人間のこころ: 投資で最も怖いモノ

投資で最も怖いモノ、それは株式投資で避けて通れないリスク・・・と答える人も多いでしょうが、実は違います。最も怖いモノは、私たちの心であり、心の中にある恐れです。損をするかもしれない、資産をなくすかもしれないという恐れ、これは何らかの行動を起こすための強力な動機になります。損をしたくない、減らさないでいたいという恐れとともに、もっと儲けたい、どんどん増やしたいという貪欲は、実は深いところでつながっていたりもします。この恐れと貪欲、全く違うもののように思われがちですが、実は同じ心の二つの面であるともいえるのです。この心のために、本当はすべきでない行動をしたり、売るべきでないものを売ってしまったり、買うべきでないものを買ってしまったりするわけで、実は投資で一番怖いものなのです。

2020年、Covidの影響で、US株式は2月後半から下げ始め、3月下旬まで下げ続いたものの、予想以上に早くリバウンドしはじめ根戻しが続き、8月半ばには値下げ前の状態まで戻りました。比較的短いボトムだったこともあり、株離れは大きく進まなかったことは多くの投資家にとって幸いだったと思います。今後、どう展開していくかは神のみぞ知るところですが、たとえば振り返って2008~2009年の金融大恐慌のときには、続く値下がりを恐れて株を売り現金に“避難”した投資家の多くが、その後10年間の大きな根戻し/成長期間を逃すことになりました。今回のCovidも、「今はよいが、また下がるに違いない」という不安も大きく、同じような恐れが未だ渦巻いています。

投資家心理について調べた過去のリサーチでこんなことがわかっています(Dalbar’s 22nd Annual Quantitative Analysis of Investor Behavior)。

  • 株式ミューチュアルファンド投資家が得た2015年平均利回りは-2.28%で、2015年のS&P 500市場インデックスの利回りである1.38%より3.66%低かった。
  • 債券ミューチュアルファンド投資家が得た2015年平均利回りは-3.11%で、2015年のBarclays Aggregate Bond Indexの利回りである0.55%より、3.66%低かった。
  • この分析によると、投資家の手にした利回りがインデックスを大きく下回った理由の第一は投資家自身のとった投資行動であり、第二に手数料であった。

S&P 500 IndexやBarclays Aggregate Bond Indexをフォローするインデックスファンドに投資することは誰でもできます。またこれらのインデックスファンドを買いずっと持ち続けることも誰でもできます。ただ、誰でもできるこのことを多くの人はしなかったため、株式ファンド投資においても債券ファンド投資においても、自身の経験した平均利回りがインデックスの成績よりも3.66%(どちらもこの数字なのはたまたまの偶然です)も低かったというのは驚くべき結果です。その原因の第一が投資家のとった行動、つまり間違った時期に売り買いしたということであるという結果はショッキングでもあります。売ってはならない時に売ってしまい、買わないほうがいいときに買ってしまう、この行動は「恐れ」と「貪欲」の現われともいえます。

リスクレベルを決め、それに合わせた株式:債券比率でインデックスファンドを組み合わせて買ったなら、あとは何が起ころうと「なにもしない」ことが基本です。「なにもしない」というのは、「なにもしなくていい」のではありません。「なにもしてはならない」のです。感情に流されてなにかしてはなりません。ドルコスト法で月々同額ずつを積み立てているのなら、それを止めてもいけません。同じように続けます。あらかじめ決めた株式:債券比率を変えてもいけません。自動でリバランスするように設定してあればベストです。マニュアルで行うにしても、リバランスは時が良くても悪くても同じように行わねばなりません。値下がりを見て売りたくなっても売ってはいけません。損のないようにしようとか、もっと儲けようと思ってはなりません。最初に設定したリスクレベルをただ維持するのがよいのです。

一番よいのは残高をいちいち見ないこと。Covidだの、大統領選だの、ワクチンだの、いろいろニュースを聞いても、将来10年以上は手つかずで投資していられるものについては、残高は見ないのが一番です。でも、どうしても気になるという場合は、市場にはサイクルがあること、時期や期間はそれぞれまちまちながらも、上がって下がって、下がって上がりながら大きなトレンドでは必ず上がっていくことを知っておき、今下がったのは大きなトレンドの中の小さな出来事であるととらえるのが良いと思います。自分が乗っているのは大きなトレンドであり、小さなエラー/雑音/さざ波は見たり聞いたりする必要がない/心を惑わされてはならないことを覚悟しておくのが肝要です。

