モンテカルロで測るリタイヤメント成功確率

モンテカルロ・シミュレーションということばをお聞きになったことはありますか?モンテカルロ・シミュレーションはさまざまなエリアで利用されています。ファイナンシャルプラニングにも応用されており、投資結果やリタイヤメント成功確率などを予測するために用いられています。Smart&Responsibleのプラニングでも必要に応じこの手法を取り入れています。このモンテカルロ・シミュレーション、いったい何なのか、どんなふうに使われるのか、結果はどう読み取ればよいのかをまとめてみます。

よくコンピュータなどの歴史で名前が出てくるフォン・ノイマンという人がいますが、モンテカルロ・シミュレーションはこのノイマンとその研究仲間が発案した手法だそうです。乱数を利用して事象を確率的にシミュレーションする方法で、この方法は確率的ゲーム(=賭け)として数学的に定式化できることから、ギャンブルの街にちなんで「モンテカルロ法」と呼ばれるようになったそうです。といっても漠然としていてよくわかりませんね。ここでのキーワードは「乱数」です。「乱数」とは、完全にランダムで何の規則性も意図もない、完全に適当な数字です。

乱数を使って・・・

なんでそれが、投資運用のシミュレーションに広く使われるか・・・ですが、株式市場の値動きがランダムであるという考え方と結びつくからです。株式市場のランダム・ウォーク理論というのをお聞きになったことはありますか?株価をはじめとする金融商品の値動きには規則性が無く、過去の変動とは一切関係がなく、ランダムであるという理論です。この理論では、今後の値動きを予測するうえで過去の値動きは参考にならないと理解します。つまり、今年〇〇が大変伸びで調子がよいから、来年もこの調子でいくだろう・・・といような予測は全くつかず、今年と来年の成績は全く関係がなく、それぞれがまったくランダムであるという考え方です。実際、過去の株式市場の値動きを見ていると、本当にランダムに見えるので体験的にも納得のいく理論です。以下の記事が参考になるかと思います。

参考   インデックス投資を理解する(5):リスクを怖がる必要なしの術!

      インデックス投資を理解する(6):時間を味方につける

とはいっても、株には期待利回り(リターン)とリスクという考え方がありますね。よくハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンといいますから、このリターンとリスクは関連し合ってもいます。それがランダムとはいったいどういうことでしょうか?

たとえば下は、2021年2月時点にVanguardが出している、各株式セグメントのゆく先10年間の予想です。Return Projectionが期待利回り(年)、Median Volatilityをリスクと理解してください。

たとえば、US equities(アメリカ株式市場全体)は、期待利回り3.7%から5.7%の間(ここでは範囲で提示されていますが、以下では話を簡単にするために中間値4.7%を期待利回りとして扱います)、リスクは16.9%です。この意味するところは、利回りとして最も確率の高い値は4.7%であるが、ただしリスク(ブレ幅)は16.9%であるので、いいとき21.6%(上にブレた場合:4.7%+16.9%)にまでなることもあれば、ひどいと-12.2%(下にブレた場合:4.7%-16.9%)になる可能性があるということを示しています。そしてこの一定の範囲の間で、中央値を中心にしながらも、年々の利回りはランダムにあっちこっちに動き回ると考えるわけです。(統計学的には、利回りがブレ幅1倍(±16.9%x1)である-12.2%から21.6%の範囲のどこかになる確率は70%弱で、ブレ幅を2倍(±16.9%x2)にした範囲-29.1%から38.5%のどこかになる範囲は95%というふうになりますが、ここではその話はなしにしておきます。ポイントは、最も確率的に高い中央の期待値を中心に、悪くもブレるし、よくもブレる可能性があり、あっちこっちにランダムにブレるということです。)

将来の投資成績シナリオをいくつもつくる

モンテカルロ・シミュレーションでは、この期待値であるリターンとリスク(ブレ幅)の情報に基づいて、その範囲内でランダムにその年その年のリターンを選び(乱数発生)、ランダムに動く値動きを疑似的につくりだしていきます。ランダムに動く将来の市場をシナリオ化していくわけです。

67歳でリタイヤしてから95歳(デフォルト寿命を95歳としています)までのリタイヤメント生活を、資金枯渇なく暮らせるかのシミュレーションをするときには、月々の生活費はいくらか、インフレ率はどう推移するかなどの情報を入力した後で、どんなリスクをとって投資をするかを特定します。乱数発生は、ソフトウエアが持っている投資ごとのリスクと期待リターンの情報を使って行われます。Smart&Responsibleが使っているファイナンシャルソフトでは、リタイヤ年から寿命全う年までの毎年のリターンについて乱数を発生させてつくるシナリオを1,000通りつくり、1,000回のうち何回で資金枯渇なしに寿命を全うできたかの確率を求めます。

