老後の生活 – 長期介護に備える

健康保険、車の保険、家の保険、アンブレラ保険に生命保険、それから所得補償保険・・・私たちはいろいろな保険を買いますね。若いうちはあまり考えないけど、だんだんと考えたほうがいい保険に、長期介護保険(Long-term care insurance)があります。人間、元気に生きてぽっくり・・・というのが一番ラクなんていいますが、でもそうはうまくいかないことも十分想定されます。人の介護や介助が必要になったとき、そのコストをどう捻出するか・・・今日は長期介護に備える方法を探ってみます。

 

長期介護とは

長期介護とは、慢性の病気や体の機能障害のため、自分で生活ができなくなった人のために、長期的に提供される医療および非医療ケアサービスのことです。長期介護が必要になった場合、一部はMedicareでカバーされることもありますが、ほとんどはMedicareの適用範囲外です。Medicareでは、病院に三日以上入院した後で看護施設に移った場合や、医師が医療上必要だと診断した在宅看護である場合などのみカバーするというように、厳しい制限つきでの適用になります。

 

通常、Activities of Daily Living (ADL)で規定された6つの基本アクティビティ(入浴、着替え、食事、歩行、身の回りの衛生、排泄)のうち少なくとも2つができなくなる場合、あるいは認知上の問題が起った場合を、長期介護の必要対象とみなします。ある統計によると、65歳以上の人が死ぬまでの間、長期介護を必要とする確率は3人にふたりの割合であり、反対に5人にひとりは5年以上の介護を必要とするという結果です。

長期介護が必要になった場合、住む場所によってそのコストは大きく変わりますが、安くて$55,000、高いと$170,000だそうです。長期介護保険を提供しているGenworthによれば、平均的な介助施設(Assisted living facility)の個室をとった場合、一日$206、年間にして$75,190のコストがかかるとのこと。また在宅介護の平均的費用は$35,000ほどとのことです。

リタイヤメントだけをとっても十分な準備がない人が多いアメリカでは、この長期介護の問題は大きな課題です。たとえリタイヤメント資金がそこそこ貯めてあったとしても、長引く長期介護のために資金が予定よりずっと早く底を着いてしまうということもありえます。なんとも心細くなるような話ですが、私たちはいったいどのような準備ができるのでしょうか。

 

長期介護への対処法

一番多いと思われるケースは、家族・親戚のお世話になることです。同居、あるいは近くに住むことで、必要なケアをしてもらうというパターンです。

もうひとつは、払える分だけ払って、資産が十分少なくなった時点で、Medcaidの長期介護を申請する方法です。Medicaidの長期介護の資格を得るためは、収入面でも資産面でも一定以下であることが要求されます。人によっては、資産を子どもに分配し、所持資産を低くすることで資格を得ようとする人もいます。これは不可能ではありませんが簡単ではありません。

また反対に、長期介護に耐えうるだけ資金をためておくという方法もあります。生活費だけでなく長期介護も視野に入れたリタイヤメント資金づくりが必要になります。60歳で$数ミリオン、75歳で$1ミリオン以上の蓄えがあれば、長期介護にも備えられる可能性が高くなるといえましょう。手持ちのリタイヤメント資金以外に、持ち家がある場合は、持ち家のリバースモーゲージなどの仕組みを使って、エクイティを使うという手もあります。

最後に、長期介護保険を購入するというオプションがあります。これは、上のように自己資金が潤沢ではなく、長期介護の費用を自分でまかないきれないが、かといってMedicaidの長期介護を受けられるほど収入・資産が低くない人にとって、考慮されるべきオプションです。介護が必要になったとき、定額の補償を得ることができます。

 

長期介護保険とは

長期介護保険は、Medicareやその他の健康保険ではカバーされない長期介護をカバーする保険です。在宅介護(Custodial care)、介助施設(Assisted-living facilities)での介護、ナーシングホームでの介護などが対象になります。上記ADLのうち少なくともふたつの機能が喪失されたとき、あるいは認知症と認定されたときに補償が始まります。

