家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む(2)

「家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む」と題して、2回連続でお送りします。(1)は「買い時!買うべき!」バージョンでお送りしました。一方、今回の(2)は「う~ん、どうかな??」バージョンです。私には、「今が買いどき」とも「今は待ち」とも決めかねますので、どっちもバージョンをご用意しました。モノには二面性がありますから、どっちも読んであなたが決めてください・・・。それでは、「う~ん、どうかな??」バージョンのはじまりです。。。

 

まだ正常レベルまで戻っていない家の価格

さっそく下の表をご覧ください。この表は、(1)でご紹介したのと同じCase-ShillerのHome Price Indexデータに基づいて、New York Timesが発表したものです。(1)でご紹介したほうは1987年から2011年までのデータを扱っていましたが、下の表はもう少し長い期間、1890年から2015年あたりまでを対象に作られています。1890年の家の平均価格を100とし、その後どのような値動きがあったかをまとめています。インフレによる値上がりは除去し、純粋な値動きだけに焦点をあてています。

この表から分かること: 1) 家の値段はアップ・ダウンする。 2) アップ・ダウンしても、長期視野でみると1910年ぐらいまでは100という「平衡点」に戻り、それ以降は110あたりの「平衡点」に戻っている 3) アップしてダウンするときの山はほぼ左右対称である。

このことをもとに将来の価格予想をしたものが点線です。現在の家の価格は150あたりまで落ちてきました。ピーク時の価格の33%ほどの下落ですが、33%落ちたからといってそれが「妥当な線まで落ちた」のではなさそうなことがわかります。「妥当な線」は歴史的に見て110あたりであり、左右対称な山を描くと、2015~2016年あたりでこの「平衡点」に戻るというのが予想です。

第一次世界大戦から第二次世界大戦の間は、落ちた山が100まで上りきらずに落ちています。これと同じように、今回のバブル後の今、上がった山が110に落ちずにまた上がるということもあるかもしれませんが、それには戦争や大恐慌と同じレベルの「正の要素」がなければならないということです。

 

昨今の価格上昇は人工的である

売り家のインベントリーは減少してきており、National Association of Realtorsによると現在のインベントリは1年前に比べ20%ほど少ないとのこと。よい物件があったら購入したいと待ち続けてきたバイヤーの数に比してインベントリが小さいため、地域によっては1件につき複数オファーが入ることも珍しくない状況です。バイヤー間の競争が激しくなり、値段は少しずつ上がり気味というところもあります。

では、なぜインベントリは少ないのでしょう。2006年以降フォークロジャー物件が劇的に増えたのにもかかわらず、なぜ売り家が十分にないのでしょうか。この疑問に対して、現在の低インベントリ状態は人工的であるという考えがあります。これは供給されるはずのインベントリが、人為的に市場に出ないようにされているということを意味します。

多くの専門家が、金融機関のフォークロージャー処理の遅れを指摘しています。処理がただ追いつかないという理由から、ロボ・サイン問題で処理が止まってしまった、さらには意図的に遅らせているというものまで様々な理由が考えられますが、いずれにせよフォークロジャーを処理するのに必要な時間、つまり借り手がはじめて支払いを滞納してから、最終的に家がフォークローズされる(抵当として金融機関に所有権が移る)まで、平均で674日かかるそうです(LPS Applied Analytics調べ)。この数字はフロリダでは1,027日、ワシントンDCでは1,053日、ニューヨークでは906日だそうです。これが、「モーゲージもレントも払わないで3年豪邸に住んでいます」という人が存在する理由です。つまり、フォークロージャ処理は進むべきスピードで進んでいないというのが専門家の指摘するところです。

フォークローズまでやっとたどり着いて銀行に所有権が移ったものをREO(Real Estate Owned)物件といますが、REOになった物件は本来であれば銀行が資金回収のため売りに出すのがふつうです。しかしながら、現在REO物件の大部分は銀行の所有のまま、市場に出されることなく隠されていることが指摘されています。REO物件が市場に大量に押し寄せれば、当然物件の価格は下がり、結果として回収できるお金も少なくなることから、金融機関は出し渋っているという声もあります。フォークロージャ自体を遅らせたり、物件をすぐには売らないことで、金融機関は損失を計上することや自分たちの作り出した大きな問題に直面することを先延ばしにしているともいえます。

