後悔しない健康保険の選択ー保険で「賭け」をしてしまわないように

アメリカの健康保険にはさまざまな種類があります。PPO、HMO、POSなどをよく耳にしますが、このうちのどれかを選べばOKということではなく、その他Copay、Coinsurance、Deductible、Out-of-pocket maximumなどの細かい条件の組み合わせによって、何百ものバリエーションがあります。病気にもならず定期健診ぐらいしか使わないのならそんなに差は出ませんが、いったん大きな怪我や病気になれば、持っている健康保険によって受けられる補償に多大な差がでてきます。また、健康保険によっては、医療費の値段や請求書の内容などを細かく吟味する必要があるタイプのものもあります。いざというときにあわてないためにも、自分の選ぶ健康保険の補償内容と賢い使い方について、きちんと確認しておくことが大切でしょう。

保険選びの際、ポイントとなる5つの点、ネットワーク、Copay、Coinsurance、Deductible、Out-of-pocket maximumについて考えてみましょう。

 

利用できるネットワーク

アメリカ国内の健康保険加入者数ベースのシェアは、34%がPPO(Preferred Provider Organization)に、31%がHMO(Health Maintenance Organization)に、9%がPOS(Point of Service)とのことでです。この3つを下で比べてみます。

PPO

PPOは通常、利用できる医師・病院のネットワークが大きめで、またネットワークの外(out-of-network)に医療サービスを求めることも比較的容易にできます。通常PCP(Primary Care Physician)を指定する必要がなく、必要に応じて専門医の診断を直接、つまりPCPのReferralなしで、受けることができます。特定の医師に見てもらいたいという希望がある場合、あるいは特殊な医療サービスが必要なので自由に医師や病院を選ぶフレキシビリティが必要なときには有利なプランです。自分で医師を選択するフレキシビリティがある分、医療サービスを吟味したり値段を比較したりという作業が必要になる場合もあるでしょう。

HMO

HMOはmanaged careという名のごとく、指定したPCPにより医療サービスがmanageされるタイプです。PCPを指定することが必要で、診断検査を受ける場合や専門医の診断を受ける場合には、PCPのReferralが必要です。保険は、ネットワークの中での医療サービスのみをカバーし、ネットワーク外でサービスを受けた場合は基本的に保険の補償対象になりません。Manageされるので医師や病院を選ぶフレキシビリティが低いですが、その分医療サービスや医療費もmanageされるので、患者自身が医療サービスを比較検討したり医療費を吟味したりする必要性はあまりありません。結果的に、フレキシビリティが低い分、Copay、 Coinsurance、 Deductibleが低めのことが多く、医療-ビスを受けたとき自己負担額(out-of-pocket)が低く抑えられるでしょう。

POS

POSはPPOとHMOのハイブリッドで、HMOをベースにしながらも、ネットワーク外(out-of-network)で医療サービスを受けることを可能にしているタイプです。PCPのReferralがあれば、out-of-networkのサービスを受けることができますが、コストは高めになります。

 

Copay

医療サービスを一度受けるたびごとに、自己負担する定額のことです。HMOだと$10から$20、PPOだと$15から$30ということが多いようですが、プランごとにさまざまです。Copayは、もちろん低いほうが好ましいですが、医療費をコントロールするための決定的な要素ではありません。年を通じての最終的な医療コストの合計額を決める重要な要素ではないからです。Copayは低いほうがいいものの、低いCopayに目がいって他の要素の吟味がおろそかにならないようにしなければなりません。

 

Coinsurance

医療サービスを受けた場合、全体の医療コストを保険会社と自分で共同で負担しあうときに、自分が負担せねばならない割合のことです。Deductibleの設定があるプランでは、保険会社が負担をし始める(補償を始める)のは、自己負担額がDeductibleに達した後です。Copayに比べ、ずっと気をつけねばならない要素です。なぜならCopayは絶対額($)であるのに対しCoinsuranceは割合(%)であるからです。Copayが$15、Coinsuranceが20%だとすると、$100のサービスを受けても$1,000のサービスを受けても、Copayは$15ですが、Coinsuranceはそれぞれ$20、$200となり、医療費が高額になるにつれて負担はつりあがります。

また、Copayの発生する条件についてもきちんと確認する必要があります。たとえば、PCPのOfficeVisitについて、“$20Copay after deductible” と“$20Copay (deductible waived)”というプランでは大きな違いがあります。前者はDeductibleまで自己負担を払って初めてCopayが$20になるという意味で、Deductibleに達するまでは全額自己負担です。後者は、Deductibleがwaiveされる、PCPに診察をしてもらう限りは、Deductibleに達していなくてもCopayの$20を払えばよいという意味です。Explanation of Benefits(EOB)という保険プランについての説明書をよく読む必要があります。

Coinsuranceは全体のうちの自己負担パーセンテージですから、結果的に、そもそもの医療費がいくらであるかということを注意せざるを得なくなります。そもそもの医療費が高ければ、Coinsuranceの負担額も高くなるし、医療費が低ければ、負担額も低くなるからです。つまり、医療サービスのショップ・アラウンド(いいサービスを安く得るためにリーサーチすること)が必要不可欠ということです。アメリカ医療のミステリー 医療費は、ぜひ値切りましょう?アメリカ医療のミステリー 病院はホテルを探すように・・ にも書きましたが、同じ医療サービスでも病院によって医療費は非常に大きなばらつきがありますので、医療費を調べることは大きな仕事です。通常は、ネットワーク内の病院のほうが安いはずですが、ネットワーク外の病院に行ったほうが、たとえ高いCoinsuranceを払ったとしても、全体的には安くなるようなケースもあります。Coinsuranceの設定のあるプランを使うときは、自ずと、このような値段の吟味やCoinsuranceで払う額のチェックなどが必要になります。

