ディスカウントで大学行くのがあたりまえ?(2)

シリーズ1回目は、大学の授業料はどんどん上がっているのにかかわらず、同時に授業料ディスカウントも増えており、90%弱の学生が、平均額にして50%ほどの学費割引を受けているという現状について考えました。ニードベースのファイナンシャルエイド、あるいは大学のスカラシップ、メリットエイドなどを含めたニードベースでないエイドのどれもまったく受けず、フル授業料を払っている学生は全体の10%ちょっとにすぎないということです。なぜ、授業料をわざわざ上げておいて、その上でディスカウントをするのか。今日はそれを考えます。

 

大学はビジネスか?

 

大学はビジネスですか?そうではないですか?どう思われるでしょう。

州立大学はその名のごとく州から財源を得て運営されている公立の大学です。私立大学のほうはどうかといえば、アメリカの著名な私立大学を始め、なじみの深い総合大学はほとんどがNot for profit(非営利)です。こう考えるとビジネスのにおいはあまりしませんね。大学は学究と教育のための高尚な機関であるはずであります。しかしながら、そもそも営利が第一目的ではないにしろ、大学もそれなりに経営を維持していかなければならないという意味ではビジネスであるともいえます。どれだけ赤字がでても、学生の教育のためならチャリティーに徹するという大学はありません。

優秀な学生を入学させ、授業料を払ってもらい、そこから新しいカフェテリアを建てる費用を捻出したり、教授の給料も払わねばなりません。よい学生を集めるためには、大学ランキングでよいランキングを維持する必要があり、ランキングを維持するためには、クラスサイズを小さくしなければならないので、そうするともっと教授を雇わならなりません。教授の給料の高さも大学ランキングに考慮されるので、給料は安くできません。合格率は低ければ低いほうが競争率が激しいことになり、競争率が高ければランキングが高くなりますが、そのためには受験者数を増やしなるべくたくさんの学生を「不合格」にする必要があります。受験者数を最大限に増やすため、受かる可能性のない学生にまでPRパッケージを送ったり、PR担当者が全米各地に出かけ高校生対象の説明会も開かねばなりません。その他の宣伝費にも大きなコストがかかります。大学経営は大変です。

この大変な経営がバックにあるのに、なぜ敢えて大学は授業料のディスカウントをするのか?また、先に問題提起したとおり、なぜスティッカープライスをどんどん上げておいて、その上で大きな割引をするのか?ミステリーですね~。

 

ディスカウントで操作する経営モデル

 

ここで生まれたのがディスカウントをツールとして使い、授業料収入を最大化しようとするモデルです。まずは、学費の正規料金を無謀に高く設定しておきます。収入は教育・研究の質のみならず、ランキング維持向上のためのPRマーケティングや、カフェテリアや豪華な寮などの大学アメニティにも十分費やします。最後に、授業料のディスカウントを有効に使い、ディスカウント後の授業料を着実に納めてくれる支払い能力のある(あるいはローンを組む能力のある)学生を集めます。

このプロセスはEnrollment Managementとよばれ、日本語では訳しにくいですが、つまるところ、「なるべく優秀でしかも支払い能力の高い学生を、定員割れすることなく入学させ、授業料収入と大学ランキングを最大化する」というものです。そしてこれを専門に、各大学にコンサルテーションを行うコンサルティング会社が繁盛しているそうです。そのような会社は過去のさまざまなデータをデータベース化し、「このくらいディスカウントしたら、このくらいの学生がきて、学費収入はこのくらい確保できるだろう」というような、シュミレーションを行ってくれるそうで、大学はこうやって最適なEnrollment Managementを実現するのだそうです。

たとえば、大学がグラント(授業料ディスカウント)として使える$60,000のお金があった場合、これを家庭の収入が低くファインシャルニーズの高いひとりの学生に、全額授業料免除のファイナンシャルエイドとして提供するのと、SATスコアの高い裕福な家庭の学生3人を選び、それぞれ$20,000の学費免除を提供するのと、どちらが大学にとって有利かというシュミレーションに明快な回答を出すことができるそうです。多くの場合、前者より、後者のほうが、有能な学生を十分確保すると言う意味でも、ランキング維持の成績保持のためにも、割引後の授業料$40,000をそれぞれ確実に獲得するという意味でも有利であるという結果に行きつくのかと思われます。

「フィラデルフィア地区に住む、家庭の収入が$xx ~ $xxのレベルの100人の学生に、$5,500のディスカウントを提供した場合、その24%が入学するが、これを$6,000に増やすと48%が入学する」というようなピンポイントの予想もはじき出せるのだそうです。これによって、大学側は、学生側の条件によって、かなり細かな授業料ディスカウントオファーの設定を行うことができるというわけです。

このように大学の出すファイナンシャルエイドが、真に学費に困窮している優秀な学生を助けるという理由というよりは、大学のランキング維持と授業料収入の最大化目的に用いられる傾向が強い、つまりEnrollment Managementのツールとなってきている傾向があるといえます。このことを考えると、授業料ディスカウントオファーがフレッシュマンに対してより積極的に行われ、2年目以降はディスカウント率が小さくなるというNACUBOのデータもうなづけます。優秀で着実な授業料収入につながるフレッシュマン確保がもっとも大事なステップ、その後、学生が卒業まで在籍しつづけるようにするRetention Managementももちろん大切ですが、ここでは多少授業料ディスカウントを減らし、自己負担分を増やしてもなんとか払ってくれるだろうという計算です。