長期介護保険の保険料は安くはありません。保険料を決める要素は、年齢、健康状態、一日あたりの補償額、補償の期間、インフレ保護の有無と有りの場合はその内容です。少し前までは、性別は考慮されませんでしたが、最近では性別ごとの保険料設定をする会社も現れました。条件が同じであれば、女性のほうが男性より保険料が高めです。

年齢は若いほうがもちろん保険料が低いことになりますが、長期介護保険は完全な掛け捨て保険で、積み立ての要素はありませんから、若年で始める人は多くはありません。50代を過ぎたところで考え始める人が多いでしょう。加入を伸ばしすぎ高齢になると、保険料が非常に高くなり、その割には受けられる補償は多くないという状態にもなりえます。また、いったん健康を害すると加入がかなり難しくなるということもあります。最近では保険会社も加入者の健康状態を厳しく吟味する傾向があり、高血圧だけで拒否される場合もあります。

一日の補償額は$150~$200が目安、補償の期間は2年から6年ほどまでです。インフレ保護については下記でも書きますが、非常に大切な要素であり、それゆえ十分な保護がある保険になるとコストが非常に高くなるという側面もあります。目安としていくつか長期介護保険の例を見てみましょう。

 

$150/日x3年までの補償、3%福利のインフレ保護あり

  • 標準的に健康な55歳: 年間保険料$2,007
  • 標準より優れて健康な55歳: 年間保険料$1,720
  • 標準的に健康な55歳の夫婦: 年間保険料$2,466
  • 標準的に健康な60歳の夫婦: 年間保険料$3,381

 

長期介護保険の問題点

さて、いざ長期介護が必要になったときにはきっと心強いはずの介護保険ですが、保険購入を勧めない、あるいは購入にあたっては注意を呼びかける専門家が多くいます。残念なことに、責任のない保険会社が高齢者を搾取するような結果になっているケースも報告されています。

長期介護保険は、契約をしてから補償を得るまでに、何十年もの期間が経過するケースが多いでしょう。時の経過により、長期介護をとりまく環境も多様に変化する可能性があり、まずは固定的な保険契約がどこまで有効かとい問題があります。

この問題は、なにも消費者である私たちにとってだけでなく、保険会社にとっても同じことです。過去の医療費や介護費の高騰は目を見張るものがあり、採算上すでに立ち行かなくなった保険会社も多く、長期介護保険からは手をひく会社も出てきました。MetLifeやPrudentialもそのうちです。長期介護保険で、健全な利益を確保していくことが非常に困難になってきているということのようです。このことを考え合わせると、今契約した長期介護保険が、20年後、30年後に本当に補償が必要になったときに、確かに補償を受けられるのかという問題、あるいはそもそも会社自体が経営上健全に存続しているかという問題があります。

このような状況下、長期介護保険がなんとか運営を続けるために、保険料を上げる、あるいは補償を少なくするということが起こっています。John Hancockは、2009年にかけて保険契約によって異なりますが13%~18%の値上げ、その後2011年に36%~41%の値上げ、2013年に一部は7.6%の値上げという具合です。契約によっては、一年で55%とか、67%とか、71%などいう値上げ率だったものもあります。一方Genworthは、2008年に12%、2012年に18%、2013年に35~95%の値上げという具合です。実際、長期介護保険の契約では、保険料、補償内容を保険会社が後で変更できることになっています。後で契約をキャンセルすることはできますが、それまで払い込んだ保険料は戻ってきません。

もうひとつの懸念はインフレへの対応です。インフレは将来の貨幣価値を下げますが、20年、30年という期間を考えると、今契約した補償額が実際に補償が必要になったときに、どれほど有効かという問題があります。一日の補償を$150で契約したとして、インフレが年3%だった場合、30年後の$150は現在の$62に相当するだけの価値しかありません。これに対応するため、各保険会社はインフレ保護(Inflation protection)という特約を提供していますが、これは安くありません。通常、2%~5%の範囲でインフレ保護率を選ぶとともに、福利か単利か(福利のほうが現実に沿う)を選びます。選ぶ保護によって、保険料は50%~100%アップすることになります。

また、補償が本当に必要になったとき、保険会社の迅速で真摯な対応が望めるかという問題もあるようです。心ない(運営に困窮している)保険会社などでは、脳梗塞で認知症の後遺症が残ったため(医師の診断もあるうえで)保険申請を行ったところ、申請過程で何段階ものたらいまわしに合い、長期間を費やした果てには、保険契約上の「認知症ではない」という理由で却下されたというケースもあります。

