ファイナンシャルゴールがわからないとき・・・

Goal-based planningという言葉をお聞きになったことはありますか?ファイナンシャルプラニングでゴール設定をして、それを実現するためにどうしたらよいかをプランする・・・という具合に進める手法のことで、広く受け入れられ使われています。ファイナンシャルプラナーを雇っても、あるいはロボアドバイザーなどを使っても、「ゴールは何か」を必ず聞かれることでしょう。Goal-based financial planningのソフトウエア開発にも力がそそがれ、巨大産業に発展しています。

ゴールなんてふつうわからない・・・

たしかにゴール設定は大切ですが、「何歳でリタイヤして、年間いくらくらいで生活したいですか?」、「お子さんの大学費用はいくらくらい貯めておきたいですか?」などと聞かれてすらすらと答えられる人は実は少ないでしょう。

リタイヤといっても、日本で暮らすのとアメリカで暮らすのではかかる生活費も全然違うでしょうし、67歳まで働くと思っていても病気をして60歳でリタイヤせざるを得なくなることもあるでしょう。リタイヤする年齢はある程度の範囲で自分の意思で決められるかもしれませんが、終わりがいつか(いつ自分が死ぬか)は誰にもわかりません。何年分の生活費を準備すべきかは誰にも正確に把握ができないのです。

お子さんの学費についても、いくらかかるか、どのくらい貯めたいかを正確にプランすることは不可能です。アメリカの大学でも、遠くの私立大と自宅から通える州立大ではかかる費用は雲泥の差ですし、遠くの私立大でもスカラシップがもらえれば格安でいけるかもしれない。もしかしたら日本の大学に進むかもしれないとなれば、税金的に有利な貯め方も違ってくるし、それとも子どもが大学自体に行かないかもしれない。まだ3歳の子の将来を正確に計ることなど、どんなスーパーペアレントでも無理です。

ゴール設定は実はかなりふわふわしているものであり、どちらかというと、価値設定とかプライオリティ設定と呼んだ方がふさわしいかもしれません。「できれば、65歳までにはリタイヤして、まだ体力があるうちに世界を見て回りたい」とか、「できるだけ子どもにはスチューデントローンは負わせたくないので、州立大学4年間をカバーするくらいの学費が出せる用意はしたい」とか、「働くのは大好きなので自分のリタイヤは遅らせてでも、子どもは一流の私立にローンなしで行かれるようサポートしたい」とか、「家のモーゲージをできるだけ早く払いきったらリタイヤして、それほどお金はかけずのんびりくらしたい」とか、そんな自分の価値観と、何がどう大切かの優先順位を整理する機会を持つことが一番意義があるように思います。

可能性ベースで考えるプラニング

ファイナンシャルプラニングの先駆的存在であるMichael Kitcesが、クライアントにとってゴールを正確に設定することが難しいのだから、Goal-based financial planningというよりはPossibilities-based planning(可能性ベースのプラニング)のほうが有意義であるという記事を書いていました。それを読んだ時、本当にそうだと思いました。実際、Smart&Responsibleでプラニングをお引き受けする場合は、この可能性ベースのプラニングに近い形でコンサルテーションをさせていただく場合が多いように思います。

「まだ何歳でリタイヤするかは考えていないが、67歳くらいまでは頑張れるのではないかと思う」という思いをベースに、「月額たとえば$7,000くらいで95歳まで生きるとして、401(k)や今ある投資で年齢相応のリスクをとって運用していったら、資金枯渇なしで全うできる確率が98%であった」というような確率が計算できた場合、「それはかなり高い確率で実現可能なので、今まで通りの積み立て・運用をしていこう」という決断になるかもしれないし、もしかしたら他の可能性を考える道へと広がるかもしれません。

たとえば、「代わりに60歳で同じ条件でリタイヤした場合」を計算すると成功確率61%と激減したので、では「64歳でリタイヤで、月額の生活費を$6,500に減らしたら」を計算すると94%となった…というようなこともあります。64歳でも生活費を整理しフレキシブルに保つことで、3年早いリタイヤも眼中に入ってくることになります。50代の今から生活費の無駄を見直し、いざというときは老後の生活費を無理なく減らせる準備をしておくという知恵にもなります。

いろいろ考えているうちに、「63歳までフルタイムで働き、その後はフリーランスに切り替えて収入は1/3程度になるが67歳かできれば70歳くらいまで少し働きながら、趣味のバードウォッチングを突き詰めたい」という可能性も考えられました。たとえ以前の1/3でも労働収入があるというのは、リタイヤメント資金温存には大きく役立ち、成功確率は96%でした。

ひとつのゴールの周りには必ずいくつかの変数があります。「何歳まで働くか」、「リタイヤメント後もパートで働く可能性はあるか」、「ソーシャルセキュリティはいつからもらうか」、「趣味にはどれくらいお金をかけたいか」、「今どのくらい401(k)に積み立てたいか」、「IRAも同時ってさらに貯めるか」などなど。これらはお互い関連しあっており、一つでよい思いをすれば、もう一つでは少し思いが通らない・・と言う具合にトレードオフの関係にあることが多いです。どの要素が自分にとっては最も大切か、複数の要素をどうプライオリティ付けをしたいかを考えながら、また同時に確率的なことを考え併せながら、今できる最高と思えることをしておくというのがプラニングの目的とするところです。実際、どのゴールが現実となるかは今の時点ではわからない、もしかして考えたどの選択肢のようにもならないかもしれない、それでも今の時点で考えうる道を考えておいて、やれることを妥当な範囲でしておくという考え方です。

本当のところは、おそらくプランしたようにはほぼ100%ならないでしょう(と、プラナーの私が言うのも無責任かもしれませんが・・)。人生自分でコントロールできる部分は実際それほどなく、株式市場がこれからどう動くか、インフレーションがどうなっていくか、病気になるかならないか、どれも神のみぞ知るところです。ですから、どんなに精度の高いプラニングソフトを使っても、実際はそのようになるということなどほぼ100%ないのです。でも、どうなっても、ある程度何とかなるよう今できることを自分のできる範囲でしておく、これがファイナンシャルプラニングかと思います。やるだけやっておけば、やるだけやったという安心があるのが一番の成果かもしれません。

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