ただより高いものはない:Schwab のロボアドバイザー

Charles Schwabは第二四半期の報告で、同社のロボアドバイザーSchwab Intelligent Portfolio(SIA)について、連邦政府からのペナルティチャージが課せられる可能性があり、そのために$200ミリオンを計上することを発表しました。

報告の中で、Schwabは「わが社は、コンプライアンスの問題に起するSECからの捜査に対応中である。、本捜査は、主に、デジタル・アドバイザリー・サービスに関する過去の開示情報にかかわるものである」としたうえで、「捜査の現状を受け、2021年第二四半期の決算においては、費用として計上することはできない(ペナルティとしての)支払い責任$200ミリオンを計上する」としています。

Schwabのロボアドバイザは2015年に導入されたばかりですが、順調に顧客を増やし、現在国内最大級$64ビリオンを管理しています。Schwabよりずっと先にロボサービスを始めたBettermentは$30ビリオン強、Wealthfrontは$25ビリオンですから、SIAの成長ぶりが推し量れます。

手数料ゼロ

その成長において一番のマーケティングポイントとなったのは、「手数料ゼロ」です。そもそもポートフォリオの中で投資・管理されるファンド自体がSchwabの低手数料ファンドであるうえに、そのマネージメント(ロボアドサービス)も無料となれば、超ローコストでの投資が可能となり顧客には大変な魅力です。低コストでは名の高いVanguardでさえ、ロボアドサービスには0.15%の手数料をとっていることを考えると、完全無料のサービスは驚異的ともいえます。

ところが実は、ただどころか、SIAは実は顧客にとって大変高くつくものだったのです。実は、SIPが出たときに、Smart &Responsibleもすぐに期待をもってチェックしました。低コストのSchwab ETFを使った無料ロボアドバイザーなら悪いわけはない・・と思っていました。ところが、とりあえずいくつかの質問に答えてテスト的に組んでみたポートフォリオを見ると、その現金%の大きさに唖然としたものです。

Cash Drag

たとえば、上のポートフォリオはSIPが低リスク志向のリタイヤメント投資者(リタイヤメントまで25年ある人)にアドバイスするポートフォリオですが、なんと、10.5%が現金に回っています。25年以上の投資期間があるのに、10%以上もを現金に割り振るのはちょっとありえない設定です。

投資を考える場合、何か急に現金が必要になったときのための現金は、純生活費の3から6か月程度を目安に、CheckingかSaving口座に確保しておいたうえで、残りを投資に回そうとするのが一般的考え方です。すでに現金がとりわけてあるのに、投資に回した10.5%がまたまた現金ベースになるのでは現金の持ちすぎです。投資に回っているのはたったの89.5%ということであり、現金分は死に金も同様、増えるどころかインフレを考えると実質的に目減りしていくものです。

投資ポートフォリオの中での現金(必要な現金ならいいですが、必要でない現金)は、ポートフォリオの利回りを喰い、結局全体として低い利回りに甘んじることになります。これを英語では、Cash Drag(現金による利回り引きずりおろし‥とでも訳しましょうか)と呼びます。うまい具合に、SchwabのコンペティターBettermentがこんなグラフを出していました。

現金なしで株式61%と債券39%に投資した場合(ブルー)と、10.5%を現金にまわしたため、株式と債券へ回す分がその分均等に減らされた場合(黒)の投資残高の推移をグラフにしています。投資期間が長ければ長いほど、Cash Dragによる残高の差が増幅します。

Schwabにはおいしい利益

10.5%の現金比率は中間程度の設定で、SIPは低くて6%、高いと22.5%もを現金に割り振ります。Cash Dragによる顧客への「コスト」は、Schwabにとってみれば「利益」になります。Schwabはその現金を運用して利子を得、それよりずっと低い利子を顧客には配分しますから、その差はSchwabの利益となるわけです。

ある試算では、もしもSIPが0.30%のロボアド料金を課したうえで、多すぎた現金割り振り分を投資に回していたらば、顧客は$531ミリオン相当を得ることができており、それは平均的に顧客の利回りを2%上げる計算だというからびっくりです。

この「手数料ゼロ」というマーケティング文句と、実際の利益の上げ方との乖離が問題になり、十分な情報開示がなされていなかったという嫌疑でSECの調査がはいっているわけです。また、Fiduciary Duty(顧客の利益を最優先にする義務)、契約不履行、州法違反などの理由で、SIP利用者からSchwabに対する集団訴訟も起こりました。

ロボアドと聞くと、「自分で悩まなくともうまい具合に投資をしてくれる」というイメージがあり、しかもそれがSchwabのような投資家に親切なイメージのある会社からだと期待してしかるべきと思いますが、「ただより高いものはない」。自分で最低限を確かめて選んでいく、使っていくという姿勢は、やはり大事なのだと思いました。

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