 

Deductible

健康保険が支払いを始める(補償が始まる)前に、自己負担しなければならない額です。Deductibleが$1,000であれば、まず$1,000を自分で支払ってはじめて、その後の医療費について保険がカバーしはじめます。Deductibleは、医療費をコントロールするという意味で、注意しなければならない要素です。医療サービスをあまり受けなければDeductibleはあまり問題にはなりませんが、ある程度の医療サービスを受けたならDeductibleまでは自分で支払わなければなりません。

自分で支払うということは、医療サービスの比較検討、値段の吟味が必要になるということです。アメリカ医療のミステリー 病院はホテルを探すように・・ のAさんの例のように、通常は、ネットワーク内の病院のほうが安いはずですが、ネットワーク外の病院に行って敢えて保険を使わず医療サービスを受けたほうが安いようなケースもあります。Deductibleの設定があるプランの場合、そのDeductibleが高ければ高いほど、Deductibleに達するまでの自己負担をいかにコントロールするか、どこの病院が安いか、病院ごとのNegotiated Price(保険会社と病院との間で同意に達している医療サービスの値段)はいくらか、敢えて保険を使わないことでより負担を安くできないかなど、自分で吟味する必要がでてきます。

最近では、HSA(Health Savings Account)や HRA(Health Reimbursement Arrangement)と抱き合わせでDeductibleを高く設定したプラン(多くの場合PPOプラン。High Deductibleプランと呼ばれる)が加入者を伸ばしています。このようなプランはconsumer-directed health careプランとも呼ばれ、つまり患者である消費者がイニシアチブをとる保険プランであることを意味しています。消費者がイニシアチブをとるとは、まさに、消費者による値段の吟味が必要であるということを意味します。ひとりひとりの消費者による値段の吟味により、全体的な医療費のマネジメントにつなげようというのが背後の意図です。

HSAやHRAとの抱き合わせHigh Deductibleプランは、それをスポンサーする雇用主にとってもコスト低下に繋がることもあって、雇用主の積極的なPRにより認知度が劇的に高まりました。高騰し続ける健康保険料と雇用主によるPRを背景に、あまり医療サービスを受けなければHSAやHRAに残ったお金は将来のために貯めておけるという利点がフォーカスされて、多くの人がHigh Deductibleプランにスイッチしました。それ自体は間違ったことではありませんし、若くて健康で医療サービスをほとんど受けない人には十分考慮にたる選択肢でしょう。しかし、これらのプランに加入したからには、消費者として医療サービスとその値段の吟味という責任を負わされているというところをきちんと理解する必要があります。この認識なしに、お金が節約できそうだからという軽い気持ちでこれらのプランに加入すると、いざある程度以上の医療サービスが必要になったときに、思っても見なかった医療費の負担を抱えることになります。Deductibleは高ければ高いほど、いざというときの医療費の負担リスクは高くなるということです。

 

Out-of-pocket maximum

年間の自己負担額の最高額です。通常は、Copay、Coinsurance、Deductibleなど自己負担しなければならない額の合計額が、このOut-of-pocket maximumに達した時点で、その後の医療費については保険が100%カバーするというものです。しかし、プランによっては、DeductibleはOut-of-pocket maximumにはカウントしなかったり、特定の医療サービスに支払ったCopayはOut-of-pocket maximumにカウントしないなどの条件がついていることがありますので要注意です。Explanation of Benefits(EOB)という保険プランについての説明書をよく読む必要があります。

たとえば、“Annual Out-of-Pocket Limit: $4,500、Does not include deductible”という表記があった場合、もしDeductibleが$2,000だとすれば、Deductibleの$2,000に加えてさらに$4,500自己負担する(合計$6,500)ことが必要になるかもしれないということです。つまり、最悪のケースで、$6,500は自己負担できるたくわえがなくてはならないということです。Out-of-pocket maximumは、このように医療費負担の上限を設定するもので、低ければ低いほど低リスク、高ければ高いほど高リスクということになります。

 

保険はリスク・マネジメントのツールです。万が一のとき、生活を脅かすような出費・損失によって家計が窮地に陥らないように加入するものです。リスクをある程度許容でき、医療サービスをショップ・アラウンドしたり、Copay、Coinsurance、Deductibleをきちんと把握する準備のある人にとっては、少ない補償と引き換えに、High Deductibleプランのような保険料を抑える方法がベストですし、リスクをとりたくないとい人は、たくさんの補償と引き換えにちょっと高めの保険料を払うという方法がベストでしょう。

Deductibleは高ければ高いほど、Coinsuranceが高ければ高いほど、Out-of-pocket maximumが高ければ高いほど、保険料は安くなり、HSAやHRAなどのおまけもついてくるかもしれませんが、その分許容せねばならないリスクは高く、消費者としての責任も重いことになります。ただし、病気にならなければ、とてもお得な結果になるかもしれません。病気になるかならないかの「賭け」ということです。投資でいうならば、このようなプランはハイ・リスク&ハイ・リターンのプランです。反対に、Deductibleなし・CoinsuranceなしのHMOプランは、月々の保険料は高めで、おまけもないかもしれませんが、医療費というリスクはきちんとマネージされている、ロー・リスク&ロー・リターンのプランです。自分たちのニーズを把握し、それに見合ったプランを選択する必要があるのです。

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2 comments

  1. こんにちは。事後報告になってしまいましたが、今日書いたブログの記事(医療保険について)にリンクを貼らせていただきました。もし何か問題がありましたら、お知らせください。
    色々わかりやすく書いていらして、助かります!

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