リタイヤメント後の医療費はいくらかかるのか?(1)

リタイヤしてから医療費にはいくら見積もればいいのでしょう?健康保険料も病院にかかったときの請求も大変高いアメリカ・・老後のバジェットで、医療費を甘くみていると大変なことになりそうですね。Fidelity社のリサーチでは、65歳の夫婦が終身で必要となる医療費は$285,000 (2019)、シングルの方の場合は女性で$150,000、男性で$135,000だそうです。しかしながら、これはまとまった一括の額。しかもひとそれぞれでかなり個人差もあるでしょうから、自分のケースで月々のベースでいくらバジェットしておけばいいのか・・これが一番知りたいところであります。具体的な数字を特定することはなかなか難しいですが、今日は、この大切な費用をどう見積もればいいのか、自分のケースはどうなのかについてある程度の具体的な予想をしてみるということを目指します。

私たちは、401(k)やIRAなどを使ってリタイヤメント資金を貯めます。いったんリタイヤすると、ソーシャルセキュリティや企業年金、アニュイティなどの個人年金を使いつつ、足りない分は貯めたリタイヤメント資金から引き出して使うことになります。そこでキーとなるのが、月々の生活費のバジェットです。リタイヤしたら月々いくらかかるのかをなるべく正確に見積もることは、リタイヤメント資金をいくら貯めればよいかという決断にも、またリタイヤメント資金を枯渇させることなく計画的にどう使えばよいかという決断にも大変重要になります。食費やユーティリティなど、リタイヤ前のデータをもとにかなり正確に見積もることが可能な費用もあれば、リタイヤ前と後では条件が変わってくるので正確に見積もることが難しい費用もあります。医療費は後者のうちの一つです。

医療費は大きく分けて2つのカテゴリーに分かれます。一つは健康保険料。もう一つは、実際に医療サービスを受けるときに必要となる自己負担の費用です。まずは保険から・・

リタイヤ後はどんな保険に入るのか

どんな保険に入るのかはいくつかのパターンがあり、またそれぞれのパターンの中から実際に選ぶ保険プランに枝分かれしていくのでかなりのバリエーションがありますが、とりあえず、パターンのレベルでの分類を見てみたいと思います。

一番オーソドックス(基本的)なパターンのは、65歳でMedicare申請をし、Traditional Medicareと呼ばれる基本的なMedicareプログラム(Plan AとPlan B)に加入し、それにPrescription Drug(処方箋)プランを追加(Plan Dと呼ばれる)し、もっとも基本的なカバーを確保するというものです。このパターンを選ぶ人はリタイヤ後の65歳以上人口のの12%にあたります(Source: Mercer’s 2016 National Survey of Employer-Sponsored Health Plans)。

次の段階として、MedicareのPart AとPart Bという基本的な保険だけではカバーされない医療費の穴を埋めていくために、Medicare Supplement(Medigapとも呼ばれる)を追加購入しカバーされる部分を拡張する人々もいます。このパターンを選ぶ人はは全体の21%にあたります。Medicare Supplementは州によりますが10ほどの種類が提供されています。それぞれカバーする範囲も保険料も異なります。最も人気があるのがPlan Fで、Supplementを購入する人の57%が加入しています(ただし、Plan Fは2020年以降は利用ができなくなるので、今後は傾向は用観察)。

上のような基本的Medicare+Medicare Supplementという組み合わせの代わりに、Medicare Advantageというパッケージプランを選ぶ人もいて、こちらは32%です。リタイイヤメント以前に人々が加入している保険に多くの種類があり、内容も千差万別であるのと同様、Medicare Advantageも非常に多くの種類があります。基本的Medicareのカバーと同等レベルのものから、Dental やEye Careもカバ-するものまであります。

