アルケゴスの転落に思う人間のかなしさ(1)

2021年もあと1か月を残すところになりました。12月はクリスマスの月。イエス・キリストの誕生をお祝いする月にちなんで、4回シリーズで「アルケゴスの転落に思う人間のかなしさ」というのを書いてみたいと思います。「アルケゴスの転落」の部分は投資の失敗に関係していてファイナンシャルプラナーとして思うことがあり、「人間のかなしさ」の面ではクリスチャンとして聖書とてらしあわせたときいろいろ考えさせられたところがあったので、無理やり(?)この二つをくっつけてクリスマスに向けて書いてみた記事です。こんなノリのシリーズもたまにはいいかな~?と思い・・4回おつきあいくだされば光栄です。

2021年春に起こったアルケゴス問題をご存じでしょうか? 韓国系アメリカ在住のビル・ファンという人が運営するアルケゴス・キャピタル・マネジメントが、デリバティブ取引で大きな損失を出して破綻しました。取引金融機関にも被害が及び、大手金融機関において合計$10ビリオン以上(1兆円以上)の損失出しました。各社の損失額は、クレディ・スイスで$5.5ビリオン、野村ホールディングスで$2.9ビリオン、モルガンスタンレーで$911ミリオンという具合で、業界に大きな波紋を引き起こしました。 

クリスチャンであったビル・ファン

損失額の数字を見ているとあまりに大きすぎて、一市民の私にはピンとくるものではない一方で、私はこの事件について考えるところが大きいのです。なぜなら、このビル・ファンという人が、派手なパーティーをしたり大豪邸に住むようなことはせず、自らはかなり地味な生活をしながら、各地のクリスチャン団体に巨額の寄付をする「敬虔なクリスチャン」であったからです。

私自身も聖書をこよなく愛するクリスチャンとして、ファイナンシャルプラナーの仕事をしています。創造主なる神を仰ぎ見つつ、決してお金を偶像化せず(神と同じように神をあがめず)、でもお金を知恵をもってマネージするその方法を日々葛藤しながら模索している者です。お金も神が与えれくださる大切なリソース。豊かに生きるために大事なものです。いのちのためのお金であるはずが、いつもいつも焦点を定めていないと、いつの間にか逆転してお金のためにいのちを賭けるようなことになってしまう危機感をいつも感じています。豊かに生きるためのファイナンシャル・プラニングであり、お金を貯めたり財産を増やしたりが本当の目的ではないことをいつも考えています。

ビル・ファンという人は自分の家や車のためにお金はあまり使わなかった・・・そういう意味では、お金にとらわれていはいなかったと思うのです。彼はあるインタビューでこう語っています。

「資本主義社会では、多くのお金を稼ぐ金持ちになることがあります。そのお金は自分の幸福のために使うこともできますが、自分の欲のためだけに使うと、神様と隣人のために用いるお金がなくなります。みことば(聖書)を読みながら、神様とイエス様を知っていくと、どんどんお金よりも神様の方が良いと感じていきます。私は財団と幾つかの場所に寄付をしながら、私の名義のお金をどんどんなくしています。なぜなら、お金よりも神様が良いからです。」

けれども、今回の巨額の損失は、どこかがおかしい・・・と感じるのです。ビル・ファン氏の今回の損失の原因は、レバレッジを賭けた(借りたお金で行う)大規模な投資の賭けでした。ものすごく大きなリスクをとっていたわけです。普通の人ならとらないような大きなリスクに賭け、自らのアルケゴス社で働いている人々はもちろんのこと、関連各社(お金を貸していた金融機関。まあ、これはこれらの金融機関自身のの顧客審査・リスク管理の甘さという問題もありますが)にも大迷惑をかけたこと、これは単なる不運や失敗で片づけられることなのか?神を見上げ、神の知恵を仰ぐ生き方をしていたら避けられたことではないだろうか?そこが大きな疑問であり、クリスチャン・ファイナンシャルプラナーとしての私自身への大きな問題提起でもありました。

そもそもアルケゴス社とは

アルケゴス社は実は会社ではなく、ファミリー・オフィスと呼ばれる形態のもので、個人(この場合はビル・ファン氏)の資産運用、税務、法的処理などを行う個人ファンドです。人のお金を預かって投資をするのではなく、あくまで個人(ファミリー)の資産運用のみを行います。ファン氏の場合は、自分のために資産運用をするというよりは、お金をどんどん増やしそれを積極的にキリスト教関係の宣教団体、神学校、慈善団体に寄付をしていました。その規模、寄付対象63団体、総額$16.6 ミリオン(年間)という額だったそうです。もし、読まれている方がクリスチャンであったなら、フォーカス・オン・ザ・ファミリーとか、フラー神学校とかの名前はよくご存じでしょう。最近、クリスチャンの間ではちょっとしたブームの「聞くドラマ聖書」プロジェクトなども入っています。実質、これはファン氏が始めたプロジェクトです。ちなみに、この「聞くドラマ聖書」は英語版、韓国語版に続き、日本語版がつくられ、神役は大和田伸也、預言者イザヤ約は奥田瑛二、イスラエルの王ダビデ役が鶴見辰吾などなど有力俳優ぞろいで、財政減の豊かさを物語っているようです。アルケゴスの問題とは切り離して、聞きごたえのある出来だと思いますので、よろしければどうぞ。 無料アプリがあります。

