仮想通貨ビットコイン・・買う?(2)

前回の記事でビットコインとは何なのか、なぜ人はビットコインを買うのかについて見てきました。過去1年で10倍にまで価格が膨らんだビットコイン、これからも値が上がるのなら今のうちに買っておこうか・・と考える人もいらっしゃるでしょう。ビットコインでお金を儲けることができるのか、リタイヤメントなどの資金準備の一部として考えることはできるのか、そもそもビットコインに投資するということはどういうことを意味するのか・・その当たりを考えてみましょう。

 

ビットコインは通貨である

 

「ビットコイン投資」という表現が使われますが、これは実は少し妙な言い回しだと思います。ビットコインは通貨ですから、ビットコインを買うということはFX(外貨取引)をするのと同義です。オーストラリアドルを買ったりタイバーツを買ったりするのと同じことです。将来外貨を売るときの値段が、買ったときの値段と取引手数料の合計より大きければ利益がでることになります。このような売買は、「投資」というのとは少し違います。

「オーストラリアドルに投資する」とか「タイバーツに投資する」という言い回しを私たちはしませんが、同じ理由で「ビットコインに投資する」という表現は少しずれがあるわけです。本来、投資というのはリターンとか利回りとか呼ばれる「見返り」を期待して出資するものです。たとえば株式に投資すれば、それはその会社のオーナーとして、その会社の将来の利益の一部を見返りとして受け取る権利を得ることになります。会社は利益を生むことが目的で存在しています。その年の利益はその年の配当金として支払われ見返りとなるか、あるいは将来の利益を生むために再投資され、将来の配当金となるか、株価の上昇という形でキャピタルゲインとなるかのいずれかで見返りに結びつきます。株式投資は、会社の利益と成長に出資するわけです。

債券は、経営の利益から見返りを受けるのではなく、約束された利子に見返りを求めます。約束通りいけば、債券の場合は、投じた元本と利子が戻ってきます。

不動産投資の場合は、レンタル物件ならばやはり月々のレント(実際は、レントから諸経費を差し引いた利益)という見返りを期待します。また不動産価格の上昇が見込めるなら売却益という見返りも期待できます。フリップ物件であれば、物件の購入額に加え、修復・改築費用を投じて物件の価値を上げ、売却益を増やすことを期待します。

ビットコインや外国為替取引はこれらとは少し性質が異なります。通貨はお金そのものであり、本来、お金は投資の対象ではありません。為替(ビットコインの場合は、手元の通貨とビットコインの換算レート)の変化によって、売買の差益を稼ぐだけです。経済は成長するというのが投資の大前提で、株式にせよ不動産にせよ時間がたつにつれて値段が上がるはずだというのが前提にある考え方ですが、為替にはそれはありません。その国の金融政策や政治経済の状況で通貨の価値は上がったり下がったりしますが、時間が経つにつれて恒常的に成長し上がっていくはずだという前提はありません。かえって、健全な経済にはインフレーションがつきものですから、貨幣価値は下がっていくというのがふつうです。

金(ゴールド)や穀物などのコモディティの場合も、時間が経つにつれて恒常的に値段は伸びるはずだ(インフレを超えての)という前提はありませんが、ただ金やコモディティは、供給量が少なくなったり需要が多くなったりすれば、値段があがる可能性はあります。金やコモディティは資源であり、資源は経済価値のあるものだからです。一方、ビットコインを含む通貨は資源でもなく、それ自体に経済価値のあるものではありません。あくまで取引のツールです。通貨の価値は、他の通貨との相対的な価値関係で決められ(1BTC=$10,000というように)、1BTC自体に絶対的な価値が存在するわけではありません。

つまるところビットコインを含む外貨への「投資」は、単に、将来的に「自分の通貨に対して、ビットコイン(あるいは、他の外貨)の相対的な価値が上がったらいいなあ」という「希望」のもとにそれを買っているにすぎません。

1802年の時点に、株、債券、金(ゴールド)、米ドルにそれぞれ$10,000を投じていたら、その後どのくらいの利益(見返り)がでたかを表にしたものがあります。これを見ると、見返りを期待する投資という意味においては、株式に勝るものはないことがわかります。金(ゴールド)はブームはありますが、長期的にみると安定した見返りは非常に小さく、ドル価値は長年のインフレーションのため$10,000の価値が下がっています。インフレーションとの闘いはビットコインにも同じく存在するもので、ビットコインを含む通貨の取引で利益を出すには、インフレーションと為替手数料との合計を超える差益を確保する必要があります。

(https://careerbrandingmastery.files.wordpress.comより)

 

短期的投機による儲け

 

通貨への「投資」(本来は投資ではありませんが敢えて投資と呼ぶならば)では、このように長期的な成長、長期的な見返りを期待することは現実的ではありません。それよりも、通貨の場合は短期的かつ投機的な儲けに望みを掛けます。長期的には恒常的に伸びていくことが期待できないでも、ビットコインの価格は刻々と変わり、うまい具合に非常に安く買い、非常に高く売ることができれば、大儲けできる可能性があります。タイミングがすべてです。