フォークロージャの段階には、1)借り手によるデフォルト(支払い滞納)(プレ・フォークロージャ)、2)フォークロージャ開始からオークションまで、3)REO(金融機関が所有者になる)、4)金融機関による物件処理 がありますが、4)の段階になって初めて物件が市場に出る(MLSリストに出てくる)のであって、1)から3)までは通常の不動産市場から隠されています。このような隠されたインベントリをシャドウ・インベントリと呼びます。

下の表はCoreLogic発表のシャドウ・インベントリの大きさを表すものです。赤が上でいう段階1)にあるもの、薄いブルーが段階2)にあるもの、濃いブルーが段階3)にあるものです。この表からわかるように、CoreLogicによればこのようなシャドウ・インベントリの数の合計は160万物件ほどということになります。この表をみるとバブルがはじけてからフォークロージャ対象の物件となったものがどんどん蓄積し、それを速やかに処理する作業が進んでいないことが明らかです。つまり、市場に出ている物件(MLSリストに出ているもの)以外に、こんなにも多くの物件が処理される(売られる)ために「待ち状態」になっているということです。

シャドウ・インベントリにどういうものを含めるかについてはいろいろな議論があり、また数の把握の仕方もひととおりでないうえ、金融機関側が進んで提供するような情報でないこともあって、シャドウ・インベントリの把握は簡単ではありません。結果的に、その物件数については調査する会社によってかなり差のある情報となっています。CoreLogic以外のデータでは、300万物件(Barclays Capital)、400万物件(LPS Applied Analytic)、430万物件(Capital Economics)、4から500万物件(S&P)という発表です。2012年4月現在の市場に出ている物件(通常のMLS物件)数は243万物件といいますから、シャドウ・インベントリが市場に出されれば、容易にインベントリが1.5倍から2倍、3倍に・・ということもありえることが想像がつきます。

 

金利は劇的には上がらないし、そのうえ・・・

たしかに超スーパー・ウルトラ低金利である現在ですが、金利は短期的な小さなアップ・ダウンはあるものの、近々劇的に上昇するということは考えにくいようです。Federal Reserveは、今年の1月末、今後3年間失業率が高水準で推移するだろうとの予測にもとづき、この間の中央銀行の利率はほぼゼロに近い水準に保たれるだろうと発表していますそもそも低金利宣言は2011年夏の発表の時点では2013年までの2年間だったのが、この発表では2015年までを対象にしているわけで、、「この低金利の今買わねば」という議論は正当化することが難しいでしょう。

また、金利が上がるのは、不動産バイヤーにとって負の要素ととらえられがちですが、いいこともあります。金利があがると不動産が買いにくくなり、耐久性のないバイヤー(そもそも支払いが苦しかったバイヤーやどうしても買う必要がなかったバイヤー)が競争から脱落し、結果的に需要が減ることによって不動産価格は下がります。金利が上がれば価格が落ちるのです。つまり、支払う利子は高くなるが、借りる額は少なくてすむということ。$100,000を4%で借りるのと、$80,000を5%で借りるのと、支払う利子はどちらも$400です。あなたが耐久性のあるバイヤーならば、金利の上昇はむしろ歓迎するべきことかもしれません。

 

エクイティは本当にたまるのか

家を買ったからといって自動的にエクイティは貯まるものはありません。家の市場価格-ローン残高=エクイティですから、エクイティが貯まるためには市場価格が上がるか、ローン残高が下がるかのどちらか(あるいはどちらも)が必要なわけです。下図は、$500,000の家をダウンペイメント$100,000で購入し、$400,000を4%の30年ローンで組んだ場合のシュミレーションです。5年後どのくらいエクイティが貯まったかを、5年後に市場価格が10%下落していた場合、5%下落していた場合、変化なしの場合、5%上昇していた場合、10%上昇していた場合の5つのシナリオで計算しています。

ローン残高はどの場合も$361,086です。モーゲージ返済によるエクイティ上昇効果は、$400,000-$361,086=$38,914ということになります。

人によっては、レントはすべてドブに捨てるようなものだが、家を購入した場合の月々の支払いはすべてエイクイティとして貯まるかのように勘違いしているケースもありますが、決してそうではありません。モーゲージ返済の最初のうちは、返済額のほとんどが利子で、元本返済に充てられるのはほんの一部です。

