リセッションは来るのか?来たらどうする?

トランプ大統領は、アメリカ経済は大好調でリセッションが来る気配はまったくないという見解にたっていますが、一方で Politicoによれば、“4人に3人の経済学者は、今から2年以内にリセッションが来る”という立場をとっています。どんどん醜くなる米中貿易戦争のアメリカ経済に対する影響についても、トランプ大統領は大変に楽観的な見解にたっていますが、アメリカの経済研究所は、同貿易戦争の経済へのネガティブな影響は免れ得ないとしています。

経済ニュースを見ている方なら、“Inverted Yield (逆イールド)”という言葉をお聞きになったかもしれません。ここのところよく耳にすることばです。イールドというのは債券などの利率のことです。債券やその他負債の利率は、長期的な借り入れの方が短期的な借り入れよりも利子が高いのがふつうです。これが“ふつうのイールド”です。たとえば、家を購入したことがある方なら、モーゲージを借り入れるときは、30年ローンの固定金利のほうが15年固定金利より高いのを経験したことがおありではないでしょうか。

経済指標としてイールドの話をするときは、US国債(Treasury Bond)の10年ものと2年ものがよく引き合いにだされます。順風な経済では10年国債の利率のほうが2年国債の利率より高いのがふつう(ふつうのイールド)ですが、これが逆になりました。これが“逆イールド”です。最後に逆イールドになったのは、10年前以上の2007年でした。その後2008年の金融恐慌以降、アメリカはリセッションフェーズに入りました。

なぜ逆イールドが注目を集めるかというと、この逆イールドが起こった後には、上の例のようにリセッションがやってくるという過去のパターンがあるからです。下の図は、1970年代以降の10年国債の利子と2年国債の利子の差(10年利子から2年利子を引いたもの)の数値をプロットしたものです。ふつうは10年国債のほうが利子が高いのでプラスにあるはずの数値が、逆イールドが起こるとそれがマイナスになります。マイナスになった時点を示すのが赤丸です。

また、グレーの部分はアメリカ経済がリセッションだった時期です。逆イールドが起こった赤丸の後にグレーのリセッションが続いているパターンが見てとれます。

ということで、このパターンが今回も繰り返されるとすれば、リセッションが来る可能性が高いということで、メディアがそれを一斉に伝えているわけです。

 

リセッションが来るならどうする?

では、リセッションが本当に来るとして、私たちはどうすればいいのでしょう?経済が良ければ良いなりに、悪ければ悪いなりに、経済ニュースというのはさまざまな“アドバイス”を伝えるものです。

振り返りになりますが、前回の2008年にはじまったリセッションでは、“Now is the time to cash out! (今が株式市場から逃避し、株を売って現金で持つとき!)”などというプロパガンダを頻繁に耳にした記憶がありますが、今回はそのような過激な文言はあまり聞こえなくなったように思います。

2008年以降、サブプライムローン問題で金融不安が起こり、金融機関のリスクを無視した無責任な貸し出しが明るみに出ると同時に、それまで不透明だった金融関係の悪慣習がさらけ出されました。投資ファンドに課される不透明な手数料が問題視されると同時に、売り買いを繰り返すアクティブファンドの価値が吟味されました。同時に、低手数料で高リスク分散したパッシブ型インデックスファンドの意義が見直されました。さらには、機を見て安い時に売り高い時に買うというやり方は、割に合わないことが多いという事実が市場に浸透していき、BUY & HOLDの長期投資の有用性への理解が進みました。その後今までの10年の間に、低コストBUY&HOLDのインデックス投資で定評のVanguard社は目覚ましい成長をみせ、その運用資産は2018年には$5.3トリリオンまでになりました。

“Now is the time to cash out.”のような株式市場脱出作戦が叫ばれることが少なくなった裏には、私たち個人投資家も含めて市場に、低コストBUY&HOLDのインデックス投資への理解が浸透した結果ではないかと感じています。

その代わり今回の逆イールド状態では、こんなアドバイスをよく目にします。

  1. 安心のキャッシュを増やす
  2. 債券なら国債に投資する
  3. 大型の配当を確保できる株に投資する
  4. 不調のUS、同様にリセッションっぽい先進国はやめてエマージング国の株に投資する
  5. コモディティに投資する

なにか最もらしく聞こえますから、さっそく対処しよう・・と思ってしまいそうですが、ちょっと待ってください。もしも、あなたが、長期的なゴールを見据えたうえで投資ポートフォリオを作って維持しておられるのなら、これらのアドバイスをむやみにフォローすることは、せっかくつくったポートフォリオ戦略をゆがめることにつながります。

