インデックス投資を理解する(5):リスクを怖がる必要なしの術!

前回の4回めまでで、投資の王道は、パッシブ運用に徹したインデックスファンド、その中でもなるべく手数料の低いものを選ぶということだということを見てきました。5回目の今回は、「低手数料のインデックスファンド投資を選ぶといいのはわかりました。でも市場の暴落などで一瞬のうちに資産をなくすのではないかと心配が残ります」という声についてお応えします。

大きく落ちることは必ずある:(

株銘柄は選ばず、市場に存在する株式すべてを持つことで、究極的のリスク分散を果たし、個別株リスクはすべて排除し、着実に市場平均利回りを狙う、低手数料のパッシブ運用インデックスファンドを選ぶのが、一番楽に利回りを確保していく方法だということでした。

では質問です。このやり方をすれば、リスクがうまくコントロールできているので、大きな下落を見ることはないと思いますか?

「はい」を期待していた方にはごめんなさいですが、答えは、「いいえ。大きな下落を見ることは必ずあります」です。

どんなにリスク分散しても残るリスク

インデックスファンドでは、個別株リスクはすべて分散投資によって排除しても、最後の一番ベースにある市場リスクは残ります。これは分散してなくすことはできません。株式は市場で機能しており、企業は大きな経済の中で機能していますから、マクロ的なリスクはどうしても残るのです。

それと同時に、株式市場はかなり感情的な市場です。メディアの報道などとも相まって、売りが殺到すれば暴落することもあります。不安を感じた人間の行動ほど恐ろしいものはなく、売りが売りを呼びどんどん下がることもあります。かと思うと、今度はいきなり上がりだすこともあります。昨今ではインフルエンサーがソーシャルメディアで一言発言すると、市場に大きな影響を及ぼす現象もひんぱんです。

こういうわけで、このような上がり下がりを完全に予測することは不可能です。どこまでがマクロ的で合理的な影響で、どこからどこまでが人間の感情によるものか区別さえつかないでしょう。

「ランダムウォーク理論」という言葉を聞いたことはおありでしょうか?株価はランダムに動き、次に上がるか下がるかなど予測不可能・・という理論ですが、株価はとにもかくにも合理的とはいいがたいCrazyな動きをするものです。

そのうち戻るから何もしないでいるのがいい

Crazy・・・少し不安になりますね。大丈夫、株価のクレージーなランダムウォークは、リスク分散したファンドを長期的(少なくとも10年以上)持つ人には、怖くないのです。というか、個々の株はもちろんのこと、株価指標での変化など気にする必要もありません。いったんインデックス運用をはじめたら、あとは何にもしない。株価関連のニュースも見ない、新聞も読まない、ただ投資を持ち続けるだけです。なぜなら市場には「平均回帰」という性質があるからです。

平均回帰というのは、短期的には市場では価格が予期できない騰落があるが、そのような騰落はゆくゆくはだんだんと平均値に戻っていき、長期的には大きなトレンドへと回帰していくということです。人間はいちばん直近にあったことがいちばん記憶にあるため、「今、価格が高い、低い」ということが将来的にもそのまま続くと判断し行動を起こしがちですが、騰落は長期的におしなべれば誤差のようなもので、平均的な価格トレンドへとゆくゆくは戻っていくということです。だた、じっと何もせず待っていれば、そのまま戻ってくれるのなら、なんと気楽なことでしょうか。

何もしないは意外とむずかしい・・

ところが、上記で書いた「じっと何もしないで待つ」というのは意外と人間には難しいことで、騰落のニュースを見たり、専門誌で売り時、買い時というような文字を見ると、つい反応したくなるものです。「下がる、下がる」と言われれば、「これ以上損失が膨らむ前に、なんとかせねば」という心理が働くもの。

また頭の回る人ならば、「これからどんどん値が下がるばかりなら今のうちに売っておいて、底値に近づいたら買い戻せば、一番おトクじゃないか」と思いますよね。この「安いときに買って高いときに売る」という行動は、マーケットタイミングと呼ばれれます。機を読んで売り買いするということです。ところが、このようにニュースやアドバイスに注意しつつ機をみて行動を起こすことは、実は非常に危険です。そのことをアメリカの実際の例で見てみましょう。

