アメリカ大学脱出 学費の低い国へ(2)

アメリカのカレッジコストが目を疑いたくなるレベルまで高騰し、アメリカのスチューデントローン残高はクレジットカード負債を上回る状態まで達しました。この状況下で、質の良い大学教育をもう少し理性的な値段で受けることができないかと国外に目を向ける層が出てきました、前回は、アメリカの大学をベースにStudy Abroad Programを通して留学する場合と、アメリカの大学に進学する代わりに国外へ留学をして学位取得まで狙う場合について、コストや留学事情を見てみました。今回は、各国の状況をもう少し詳しく見ていきます。

各国留学事情

以下では、とくにアメリカでの勉学に比較してコスト効果の高いと思われる国について、各国事情を調べてみます。

France

公立大学であれば、授業料はほぼ無料に近く数百ドル程度。エリート大学では、家庭の収入に応じて授業料を設定する大学もある。EU以外から来ている学生には留学生用の別料金が設定されていることが多いが、それでも最高で$14,000程度。専門性の高いコースでは、授業料が少し高く設定されているが、それでも劇的に増えることはない。教育ベレルは高く、国際的に評価される大学も多い。

以前は、フランスでの勉学にはフランス語が必要であったが、現在では英語での勉学も浸透してきている。英語で勉強できるコースが80弱あり。ただし多くは私立で費用は高めになる。大学院では、英語で学ぶことが前提につくられているプログラムも多く、実際、博士号の三分の一はフランス国外から来た学生に発行されている。また、大学のコースに入る前に、フランス語の準備クラスに入って語学スキルを磨くこともできる(別料金)。

フラスでの生活費は少し高めであるが、ただ首都パリはそれでも比較的低コストで、一年間で$11,000程度。

Germany

多くの大学で英語でのコースが提供されている。多くの大学で授業料無料となっており、$300以下の登録料がかかるのみ。経済的にも安定しており、大学教育の質への評価も高い。教育の質では、アメリカと英国に次いで3位に入っている。生活費の用意は必要。ミュンヘンとベルリンへの留学人気が高いが、この二つは比較的生活費がおだやかな市であり、年間で$11,000ほどが目安。

Iceland

公立大学は4つあり、すべてで授業料無料。 英語で提供されるコースも増加中。

Finland

授業料無料。14大学と25の工科大学があり、すべてが政府によって助成されている。多くのコースが英語で提供されている。生活費については自費でカバーするのが基本。

Norway

学士レベルから博士課程まで、国籍に関わらず授業料無料。学士ベレルはノルウィー語で提供されるコースが一般。修士、博士課程になると英語で学べるコースも多い。しかしながら、生活費は世界の中でも最も高い国の一つである。

Sweden

国内35大学に、900種類もの英語で学べるコースが用意されている。

EU/EEAとスイスからの学生についてのみ、国内学生同様、授業料無料。ただし、博士課程では、それ以外の国からの留学生であっても授業料無料。学士、修士課程での授業料(EU/EEA、スイス以外の学生の)は、$9,400~$16,500程度。しかしながら生活費は世界でも最も高いレベルである。

Slovenia

150もの英語で学べるコースが提供されており、必要なのは少額の登録料のみ。

Brazil 

公立大学は少額の登録料のみで学べるが、英語で学べるコースは多くなく、ポルトガル語が主流。

 

言語の問題

日本で育った私にとっては留学といえば必ず外国語が必要なものでしたが、アメリカで育った子どもたちならば、英語でそのまま留学というオプションは大いにありえます。英国やカナダ、オーストラリアなどのもともと英語を母国語とする国だけでなく、最近ではヨーロッパの各国でも英語で学べる環境が整備されてきました。日本でも英語で教育を行うコースが増えつつありますね。

