ベーシック・エステートプラニング(1)

シリーズ第一回目「エステートプラニングとは? 相続を考える」では、エステートプラニングは、お金持ちだけがすればいいものではなく、また遺書だけで終わりというものでもないということを書きました。遺産税(日本でいう相続税)がかかることを心配する必要のある人はそれほど多くないとしても、プロベートという問題についてはみな考えておく必要があることも書きました。シリーズ第二回目「エステートプラニングを怠ると?」では、エステートプラニングをきちんしておけば避け得たであろう問題についてみてみました。今回と次回では二回に分けて、誰もが必要なエステートプラニング、いったいどこからはじめればよいか、どんなことがカバーされるべきなのかを見ていきます。

エステートプラニングは、専門知識が必要な分野で、州によっても法律が異なったり、また法律は刻々と変化するということもあり、それを専門にした弁護士などに相談されることをお勧めします。Smart & Responsibleはパーソナルファイナンスの中の一要素としてエステートプラニングをカバーいたしますが、弁護士ではありませんので法的な手続きや詳細に責任をもつことはできません。以下に記しますことは、あくまでファイナンシャルプラニングの観点から見た場合の一般論としてご理解ください。

 

まずは資産をリストアップ

エステートプラニングの第一目的は、自分の所有しているものの分配ですから、自分が何を持っているかを把握しないことには話がはじまりません。銀行口座、投資アカウント、リタイヤメントアカウント、生命保険、家や不動産、ビジネスなど、すべてリストアップします。すでにファイナンシャルプランイングを実行している方は、バランスシートを作製済みかもしれません。それで十分です。

ひとつ注意は、生命保険です。キャッシュバリューのたまっている終身保険ならバランスシートに載っていますが、掛け捨ての定期保険だとバランスシートには通常載っていません。しかしながら、死亡した時点で保険金が下り資産としてバランスシートに載りますから、定期保険金もエステートプライングで考慮される必要があり、アイテムとしてリストに入れます。

リストアップしたら、それらの資産を誰に相続させたいかを考えます。

 

タイトル(所有権・名義)の設定

タイトルは、その所有物の所有権のことですが、その所有の仕方によって、所有者が亡くなったとき、その所有物が誰にどのような形で引き渡されるかということが決まります。家やその他の不動産を購入したとき、もし自分が亡くなったとき、その所有物をどうしたいかまで考えタイトルの設定を考えることが必要です。また、このタイトルの設定と他のエステートプラニングの要素が整合性がとれたものであることも必要です。

夫婦など複数人で所有する場合なら、ジョイント所有(Joint Tenancyや、Tenancy by the Entiretyなど)にしておくと、遺書のあるなしに関わりなく、プロベートを経ないで、亡くなった方の所有分は自動的に残されたジョイント所有者に移ります。

所有物が亡くなった方だけの所有であり(Sole Ownership)、ベネフィシアリーの設定もない場合、遺書で指定があるとおり相続され、プロベートを経ることになります。遺書もなければ、州の無遺言相続法によって規定のとおり分配されます。

複数人で所有している場合でも、Tenancy in Commonという形態だと、Sole Ownershipの場合と同じく、亡くなった方の所有分だけが遺書&プロベートを経るか、遺書がなければ無遺言相続法によって分配されます。

よって、プロベートを通さないで自動で所有権を移すことを重要視するのであれば、ジョイント所有にしておくのがベストです。銀行口座も夫婦で共有し、片方の死後はもう片方が自由に使えるようにしたいなら、ジョイント口座にするのがよいでしょう。夫婦で家を購入するときなどは、片方が亡くなってももう片方に自動的に所有権が移るようにジョイント所有にすることがよく行われます。ただ、タイトルの設定は、相続だけでなく、生前に自分の所有分を売ることができるかなど、さまざまな要素も関連してきますので、慎重に選択する必要があります。

 

ベネフィシアリー(受益者)の設定

タイトルをジョイント所有にできない金融資産も存在します。たとえば、リタイヤメントアカウントなどは、勤労者個人の所有であり、ジョイント口座にはできません。また、ジョイント所有にできたとしても、そうしないほうがいいという場合もあるでしょう。たとえば、投資口座を持っている父が、自分の死後は自動的に息子に口座を譲りたいと思っている場合なのです。ジョイント口座にすれば父の生前から息子も所有者として父と同等の権利を持ち、父の意に反して運用したり換金したりする権利があります。ジョイント所有にはできない、あるいはジョイント所有にはしたくない場合には、ベネフィシアリーを正しく設定することにより、自分が亡くなった後、プロベートを通さずに、自動的に相続が行われるようにします。銀行や投資口座などのベネフィシアリー設定は、POD(Payable on Death)とか、TOD(Transfer on Death)という名で呼ばれることもあります。

