せっかくリタイヤしたのに、お金が使えない!

何十年も一生懸命働いて節約に心がけ、買いたいものもガマンしながら、リタイヤメント資金を貯めました。そして、念願のリタイヤ!おめでとうございます!! さあ、ここからは十分与えられた時間を楽しみながら、今までできなかったことなどにトライしたり、とことん趣味を追及したりできる・・・はずなのに、どうも調子が出ない。お金がないわけではないのに、お金が使えない。誰かに文句を言われるわけでもないのに、お金を使うと罪悪感がある・・。案外、こういうケースが増えているようですよ。まあ、リタイヤメント資金がないわけではないから深刻な問題ではないのかもしれませんが、でも、せっかく貯めた自分のお金が使えない・・ちょっと悲しくもあります。

貯めるのが得意か、使うのが得意か

人間にはいろいろなタイプがあって、お金がなくてもどんどん使ってしまう人もいれば、お金があってもあんまり使いたくない人もいます。たとえば究極ケースなら大富豪Warren Buffet。毎朝オフィスに行く途中には、マクドナルドのブレックファーストを自分でピックしていくとか。住まいだって、1958に $31,500で購入した家に今でも住んでいます。車は、あまりにぼろくなってあまりに恥ずかしからと、娘さんが買い替えを「お願い」するまで買い替えないそうです。ホテルに泊まったら、ミニバーが高いからといって近くのコンビニに6パックを買いに出たという話も聞きます。Warren Buffetはケチというのではなくて、たぶん「モノを欲しいと思わない」、「無駄なお金はつかいたくない」タイプなのでしょうね。

このブログを読んでいただいている方の中には、案外こういうタイプの方も多いのかもしれません。私自身、使うよりは貯めておく方がなんとなく安心なタイプとでもいいましょうか、もともとそれほど物欲もないし、無駄に使うとなんとなく気分が悪いタイプです。我が家の主人は、お金にとらわれたくない(お金のことを考えたくない=使いたくもないが運用とかも面倒、お金なんてものがなければよい)タイプです。二人ともアメリカで貧乏学生時代を経験していて、50代になった今もまだその感覚が抜けきらない部分もあります。ぜいたくできないといいますか。ま、それでよいと思っています。

でも、こういうタイプは、無駄遣いをしないのである程度お金は貯まっていきます。401(k)なども自動運行で積みあがります。分不相応な買い物もしないので、モーゲージくらいで大きな負債もありません。お金は貯まっていく、つまり残高が増えていくのに慣れています。さてそういう人がリタイヤメントに入ったとします。リタイヤメントという人生の一点をもって、貯める人生から使う人生への転換が始まります。ここで、「使いたくても(使えるお金はあるのに)使えない」というストラグルがはじまります。そしてこのストラグルの根底にあるのは、恐怖や不安だったりします。

使うのもスキル

たしかにお金が使いたくないなら無理に使うことはありません。リタイヤしたから、いきなり放蕩生活に入るのもよくありません。ただ、大いにお金を使う意義があること、使ったらより生活が豊かになることがあるのに、ただ単にお金を使うのがuncomfortableだから使えないというのは、一種のdisabilityであり残念なことです。なぜuncomfortableといえば、もしもお金を使ったら、早期に資金枯渇してしまったらどうしよう、何か将来必要な時にお金なくなってしまったらどうしよう・・という恐怖であったり、単に残高が減っていくことへの不安であったりまます。

この恐怖や不安は決して的外れではなく、悪いものでもないかもしれません。実際、あまりに楽観的すぎれば、お金はなくなります。ただ、必要以上に恐怖に駆られて、今思い切ってお金を使ったほうがいいのに使えないのなら、それは不健全な恐怖です。難しいのは、だれにも「どこからどこまでが健全な恐怖、それ以上は不健全な恐怖」と線引きができないことです。将来、経済がどうなるか、利回りがどうなるか、どんな病気になるか、神様にしか分からないことですから。

そういうわけで、「いくらあったら100%大丈夫か」は誰にも答えられません。確率の問題です。ある程度の確率で大丈夫であることはきちんと確認しなくてはなりません。それはモンテカルロシミュレーションなどを用いて計算することができます(モンテカルロで測るリタイヤメント成功確率)。どの程度の確率であれば、安心するか・・は、これまた人それぞれ違いますが、ご自分のレベルに合わせてある程度将来を見渡した財務計画を作っておくことが肝要です。