 

ではどうするべきか・・・

保険というものはいざというときの多大なコストを、自分で抱え込まなくていいように、そのリスクを保険会社に肩代わりしてもらうものです。本来であれば、多くの個人のリスクをまとめて肩代わりする保険会社は、個人ひとりがそのリスクのための資金準備を行うよりはずっと効率的に、それを実現できるはずです。それこそが保険会社の存在意義です。ところが、どうやら長期介護保険においては、そこのところがどうも心もとないのではないかという疑いが強くなっています。個人が支払う保険料は割高な上、補償が十分でない、保険料も補償内容も変更される可能性がある、何十年後に補償が必要なとき不確定要素がぬぐえないとなると、残念ながら、長期介護保険さえ購入すれば大丈夫とは安心していられない状態です。では、どうしたらいいのか、典型的な例を想定しつつ年齢別に考えてみます。

まだ40歳以下なら、契約から補償を受けるまでにより長期間が存在することになり、不確定要素がさらに大きくなりがちです。それならば、保険料にあてるお金をリタイヤメント資金として自分で運用するほうが理にかなうかもしれません。リタイヤメントまで時間がありますから、その分、高リスクもとれます。35歳時に年間保険料$840($70/月)の長期介護保険に加入するかわりに、そのお金を投資に積み立てたとしましょう。月々$70は70歳まで積み立て続け、70歳以降は85歳まで手付かずのまま運用。通産して、年間8%の利回りで運用し続けたとすると、$528,000まで伸びます。85歳で長期介護が必要になった場合、2年間なら$723/日、3年間なら$482/日相当をカバーできます。50年後のことなので、インフレを考慮するとこの額が十分かは難しい判断ですが、現在の長期介護保険で平均的な一日あたりの補償額$150は、年間3%のインフレで50年後の相当額を計算すると、$658になりますので、なかなかいい線といえましょう。

50代から60代前半の方であれば、長期介護保険を考慮するのいいかもしれません。比較的若く、健康状態も良好であれば、低い保険料で大きな補償が期待できます(ただし、その後変更の可能性はあり)。ある考察では、同じ保険内容でも、55歳で加入し85歳で長期介護要となった場合、払い込み保険料は合計で$75,000(年間$2,500)に対し、受ける補償額が$800,000である一方、75歳で加入し85歳で長期介護要となった場合、払い込み保険料の合計は$100,000(年間$10,000)であり、受ける補償額は$310,000という比較もあります。家族の病歴などから、長期介護が必要となる可能性が高いと思われるのであれば、50代から60代前半の加入が狙い目といえるでしょう。

一方、60代半ばを過ぎると、保険料はかなり割高になることが予想され、家族の病歴や自分の健康状態からして、おそらく長生きが予想されるならアニュイティを購入するというのも選択肢でしょう。アニュイティは月々の生活費の確保などにも活用することができますが、長期介護を念頭において、80歳とか85歳からもらいはじめるアニュイティ(Deferred Annuityという)を追加で買うという方法です。たとえば60歳で$100,000を入れて、85歳から一生涯もらい続けるとすると、2014年4月現在で、年間$73,000(一日あたり$200相当)受け取ることができます。85歳の代わりに80歳から一生涯受給にすると、$36,000(一日あたり$100相当)。ただしこの額はインフレが高いと、現在の$200なり$100なりの相当額ではなくなります。しかしながら、今後市場の利率が向上していくと、同じ元金のアニュイティ契約でも受給できる額が増額していくはずので、タイミングが合えば、活用に足る選択肢です。また、介護要と認定されなければ一銭ももらえない長期介護保険に比べれば、アニュイティは生きているということだけが条件になるのも、心強い味方かもしれません。

 

 

まとめると、長期介護保険は簡単に飛びつくべき保険ではないが、場合によっては考慮に足るというところでしょうか。次回は、長期介護保険を購入すると決めた場合に、どういうところに注意したらよいかをまとめてみます。

