リタイヤ後、生活費は減っていく?

一生懸命働いて積み立ててきたリタイヤメント資金。これを枯渇させずどう使ってリタイヤ後の生活をサポートしていくか・・これはファイナンシャルプラニングのなかでも最も重要課題といってもよいでしょう。リタイヤメントプラニングをする際には、退職後の生活がどんなふうになり、どのくらいの生活費がかかるのか、趣味や習い事、旅行などにどのくらいかけたいか・・などを洗い出し、それぞれの費用が一生涯の間、年々のインフレ率によって増えていくことを前提にシミュレーションをしていくのが普通です。

65歳でリタイヤしたとして95歳までの寿命を考えると30年という長い期間のことですから、この「リタイヤ後の費用」をどう正しく見積もるかと、それがどのように年々推移していくかについてなるべく正確な見通しを持つことは、資金維持と有効活用において大変重要な課題です。

そもそも、私たちが生活していくのにかかる費用のトータルは、人生のフェーズでどんなふうに推移するのでしょうか。下図は仕事を始めたばかりの若年期(20代から30代)から、ピークの壮年期(40代から50代)、リタイヤ直前のシニア期(50代から60代半ばくらいまで)、それ以降のリタイヤメント期間(60代半ば以降)、そして寿命を終える最後の時期までをたどって、それぞれその年齢での総生活費をグラフにしたものです。それによると、どうやら典型的な人の総生活費は下記のようなカーブをたどるらしいということがわかりました。

20代か30代で、家や車の購入、家族が増えたりを通過する仮定で、総生活費(上図では経費と表示)はだんだんと上昇していきます。モーゲージの支払いやリタイヤメント/学費の積み立ても始まります。お子さんがいる場合は高等教育にお金がかかる50歳から55歳あたりで総生活費がピークに達します。その後、子どもの自立とともに、多くの人がリタイヤに入る60代前半から60代後半には総生活費は下がっていきます。

その後、リタイヤを迎えてから70歳くらいまではリタイヤメントの初期段階。65歳からはメディケアに加入し、ソーシャルセキュリティの受給も次第に始まり、まだまだエネルギッシュに動きたい時期です。趣味や習い事、旅行などにも積極的に取り組み、人と人とのつながりでの出費もあります。パートタイムで勤労活動に参加しつづける人もおり、人生の新しいフェーズを謳歌したいときです。

もちろん人にもよるでしょうが、70歳半ばにもなるとだんだん大きな旅行などで出歩くのにも飽きてきて、同じ旅行にでるにも次第に近場の短い旅になったりで行動範囲が減ってきます。このころにはモーゲージはなくなっていたり、ダウンサイズでレントが安くなったりと家賃も減り、住居費が下がってきます。

80代にもなると、二台あった車が一台になったり、車を乗る範囲や機会も小さくなり、交通費なども下がります。外出が減るにつれ被服費などの費用もだんだん減少します。健康上の問題が出てくる確率が増えるようですが、質の良いメディケア・アドバンテージ/サプレメントの保険があれば、それほど急激に医療費が増えることもなく、他の費用の減少のせいで全体的な費用は継続してゆるやかに下がっていきます。

下の推移表では、総生活費の内訳を確認することができます。45歳の時点から始まっていますので、上の表の45歳時からのカーブと重なる形です。下図は、投資資産が$1ミリオンから$2ミリオンの比較的富裕層に的を絞っていますが、もっと幅広い層を対象にした平均を見ても内訳の変化はそれほどは変わらないようです。

Composition Of Spending Amongst Affluent Retiree Household, By Age

この表でも50から55歳あたりをピークにリタイヤメント後は次第に総生活費が下がっていく様子が見て取れます。どのくらいずつ減少していくのかについては、対象とするグループにより諸説があります。あるリサーチでは、年齢が一年上がるごとに1%目安で総生活費が下がっていくとしています(Center for Retirement Research)。また他のリサーチでは、リタイヤメント初期には総生活費は比較的緩やか(年に1%程度)に下がり、中期では費用減少の度合いが加速し(年に2%程度まで)、そのあとの後期に入るとまた緩やかに下がっていく(年に1%程度)としています(the Rand Health and Retirement Study)。いずれにせよ、リタヤメントの初めから終わりまでにおいて総生活費は下がり続けるということでは一致しています。

これらはあくまで全体的な傾向ですので、個人のケースにこれをすぐに適用できるわけではありませんが、ただ現在よく行われているように、すべての経費がインフレ率に応じて上がっていくと仮定するのは、リタイヤメント後の経費見積もりを多くし過ぎる可能性があります。JP Morganのリサーチによると、リタヤメントに入っている人のうち40%は食費にお金をかける人、30%は家関係にお金をかける人、5%は旅行にお金をかける人というように分けられるようで、人それぞれでお金がかかる、お金をかけたいエリアもまちまちです。その当たりの個人差は、夢を描く形で具体的にプラニングに盛り込んでいくのが良いでしょう。

できる限りで、生活費をカテゴリーごとに整理して、旅行やエンターテイメントなど一定時期に集中的に発生しそうな費用、車の買い替えのような何年かに一度しかかからずある時期で打ち止めになる費用、住居費は具体的な計画がわかっている範囲で数字を盛り込み、また食費や被服費などは次第に減っていく可能性もとらえつつプラニングをしていくのが良いかと思います。もちろん費用を小さく見積もりすぎては資金枯渇の可能性が増えることになりますから注意が必要ですが、必要以上に費用を大きく見積もりすぎることは、本来は叶うはずだった夢(たとえば旅行とか子どもや孫へのプレゼント、習い事や新しい人生の挑戦などなど)に思い切ってお金を使えないことになり、それも残念です。この匙加減をしながら悔いのないように使っていくことが必要などだと思います。

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2 comments

  1. 初めまして。最近になりこのサイトを知りました。
    有益な情報がわかりやすく丁寧に書かれていて、投資やリタイアメントに疎い自分にはとても助かっています。
    50代になり先を見据えなければと興味のあるところから見始めていますが、リタイアメントに係る401kへの課税や費用が果たして抑えらえるのか、かなり不安ではあります。日本へ帰国した場合の米国籍またはGC保持者の違いなど全然考えていなかったので正直色々と目から鱗です。
    ノートを取りつつあちこち照らし合わせながら情報で武装して、不安の少ないリタイアメントを目指したく思います。
    今後の記事も期待しております。どうぞ宜しくお願いします。

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