上のローンの月々のモーゲージ返済額は$1,910ですが、1年目は$600弱しか元本返済(Principal)に充てられません。残りは利子(Interest)です。返済を続けるにしたがって、だんだんと元本返済に充てられる額の割合が増えていきますが、それでも5年目でやっと$700ちょっとです。つまり、ローンの支払いすべてがエクイティとして貯まるわけではないのです。とくにローンの初期には、エクイティはなかなか貯まりません上のローンの場合、5年間で元本返済に充てられたのは$38,914であり、これを5で割ると1年あたり平均$7,783)しかエクイティは貯まらなかったことになります。このケースでの、ローン返済+プロパティ・タックス+保険の1年間の支払い合計はおよそ$30,000強と予想されますが、年間$30,000払ってエクイティとして貯まったのは$8,000以下です。

もし家の市場価格が5%なり10%なり上昇していれば、その分エクイティも上乗せされて増えますがもしも反対に家の市場価格が下がった場合は、エクイティが侵食されます5%下がったとすると、ローンを一生懸命返済して貯めたエクイティが侵食され、結果的に5年で$13,914しかエクイティが貯まりません。もし10%下がったら、ローン返済で貯めたエクイティは完全に抹消され、エイクティは$11,086下がってしまいました。つまり、ダウンペイメントで払った$100,000のうち、$11,086が消え去ったということです。

このようにエクイティは、市場価格のアップ・ダウンにかなり左右されます。またローン返済の初期にはなかなか貯まらないものでもあります。このシュミレーションは5年で売ることを前提にしていますが、反対に10年、20年と長く持ち続けられるのであれば、月々の支払いのなかの元本返済分の割合が加速度的に増えますし、また価格が下がっているときに売らねばならない可能性も低くできますから、エクイティが貯めやすい状況になります。

 

税控除のおトク度は、収入によって違います

モーゲージの利子とプロパティ・タックスは、税控除の対象となることは一般的に知られています(Itemized Deductionを選んだ場合)。この控除の額は、(利子+プロパティ・タックス)xタックス・ブラケットで計算されます。つまり、高い家を買ってローンをたくさん組み、利子が多くプロパティ・タックスが高いほど、控除額は多くなります。また同様に、収入が高い、つまりタックス・ブラケットが高いほど、控除額は多くなります。つまり、お金持ちに際限なく有利な税控除であり、それゆえ批難も集めています。

つまり、巷で税控除、税控除と騒がれますが、その効果は人それぞれということですたとえば、控除対象額が$15,000でブラケットが25%の場合の控除額は$3,750ですが、対象額が $30,000ブラケットが33%ならば控除額は$9,900となります。家の購入を考えているのであれば、ただ妄信的に税金で得だからと決め込むのではなく、自分のケースで税控除がどのくらいの規模になるのかをあらかじめしっかり把握したほうがいいでしょう。

 

家は本当によいインベストメントか

1987年から2012年の25年間の不動産価格の伸びは年率3.5%ほどです。平均的インフレ率は3~4%であることを考えると、この25年間では不動産価格はやっとインフレについていっているレベルです。Yale大学のRobert Shiller博士(冒頭で紹介したHome Price Indexの開発者)によると、1890年から1990年の100年間を分析した結果、家の値段はインフレーション率を上回る成長は見せなかったと結論付けました。アメリカン・ドリームとして多くの人が目指すホーム・オーナーシップは、長期的インベストメントという観点からは決してすぐれたものではないとしたのです。Shiller博士は、「家を所有しエクイティを貯めていくことは、すばらしい長期インベストメントである」とする考えは、”massive popular delusion(根強い大衆的妄想)“であると斬りこみました。

「家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む(1)」ご紹介した「モーゲージ・ローンで安く借り、その元手を投資してお金を増やす」方法や、「賃貸物件を購入し、レントで年々の利回りを稼ぐ」方法は、それが有利でありえる状況は存在するでしょう。しかし、年々の利回りと同様に、あるいはそれ以上に、物件を売る時点での不動産価値によって、最終的なインベストメントが成功であったか失敗であったかが決まることがほとんどです。年々の利回りがたとえ10%であったとしても、最終的に物件を売る時点で不動産価値の下落が激しく20%も損をしたとなれば、始めから終わりまで通算した場合の利回りは悲惨なものになりえます。

