投資派ですか、それとも不動産投資派ですか? 株投資派の方は、「不動産は維持の手間や手数料などを考えあわせれば、決して効率のよい投資ではない。やはりポートフォリオを組みやすく換金しやすい株が一番」とおっしゃるかもしれません。一方、不動産投資派の方は、「上がり下がりの激しい実態のないペーパーなど、リスキーで当てにできない。土地と建物のほうがずっと安心」とおっしゃるかもしれません。今日はこの、株か不動産か・・・という問題について考えて見ましょう。

 

どちらがいいかは簡単に決められるものではありません。うまくタイミングが合いさえすれば、株でも不動産でも大きなリターンを得ることは可能です。そしてまたその反対もしかり。過去のデータでいえば、1999年から2004年の5年間、アメリカの不動産価格は56%も上昇したそうですが、この間、株はどうであったかというと、S&P500指標は6%近く値を下げました。一方、1980年から2004年という25年間で見てみると、不動産価格の上昇は総合で247%であったのに対し、S&P500指標はなんと1,000%の上昇を記録しています。どちらがいいかは完全にケース・バイ・ケースです。

 

この記事では短絡的にどちらが勝っているかという議論はせず、項目別に、株と不動産を対照させながら、それぞれの利点と欠点を2回にわたって考えてみたいと思います。

 

第一回目の今回は、キャピタルゲイン、レバレッジ、メンテナンスという項目について考えます。

 

キャピタルゲイン

買ったときの値段―売ったときの値段で出る利益をキャピタルゲインと呼びます。安定的に価格が上昇していく投資媒体であれば、安定的にキャピタルゲインを期待することができるわけですが、値の上昇という側面で、株と不動産を比べた場合どんなかんじなのでしょうね。

下のグラフは、赤線が株価、青線が不動産価格の推移を表しています。どちらも1900年時点の価格を100とし、それ以降どのように価格が変化したかをグラフ化しています(配当金やレンタル収入は含まない、純粋な時価推移。株はダウ工業株化平均、不動産はシラー指標。インフレは差し引かず)。

U.S. Housing vs Stock Market Growth

このグラフを過去110年強の間を見る限り、どちらの価格も、まあまあそこそ似たような上昇パターンをたどってきたことがわかります。期間によりますが、値の伸びという点では全体的に株のほうに軍配は上がりそうです。

価格の上がり下がりという点ではどうでしょう。このグラフからもわかるように、株価に比べて不動産価格のほうが価格変動はゆるやかです。株は一日のうちでも、いや一時間のうちでも、常に上下し続け、急激な変化も珍しくありません。もちろん不動産価格も上下はしますが、その頻度と度合いという面では株よりもずっとおだやかです。株は売ろうとすれば極端な話、ワンクリックで売ることができるので、投資家の心理がネガティブに働くと売りが殺到し、数分のうちにガクンと値が落ちることもあります。一方、不動産を売るためには一定の準備や手続きが必要ですから、株が経験するような急激な値下がりはないことになります。

総合的に考えると、長期的なキャピタルゲインを見ると、少なくとも過去の傾向からすれば株のほうが期待できる値上がりが大きいが、短期的な価格の上下という意味では不動産のほうがゆるやかなので比較的安心というところですね。

 

レバレッジ

レバレッジというのは、一般的には聞きなれない言葉ですが、テコ(レバー)の力を使って、大きなものを小さなもので動かすことを想像していただくとよいでしょう。テコを使えば、重い箱も、長い棒の先の小さな力で持ち上げることができます。ファイナンス的に言い換えると、自分の持っているお金は少なくとも、大きな投資をすることで大きなリターンを得るというような意味合いです。足りない資本分は借りたお金を使います。これがレバーの役割をします。$100,000の投資をしたいが、手元には$10,000しかない場合、$90,000を借りて投資するという具合です。

