オンライン授業でも大学行く?

我が家にはシニアが二人います。ひとりは大学のシニア(息子)、もうひとりは高校のシニア(娘)です。この6月に予定されていたダブル卒業式には、日本の祖父母たちを呼んで参加してもらおうと思っていました。足腰が弱まり通常の観光は難しくなった祖父母たちと、近場のメキシコあたりまでお気楽なクルーズ船トリップ(乗っていればいいのでご老人には最適)でもしようなどと計画していましたが、今となっては卒業式はキャンセル、クルーズなんでとんでもない・・日米で行き来もままならない状態です。

息子もアパートから自宅に戻りオンライン授業。娘も高校のオンライン授業。主人は大学で工学を教えているので、そちらもオンライン授業。みーんな家にいてzoomに明け暮れる日々となりました。最後の学期はいろいろ楽しいイベントもあったのに、すべてなくなり唖然という感じでした。唯一、主人は405(カリフォルニアで最も交通渋滞のひどいハイウエイのひとつ)での通勤がなくなり、その部分は大変よろこんでいます。いずれにせよ、家があり健康が守られているだけでも感謝せねばと励まし合い、また以前のように家族4人で食卓を囲む時間が与えられたことも前向きにとらえ暮らしていました。カリフォルニアも段階的にロックダウン解除が進みつつあり、息子は先週アパートに戻り、許される範囲で最後のキャンパスライフ(キャンパスはいまだクローズですが)を過ごしています。

息子はこれで大学も終わりなので秋学期からのことを心配する必要はありませんが、娘は秋から南カリフォルニアの私立大学に通うことになっており、秋学期もオンライン授業だった場合、いったいどうするか・・・これが我が家の課題です。寮の二人部屋のパートナーも見つけ、大学であるろう新たな出会いにも夢を膨らませていました。人と何か一緒にするのが好き子なので、授業以外にもいろいろな活動をトライしてみると言っていました。でも、オンラインになったら・・どうするか。一応この大学は、秋からキャンパスをオープンすべく準備をしていると発表していますが、もちろんこれは州やカウンティなどの状況とガイダンスに準じてのこと。今後どうなるのかは予測がたちません。ちなみに、カリフォルニア州立大学(California State Universities)はすでに秋からのin-person授業はすべてキャンセルと発表しています。カリフォルニア大学(University of California)のほうは、全面キャンセルとはいっていませんが、全面オープンは難しいだろうとしています。娘の大学は中規模以下の大学でクラスサイズも小さいことから、CSUやUCのマンモス校に比べるとSocial Distancingが確保し安いということはあるかもしれませんが、乗り越えるべきハードルはやはり大きいでしょう。

2,800人の高校シニア学生に行われたCarnegie Dartlet survey の結果では、42%の学生がどんな状況であれ秋学期から大学をスタートする、2%がすでに秋学期からは大学を始めずスタートを遅らせと決めている、33%が秋学期がオンライン授業であれば入学を遅らせるあるいはキャンセルすると答えています。

すでに崩壊しつつあった大学モデル

コロナうんぬんよりはるか以前から、アメリカの大学教育についてかかる費用に比してのその価値を問題視する向きはありました。

アメリカの大学の授業料は、インフレーション率よりもずっと高いレベルで値上がりしており、1977年から2020の間の年間平均上昇率は6.52%です。一般的な給料の伸びよりもずっと高い率で値上がりしてきたわけで、そもそも現在の大学の授業料自体がすでに経済システム的に維持不可能な範囲に達してきています。維持不可能だけどどうするかというと、お金を借りるしかありません。“大学教育は将来への投資“という、負債を正当するロジックは強力で、学生も親もふんだんにローンを組んで大学費用を支払ってきました。今や、スチューデントローンは総額$1.6トリリオンまで膨らみ、USのクレジットカードローン総額をとっくの昔に飛び越し、今やモーゲージローンに次ぐ巨大な国民的負債となっています。2019年に大学を卒業した学生の69%がスチューデントローンを借り、一人平均$29,900のローンを抱えて卒業しました。また14%の親がFederal PLUS学資ローンを組み、平均額は$37,200でした。Federal以外のローン会社から借り入れたものも含めればもっと大きな額になります。一方で卒業後、ローン返済が滞る人も多く、2019年のデータでは90日以上の滞納をしている率は全体の10.8%だそうです

これらを背景に、“Is college worth it?(大学は行く価値があるか)” という質問は、コロナウイルス出現以前から確かに存在したわけです。

参考  

高校の後は大学・・ってデフォルト?

学費高騰もなんのその - フリーのHarvardクラスはいかが?