市場には大きな右肩上がり(経済成長)のトレンドがあるとともに、小さな上がり下がりのサイクルがあります。サイクルは具体的には下記のフェーズを繰り返します。

ピーク

消費者心理

市場が力強い成長を経験し、経済は好調、失業率も少ない状態です。好調な株式市場を背景に、投資家の姿勢も怖いものなし状態で、株買いの意欲も旺盛です。

本当は・・・

この時期に株を買うことは、「最も高い時に買う」ことになりかねません。これは「恐れ」の対極にある「貪欲」で、感情に流された行動ともいえます。この時がピークであるならば、本当はこの時にこそ株を売るのに最適な時期です。このときに値上がり切った株式を売り、安定的な債券に乗り換えるのが、これからくる値下がりフェーズには最適な策です。

ただ、問題は、いつがトップか、いつから値下がりをはじめるかは誰にもわかりません。あらかじめ正しく決めたリスクレベルに応じた株式:債券比率を組み、自動でリバランスをするようにしておけば、株式の値上がりとともに比率が増えた株式ファンドを売り、比率の少ない債券ファンドを買うという「正しい」行動が自動で行われることになります。

下がり始め

投資家心理

企業の利益率が下がり始め、経済が鈍化し始めます。当初は、一時的な不調かと見守る投資家ですが、思うように根戻しがないと本格的なリセッションを憂慮しはじめ、だんだんと「売った方がよいのではないか」と考え始めます。不安に耐えきれなくなったとき、実際に売りに出ることになります。

本当は・・・

ここで株を売ってしまうのは、これからくるボトムを避けることはできるかもしれませんが、その後来る回復期に乗り損ねることにもなります。これからさらに下がるかもしれなくとも、とにかく同じように買い続けることで、今までより安く買うことを実現します(毎月定額を積み立てているのなら、同じ額でもたくさんのシェアを買うことができます)。

ボトム

投資家心理

落ち続けた市場が下げ止まります。市場の雰囲気は最悪。ボトムというのは、後になってみないと分からないので、この時点ではまだ下がるのではないかという不安が最悪レベルに達しています。金利も最低レベル。希望がない状態です。売りたい気持ちを我慢していた投資家も、あまりの状況の悪化についに売りを考えます。

本当は・・・

この時が「ボトム」ならば、この時こそ「買い」の時です。底値で買えばこれからのリバウンドの時、通常よりも大きな成長率を経験することができます。反対に言えば、この時は、決して売ってはならないときです。売ってしまえば底値での売りになり、大きな損失が確定してしまいます。そしてこれから値上がり期に入るので、今後いつ買っても損になります。

ただ、この時が「ボトム」というのは後になって初めてわかることです。一番確実なのは、あらかじめ正しく決めたリスクレベルに応じた株式:債券比率を組み、自動でリバランスをするようにしておくことで、株式の値下がりとともに比率が減った株式ファンドをあるべき比率に戻すため、自動的に買いたすという「正しい」行動が「自動」で行われることになります。

リバウンド

投資家心理

だんだんと市場が回復し、値が戻ってくる傾向が確からしくなってくるにつれ、楽観的なニュースも少しずつ増えます。今までのフェーズで株式を売った投資家たちは、いつ株を買ったらいいかの時期見極めを考え始めます。

本当は・・・

このリバウンドの時期こそが、株価が大きく上がる時です。まず、市場は下がった分を取り戻し、そしてその後も成長を続けていくわけで、通常の成長率よりもずっと大きな値上がりが期待できる期間です。過去のパターンではボトムを見た翌年のS&P500の利回り平均はなんと47%です。

株を売ってしまった投資家たちは、様子を見ているうちに、このおいしい時期を逃しがちです。「そろそろ株式を買ってもいいのでは」というニュースが聞かれるころには、力強い値戻し時期の大半は終わっているということにもなりかねません。このときに振り返ってわかることは、「なにもしなくて」正解だったということです。

ふたたびピークへと

投資家心理

リセッションからの回復が終わり、好調期に入り、次なるピークへと向かいます。株が危ないという記憶が薄れ、積極的に投資が行われます。

本当は・・・

すでに株価は上がっているので、本当は買い時ではありません。今まで同じように、決められたリスクレベルをキープし、自動的にリバランスを続けるのがベストです。

ということで、つまるところは大変にシンプルです。まずはリスクレベルに合わせて投資ポートフォリオきちんとつくり、あとはなにもしない(なにもしなくていいし、なにもしてはいけない)のが長期投資では基本のキホンのきほんになります。

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