レバレッジの魅力は、小さな資本で大きな投資ができ、大きな投資に対する利回りを享受できることです。借りたお金の利子を差し引いても、大きな利回りを得ていますから、残る利益も大きいということになります。レバレッジが大きければ大きいほど、つまり借りた資本分の割合が大きいほど、享受できる利益も大きくなる、つまり言い換えれば、まるでテコのようにレバレッジは利益を増幅するという効果があります。

 leverage

ふつう、不動産を買う場合にはレバレッジを利用できます。モーゲージローンがそれです。ダウンペイメントが自己資本、残りはモーゲージで購入するというのが多くの場合でしょう。一方、株もレバレッジを利用して購入することは可能ですが、これは一般的な個人投資家に広く利用できることではありません。

レバレッジ(モーゲージ)を利用した不動産購入の例を見てみましょう。たとえばダウンペイメント$150,000で$500,000の不動産を購入する場合を考えます。$350,000はモーゲージです。10年間持ち続け、一年に4%ずつ値段が上がっていったとします。10年後には$740,122にまでなります。6%相当の販売手数料がかかったとしても、$195,600の利益になります。一方、いっさいレバレッジなし、つまり$150,000の自己資本で、$150,000の物件を買ったとすると、10年後には$222,036になり、手数料後の利益は$58,600です。同じ$150,000の自己資本でも、レバレッジが利用できると利益が$58,600から$195,600にまで大きく増幅されたのが分かります。このようにレバレッジが利用できるということは、不動産投資の大きな魅力です。

しかしながら、レバレッジにはいくつかの注意点があります。まず第一は、レバレッジはうまくいけば利益を増幅する効果があると同時に、うまくいかないと損失も増幅する効果があるということです。上の例では1年間に順調に4%ずつ値上がりしていったのでうまくいきましたが、これが反対に不動産の値がひどく下がってしまった場合などは、レバレッジがあればあるほど(借入額が大きければ大きいほど)損失が増幅され、とりかえしのつかないことになりかねません。顕著な例が、少し前のサブプライム問題です。不動産の値上がりを前提に、そもそも返すのが非常に困難なモーゲージを組んでしまったところ、値が急速に下がったので、損失も加速度的にふくらみ、多くの人が家を失い破産しました。レバレッジを利用しての不動産投資には、ともなうリスクをよく把握しつつ計画的な実行が必要ということです。

第二の注意点は、レンタル物件投資で、月々のレントによる利益を目的にしたケースでは、往々にしてレバレッジの利用は限られたものになりがちということです。レンタル物件の場合、収入であるレントから、モーゲージローン返済額やプロパティタックスなどの費用を引いたものが、手元に残る利益となるわけですが、レバレッジ(モーゲージ)が大きすぎると、ローン返済額なども大きくなり、意義のある大きさの収入は見込めないというケースが多いようです。結果的に、多くの場合レバレッジは、月々の収入をあてにしたレンタル物件投資よりは、キャピタルゲインをあてした不動産投資のほうに利用価値が高いでしょう。

 

 

メンテナンス

この点では完全に株に軍配があがります。株には買った後なんらメンテナンスはいりませんが、不動産はそうはいきません。年間、修理や維持費にどのくらいの費用がかかるかについてはかなり主観的でケースバイケースですが、一般的な年間費用の目安としては物件価格の1%という数字が使われたりします。$300,000の物件で年間$3,000です。言い換えれば、投資元金に対する利回りから1%が差し引かれるのと同じようなもので、決して軽く見ることはできません。レンタル物件の場合であれば、実際にかかった金銭的費用に加え、自分の時間や労力もかかります。自分でやらず、メンテナンス会社に依託するとすればレンタル収入の7~10%が必要ということですので、よく計算に入れておく必要があります。その上、入居者の募集や選考などの手間や、ひいては入居者が見つからない場合のロストインカムも計算に入れる必要があります。

 

以上で今回はおしまいです。二回目は、税制上の優遇、リスク回避のしやすさ、現金化のしやすさ、掘り出し物さがしという点について考えます。

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