最近ではHarvardでもMITでもフリーでオンラインコースを提供していますし、UdemyやCourceraなどオンライン教育プラットフォームも充実してきています。単に質の高い教育を受けたいというのであれば、1クラスあたり数千ドルもかけて大学に行く必要もないでしょう。ただし、大学を卒業してBachelorの称号を得、Resumeにその旨記載するためにはクレジット(単位)をとることが必要なわけで、そのために首をかしげながらも高い授業料を払う・・というところで大学経営は成り立っているともいえます。

そんななか、コロナのロックダウン状態で全授業オンラインになったわけです。他のところで無料だったり、たとえ有料であってもずっと安価に提供されているオンラインコースと何が違うのか、本当に高い授業料を払い続ける価値があるのかという疑問は膨らんで当然です。

すでに100を超える大学において、冬・春学期がオンラインになったことに対し支払い済授業料の返金を要求する訴訟が起こっています。寮費や食費についてはリファンドする大学もあり、施設料やラボ料など払い戻すケースが多いようです。ただ、授業料についてはそう簡単ではありません。一部の大学ではリファンドをするケースもあるようですが、授業は授業、どんな形態で行おうとも同じであるという理由からリファンドを拒否する大学も多いようです。

大学の価値

大学の価値はいったいどこにあるのか?それは、行く大学によっても随分違うでしょうし、その人が大学に何を求めるかによっても違うと思います。

下はオンライン授業についてどう考えるかの、学生一般の声をオンラインサイトから拾ったものです:

  • 秋学期もオンラインなら、通常授業が戻るまで大学生活は見送る。一学期あたり$35,000の大学費用は、自分の部屋で学ぶオンラインでは見合わない。 
  • トラックチームに所属していたが、コーチングまでオンラインになった。ラニングフォームなどをビデオで送るとアドバイスが送られてくるが、やはりin-personでするのとはあまりに違う。秋もオンラインなら休学すると思う。
  • あらかじめ撮ってある録画ビデオをみてノートと合わせて勉強するように・・というようなオンライン授業もあって、あまりに通常の授業と違う。オンライン授業でなくなるまで休学したいが、そうするとPre-requiteなどが満たせず授業のとり方の順序が満たせず、卒業が必要以上に伸びるのではないかと心配している。
  • キャンパスでの仕事をしながら授業料を払っていたので、オンライン授業のみだと財政的にやっていけない。
  • オンライン授業でやっていってもよいが、ただフル授業料を払うよう要求されたら、やめておく。
  • オンライン授業だと、他の学生と一緒に学び合ったり、助け合ったりのインタラクションがないのが困る。

授業において、やはりその場に一緒にいるというのは大きな要素なのだと思います。オンライン授業は使いようによっては、働きながら授業を受けられたり、通学する必要がなかったり、自分のペースで受けられたりとたくさんの利点はあるものの、大学教育をそのままリプレースすることは難しいのかもしれません。

学生側にとってもそうですが、教える方側にとっても同様な課題があります。現在オンライン授業をやっている主人にいわせると、その場で教えながら、学生の顔を見つつ、“クラスの大部分はわかっているみたいだから、このまま進めよう”とか、あ、これはもう少し説明しないとクラスの2/3がわかっていないようだ“とか常にフィードバックをかけながら進めているのだそうです。そればzoomでは感じ取ることができず、インタラクティブとはいいながらも、実はかなり一方的にならざるを得ないと言っています。

ちなみに主人を見ていると、zoom授業だからといって、いつもの授業より準備が楽だということは全くなく、労力的には変わりがないように思うので、大学の側からすれば”オンラインなら授業料を安くして“というのは確かに受け入れがたい部分もあると思います(ただ、ユーティリティ費用やクリーニングなど施設維持費などはかからないはずですが)。主人はオフィスアワーなどもzoomで提供しており、形態がオンラインに変わっただけで、教える側がやっていることはほとんど変わらないとも言えます。

しかしながら教授側のかかる労力がどうであれ、学生側からすれば、受けられる効果には確かな差があるのは確かです。将来的には、オンラインで効率よく提供できるところと、in-person(あるいはオンラインであっても、綿密なインタラクションをとるなど)で綿密にフォローするところをうまくシステム化したハイブリッド形式を計画している大学もあるようですが、新たな形を提供していかないと今のままのオンライン授業では、今まで通りのフル授業料を要求するのはかなり難しいかと思います。

秋学期から大学をどうするかについては、通常授業とオンライン授業の差うんぬんという議論に留まりません。大学は勉強しに行くところですが、ただ勉強だけが大学生活ではないからです。

キャンパスにいるという価値、寮で生活するという意味、大学というコミュニティーの一部であるというソーシャルバリューとでもいうのでしょうか、そういう意義というものがありますね。スポーツやクラブ活動、イベントやボランティアへの参加、学食でのランチでさえ、そこにいなければ味わえない価値があるのでしょう。図書館、ラボ、セミナー、パフォーマンスなど学生として利用できる施設や機会というものもあります。クラスルームだけではなく、さまざまな人とのインタラクションやつながりから、新しい経験があり、新しいアイデアがあり、人生のレッスンもある・・大学はそういう場を提供しているのだと思います。大学での場があったからこそ、GoogleもYahooもFacebookも生まれたのでしょうし、そんな大それたことを考えなくとも、大学は人生の友人、もしかしたら伴侶を得る場となる可能性も秘めています。

