リタイヤメント後のポートフォリオ管理―総括編

実際にリタイヤメントに入って、貯めてきた資金を使っていくにあたって、知っておかねばならないこと、心構えしておかねばならないことをまとめてみます。今までのご紹介してきた記事ごご紹介していますので、必要に応じご覧ください。

STEP1 リタイヤメントに投資は必要か

この問題への回答はズバリ、いくらリタイヤメント資金があるかによります。$5ミリオン貯まっているならば、たとえ全額1%金利のマネーマーケット口座に入れても、(もちろん生活費にもよりますが)かなりの確率で資金枯渇なく寿命を全うできるでしょう。$数ミリオン貯まっているなら、おそらく大丈夫、では$1ミリオンなら??

いくらあれば大丈夫かということはもちろん簡単には言えませんが、多くの家庭の場合、株式投資を避けて、資金枯渇を避けつつ生活費を確保していくことは難しいと思われます。

多くのターゲットリタイヤメントファンドではどのようにアロケーションを考えているかを参考にしてみると、リタイヤ年時点では株式ファンド比率は50%~55%あたり、その後少しずつ株式比率は低くなり、20%まで下げるものもあれば、40%どまりというものもあります。

リタイヤメント資金の賢い引き出し方(2) - 老後の資金運用ポートフォリオ

 

貯めるフェーズで株式投資が避けられないように、リタイヤメントの引き出しフェーズでも、株式投資は程度の差こそあれ必要ということを認識しつつ、

  • 具体的にどのくらいのリスクならとってもいいか
  • サポートしたいリタイヤメント期間はどのくらいか(リタイヤから予想寿命まで)
  • 資金維持のためどのくらいの利回りを出さねばならないか

などを合わせつつ、アロケーションを決めていく必要があります。

また、定期的に、狙った利回りが出ているか、資金枯渇のリスクが高まっていないかなどをチェックし、リバランスやアロケーション調整をしていくことも必要です。

 

STEP2 リタイヤメント後の生活費にいくら使うか

株式投資が必要かどうかは、いわばリタイヤメント資金の「増やす力」をどう維持するかという問題ですが、リタイヤメント後の生活費がいくら必要かは、「引く力」をどう制御するかという問題です。もちろん、増やす力は大きく、「引く力」は小さくしたほうがよいわけですが、ただ、せっかくの(たった一度しかない)リタイヤメント。資金を減らすことをを恐れるあまり、楽しみは一切ゼロ、堅実と節約だけで暮らすというのでは悲しいですね。

「引く力」は最小化するのが良いのではなく、うまくコントロールするのがよいのです。この「引く力」はいつも一定に保つのでもなく、必要に応じて調整できるフレキシビリティがあると、資金枯渇を防ぐ大きな助けになります。たとえば、株式市場の下落があった年には引き出し額を下げる、とくに必要ないお金は再投資でポートフォリオに戻す(たとえばRMDなどを生活費以上に受け取った場合など)がこのコントロールにあたります。

このフレキシブルな調整のためには、リタイヤメント後の生活での純生活費と変動生活費を把握しておくことがキーになります。レント、モーゲージ、食費、ガス代、保険費などの、生きていくために避けることのできない固定費と、旅行、エンターテイメント、社交費など余裕があれば出費する費用である変動生活費に分類をします。リタヤメント生活に入る前に、無駄な出費を削るための生活の見直しをして、月々絶対確保が必要な部分と、余裕があったら楽しむ部分に分けておきます。

リタイヤメント資金の賢い引き出し方(3) - 毎月の生活費の確保のしかた

 

これにより、なるべくお金を引き出さず資産を「引く力」を小さくする必要のあるときには、純生活費だけの確保に専念し、「引く力」を多少上げても問題のないときには、引き出し額をあげて思いっきり楽しむというメリハリをつけることができるようになります。

生活の費用をきちんと整理し、たとえば食費であっても、最低限きちんとした食事をするために必要な固定費としての食費と、少しグルメに楽しんだり外食をするための変動費としての食費などというように、整理しておくとよいでしょう。市場が悪化してあまりお金をおろしたくない時には、固定費だけで生活し、市場が回復してお金を出しても大丈夫になったら贅沢をするというフレキシビリティの度合いが大きくつけられるようになります。

 

STEP3投資ポートフォリオからいくら引き出すか

生活費にいくら必要かが洗い出せたら、これをもとに投資ポートフォリオからいくら引き出すかを決めていきます。

まずは、純生活費のうち何パーセントが、ソーシャルセキュリティや企業年金などの固定収入でカバーできるかチェックします。月々固定でかかる純生活費のうち50%~60%くらいが固定収入でカバーされていると、やりくりが楽です。上のパーセンテージが少なければ(50%以上なければ)、質の良いアニュイティ(一括で支払って、年金化)などの購入を考慮してみます。

固定収入でカバーできない純生活費と、楽しみのために使う変動生活費を投資ポートフォリオから引き出すことになります。ここで、いくら必要かというニーズサイドの要素だけでなく、いくらなら引き出し続けても大丈夫かという資金維持サイドの要素を考え併せつつ、具体的な引き出し額を決めていくことになります。

また、同時にいくら引き出さねばならないか(RMD)も把握しておく必要があります。RMDは税遅延制度の乱用を防ぐためのもので、その年の寿命と投資残高によって決まる最低限の引き出し義務です。決められている額を引き出さなかった場合には手痛いペナルティがあります。引き出さねばならない額は引き出さねばならない口座からしっかりと引き出したうえで、必要に応じ他の口座からも引き出しを計画的にしていくことになります。