問題は、この買いと売りのタイミングをうまく見測ることはほぼ不可能に近いということです。株式でさえ、このタイミングを見る売り買いは難しいというリサーチがあります。株の場合なら、会社の経営状況を吟味したり、発表されるニュースを見たりしながら、その会社が将来的に価値が上がるかどうか、利益率がよくなるかどうか、成長するかどうかなど分析することも可能ですが、その分析をもってしても、正確に売り買いのタイミングを見ることは難しいことが多くのリサーチ結果にでています。まして、そのような「分析材料」が乏しいビットコインならなおさらタイミングの見計らいは難しいです。結局は、サイコロを振るのと同じ、「賭け」であることになります。

過去1年のように恒常的に値段が上がるのであれば、それほど心配することはありませんが、ただこのような価格上昇の原因が投機的な要因にあり、根本的な経済価値にない場合は、バブル崩壊の危機を常にはらんでいることになります。2008年に起こった不動産バブル崩壊のように、一気に価格が落ちるという危険性は常にあります。投機は、根底的な価値とはかい離した、買い手の根拠のない希望(つまりバブル)に支えられている場合も多く、そのような場合は根拠のない希望が崩れ落ちたとき暴落を見る可能性をはらんでいます。

本来は通貨の価値は、ある程度のアップ&ダウンはあっても、ある程度の期間をおしなべた場合、あまりに騰落の激しいものであってはならないはずです。米ドルと日本円との換算レートはある程度の範囲内で激しく変化することはあっても、1年前に$1=100円だったものが、1年後には$1=1,000円になることはほぼあり得ません。そんなことがあったら、日米間どころか他の国も巻き込んで経済の混乱があるはずです。混乱がないように、経済には自律的に価格調整をする機能が備えられていて、あまりにドル高になればドル安に向かうように調整がされるはずです。ビットコインの過去一年の価格変化のようなものがあれば、それはもはや通貨としての役割を期待することは難しくなります。通貨が通貨として信頼され使われるためには、その価値がある程度安定している必要があるからです。この点が、前回の記事の「ビットコインを買ったり売ったりするユーザーのほとんどが、ものを購入したり他の人に送金をしたりする目的ではなくて、投機的な立場からそうしている」という専門家の意見となって表れる理由ではないでしょうか。使う通貨としてではなく、投機の対象物となっているわけです。

 

ノーベル経済学賞受賞者のビットコイン観

 

ノーベル経済学賞受賞者であり、世界銀行の前チーフエコノミスト、現コロンビア大学教授のJoseph Stiglitzは、Bloomberg Televisionのインタビューに対してこう語っています(2017年11月29日)。

ビットコインの価格上昇は正当化されるものでもなく、維持可能なものでもない。

ビットコインが成功しているのは、(法規制の)迂回と監視制度の欠如によるだけだ。

上がって下がる間に大勢の人にたっぷり興奮を味わわせるバブルだ。

したがって、私はビットコインを非合法にするべきだと思う。社会的に有用な機能を何一つ果たしていない。

同氏は、ビットコインは非合法とすべきだという立場をとっていますが、それは新しい決済テクノロジー自体を否定するものではありません。決済テクノロジーにおいてのイノベーションは全面的にサポートするが、ただデジタルマネーは政府によってつくりだされ管理されるべきだとも語っています。

ノーベル経済学賞受賞者であり、現イェール大学教授のRobert Schiller氏は、リトアニアのビリニュスで開催された会議でこう語りました。

ビットコインは人をわくわくさせる。自分は敏捷で賢くて誰も理解できないことが分かっていると感じさせる。自分はビットコインだと感じる。反政府で反規制という感覚がある。真実でさえあれば、素晴らしいストーリーだ。

どこで止まるのかは分からない。1920年代の株式相場のようにどんどん高くなるのだろう。最終的に1929年の事態に至るだろう。しかしゼロになるわけではない。下落するだけだ。

 

ビットコインに「投資」するなら・・・

 

よって、ビットコインへの「投資」を考えるのであれば、それはある意味、宝くじを買うのと同じような「賭け」の要素が存在することをよく理解しておく必要があります。リタイヤメントなどの長期的な資金準備のためには向きません。長期的にお金を増やすには、株式投資をベースにしたポートフォリオでの投資が一番です。経済の成長による長期的な利回りが前提であることと、インデックスファンドなどを使えば、簡単にダイバーシフィケーション(多様化)が行え、ひとつの投資対象に「賭ける」という危険性も低く抑えられます。ビットコインへの「投資」はあくまで、少しお楽しみの要素のある「賭け」です。大儲けの可能性もありますが、大負けの可能性もあります。遊びの要素を残しつつ、もし暴落しても後悔しないくらいの額をワクワク感を楽しみながら持つ・・これがビットコインの醍醐味でしょう。

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