オンライン授業だったとしても大学に行くか・・、難しい問題ですが、でも大学に行かなかったら何するか・・これも同様に難しい問題です。ふつうなら最近流行りのギャップイヤーをとって、どこか他の国に入ったり、ボランティアをしてみたり、普段できないことにチャレンジすることもできますが、コロナのせいでオンライン授業になっているということは、そう簡単に旅行もできないし、そういう活動自体が無理なことも多く、結局何もしないことにもなってしまう・・。こればかりは、悩んでも自分でどうにかできるわけではありませんから、その時その時で与えられた選択肢から一番自分にぴったりの解を選び取っていくしかありませんね。

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6 comments

  1. こんにちは。いつもまさにタイムリーな内容です。私は子育てが落ち着いたので、大学院にパートタイムで通っておりますが、クラスでもYouTube動画とかいろいろな動画を使っていています。動画の方が教授の説明より分かりやすいし、90分のクラス内容が15分以内に非常に分かりやすくまとめられており、しかも無料なので、結局は履歴書に大卒または大学院卒と書く為にお金を払っているんだなと思う様になりました。正直言って、別に大学に行かなくても動画でしっかり学べます。なのに授業料が高いのは納得いかないですね。異常です。外国人留学生も自費留学だとアメリカは厳しいのではないでしょうか。カナダやイギリス、オーストラリアに留学する方が賢明な時代になってきた感じです。ちなみに、うちの近所のコミカレですが3年前は1年間の授業料が3200ドルだったらしいですが、今は5000ドルに達したそうです。たった3年でこの上昇率って異常です。エリアにも寄るのでしょうが、アメリカ全体的に授業料高騰が止まらないですね。そして多額の学生ローンに苦しむ卒業生の数も社会問題化していて、恐ろしいです。

    1. 子育て落ち着いて大学院!すごいですね。そのうち大学ってきっとなくなりはしなくても、なんか変わっていきますよね。今のままでは成り立たなくなるんじゃないでしょうか。。

  2. 初めまして、私にはそれぞれ違う高校に通うフレッシュマンが二人おります。全米でも屈指の優秀学区と言われSAT満点がゴロゴロいるような地域で、伴って不動産価格も全く下がることなく常に高値です。興味深いと思ったのは、どの学校であれ公立校のオンライン授業の質は個々の教師のコンピューターリテラシーに依存しているという点。誰でもEmailでのやり取りやネット検索はできますが、CengageやCanvasなどのデジタルプラットフォームを使って回答を検察できないようなテストやクイズを作成し、アサインメントを提出させ、Zoomで授業できるのは教師のIT・デジタルリテラシー次第で、学区全体ではシステムの構築や対応が後手に回っていて、教師により配信頻度やコンテンツの質に大きなばらつきがありました。息子の英語教師は教職に就いて20年の年配ベテラン教師でしたが、教室内で生徒にDebateさせるのが好きだったため、Zoomもビデオレクチャーも一度もなし、課題図書を読ませエッセーを提出させるのみという粗末な内容。方や娘の方は、若く話が面白い男性英語教師、週に三度の早朝Zoom授業、毎日10分程度のビデオ配信とオフィスアワーも生徒と携帯で直でやり取りという生徒のライフスタイルとシンクロしていたのでオンラインへの移行も全く違和感なく、娘も授業にしっかりついて行きAをもらっていました。コンテンツにこれだけばらつきがあると、学校を選ぶ基準、そして物理的にその学区に住み続けることへの疑問、これまでのシステムが根本から崩れてしまうと感じます。Yaleやハーバードなどのオンライン授業は恐らく独自のプラットフォーム構築されていてオンラインでも授業を受ける価値がある内容なのかもしれませんが、米国の公立校やコミカレはほぼYouTubeやUdemyなどで安価に学べるものと変わらないコンテンツで、試験内容もQuizletで答えが検索できるので無意味です。またチームスポーツが本格的に再開されないので、スポーツ入学も厳しくなってくる、子供達も何に比重をおいて大学入学に向け計画していけばよいのかわからず、難題が山積しています。早くワクチンや薬が開発されてCOVID-19と共存できる日が来ると良いです。

    1. 本当にそうですね。社会自体が今のような状況に対応するためにつくられていないので、一時的ならまだしも、長期的にこのままいくのはかなり厳しいですね。UCを始めSAT/ACTを不要としたり、今まで当たり前だったことが大きく変わっていますね。周りが変化していくなか、人間として何を大切にするかを考えさせられるこの頃です。

  3. アメリカの法律により、アメリカ国内にいる他国からの留学生は、オンラインでの単位は学期あたり3単位までしか認められないとウェブの記事で読みました。多くのクラスがオンラインとなっている現在では、アメリカ国内にいる他国からの留学生は思うように単位を取得できない状況なのでしょうか?

    1. どうなんでしょうね。取得単位の制限もあるのですか?100%オンラインになった場合、ビザが下りない件についてアイビーリーグの大学が政府をsueしたりしたと思いますが。少なくとも新しく留学してくる学生にはビザが下りないと読みました。真面目にアメリカで学ぶことを夢見てきた学生さんには本当に大変なことです。

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