過去の金融危機のときの実例

サブプライム危機に事を発し2009年に株式市場が暴落したのはみなさんもご存知のところですね。株好きで知られるアメリカですが、2009年、2010年などは、「もう株式には信頼を置かない」というような意見もあちこちで見られ、雑誌などにも株式投資を前面に出した記事が少なくなり、「節約、節制」などをうたうものが多かったものです。

実際、「投資家は株式を売り、現金で持つべきか?」とか、「株式市場から足を洗うときがきたか?」などというようなタイトルの記事が大変多く出回りました。2011年始めに少し回復したかと思われた市場が再度落ち込み、「売ることができる株はすべて売り、現金で持つべき」と叫ぶ専門家も多く、実際、手持ちの株式はすべて処理して100%現金化したというような投資家の話も多々レポートされました。

事実、2011年春ごろから2013年の初頭まで、株式市場から出て行くお金が株式市場に流れ込むお金より多い(投資家が投資媒体を株から現金や債券などに移している)という状況が、続いていました。株式市場・脱出作戦は、2013年以降徐々に株式市場・再入作戦に変わってきました。機を見て出ていった人が、またまた機を見て戻ってきたのです。2013年初頭以降は、株式やファンドなどについての記事も多くなり、「投資を再開するのに時は熟したか?」とか、「株式市場に投資を戻す時が来たか?」というようなタイトルを見かけるようになりました。

3人の投資家

さてここで、2004年から2014年までの10年間のアメリカ株式市場の実際の上がり下がりデータを使ってみて、3人の投資家を想定します。

1)マーケットタイミングが完全にできた投資家(完全なる時読み師)

2)タイミングをつかみ損ねた投資家(風潮を追い従った人)

3)マーケッットタイミングをそもそも全くしなかった投資家(何もしない人)

に、投資資産はどういう結果になるかを見てみましょう。ここでは、株式市場全体を代表するものとしてS&P500インデックスを使いました。

水色の線が、2004年から2013年末までのS&P500の上がり下がりを示しています。グラフ下に3つ投資家の売り買いのタイミングがあります。3人とも2004年初頭に$10,000の資金をS&P500インデックスファンドに投資したのは同じです。

完全なる時読みは、後からわかること

三人の投資家のうち、一人目は先ほどのマーケットタイミングを完全にやってのける人、つまり「完全なる時読み師」です。2007年のバブル絶頂時点で、「今が頂点で、これから暴落する」と完全なる読みを実現し、ファンドをすべて売り払い、現金$13,680を手にしました。その後、暴落までの間は現金で資金を持ち続け、2009年3月には「今が底値で、これからあがり続ける」というこれまた完全なる読みを実現し、手持ちの$13,680をすべて同ファンドに投入しました。そのまま市場は回復を続け、2014年1月には$36,676まで投資残高が増えました。う~、うらやましいですね。10年で3.7倍です。

でも、実際はこううまくはいきませんね。あくまでこのタイミニグはすでに起こった歴史を後で振り返るからわかることです。ふつうバブルの絶好調なら、「これからも、ガンガン上がるぞ!」と期待して当然だし、暴落の真っ只中なら、「これからもまだまだ落ちるかも」と思って当然。

通常は、暴落が暴落だと確定してその概念が市場に浸透し、しばらくしてから「株式はすべて売って現金化すべきである」というような「専門家の意見」が出回るようになるわけで、2009年暴落の場合は、早くて2010年、多くは2011年あたりに「株から現金へのシフト」が叫ばれるようになりました。反対に、「そろそろ株に投資してもOK」とレポートされるようになったのは、随分と株価が戻してきた2013年頭ごろです。

世間の風潮に乗ると・・・

二人目の投資家は「風潮を追い従った人」とでもいいましょうか、今書いたようなちまたの風潮に乗った人です。日ごろからニュースや雑誌などに目を通し、そこにあるアドバイスに忠実に従った人です。この人も一人目と同じように機を見る点では同じですが、違いは完全さがないこと。一人目のようにカンペキな時読みはできず、世間の意見や状況をみてタイミングを決めています。この人も2004年はじめに$10,000を投資したのは同じですが、2010年初めに騒がれ始めた「株脱出=現金化」に従い、同年2月にファンドを売り現金化し$9,421の現金を手にしました。その後株式ファンドに投資する意欲がないままで現金で持ち続け、2013年初めに、「そろそろ株投資もOKか」というアドバイスを受け入れファンドを買い戻しました。2014年1月の残高は$11,364です。