レンタル物件投資は、最近注目を集めています。rent yield(レント利回り=一年に入ってくるレント収入÷購入価格)が上昇中ということですが、この数字を見るには少し注意が必要です。現在は、フォークローズされて家を手放さなければならない人や、家の値段が底をつくまでレントして待っている人など、レンタル人口が増えています。それによりレントは上昇傾向にあります。つまりrent yieldを決める分子のほうが大きくなっているということで、当然rent yieldも引き上げられているわけですが、レンタル物件購入にあたっては、これが一過性のものではないことを見極めねばなりません。家の価格が十分下がって、レント人口が少しずつホーム・オーナシップに流れたとき、yieldが低下していくことは十分予想できます。今はいいけど、2,3年後、レンタル収入が激減してしまったということのないように、十分な吟味による物件投資が必要です。

不動産投資にはまとまった資金が必要です。家計での一番大きな資産が持ち家であるということも多いでしょう。投資という面からみると、あるひとつの投資媒体に多額の投資を集中させるわけで、これはアセット・アロケーション(投資資産をいろいろなタイプの資産に分散させること)の観点からすると決して褒められるものではありません。

しかも、冒頭でご紹介したHome Price Indexのグラフにあるように、不動産の値動きは株と同様激しいものです。このような危険度の高い投資媒体に大きな資金を集中投資するのは、持ち家として「住むため」ならば正当化できるかもしれませんが、「インベストメント」として正当化できるものかと考えると疑問が残るでしょう。

「平衡点」まで下がっていない家の値段

+まだまだ下がりそうな家の値段

+当面の低金利・上がったら上がったでOKの金利

+なかなか貯まらないエクイティ

+思ったほど大きくない税控除

+疑問の残るインベストメント・・・

=ときたら、ちょっと迷いだしますね・・

まだの方は、「家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む(1)も読んでね。。。

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4 comments

  1. フォークロージャの処理が遅れていることが、金融機関により人為的に行われている可能性があると聞いたら、”Inside Job” (インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実)というドキュメンタリー映画を思い出しました。この期に及んで、”これもまたそうなの。”って感じで1%のSuper Rich達が考えていることには呆れるしかありません。金融商品も不動産も、裏では(政財官学の癒着による)同じような人たちが仕掛け人として動いているのであれば、どれを選んでも同じなのかなあと投げやり的にも考えてしまいます。まだまだ下がりそうな家の値段と言われれば、まだ待った方がいいのかなーって引っ張れらますが、働いている間にローンを支払ってしまいたいので、年齢的にもこれ以上あまり待てないかなあって感じもするし。株と不動産の変動を見ると、株だと1日で大暴落することがあっても不動産はそういう暴落の仕方はしないように見えるので、基本的に安定型志向の私はどうもそちらに傾きがちになってしまいます。ここまで来ると、ホント、賭け(ギャンブル)をするのに近い心境ですね。

    1. 本当にそうですね。。株は一日で大暴落する代わり、一日で大リカバーすることがありますが、不動産は長い期間をかけて値下がる代わりに、長い期間をかけてリカバーします。かなり長期間売る必要のない不動産ならばいいけれど、売る必要が出そうなものだと気をつけざるを得ないですね。日本の不動産市場は1990初頭から15年間値下がり続けました。ひとつのタイプの投資媒体にたよるのではなく、自分のリスクに見合ったアセットアロケーションで最適なポートフォリオをつくるというのが、安定性を実現する一番いい方法かと思われます。

      1. ええっー!日本では不動産が15年間値下がり続けたんですかー?恥ずかしながら、日本のことに疎いので、そこまでひどかったとは知りませんでした。私自身、株の経験があまりないくせに、どうしてそんなにいやなんだろうとふと考えてみました。私の株の経験と言ったら、会社のEmployee Stock Purchase Planに参加しているくらいで、2000年のインタネットバブルがはじける寸前に、家の頭金の一部にするために初めて売りました。その時は運良く最高値に近かった時で、12年近くたった今でも、あの時の値段には戻っていないので、あの時売っておいてよかったと思う一方、また、いつあんな株の暴落が起こるか心配なので、ある程度のところで見切りをつけて、さっさと売ってしまって別の形で持っていたいというのが潜在意識であるみたいです。その別の形として考えていたのが不動産だったわけですが、ここのサイトのアセットアロケーションのコラムを参考に、もう一度、考えてみます。親身なアドバイスをありがとうございました。

        1. よかったですね、その株、いいときに売れて! 持ち株制度って、一社集中で株を持つので、案外危険だったりするんですよ。いいとき売れてよかったよかった。。。こちらこそ、いつもコメントありがとうございます。

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