これにより、「ここまでなら使ってよさそうだ」というバジェットが確認できますから、その分に関しては恐怖にとらわれず、不安にさいなまれず、自由にそして豊かにお金を使うのが良いと思います。この自由に豊かにお金を使うこと、これにもかなりスキルが要ります。とくに節約家にとっては、チャレンジかもしれません。でも、私はリタイヤメントに入ったら、このスキルのあるなしが生活を貧しくするか、豊かにするかの差となるとも思います。

経験に投資する!

物が欲しい人は物を買うのもよいですが、物が欲しくない人は「経験」に投資をするのがよいようです。旅行、冒険、新しいことへのチャレンジ、家族や友人との時間などなどにお金を使うのです。豊かな老後には豊かな人間関係が必要です(しあわせの研究)。私の主人の恩師の話ですが、リタイヤされてから、お孫さんをひとりずつ旅行に誘い、お孫さんのキャラクターにあった行先やアクティビティを選ぶそうです。みんなで行くのでなく、ご夫妻とお孫さんひとりの親密な旅行。そこで共にするアクティビティ、一緒に経験するいろいろなこと、そして何よりも食事をしながらの深い語り合い。なんと素敵なお金の使い方でしょうか。ご夫妻の老後を豊かにするだけではなく、その思い出はお孫さんひとりひとりの人生にも大きな支えと励ましになるように思います。「経験」への投資です。

旅行に行けるのも、家族や友人とアクティビティを共にできるのも、リタイヤメント期間のうちの初期から中期がメインです。老齢とともにだんだんと遠出や外出がおっくうになります。そのため、そのようなエンターテイメント系の出費は、加齢とともに徐々に減っていきます。実際、リタイヤ後の生活費は決して一定ではなく、年齢が上がると純生活費は減っていくというリサーチ結果があります(リタイヤ後、生活費は減っていく?)。できるときに、思い切ってお金を使うのも決して無駄遣いではないどころか、より豊かなお金の使い方である可能性は高いのです。

人のために使う!

また、困った人、お金を必要としている人のためにお金を使うというのも、リタイヤ後の豊かな生活の仕方だと思います。人を助けることがその人の幸せにポジティブに関与するというのは、よく知られたリサーチ結果です。自分の服や宝石にお金を払うより、人のために出したお金のほうがその人の幸せ度により大きく貢献するのだそうです。私たちは社会的な生き物としてつくられ、コミュニティの中に置かれていることを思います。だんだんとこの世での人生が終盤に近付くにつれ、助けるに値すると思う団体を金銭的に応援したり、自らボランティアをしたりすることは、素晴らしいお金と時間の使い方でしょう。何よりも人と助けることで自分が助けられるのだと思います。

使っていい「収入」を増やす

それでもやっぱりお金を使うことに不安を覚える場合には、アニュイティの購入が大いに考慮に足るでしょう。無駄遣いをしないで貯めてきた人にとって、月々の収入(入ってくるお金)で収支(出て行くお金)が賄えることは大切なポイントです。リタイヤメントに入ると、ソーシャルセキュリティ年金や企業年金(あればですが)、利子や配当金が「収入」となるわけですが、これを超えて出費があれば、投資元金を崩すことになります。これは何も悪いことではなく、ふつうは計画的に投資元金を崩しながら生活していくのが一般的です。ただ、どうしても「元金崩し」に抵抗がある場合には、思い切ってある時点でImmediate Annuity(契約と即時に生涯年金が始まるもの)を購入すれば、その後、月々入ってくる「収入」が確保でき、その分は罪悪感なしに自由に使えるようになります。

せっかく貯めてきたリタイヤメント資金。リタイヤメントに入ったら、数字上の計算やシミュレーションで「大丈夫そう」なことを確認するとともに、発想を切り替え、「いかに豊かに使うか」を学んでいくことになるのでしょうね。