何もしないが勝つ

最後の三人目の投資家は、一番怠惰です。マーケットのタイミングを読むなどということは一切放棄しています。一度買ったらただ持ち続ける、それ以外は何もしない人です。2004年に$10,000を投資し、そのまま10年経ちました。上がっても下がっても気にしないことにしました。暴落で不安に思ったときも、この先10年、20年かけて挽回すればいいと思うことにしました。その結果、2014年の1月の投資残高は$16,047でした。一人目の「完全なる時読み師」に比べれば残高は半分ですが、二人目の「風潮を追い従った人」に比べれば$5,000近く(投資元本の半額相当)も上回っています。この三人目が、賢い投資家のあるべき姿です。

平均回帰がみえる

そしてこの10年間の株価のトレンドを、もう少し長期のトレンドの中に置いてみましょう。上の10年間(オレンジの長方形)を、35年間くらいの長期の一部としてとらえてみます。

ほら、騰落の真ん中に平均線のトレンドがなんとなくあるのが見えるでしょう。短期的には騰落の激しい線も、長期的にとらえると大きな平均トレンドがあります。短期的には上がったり下がったりしますが、長期で見ればこの真ん中の平均線に戻っていく、これが平均回帰です。

一番リスキーなのはあなたの感情

投資の場合、一番リスキーなのは、株とかファンドとかのリスクではなく、自分の感情です。ニュースを見たり、値段を見たり、周りの人たちの反応を見て、感情的に動揺することほどリスキーなことはありません。動揺すると後で取り返しがつかないことをしてしまうのです。

値段が下がっても、持っているシェア数は減りません。シェア数が同じということは、市場の値段が上がった時に、その上昇に乗ってまた挽回できるということです。不安になって売ってしまえばシェア数が下がるので、下がった時と同じカーブで上昇カーブに乗ることができないのです。

売るまでは「含み損」であり、ホンモノの損ではありませんから怖がる必要はないのです。長期投資をきめたら、ただ何もしないこと、これが一番簡単なのに、ところが一番難しいことでもあります。

前にご紹介したベンジャミン・グラハムが「賢明なる投資家」の中でこう書いています。

しかしながら、投資とは人のゲームで人に勝つことではない。自分自身のゲームで自分自身をコントロールすることだ。

「タイミングを完璧に読むことはできない」と分かれば、少し気が楽になりませんか。読めないなら、読む必要がないのです。読めないのに、読めると信じてもがく方が危険です。ただ読まず、なにもしなければいいのです。上がっても持っていればいい、下がっても持っていればいいのです。

まとめると、パッシブ運用に徹したインデックスファンド、その中でもなるべく手数料の低いものを選び、いったん買ったなにもしないとのがいいということです。

次回は本当に何もしなくてもいいのか・・・について別の角度から見てみます。

Disclaimer: 過去を振り返る限り、市場全体に投資する長期投資においては、平均回帰により長期的な上向きのトレンドが’常に存在しました。ただ、将来も必ずこれが存在するかというと、そのような保証はありません。戦争など市場を揺るがすようなイベントが起こった場合は、市場全体が堕落していくという可能性ももちろんあります。ただそうなったら、それはよほどのことで、他にどんな投資をしていてもおそらくネガティブな影響を受けるのはまぬがれないのではないかと思います。

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2 comments

  1. いつも勉強になっております。
    本当に何もしないのが難しいですね。日々変わるメディアのニュース、友人や同僚などとの会話などで人間の感情はゆらぐと思います。そして恐怖感、GREEDYなどから行動に移ると思います。平均回帰を見据えて長期で見る事が必要だと言うことを改めて教えられました。人生はマラソン、スプリント(短距離ダッシュ)では無いと頭に入れて自分自身をコントロールしていきたいと思います。
    ありがとうございました。

    1. 本当に難しいですよね。ちょとまえにNBCの朝のニュース番組で、今は株は売ってCDで持つのが一番!などと自信をもって説明している専門家がいて、そういうのを聞くと、こんな記事を書いている私でさえ、「売ったほうがいいのか?」と一瞬考えてしまいます。惑わされるのはとても簡単だと思います。

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