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4 comments

  1. ご無沙汰してます!
    >60歳で$数ミリオン、75歳で$1ミリオン以上の蓄えがあれば
    こういう方、実際にご存知ですか。私が個人的に知っている範囲では1人しかいません。この人は玉の輿でケタ違いのお金持ち。あとは60代で持ち家の価値を入れても$1ミリオンにははるかに及ばない人たち。ユダヤ人の友達(離婚、子供はグレて疎遠)は家を加えると1ミリオンありそうかな。

    でも頭を悩ませるだけアホらしい気がします。
    つれあいの家族を見ていると、高齢になると生活保護になるのが一番得。2000ドルだけ手元に残し、家も預金も息子(娘)名義にしてしまうのが一番いいと、エルダー・アトーニーが勧めるんですよ。5年間のルックバックもランダムらしく、バレたらその時払えばいいと説明され、実際もう4年目ですがバレずにぜーんぶタダでいろんなケアを受けてます。

    SSは月額が2000ドル以下なら生活保護対象。毎月の預金残高を2000以下に維持するよう、余分はせっせと息子の口座に移してます。この息子というのはつれあいではなく、つれあいの弟。「お前のとこはお金に不自由してないだろう」と外されました(^0^) つれあいは数万ドル程度で文句言いたくなかったので、あっさり承諾。こういう親の年金を頼りに生活している人たちは日本にもいますね。

    メディケアのプランBの記事で、2年間でしたか、一定期間内に加入しないとその後加入するときにペナルティがあるというのは知りませんでした。つれあいに話したら、帰国したくない理由がまた増えたと言ってました(^0^)

    1. こんにちは!サラリーも生活費用もバブリーな都市部には案外いるかもしれませんね、そういう人。生活保護もそう人が増えると、基準がさらに厳しくなるかもしれませんね。州の介護施設は設備などあまりよくないと聞いていますが、その方はハッピーですか?

  2. いつも、参考にさせていただいております。長期介護保険(LTCI)にかなり好意的な文章ですが、私自身はLTCIは眉唾物としてみております。

    現在、アメリカにある介護保険のほとんどは、上にあるように、期間の上限が5,6年程度に設定されています。仮に、一日の補償額が$200、補償期間を6年としても、戻ってくる金額は$365,000にしかなりません。

    一方、上記にある年間保険料$2007を30年間、年利5%で積立していった場合、$133,342になります。よって、標準的に健康な55歳の人が、85歳で要介護となったとしても、LTCIから得られる利益は$232K程度にしかなりません。夫婦二人でも、$0.5 million以下です。
    「60歳で$数ミリオン、75歳で$1ミリオン以上の蓄えがあれば、長期介護にも備えられる可能性が高くなるといえましょう。」とありますが、アメリカにいるほとんどの日本人がこの範疇外に入るので、こうした文章でLTCIに入ることで、ミリオン単位のお金を守り切ることができるような印象を受けてしまうのではないでしょうか?

    60歳で0.3ミリオンを介護費用として確保できているのであれば、それを年利5%で運用していけば、30年で1.3 ミリオンになります。年利2%でも$0.5 ミリオンになります。

    LTCIのリスクは、保険料が毎年のように更新される危険、保険会社がデフォルトになる危険だけではなく、このサイトの読者の多くに当てはまると思うのですが、日本に帰国した場合に補償が受けられない(または、減額される)可能性なども考える必要があると思います。

    掛け金が多少多くても、無期限の介護に対応するプランや、世界のどこに行っても100%カバーされるLTCIを作らない限り、真の意味での保険にはならないと思います。

    1. コメンとありがとうございます。。私自身、長期介護保険は眉唾物という意見に賛成で、しばらく前までは質の良いものもあったと記憶していますが、最近ではどんどん内容が悪くなり、保険料も上がり、長期介護保険の購入をお勧めしたケースは実は今までにありません。私自身も持っていませんし、今後も入るつもりもありません。なので、好意的に書いたつもりはなかったのですが、ただケースによっては持ったほうが理に適う場合もあるかと思い中立的に書いたつもりでした。ほとんどが期限上限が、5,6年とすると本当にそのような計算になりますね。今度詳しく調べて、新しく記事を書こうと思います。

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