通常ベネフィシアリーの設定をすることができる資産には、生命保険、アニュイティ、401(k)などのリタイヤメントアカウント、IRAなどがあります。

また、ジョイント所有にした場合でも、さらに加えてベネフィシアリーを設定することもできます。たとえば、夫婦のジョイント口座は、どちらかが死亡するともう一方に自動的に相続されますが、その後もう一方の配偶者もなくなった場合、POD/TODベネフィシアリーとして息子が指定してあれば、今度は自動的に息子に相続が行われます。

ベネフィシアリーにはプライマリーベネフィシアリーとセカンダリーベンフィシアリーがあり、セカンダリーも設定しておくことが肝要です。セカンダリーベネフィシアリーはプリマリーに指定された人がもしも亡くなっていた場合の受益者です。プライマリーは設定してあったが、セカンダリーは設定していなかった場合で、プライマリーベネフィシアリーがもし早期に死亡していたりすると、自動相続が行われず意図に反してプロベートの対象となることになります。

 

遺書(Will)の作成

ここまでは、タイトルの設定とベネフィシアリーの設定によって、遺書によらず、死後自動的に、資産を相続者に引き渡されるケースをまとめました。遺書によらないということは、プロベートを介する必要がないということで、コスト的にも時間的にも無駄なくスムーズに意図した人に相続させることができました。

遺書は、自分の資産を誰に相続させたいかの意思を法的に公にする文書です。ジョイント所有やベネフィシアリーの設定による自動相続の対象でもなく、しかも遺書もない場合、その資産は、それぞれの州の無遺言相続法に基づいて誰が相続するかについて決められます。無遺言相続法は、亡くなった方の特別の思いや遺志を継ぐことはせず、決められたルールで資産を分配します。

無遺言相続法は州によって異なりますが、典型的なものでは、配偶者と子どもがある場合は、その間での分配。配偶者や子どもがなければ、血縁者に分配となります。

また、遺書では、自分が養育の責任を担っている子どもを、自分の死後、誰に養育・監督をまかせるかということも明らかにします。アメリカでは一般に18歳以下をマイナーと考えますがマイナーの子どもの後見人を誰を指定します。この点で、小さなお子さんをもっていらっしゃる方には、とくに遺書の作成が重要です。

 

リストは次回に続きます。

 

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4 comments

  1. こんばんは。いつも大変興味深く拝見させて頂いてます。
    数年前から主人と弁護士から、私(日本人)がアメリカの国籍を取った方が一番簡単で税率も下がるからとの事で、アメリカ国籍取りました。取って良かったのか悪かったのか分かりませんが。遺書は現在作成中です。私達夫婦に何かあったら息子の後見人となってくれる人にも話しをしてあります。エステートプラン大事ですよね。

    1. Northさん、コメントいただいておりましたのに、お返事が遅れまして申し訳ありません。コメントをいただいていた旨の通知がうまく届いておりませんでした。
      着々と準備が進んでおられますね!そう、エステートプラン大切ですよね。日本にいるとあまり考えませんが。。
      これからもよろしくお願いいたします。

  2. ご存知でしたら教えていただきたいのですが、オンラインで銀行口座を開設していたらpayable on death もしくは in trust for を選ぶようになっていました。in trust for の方がフレキシブルに対応できるから良い(英語で書かれていたので違っているかもしれません)記述を見たのですが、この2つどう違うのでしょうか?いつも質問ばかりですいません。

    1. この点私は専門ではない(エステートプラニングの弁護士・会計士の専門範囲です)のと、州によってこのあたりの法律は変わることとをお断りしたうえで、In Generalのご回答をさせていただきますと。。
      Aさん名義で開き、BさんをPODのベネフィシャリーの設定した口座のお金は、Aさんの存命中はAさんの財産であり管理下、Aさん死亡と同時にどちらもBさんに自動的に映る
      Aさんが開き、Bさん(ふつうMinor)をITFで指定した口座のお金は、Aさん存命中は、Bさんの財産(Equity)、Aさんの管理下(Possession)で、Aさんか死亡するとBさんが管理も得る場合と、Aさん存命中もBさんが成人した時点で、管理がAさんとBさんの双方になる場合などあるようです。
      あくまで州ごとのルールを確認していただく必要があるようです。

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