ちなみに、アルケゴスというのは、新約聖書に4回出てくるギリシャ語で「先を行く者、指導者」の意でキリストのことを指す言葉です。先を行くキリストに従って歩んでいたはずのファン氏が、なぜこんな大きなリスクを取り損失を出したのか、まさかこれも神の計画なのか、どんな意味があるのか・・・

ビル・ファン氏がアルケゴスを始めるまで

ファン氏は牧師の家庭に生まれ、1982年に韓国から米国に移住し、UCLA卒業、カーネギーメロン大学でMBAを取得。複数の証券会社に勤務後、1996年に著名なヘッジ・ファンド・マネージャーであるジュリアン・ロバートソンが率いるタイガー・マネジメントに株式アナリストとして入社、頭角を現しました。その後、ファン氏は自分の会社としてタイガー・アジア・マネジメントを設立。$25ミリオンで始めたものが、ピーク時には$5ビリオンまで増え、年間平均16%での成長率だったといいます。

しかしながら、2012年にインサイダー取引等の問題で、証券取引所法や証券法違反でSEC(米国証券取引委員会)に起訴された経緯があります。不正利益の返還や罰金として$60ミリオン以上を支払い、タイガー・アジア・マネジメントは閉鎖されます。 2014年には香港市場での4年間の証券取引禁止処分も受けています。

2013年には、SECへの登録義務のないファミリー・オフィスを立ち上げアルケゴスと名をつけます。ファミリー・オフィスになることで、ファン氏の個人の資産を運用するための事業となり、他人のお金は運用しないことから、SECへの登録、情報開示、報告義務から解放されることになりました。

さて、この8年後の2021年春、業界各社に大きな影響を与える「アルケゴス問題」が起こるわけですが、その部分は次回に。

*記事の信憑性についてのご指摘コメントをいただきました。確かに、私は報道ジャーナリストでないので、記事の信憑性は確認ができておりません。米系メディアソース、一部日本の報道、クリスチャン系記事など複数を読んでまとめているだけですのでご了承ください。このブログの趣旨はアルケゴス事件について報道することではなく、その事件について私がファイナンシャルプラナーとして思わされたことを綴ることがメインですので、そのようにご理解いただけますと幸いです。

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7 comments

  1. ファン氏がアメリカに帰化もしくはアメリカ国籍を取った報道は何処にもされてないので、韓国系アメリカ人ではないです。ビルはただの英語のビジネスネームで、今でも韓国籍だけのままではないでしょうか。
    ウィキペディア英語版は出典なしで誰かが書き換えたようで情報間違ってます。「アルケゴスを始めるまで」の部分もウィキペディア日本語版の内容をそのまま書いているのでしょうか。記事の内容の正確性は大丈夫ですか。

    1. たしかに、帰化した報道はないですね。いくつかの記事で韓国系アメリカ人としていたので、それをだた使いました。主にニュースメディア、クリスチャン系の報道、などを読んでまとめています。ウィキペディアは使っていません。どこもソースを回しているのでそういうことになるのかもしれません。私は複数の記事の突き合わせて信憑性を確認するくらいで、きちんとした事実確認はできませんので、正確性については大丈夫とは言えませんのでその旨記事に書き加えます。

  2. 在米日本人です。毎回いろいろ勉強させてもらっています。アルケゴス問題について独自の視点での記事を共有いただき感謝です。いろいろ知りませんでした。ビジネスモデルも、個人の軌跡も非常に興味深いです。

    それはそうと、PCのブラウザの右カラムで出てくるインタビュー記事から finasee というサイトで連載をされていることを知りました。もしよろしければ、執筆された際(あるいはその他の記事の紹介でも)、このサイトでもアナウンスいただけると非常にうれしいです。finasee はRSSを提供していないようなので、常時モニタリングするのは難しいので。

    1. finasee記事までお読みいただきありがとうございます。
      そうなんですね、finaseeはRSS提供なしなんですね。
      私は月一回投稿なのですが、では投稿したら右側コラムにでも通知するようにしようと思います。
      finaseeは日本在住の読者対象ですが、少しでもお役に立てれば幸いです。

  3. いつも有益な情報を惜しみなく提供くださりありがとうございます。貴メールマガジンを拝読させていただき、たとえばアメリカのソーシャルセキュリティー制度、メディア、投資など良く理解することができました。ソーシャルセキュリティ受給を70歳まで遅らせましたので、Maxを受給しています。
    今回はアルケゴスの背景を解説くださりありがとうございます。小職はリタイア後の素人投資家(?)です。ビル・ファンさんのような投資家では無くて、現役時代に投資したIRAを活用して、目減りする貯金を減らさない程度の運用です。幸いアメリカ市場の好景気に乗れて予定以上の収益があります。今回は「聞くドラマ聖書」をご紹介いただき有難うございます。受洗者として、愛聴させていただきます。新しい2022年が全ての皆様に素晴らし年である事をお祈りいたします。

    1. メッセージありがとうございます! 一生懸命働かれ今はComfortableにリタイヤ生活を送られていること、これも神様が運んでくださったことと感謝します!「聞くドラマ聖書」お互いにEnjoyしましょうね!

      1. 「聞くドラマ聖書」を聴き始めました。まだ創世記ですが、神さまが世の中をお造りになった様子が紹介されており、何百年前に書かれた旧約聖書ですが、内容がいまの科学でも想像し難いことが紹介されており、目から鱗が落ちる思いです。人間ができることなど微々たることだと実感しています。
        今後ともよろしくご指導ください。

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