最近では、リタイヤメントにはターゲットデイトファンド、529にはAge-basedの入学年をターゲットにした自動ファンドを使っておられる方も多いと思います。それらは、リタイヤする年、あるいは入学年までの期間を鑑みたうえで、適切なリスクをとった投資ポートフォリオにすでになっています。

もちろん、適切なリスクをとった投資ポートフォリオであるからといってリセッションの影響を受けないということでは全くありません。リセッションがくればそれらのバランス額は下がります。ただ、下がっても、使う時までには上がり、下がった分を上回る成長を遂げるはず・・という信念がベースにあります。この信念をもって、ターゲットデイトファンドやAge-basedファンドに投資しているのです。なので、リセッションのニュースをきいても、ただ“何もしない”というのが正解です。

実は、リスクを見据えてつくったこれらのポートフォリオやターゲットリタイヤメントファンドは、多くの場合、いくつかのインデックスファンドを組み合わせて投資していることがほとんどで、そうであるならば上で挙げている2。国債、3.大型配当株、4.エマージング株はすでに含んでいるのがふつうです。投資期間を見据えてちょうどよい割合ですでに含んでいるので、リセッションが来るからと言ってこれらを買って比率を上げるのは間違った考え方です。

最後の5にあげられているコモディティについてですが、これは株式や債券とは異なる投資媒体であり、他とは異なるパターンの値動きをすることが多く、リスク分散には有用です。ただ、利子を期待する債券や、会社の成長に期待する株式への“投資”とは異なり、コモディティの値段は需要と供給によって決まる要素が多く、ある意味“賭け”的な部分が多いです。そのため、持つ場合は投資ポートフォリオの数パーセント以下にとどめるのが基本です。リセッションがくるからといって投資比率を上げるのがいいとは思いません。

 

最後にキャッシュ・・・

残るは1のキャッシュですが、これは特筆すべき点があります。

まず、基本は現金化はしない=何もしないということです。まだリタイヤメントまでに10年以上の期間があるなら、回復&成長を十分に待てるからです。あるいはあと〇年でリタイヤしようと思っていたけど、市場の状態が悪いなら少し長く働いてもよいというフレキシビリティがある方も、待てることになります。今はむやみにポートフォリオをいじらず当初に組んだ長期投資を維持するのがよいでしょう。

例外は、お金を使う予定がすでに目前の方です。もしも、お子さんの大学入学年が数年以内であったり、あるいはリタイヤする予定が数年以内という方は、ポートフォリオからお金を引き出すタイミングを繰り上げ、今から現金プールを多めに蓄えておくのがよいように思います。ポイントは、“下がった時に手付かずのまま上がるまで待てるか”です。待てない分だけの金額は、リセッションが来る前に、必要によって何回かに分けて引き出し(タイミング分散)現金で持っておくというのが賢明です。

こうすることで、リセッションが本当にきてから安く投資を売らざるを得ないことを回避できます。ただ引き出すのは、あくまで”待てない“部分、どうしても使わねばならない金額だけにしましょう。待てる部分はそのままのポートフォリオで長期投資を続けましょう。たとえば、今65歳で、67歳でリタイヤするというようなケースなら、当面3年~4年分くらいの生活費には困らない額を現金化しておきますが、それを超えたお金は今までの投資で継続して増やします。67歳でリタイヤしても、寿命がくるまでには20年とか25年とかある可能性が高いわけで、残りの部分はリスクをとって長期投資ができるから(また、リスクをとって長期投資をしないと、早くリタイヤメント資金が枯渇してしまう可能性が高いから)です。

とうことで、リセッションへの対応は、基本は何もしない、数年に必要な部分だけ現金化となります。

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5 comments

  1. はじめまして。ブログで色々教えていただきましてありがとうございます。本当に初歩的な質問で申し訳ないのですが、アメリカの銀行(saving またはchecking )にお金を預けておくことは安全ですか?今回のリーマンの数十倍と言われる大恐慌が起きた場合、預金学がなくなってしまうということはありますか?いつかお答えいただければ幸いです。

  2. ブログとても参考にさせて頂きました!ありがとうございます。 既に資産運用している方は、リセッションへの対応は基本何もしないという回答でしたが、全く投資をしておらず、今から始めようとしている場合はどうでしょうか?ここ1-2年後に来るかもしれないリセッションまでは投資は避けた方がよいでしょうか? アメリカに数年前に移住して、収入も安定&貯金もだいぶできたので、これからアクティブに資産運用していこう!と思っていたところですが、どうしようかなと思っていたところです。

    1. 考え方はひとそれぞれですが、過去のデータに裏付けられたひとつの考え方がこちらの記事に紹介されています。https://smartandresponsible.com/blog/just_invest/

      1. ありがとうございます!先1-2年後を心配するより、ながーい目線で見た方が良いですね。参考にさせていただきます

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