下は、成功確率が88%の場合です。1,000回中、880回は資金枯渇がなかったことを示しています。うすい一本一本のグレーの線はリタイヤメントのための運用資産(401(k)など)の残高推移を示しています。毎年のリターンは乱数発生で特定され上がったり下がったりする線が全部で1,000本あるわけです(グラフでは数えられませんが)。1,000のうち最高ケースでは95歳時になんと$1.6ミリオンも残るという結果ですが、反対に最悪に近い990回目(最悪から10番目のケース)では2053年に資金枯渇という結果になっています。市場が今後どう展開するかは誰にもわかりません。1,000回のどのケースもありうるわけです。ただ、880回は枯渇なしであるということは、確率的にはかなり安心してよいと理解できます。

確率はどのくらいあったらいいのか

88%の成功確率というと12%は不成功、つまり寿命より前に資金枯渇があったということを意味していますから、困ったことだ!と考えがちですが、実はそんなことはありません。資金枯渇のケースは、通常リタイヤメントの早いうちか、遅くとも中期までには株式市場の暴落や継続的な不調を経験するケースです。システムは、それにもかかわらず設定されたとおりの生活費を引き出し使い続けることを前提にして確率計算しています。ところが、実際の生活では、あまりの市場不調があった場合には、「これはちょっと方向修正せねばならない」と察知し、数年は引き出しを最小限にして暮らすとか、生活の縮小を計って生活費を永久的に下げるなどという調整も大いに可能です。80%台の成功確率であるならば、好ましくないシナリオに発展した場合も、このような調整をすれば資金枯渇なくやっていける可能性が高いと考えてよいと思います。

実際、以下のようなガイダンスが出ています。

成功確率70%以下だと、不確定性が高すぎ、市場ショックがあった場合には軌道修正などしたとしても対応が難しい可能性があるとしています。70%以下の場合は、もう少し貯める額を増やしたり、リスクを上げて運用成績向上を計ったり、最初から生活費の削減などの対策をとる必要があります。

反対に、成功確率が90%以上だと、ちょっと「貯めすぎ・行き過ぎ」の度合いが高いと判断されます。大変に保守的で、最後まで資金枯渇しないどころかある程度残して死にたい・・・というような方には、このレベルが適切かもしれませんが、ふつうの方には保守的すぎる感があります。それほど貯めすぎなくともよいかもしれない、つまり今この時に楽しむこと、必要なことのためにお金を使ってもよいかもしれないとしています。

この間の、成功確率70%から90%の範囲が「適切」と判断されます。確率的には資金枯渇の可能性も算出されているが、それは軌道修正によって対応可能な範囲であり、このままの状態でやっていってよしと判断される範囲です。資金枯渇はしないが、寿命全う時に残りすぎもしないレベルを狙う感じです。

年齢も考慮するべきかと思います。比較的若いうちは70%台でも十分かもしれませんが、だんだんとリタイヤメント年が上がるにつれてできれば85%程度を狙い、リタイヤメント中期を過ぎたら90%程度を狙っていくほうが安心ではないかと思います。

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3 comments

  1. 新規で課税口座で、Vanguard Total Stock Market ETF (VTI) とVanguard Total International Stock ETF (VXUS) を、来週から開始したいと思っていたので、この情報は役立ちます。インターナショナルの比率で迷っていいましたが、Vanguardのプロジェクションによると、上下のブレはかなりあるけれど、利回りはUSよりも多少上ということですね。VTIを60%で、VXUS40%でいこうと思っています。

    課税口座は100%株になり偏りすぎるので、債券はRoll-Over IRA 内で比率を上げようと思っています。質問ですが、Roll-Over IRAで、課税口座と同じVanguard Total Stock Market ETF (VTI) とVanguard Total International Stock ETF (VXUS)を個別で重複して持っていると、万が一、タックス・ロス・ハーベスティングをする時に、不利になることってあるのでしょうか? それを考えると、Roll-Over IRAでは債券の割合が高い年を選択した、ターゲットファンドを選んだ方が良いのでしょうか?

    1. それぞれの状況がかかわる判断かと思いますので、ここだけでいただいた情報でコメントするのを控えさせていただきます。一般的にVanguardのインデックスファンドで長期投資をお考えになるような場合はタックスロスハーベスティングのことは気にされない(無関係な)場合がほとんどかと思います。

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