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9 comments

  1. いつも貴重な情報をありがとうございます。3歳年上の夫(55歳)とFIRE生活に入ったところで、今回も非常にタイムリーな話題でした。Retirement Calculatorで必要所得やインフレ(3%)、運用利回り(5.5%-6%)など幾つかのシナリオで推計して、理論上は大丈夫なはずなのに安心しきれないのは私だけではなかったんですね!我が家の場合、過去の収入の一部が10年間はDeferred compensation distributionとして自動的に入ってきますが、不足分を課税口座から引き出すのには精神的な葛藤を伴います。浪費を抑えつつ節制しすぎないで充実したリタイアメントを送れるよう折り合いを付けたいと思っています。これからもよろしくお願いいたします。

    1. 実体験のシェア、ありがとうございます。今実家に戻っていますが、85歳の父がまだ”使えない”人で、何歳になったらせいせい使えるということでもないのだな、、と思いました。

  2. 私も、リタイアメントに向けてラストスパートと、集中して貯めているところです。貯めるのに一生懸命になるほど、いざリタイアして必要分はとにかく、人生を楽しむために引き出すことは、私には葛藤があるだろうと想像してます。使うのもスキルですね。こちらも勉強していかないと。また、貯めるのに一生懸命になりすぎて、”今”を犠牲にしすぎるものよくないと、自分に言い聞かせて使うところは使うようにしてます。面白い記事、ありがとうございました。

    1. 本当ですね、使うためのお金だから、今にしろ後にしろベストなタイミングで楽しく使いたいものですね!

  3. 本日も大変共感できる内容を配信頂き、ありがとうございます。私も50代に入ってから、この先のライフスタイルをきちんと見据え、ただ貯金をするだけではなく、生きたお金の遣い方をしたい、とずっと考えておりました。そんな中、最近「Die with Zero」という書籍を読み、その考え方に感銘を受けましたので、もしよろしければお手に取ってみられることをお薦め致します。今回の記事を書かれたAdmin様に、何かご参考になるメッセージが見つかるかもしれません。
    昨今は若い世代を中心に、やみくもに働く(=生きる)だけでなく、個人の大切なもの、個人が幸せを感じるものをしっかり見つめる、という風潮が広まってきたように感じ、この流れは今後、助長されていくのではないかと思います。自分の人生を費やして貯めた貴重なお金を、自分の経験に投資したり、人様のために使ったり、どのような形でも、自分が「幸せだ」と思う遣い方をし、お金を社会に還元することこそ、資本主義と個人の関係の本来のあり方ではないかと思うこの頃です。

    1. Die with Zero  ぜひ読んでみます!タイトルからして、内容が濃そうな本ですね。
      聖書に、
      『私は裸で母の胎から出て来た。
      また、裸で私はかしこに帰ろう。
      主は与え、主は取られる。
      主の御名はほむべきかな。』 (ヨブ記1章21節)
      というのがあるのですが、私の好きなことばです。
      それを思い出しました。

      1. 感慨深い聖書のお言葉をシェアして下さり、ありがとうございます。
        私の主人は、49歳で急逝しました。その際、いくらお金があっても、死ぬときは何も持たずに死ぬのだ、と強く実感したため、このお言葉は大変腑に落ちます。貯蓄はもちろんとても重要ですが、与えられた時間はいつ絶たれるか分かりません。そして、お金がいくらあっても、このお言葉のように、人は裸で天に召されます。お金を貯めることが人生の目的にならないよう、出来れば老後の前から「上手に使うスキル」を見につけたいと思っております。

        1. そうでしたか。49歳で。
          ご主人への思いがいつまでもAmyさんとともにありますようにとお祈りいたします。
          「自分のいのちを得る者はそれを失い、わたしのために自分のいのちを失う者は、それを得るのです。(マタイによる福音書10:39)」というキリストのなぞなぞのような言葉があるのですが、それを思い出しました。長生きしても心配がないようにとお金を貯めるのに執着しすぎると、生命は永らえても、ほんとうの「いのち」は見失うような危険性を私たち人間ははらんでいることを思います。

          1. あたたかいお言葉、ありがとうございます。
            そうですね、個々に等しく与えられた「いのち」の価値を忘れず、お金の使い方も含めて、悔いなく最期の時を迎えられるよう、これからもこちらで勉強させて頂きます!

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