たとえば、ここではドイツの場合に焦点をあてて見てみましょう。

ドイツでは、過去に500~1,000ユーロの授業料徴収をしていたころがありますが、2014年にこれは廃止され、現在ではドイツ人にも外国人にも授業料ゼロを実施しています。アメリカから留学に行く学生も増加しており、現在、アメリカからドイツに留学に行っている学生数は、4,600人超。そのうち61%は修士課程以上に在籍しており、専攻では29% Languages, Cultural Studies、27% Law, Social Sciences、12% Engineering、10% Math, Natural Sciences(2013年データ)となっています。

授業料ではない、Semester Feeというものに110~150ユーロ($120~170)ほどかかるようですが、これは公共交通機関の交通費を含んでいます。ドイツでの健康保険は月に80ユーロ($90)ほど。

ドイツ語がある程度できて留学する学生もいるでしょうが、片言のドイツ語しかできないまま留学する学生もたくさんいます。実際、ドイツの大学は英語オンリーのコースを増やすことに努めてきたので、現在では様々な分野にまたがる1,150コースがオファーされているとのことで、生活はさておき大学の勉学だけでいうならばドイツ語はほとんど必要ないともいえるレベルだそうです。

1999年に、ヨーロッパでは各国がBologna Accordsという協定に同意し、これをもって大学教育の各国間での基準と質についての整合性が制定されました。大学や大学院での学位の基準がヨーロッパ参加国内で一定になりました。その後、EU内では何千人という学生が自由に国境を越えて学ぶようになり、自国以外で学位を取得するようになりました。これにともない共通語としての英語の存在が強調されるようになりました。

たとえばミュンヘン工科大学では、20%の学生がドイツ以外の国籍を持つ学生で、2020年までにすべてのプログラムを英語で提供することを目標にしています。哲学や比較文学などのエリアでは引き続きドイツ語での授業が残る可能性もあるが、テクノロジー系の学部では比較的簡単に英語に移行できるはずだとしています。

しかしながらもちろん現地での生活や豊かな人々との交流のためにはドイツ語の会話力は必要になってくるでしょう。ほとんどの大学でドイツ語コースが提供されており、必要な言語力を養ったり、一定の言語力が必要な特定のコースへ入学するために言語力認定証を発行しているようです。

 

ドイツがそこまでする理由は?

しかしながら、自国語以外の言葉でクラスを揃え、国外からの学生、授業料も国が援助するような形で勉学をさせることへの、ドイツの思いはどこにあるのでしょう?

たとえばベルリンで大学に行く学生ひとりを例にとると、専攻によってもコストは違ってくるものの一年間でドイツが負担する平均費用は$15,000ほどだそうです。この費用はドイツの納税者の収める税で賄われるわけです。ベルリンには約170,000人の大学生がおり、そのうち25,000人超が外国人留学生です。そうすると$375ミリオンがベルリン市への負担となることになります。さらには海を越えての海外の学生をそこまでして受け入れるその心はいかに?.

実際、ドイツにも利点があるのでこのような策をとっているのです。ひとつには、ドイツ人学生に対して英語でコミュニケートする機会を増やすことで国際競争力をつけさせることであり、もうひとつには、国外からの学生を誘致して将来的に有能な労働者を確保するということです。

国外からの有能な学生がそのままドイツに居残り、新たなビジネスアイデアを生んだり、スタートアップビジネスを立ち上げたりということは、ドイツにとっても大きな魅力です。実際卒業した半数の学生はその後もドイツに残るというデータもあります。卒業する学生の40%がそのままドイツに残り5年働いて税金を納めてくれれば、投資したコストは回収できるという計算のようです。先進国の多くにある話かもしれませんが、人口が高齢化し労働市場での若くて有能な人材が不足している国、ドイツでは、有能な人材の国外からの確保は重要な課題です。