従来よく使われた考え方は4%ルールで、リタイヤメント時の投資残高の4%の額を割り出し、この絶対額を一生涯(インフレに応じて増額調整しながら)ずっと引き出し続けるというものでした。ただ、このあまりにもシンプルな考え方は実行が簡単でいいのですが、市場がよくても悪くてもただただ同じ額を出し続けるというもので、場合によっては資金の早期枯渇につながる可能性が高いものです。よって、現在では以下の3つのような代替案が提唱されています。

固定パーセンテージ:上の「従来の4%ルール」は絶対額を毎年引き出すことになりますが、その代わりに、投資残高の固定パーセンテージを常に引き出すという考え方です。4%固定の場合は、市場の状況が悪くてリタイヤメント資産の残高が下がった時もその4%を計算し、少ない額を引き出します。反対に市場が好調なら、大きくなった資産の4%で、絶対額にしてたくさんの額を引き出します。市場の騰落に沿って、自動的に引き出し額が調整され、枯渇確率を低くします。

RMD: 401(k)やTraditional IRAなどの税遅延口座に課されているRequired Minimum Distribution (RMD)の計算式を、すべてのリタイヤメント資産に当てはめて、引き出し額を計算するものです。RMDが課せられていない口座もひっるめて対象にしRMD額を計算し、その額を引き出します。RMDはその人の予想寿命の期間、まんべんなく押しなべて引き出しができるように設定されている計算式で、枯渇させない資産運用にも応用できます。

リヤイヤメント資金を引き出す - RMDで考える

ダイナミック調整型: これは、毎年ポートフォリオの固定パーセンテージ(例えば5%など)を引き出すのを基本とするが、ただマーケットの状況が悪い(資産価値が下がっている)ときには下限(たとえば2.5%減の額)を引き出し、反対にマーケットの状態が良い(資産価値が上がっている)ときには上限(たとえば5%増しの額)を引き出すというように調整するもので)、市場の騰落に沿って、引き出し額を調整しますので、枯渇を防ぐ働きをします。

リタイヤメント資金の賢い引き出し方(3) - 毎月の生活費の確保のしかた

リタイヤメント後は、労働収入がなくなりますから、それまでよりもより現金のプール金をきちんと隠しておくことが必要になります。具体的には、純生活費から固定収入を差し引いた額の6か月から12か月分ぐらい、できれば18か月分くらいは銀行口座かあるいはリタイヤメント口座のなかでマネーマーケットなどの現金同等品の形で持っておくことがキーです。このお金は、市場の状況が悪いので少し投資ポートフォリオからの引き出し(低値での売却)を中止したい場合にも、問題のない生活費確保を可能にします。そして市場がよくなったら、投資ポートフォリオからお金を引き出し、この現金プールをまた戻のレベルまで戻してやります。

 

STEP4どの口座から引き出すか

リタイヤメントに入る前に、401(k)や403、Traditional IRAなど複数のリタイヤメント口座はできる限り、ひとつの金融機関にまとめて、複数に分散された口座も合体させ、管理を単純化しておくとよいでしょう。401(k)や403、Traditional IRAなどの税遅延口座であれば、Rollover IRAに一本化することもできます。Rothや課税口座は、Rollover IRAでは一本化することはできませんが、金融機関はまとめておくとよいでしょう。

整理をしたうえで、年齢に応じとれるリスクと必要利回りを考え、最適のポートフォリオを組みなおします。

引き出し時には、まずはRMDの設定のあるある口座からRMD分を引き出すことを確実に行います。期限までに引き出し忘れるとペナルティがありますので、毎年計画的に引き出します。RMDを引き出した後でも、まだ引き出しニーズが残れば、課税口座から優先的に引き出します。税遅延や非課税などの税金面での優遇がある口座はできるだけ長く残しておいて、ベネフィットを享受し続けるのがよいでしょう。課税口座が底をついたら、非課税口座や税遅延口座から引き出すことになります。将来税率が同じか下がると予想されるなら、非課税口座を優先させます。反対に、将来税率が上がるなら、税遅延口座を優先させます。

リタイヤメント口座の数がたくさんある! - どの口座から引き出すか

 

STEP5どのファンドからいつ引き出すか

どの口座から引き出すかを決めたら、今度はその口座の中で持っているどのファンドから引き出すかを考えねばなりません。たとえばTraditional IRAから引き出す場合でも、Traditional IRAで持っている株式ファンドを売るのか、それとも債券ファンドを売るのかを決めていくことになります。

実際は、株式ファンドといっても複数のファンドを持っている場合も多いでしょうし、債券ファンドについても同様です。具体的にどのファンドを売って換金するのか、これはなかなか一筋縄ではいかない決断です。たとえば株式市場が低迷しているときに株式ファンドを売ってしまうと、急激に投資資産を下げることになり、リタイヤメント資産の枯渇に拍車をかけてしまいがちです月々の生活費を確保するという目的と、元本をなるべく減らさないで資金を長持ちさせるというふたつの目的を、バランスをとりつつ市場の状態もかんがみながら実行していかねばなりません。今のところ、このエリアの研究はまだ限られています。

今のところ、CAPE(Cyclically Adjusted Price-Earnings Ratio)を使用した引き出し戦略が高い効力を発するというリサーチがあります。CAPEは、現在(引き出し時)のS&P500インデックス価格を過去10年の利回り値で割ったものです。CAPEで、過去10年の利回りに比して、現在の株価が割高か割安かを見ることができます。割高ならば株式ファンドから引き出し、それ以外は債券ファンドから引き出すというやり方だと、ポートフォリオの枯渇の確率を下げ、運用残高を上げることができるという結果が発表されています。

引き出し時のマーケットタイミング ー どのファンドから換金するか

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