Raffalo Noel Levitzというコンサルティング会社があります。この会社は3,500人のスタッフを抱え、全米85箇所に拠点を置き、毎年1,000を超える大学のEnrollment Managementを手がけています。ホームページを見るとファイナンシャルエイドマネジメント、受験者集めや広告マーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、学生のリテンションまで、大学に対しての幅広いコンサルを行っています。もちろん、授業料収入から多額のコンサル料が支払われているのでしょう。

この会社が、大学のアドミッションオフィスとファイナンシャルエイドオフィス担当者1,500人を対象に開催したセミナーで、「皆さん(大学の各担当者)の中で、メリットスカラシップ(授業料ディスカウントと同等の意)は、優秀な成績や才能に報いるためにあるものだと考える方はいらっしゃいますか?」の質問に、ひとりとして手を上げる人がいなかったそうです。授業料ディスカウントはもはや優秀だからという理由だけでもらえる誇らしいものではなく、大学の授業料収入の最大化の条件にうまくはまったからもらえるものとなりました。スティッカープライスといわれる、非常に高額な正規の授業料を支払っている学生のほうがもはや少数派になり、割引をもらう学生が大多数で、しかも割引率にいたってはひとりひとりにかなりの差があることが想像がつきます。同じ東京行きの飛行機の同じエコノミー席に座っている人の中にも、その払った料金にはかなりのばらつきがあるのと同じように、同じ大学の同じ教室に座っている学生の中には、その支払っている授業料にかなりのばらつきがあるということが起こっているのだと想像がつきます。

アイビーは違います。。。

 

ただ、この傾向をめぐっては大学はいくつかのグループに分かれるようです。

まず、ひとつめのグループはアイビーリーグを含む私立のエリート校。これらの大学の特徴は、そもそも学費をディスカウントして人を集めなくてもよいこと。確固とした名声と地位がゆえに、いくら授業料が高くとも、毎年確実に受験者が集まる大学です。これらの大学は卒業生などからの寄付金も多く十分な財源があるため、ファイナンシャルニーズがある学生に対して100%のニーズを満たすことをポリシーにしています(Need Metが100%)。その代わり、それ以外のディスカウントはほとんどない(Merit Aidがない)ことが特徴です。これらの大学はそもそも入学するのが大変ですが、入学したらファイナンシャルニーズをカバーするエイドがふんだんにもらえる反面、それを超えたディスカウントは期待できません。

high need-based aid college

 

それとは対象的なグループが、授業料ディスカウントをツールにした学生集めの努力が必要な大学です。こちらのグループは、ニードベースのファイナンシャルエイドもかなり多く出していますが(Need  Met)、授業料ディスカウントも同様に積極的に行っているのがわかります(Merit Aid)。ほとんどの学生がなんらかのファイナンシャルエイドをもらい、フルに授業料を払っている学生はあまりいない学校です。

high merit aid college

 

このふたつのグループは白と黒という2つの分極ではなくて、この間にさまざまの濃さのグレーが存在しています。たとえば下はエリート校の部類だけど、授業料ディスカウントをある程度行っている学校です。最初のグループのようにMerit Aidがゼロではなく、ある程度の数字が入っています。これらはどこも有名どころですが、それでもある程度のディスカウントを出して学生確保に努めているようです。ここにははじめて州立大学のUniversity of California, Berkeleyが顔を出しました。州立大ですが、23%の学生(このリサーチではフレッシュマン)にディスカウントを行っています。

moderate aid college

以上のデータは、collagedata.comでリサーチしました。狙っている大学がどの程度ディスカウントを行うのか、調べてみるとよいかもしれません。

Print Friendly
Print Friendly

4 responses to “ディスカウントで大学行くのがあたりまえ?(2)”

  1. いつも大変参考にさせて頂いております。

    EFCと学費について質問があります。 EFCが学費を上回っている場合でも、メリットエイドのグラントを受けられる可能性というのはどれくらいあるかご存じですか? EFCが下回っている方の質問はネットでたくさんあがってきますが、上回っている方は躊躇なくお支払いされているようで、なかなか見当たりません。

    EFCの狭小化はできるだけしていますし、大学以外のグラントもかなり応募しています。 主人の給与が急激にここ数年であがったので、セービングが足りるかどうか心配です。 

    よろしくお願い致します。

    • 給料があがったことおめでとうございます。それなりのご苦労もおありということですね。。。
      メリットエイドは大学がそれぞれ出すので、大学次第で、ふたを開けないとわからないというのが実情だと思います。
      あるいは、大学を絞っていろいろ調べれば過去データや経験者の情報もあるかと思いますが。。

      • 返信をどうもありがとうございます。 やはり、個々の事情ということですね。

        実はいくつかの大学から既に結果とパッケージは頂いたものの、どれもフルプライス・・・。 これから出るRDのものと比べて判断しますが、隣の席の生徒がほとんどただ同然で通っているかもと考えると、複雑ですね。 以前の記事で、フルで払っているのは約10%ほどとか。 

        これが富の再分配というものでしょうか。 うちは、まだ富が出来上がってないんですけれど! 

        毎週記事のアップを楽しみにしております。 ありがとうございました。

        • 合格通知がいくつか届いたとのこと、おめでとございます!
          これはEducated guessですが、フルで払っている比率が低いのが、どちらかというとトップクラスでない私立だと思います(ビジネス的に人集めのためにディスカウントを強いられる)。ですから考え方を変えれば、フルでも行く価値のある大学(ただし親の家計や学生さんの将来が大きくマイナスの影響を受けすぎない範囲で)に合格したなら、喜んで行けばいいと思います。

Leave a Reply

Your email address will not be published.



Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com