リタイヤする前は、Employer提供の健康保険に加入している方も多いでしょう。その場合、雇用主の寛大さにもよりますがある程度の助成金が出て、自己負担保険料は全体の保険料の一部でいいのがふつうです。大企業やパブリックセクター(連邦政府、州、群、市などの機関)を中心に、雇用者がリタイヤした後も、Retiree Health Insuranceとして健康保険プランを継続提供するところや、さらに手厚い場合は助成金を提供し続けるところもあります。従業員200人以上の企業の24%がRetiree Health Insuranceを提供しており、65歳前のアーリーリタイヤメント者向けプランがあるのが92%、65歳以降のMedicare利用者向けプランがあるのが72%でした。しかしながら企業年金プランが減少していくのと同様、退職者向け健康保険についても提供は徐々に減少傾向です。雇用主提供の保険は、多くの場合、雇用主がMedicare Advantageプランと提携して提供していたり、Medicare Supplement的に追加カバーを提供していたりするケースが多いようです。質的、内容的に他のプランと比べてどうかという比較検討は必要とはなりますが、助成金を受けつつ雇用主提供の健康保険を利用できるのは幸運なケースだと思います。35%がこのようなケースに該当します。

保険料は・・

健康保険料といっても千差万別なケースがあり、リタイヤ前とリタイヤ後の保険料を簡単に比較することはできませんが、下の図では、一応目安として65歳の女性のケースで5種類の保険料の自己負担費(年額)を比較しています(Source: Mercer’s 2016 National Survey of Employer-Sponsored Health Plans)。ちなみに男女の差はそれほど大きくないようです。

まずリタイヤする前の自己負担健康保険料について、雇用主助成の大きさにより3種類が表示されています。リタイヤしてからも同様な健康保険が提供されており、同様な雇用主助成が得られる場合は、リタイヤ前と同じような負担レベルを見積もればよいことになります。

このリサーチによると、社員一人当たり(社員のみ・家族なしのケース)の会社負担の保険料は、平均的なケースで年間$5,300でした。下の表では、Employee Coverage中助成(会社負担が中レベル)で、個人負担が$1,300ですから、平均的な図としては、ひとりあたりの雇用主負担+個人負担を合計した保険料トータルは$6,700程度、個人負担は20%、月額$108という感じになります。高助成(会社負担が大きい)で自己負担は9%弱で月額$50、 低助成(会社負担が小さい)で自己負担は34%で月額$192という感じです。

雇用主ベネフィットというと、401(k)などに焦点が当たりがちですが、今この機会に、ベネフィット情報を取り寄せ、Retiree Health Insuranceがあるのか、あるならどのくらいの助成金が得られて自己負担はいくらくらいなのかを確認されるとよいように思います。

助成金がない場合は、リタイヤ前とリタイヤ後で、現在の助成レベルを考慮しつつ、下のようにそれなりのコスト増を見込むことが肝要です。

65歳になってMedicareを申請する場合、基本的Medicare (Part A+Part B+Part D)を選ぶなら、平均$150/月でした(年収によってある程度差あり)。

基本的Medicareに加え、Medicare Supplementを買った場合について2パターン表示されています。最も人気がありカバーが充実のMedicare Supplement Plan Fを買った場合は平均$300/月、Plan Fに比べるとCopayを自己負担することで保険費削減を狙った Plan Nを買った場合は$242/月、でした。

アメリカでリタイヤする場合、65歳からMedicareが使えるようになる方がほとんどですが、65歳前にリタイヤする場合や、もし何らかの理由でMedicareが使えない場合は、オバマケア施行のときつくられたState運営のHealthcare Marketplaceなどで市販の健康保険を買うことになります。この場合は選択肢がたくさんありますが、ここでは最も人気のあるSilver Planの平均値が表示されており、$667/月でした。65歳前にリタイヤをお考えの場合は、前述のRetiree Health Insuranceがあればよいですが、そうでない場合は大きなコストを見込むことが必要になります。

またここにはMedicare Advantageのコストがありませんが、前述のとおり、カバーがかなり基本的・限定的なものから非常に充実したものまであります。Medicare Plan Bの基本料さえ払えば、Medicare Advantageの保険料はゼロで入れるものから、カバーがより充実したものは月々$300~$400かかるものまであります。

