401(k)はペンションを超えられない?

「401(k)プランはペンションプランを超えられない」というタイトルの記事を見かけました。今は、ペンションを提供している組織は非常に数少なくなっています。Defined Benefit Plan(確定給付型)のペンションでは、将来、確定給付額を支払うための投資責任は組織にありますが、Defined Contribution Plan(確定拠出型)の401(k)は、組織の責任は決まった掛け金を拠出するのに限られ、投資責任は個人に負わされます。組織は自分の責任軽減とコスト削減のため、また労働者は自分で投資を選択することができる「自由」を求めて、加速度的に401(k)への移行が進みました。でも、過去の投資パフォーマンスを見ると、ペンションのほうが401(k)全体よりも成績がよいというレポート。。ちょっと気になりますね。

成績くらべ

2011年の成績を比べてみると、総合的に見てペンションの投資利回りが401(k)のそれより3%近く上回ったという結果だったそうです。ペンションの利回りは2.74%、401(k)(とそれ以外の403(b)などの同様なDefined Contribution Planを含む)の利回りは-0.22%、つまり赤字だったというのです。ひとつには株式市場が乱れた2011年には、株比率の高めの401(k)がより大きな打撃を受け、反対に長期ボンド(債権)を抱えるペンションはボンドの値上がりを享受できたという要因があるようですが。

ただこの傾向は2011年に限ったことではなく、1995年から2011年までの17年間、2009年だけを例外に、恒常的にペンションのほうが成績がよかった(総合的に見て一年あたり0.76%)という結果。例外の2009年は、株式市場が非常に元気だった年です。株比率が高い401(k)にはよい一年で、401(k)の成績のほうがよかったわけです。

ペンションはお金さえ積み立てていれば、将来的に定まった額を、月々、一生涯の間受けとることができるわけで、それは大きな魅力です。401(k)では同様な成績が出しにくいというのなら、なおさら魅力的です。しかしながら、自分の組織でペンションが提供されていなければ入ることはできないわけですから、あがいても仕方がありませんね。401(k)しか利用することができない場合、この事実をどう受け止めればいいのでしょうか。401(k)を利用していく上で、何か適用できるような知恵はあるのでしょうか。

401(k)しかないのなら、どうする?

ダイバーシフィケーション(投資の多様性)を重んじる

ペンションの成績がいい理由のひとつは、そのダイバーシフィケーションです。だいたいにおいてペンション・ファンドというのはかなり規模の大きい投資プールですから、小さな投資では買うことができないような特殊な投資にまで手が伸ばせます。リスキーで投機的な投資をたくさん持つことは非常に危険ですが、そのような投資を大きな多様なプールの中でちょっとだけスパイス的に持つと、全体の利回りを押し上げるということはよく知られています。これがダイバーシフィケーションの醍醐味です。

つまり401(k)でも多様化を目指すことが大切ということです。投機的に走りすぎるのはいけませんが、安全思考に偏りすぎて安定ファンドばかりに集中しすぎるのもだめ。自分の401(k)で選ぶことができるファンド選択肢を把握して、ちょうどよいミックスを確保することが大切です。たとえば、大きな会社から比較的小さな会社に転職したような場合はどうでしょう。大きな会社の401(k)の投資選択肢と小さな会社の選択肢を比較してみると、選択肢の多様性に大きな違いがあることもあるでしょう。また、ターゲット・デイト・ファンドやライフサイクル・ファンドのように、すでに多様な投資を組合せてできているファンドがあるなら、その利用価値も大きいかもしれません。組織で選択できる投資の種類とその幅に違いがあるなら、敢えて前の会社の401(k)をそのままキープするというのも理にかなった選択かもしれません。与えられた選択肢の中で、「いい」ファンド狙いをするのではく、なるべく多様な投資を持つことがポイントです。

長期戦で構える

ペンションの成績が安定的によいもうひとつ理由は、ペンションは老若男女の多くの人のリタイヤメントのために投資しているので、どの一時点をとっても常に長期投資の姿勢をとることができるということもあります。長期で構えればとれるリスクも増えますので、結果的に利回りも高くなるということです。

リタイヤメントのための投資でよくある過ちは、投資の期間を短く見積もりすぎることです。投資期間が短くなればなるほど、リスク高の株の比率を下げ、ボンド(債権)の比率を上げるのはアロケーションの基本ですが、たとえば、50歳の方の場合、リタイヤメントまであと10年~15年なので、「もう10年しかない・・」と株の比率を下げすぎ、ボンド(債権)比率を上げすぎる傾向があるということです。それで何がいけないかというと、リスクをとらなさすぎてリターンを犠牲にしすぎるということです。実際、10年~15年でリタイヤしても、投資は死ぬまで続くわけで、健康な人の場合50歳時点での寿命はといえば25年~45年となります。多くの人を対象にしているペンションと個人だけの401(k)とは違いますから、ペンションほどの長期投資はできなくとも、少なくとも近視眼的になりすぎない努力が必要ですね。