問題はどの程度このシステムが継続していけるかということでしょう。前述のミュンヘン工科大学でも、将来的には国外からの学生に対して授業料負担を増やすことも視野に入れているとしています。コスト負担容認派の話では、おそらく一年に$5.000~$10,000超くらいのコスト負担になるのではないかということですが、コスト負担反対派は、たとえ小さなコスト負担増であっても有能な人材の流入に大きな影響があるのではないかとしており、コスト負担増に強く難色を示すグループもいます。たしかに、アメリカから行く学生にとっては、年間$5.000~$10,00のコストはアメリカ国内のコストに比べればまだ魅力のあるレベルですが、発展途上国の学生にしたら留学を見合わせるということにもなるでしょう。

..ということで、このブログ記事は決してコストの安い国へ行って大学教育を受けることを推薦しているわけではありませんが、たしかにアメリカ国内の大学にこだわるだけが選択肢ではないということは確かに言えそうですね。

私の住んでいる南カリフォルニアでは、日本に帰って大学に行くというケースも多く見られます。塾もその目的のための準備コースを設けています。東京に実家があってそこに住みつつ東京の大学に進学するなら、きっとかなりコスト的には有利なんでしょうね。日本の大学でも英語で授業をするコースがありますが、内容的にはどうなのでしょうか。また、こちらで長く育った子どもたちが日本語で勉強する場合には、それはそれなりにチャレンジ(つまるところ、本人の日本語能力でしょうか)でしょう。私はよく知らない世界なので、経験している方教えてもらえるとうれしいです。

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6 comments

  1. ご無沙汰しています。ドイツがそこまでやっているとはすごいですね。日本にもそれくらいの先見の明があればと思います。入学審査にはバカロレアが必要なんでしょうね。
    日本に戻ってまで大学に行く価値って、費用以外にあるでしょうか。ウチの息子が日本のインターナショナルスクール卒業のちょうどその年(2004年でしたか)、日本でも高校卒業資格として認められました。それまでは各種学校扱いだったので、大学入学に必要な資格とみなされてなかったんです。驚きでしょう? 
    それで、息子の同級生(両親とも日本人の女子)が早稲田大学の全額奨学生として入学しました。裕福な家庭なので奨学金など不要だったにもかかわらずです。ところが4月から7月まで通っただけで退学。9月から、元々受かっていたボストン大学に1年遅れで入学しなおしました。理由は、授業があまりに受け身すぎて面白くなかったとのこと。日本で育った日本人でしたが、学校はずっとインターナショナルだったので違和感が大きかったようです。

    1. そうなんですか。私も日本の大学を出ましたが、もう何十年も前なので、今の日本の大学はよく知りません。昔はあんまり勉強しなかったけど、今はどうなんでしょうね。私の個人的経験では、日本の大学の4年間より、アメリカの大学院の2年間のほうが、たしかにずっと多くを学んだ気がしています。

      1. アメリカで学生ローンを受ける場合、兵役のリストに署名しないといけません。04年頃はちょうどGWブッシュのイラク戦争で、徴兵制復活も言われてました。結果的にそうなりませんでしたが、つれあい(米国人)はその理由で息子の学生ローンに反対しました。この点は今はどうなんでしょうね?
        米国籍であっても日本在住で税金も日本となると、州立でも私立でも授業料は一緒で高かったですよー。息子は1万ドルの奨学金オファーがあった大学はやめて、南カリフォルニアのUSCへ行きました。言うのがみっともないくらい高かったですが、幸い、投資分はとっくに取り返しました(^^)
        でも当時ヨーロッパも視野に入れておけばよかったかも。同級生の女子でスイスへ行ったケースもありましたから。

  2. 先のコメントにあるように、ドイツは先見の明がありますね。それに引き換え、日本の外人誘致の焦点は介護、看護職とか、一昔前は農村花嫁。たしかに必要になる、だいじな労働力ですが、学術的に優れた外国人を増やすことも、もっと頑張ってほしいです。外国人が日本の大学で働く姿が増えてるような印象ですが、すぐ教授にしてくれるけど、英語論文校正マシーンになるなんてボヤキを聞いたことあります。

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