リタイヤ前の保険料は、雇用主提供の保険に夫婦で、あるいは家族で入れますが、リタイヤ後、Medicareにカバーされるようになってからは、健康保険は夫婦それぞれで入ります。Retiree Health Insuranceが雇用主から提供されており、Spouseに対してもカバーが広げられている場合は、夫婦での加入も可能ですが、Medicare SupplementあるいはMedicare Advantageを利用する場合には夫婦ひとりひとりの契約になります。よってコストは(男女差があまりないことを前提に)、ここに挙げた額の2倍が月々の保険料となります。

。。ということでかなり個人差の出る可能性がある、リタイヤ後の医療費。リタイヤメントが視野に入ってきた方は、ある程度自分のケースがどうなるか想像を馳せておくことが肝要に思います。次回は、保険を確保したうえで、医療サービスを受けたときの実際の自己負担額まで考えを広げてみます。

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7 comments

  1. 今回も役立つ情報ありがとうございます。
    夫婦で約28万ドルの医療費は結構な額で驚きました。リタイアの年によって異なると思いますが、基本として医療費の貯蓄はどこにプールする事をお薦めでしょうか?本来ならHSA口座が良いかもしれませんが、Deductibleが少なく持てない場合はリタイアメント口座になるのでしょうか?
    宜しくお願い致します。

    1. はい、そうだと思います。医療費はふつう月々の経費に含めた形でバジェットし、それは(HSAがなければ。またあっても十分でなければ)リタイヤメント資金からの引き出し額でカバーするイメージで用意するのが一般的かと思います。

      1. 回答ありがとうございました。リタイア後は医療費の負担が多くなりそうですので、やはりリタイアメント口座にプールしておく事が必要と理解出来ました。

  2. こんにちは。メディケアについてご教示頂きたく連絡しております。
    ワシントン州在住で夫は72歳の身体障害者、私が年内に65歳になりますがまだ仕事をしています。
    来年アメリカ国籍を維持したまま、在留資格を取得して日本帰国をする予定です。
    夫はアメリカに戻ることはなく、私はアメリカ帰国の可能性があります。
    夫のメデイケアは日本帰国でキャンセルできるもでしょうか。
    私は、66歳で帰国までぎりぎりまで仕事をし、年金の受給を開始するつもりですが、メディケアは申しこまないままでいた場合ドペナルティがかせられるのでしょうか。
    また、年金受給をしなければメディケアは申し込まなくても構わないのでしょうか。
    よろしくお願いいたします。

  3. こんにちは。メディケアについてご教示頂きたく連絡しております。
    ワシントン州在住で夫は72歳の身体障害者、私が年内に65歳になりますがまだ仕事をしています。
    来年アメリカ国籍を維持したまま、在留資格を取得して日本帰国をする予定です。
    夫はアメリカに戻ることはなく、私はアメリカ帰国の可能性があります。
    夫のメデイケアは日本帰国でキャンセルできるもでしょうか。
    私は、66歳で帰国までぎりぎりまで仕事をし、年金の受給を開始するつもりですが、メディケアは申しこまないままでいた場合ドペナルティがかせられるのでしょうか。
    また、年金受給をしなければメディケアは申し込まなくても構わないのでしょうか。
    よろしくお願いいたします。

    1. 私はメディケアの詳細はよく知らないので、完全に責任をもったお答えができませんが、下記のページに情報があります。
      Medicare coverage for those who live permanently outside the United States
      Medicare coverage for those who live abroad but plan to move back to the United States
      Working past 65
      これによるとご主人は米国に戻られないので、キャンセルしてもよいように読めます。
      Danさんは、上の記事の条件に合う限りお仕事をされている間はメディケアは申し込む必要はないですが、お仕事を止めたら申し込みが必要かと思います。そして、日本にいる間もPart Bの料金(Part Aは無料と推測)は支払い続ける必要があるように読み取れます。年金受給とメディケアは関係ないと思います。詳しくは、関係当局にお問い合わせください。

      1. 膨大なページの英語のサイトから、目的の内容をみつけるのに四苦八苦でした。
        簡潔な読み取り有難うございました。頂いたリンクページを熟読してみます。

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