コストを削減する

ペンションの利点の最後は、低コストです。規模の大きいペンションでは、大口で投資ができるので単位あたりのコストは低くなります。組織は、専属でファンドを管理するプロを雇いますが、その費用や手数料は、多くの場合ファンドから引かれるのではなく組織が直接負担します。ファンドから引かれる手数料がないというのは、投資が長期間になればなるほど、大きな利点となります。それに比べて401(k)で選択できる投資ファンドの多くは、非常に高い手数料を課すことがしばしばです。この手数料は直接的に利回りを食い、パフォーマンスに打撃を与えます。

401(k)で運用する場合も、とにもかくにも低コストを志すこと、これは大きなキーポイントです。手数料をきちんと確認することが大切です。401(k)で提供されているファンドはどれも手数料が高いという最悪の場合は、ある程度は401(k)で、あとは外部の低コストファンドにIRAなどを通して投資するというような策も考える必要があるかもしれません。

 

「選択する自由」のウラには・・・

1981年ころにはじまったこの、Defined Benefit Plan(確定給付型)からDefined Contribution Plan(確定拠出型)への移行。裏では、なるべくコスト削減を図りたい組織の意図を正当化するかのように、労働者側の「選択する自由」が大きくPRされました。

  • たくさん積み立てるか全く積み立てないか自由に選べる積立額
  • どのファンドに投資するか自由に選べる選択肢
  • うまくマネージすれば大きな利回りを得られる自己管理
  • リタイヤメント後の引き出しも自由裁量
  • リタイヤする前に非常資金が必要となれば早期引き出しも可能・・

と多くの「自由」が唱えられました。

でもここにきて、同じだけのリタイヤメント後のベネフィットを生み出すのには、401(k)よりもペンションのほうがコスト効率がよいということに気が付き始めた組織もあるようです。長期的な雇用を念頭に置く一定以上のサイズの企業なら、魅力的なベネフィットを提供するためには、かえってペンションのほうが安く済むということらしいです。

労働者はその「自由」がゆえに・・・

  • ペンションのように決められた額を積み立てする習慣を自分でつくれず、リタイヤメント近くになっても十分な資金がたまっていないという人も非常に多くなっています。
  • また、積み立てをしているものの、本当はどのファンドをどう選んだらよいかわからないという人や、知らず知らずのうちに多くの手数料を払っている人もたくさんいます。

401(k)は多くのファンドマネージャーを富ませはしましたが、401(k)に移行することでの本当の利益は組織や労働者には還元されなかったということなのかもしれません。アメリカ人は「自由」というキーワードには弱いですからね。「自由」ならなんでもいい・・みたいな。同じようにPRされている「自由」が、Consumer Directed Healthcare(消費者裁量による医療サービスの選択)にも垣間見られます。医療保険もさまざまな種類が存在し、「医者を選べる自由」、「保険料を少なくできる自由」の裏には、本当に必要なときの必要な医療サービスへの補償が不十分なものもあります。医師や病院を自由に選べる代わりに、それぞれの選択肢で大きな差がある医療費を比較吟味する責任を負わされ戸惑う患者もたくさんいます。「自由」と「責任」をとるか、少々自由はなくてもある程度まとめて面倒を見てくれるシステムを選ぶかということなのでしょうね。

ペンションの魅力を再確認した組織の中には、ペンションへ逆戻りするところもでてくるだろうという予測をしている専門家もいるようですが、どうなりますことか。。。労働者個人としては、与えられたシステムの中で最善を尽くすだけです。。

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2 comments

  1. いつもためになる記事をありがとうございます。これは最近はどうなんでしょうかね?もし、この先、書くこと無くなったら、ぜひアップデートしてほしいです!

    私が過去に働いた医療機関や大学では、どこでもPension と 401(k)/403bの両方ありましたが、配偶者の会社では、最初はpensionあったのに、買収されたあと401(k)のみになりました。今働いているところは、403(b)に、一定額強制的に積み立てられます(笑) HRに申請したら積立しなくて良いらしいですが。色々なやり方あるんですね

    1. そうですね、最近は、どんどんペンションは消えています。また前からあったペンションも、古くから入っていた人は何らかの形で一応保護されている場合が多いですが、段階的に「〇年以降に働き始めた人は△△の条件で支給」というカテゴリーがいくつかあって、以前ほどよい内容でなくなってきています。そのうちペンションというものはなくなってしまうのでしょうね。

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