ファンドの低手数料化とまだまだ気を付けたいこと

ミューチュアルファンドの手数料(ファンドに預ける口座残高に対して年ごとに一定パーセンテージが徴収されるもの。Expense Ratioとも呼ばれます)は過去10年で大きく下がりました。2008年の金融恐慌を機に、「きっと儲かるはず」とあまり吟味も根拠もなくファンドにお金を託していた投資家も、大きく目減りした残高にショックを受け投資ファンドに対してより厳しい目で向き合うようになったことと、それまであまり目に留まることがなかった(目に留まるように隠されていたというほうが適切かもしれませんが)手数料が疑問視されるようになり、法律改正もあって開示が進み、投資家の意識が高まってきたことが背景にあります。今日は2016年に発行されたMorningstar社のファンド手数料調査を参考にするとともに、手数料が下がってきた今、個人投資家として注意したい点についても考えてみます。

 

手数料の低下傾向

アメリカ国内の全投資ファンドの平均手数料(Asset-weighted:ファンド資産高に応じて重み付けをして平均値を計算)は、2010年に0.76%だったのが、2013年に0.65%、2014年に0.64%と下がってきました。

投資家は手数料の低いファンドを好んで選ぶ傾向が強くなり、過去10年間のファンドへの投資マネーのインフローを調べてみると、全ファンドのうち手数料が全体のボトム20%のファンドに対して95%以上の新規マネーが流れました。手数料がボトム20%の低手数料ファンドは、大部分がインデックスファンドです。

この変化にともない、2004年の時点では、手数料が0.50%以下のファンドに投資されている投資資産は全体の20%しかありませんでしたが、2014年になるとその比率が41%まで増えました。低手数料への意識が高まっていることがクリアに表れています。

インデックスファンドの2014年の平均手数料は0.20%、一方インデックス追従ではなく積極的に銘柄を選んで利益を追求するアクティブ投資タイプのファンドは0.79%でした。アクティブ投資の場合は、銘柄選択やリサーチにファンドマネージャーの労力がかかるため、どうしてもインデックスファンドに比較すると手数料は高めになり、それがインデックスの0.20%とアクティブの0.79%という差になっています。以前はアクティブ投資タイプのファンドで、手数料の高いものは2.0%とか3.0%とかというレベルをつけているものも案外ありましたので、それを思えば0.79%という数字はずいぶんと低くなったという印象があります。アクティブ投資ファンドを離れ、インデックスファンドへ乗り換える投資家は後を絶たず、たとえば過去10年US株ファンドに限ってみてみると、$731ビリオンがアクティブファンドから流出し、$671ビリオンがインデックスファンドに流入しました。

また同時に、セールスロード(販売手数料)の設定されているファンド離れが進みました。以前はアドバイザーに勧められるままに投資ファンドに投資し、販売時にセールスロードがいくらとられているのか、その後毎年手数料がいくらとられているのか全く知らないという投資家も案外存在しました。今では意識が高まり、手数料を気にするだけでなく、無駄なセールスロードも避ける傾向が高くなっています。ロボアドバイザーと呼ばれる、ソフトウエアベースのサービスで、セールスロードなしてアドバイスを受け投資するという投資家層も多くなりました。

またアメリカでは完全に同じミューチュアルファンドであっても異なるクラス(シェアクラスとも呼ばれる)で販売することが合法化されており、Institutional Classなどの大型団体顧客向け(最も手数料が低い)からInvestor Class(最も手数料が高い)などの小規模個人投資家まで、いくつもの手数料レベルが設定されていることがよくあります。このことに対しても投資家の意識が高まり、また企業や団体が自社の401(k)などで提供する投資ファンドへの手数料に対しても厳しい目で臨むようになり、好条件のファンドを選ぶようになったことも相まって、低手数料クラスへの投資の伸びが記録されています。

 

各社の状況

Vanguard社は長年の間セールスロードなし低手数料で、主にインデックスファンドを中心にファンド提供をしてきましたが、過去5,6年の間注目度が高まり支持層も拡大したこともあって、ミューチュアルファンドのマーケットシェアを大きく伸ばしました。2014年のVanguard社のマーケトシェアは19.2%で、二位のFidelity(9.0%)に大差を開けています。三位以降は、American Funds(8.4%)、BlackRock/iShares(7.0%)、Franklin Templeton Investments(3.2%)と続きます。

なお、マーケットシェアで10位に入っているファンド会社のうち、提供するファンド手数料の平均が最も低いのは、一位Vanguardで0.14%、二位が低手数料ETFで知られるSPDR State Street Global Advisorsで0.17%、三位がDimensional Fund Advisorsで0.36%でした。

ではこのような状況下で、個人投資家としてどのような心構えでいるのがよいのでしょうか。次にその点を考えてみます。

手数料開示を要求する

手数料とひとことで言っても実はもう少し細かく内容を分類することが可能で、内訳は

  • アドバイザー手数料:アドバイザーがファンド内の投資媒体を売ったり買ったりして維持する費用
  • セールスロード:販売時にかかる費用、売却時にかかる費用
  • 販売促進費用(12b-1費用):販売チャネル、マーケティング費用
  • 管理手数料(口座サービス費用):ファンドの会計・事務管理費用

などがあります。たとえばVanguardなどは下記のように手数料明細を公表しています(Total Stock Market Fundの例)。このファンドのアドバイザー手数料は0.16%です。下にある項目の最初のふたつは、販売時の手数料と売却時の手数料でどちらもセールスロードのカテゴリーに属します。あとの二つは、販売促進費用と管理手数料です。このファンドの場合は、管理手数料(口座の種類によって数十ドルの固定費)とアドバイザー手数料0.16%の設定があるだけで、あとの費用がかからないことがわかります。

残念ながら、このように明確に手数料の内訳を開示していないファンド会社もあります。2014年時点で84%のファンドが開示をしているが、残りは開示なしという結果でした。ご自分のファンドが開示しているならその内容を吟味すること、開示していないならそれなりに危機意識を持つことも大事ではないかと思います。

 

消費者への還元度に注意する

投資家や401(K)などを提供する雇用主や団体の意識が高まり、低手数料への移行が進んでいることは大変好ましいことです。ただ、手数料の低下は、実はもっと進んでもよいのに、少し下げ止まりしている感があるともいえます。過去5,6年のうち手数料を下げたミューチュアルファンドは全体の63%ですが、10%以上の下げを見ているファンドは24%に過ぎません。

どんどん手数料が下がったからファンド会社はさぞかしやりくりが大変だろうと思われるかもしれません。実はそうではありません。ファンド会社全体の手数料収入は過去最高のレベルを記録しています。なぜなら、手数料は

手数料収入=ファンド資産 x 手数料%

で決まるので、手数料%が下がっても、その効果を上回ってファンド資産が伸びていれば全体の売り上げ高が大きく伸びることも可能だからです。

過去10年でファンド手数料は27%減少したものの、ミューチュアルファンド業界が運用する投資資産高は143%伸び、結果として業界の手数料売上高は$50ビリオンから$88ビリオンへと78%増加しました。このリサーチを行ったMorningstar社は、この傾向を鑑み得ると、さらなる低手数料という形での投資家への利益還元があってもよいのではないかとしています。

ちなみに、2009年から2014年までの手数料低下率を計算してみると以下のとおり。

そもそも最も低手数料だったVanguardが最も高い削減率を記録していることは称賛に足ると思います。投資家として私たちは、ただ下がった下がったと喜ぶだけでなく、コスト削減への企業努力がどの程度見られるのか、投資家への利益還元が適切になされているかは引き続き気にしていきたいところです。

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