長期介護について考える

長期介護とは

 

長期介護とは、慢性の病気や体の機能障害のため、自分で生活ができなくなった人のために、長期的に提供される医療および非医療ケアサービスのことです。長期介護が必要になった場合、一部はMedicareでカバーされることもありますが、ほとんどはMedicareの適用範囲外です。Medicareでは、病院に三日以上入院した後で看護施設に移った場合や、医師が医療上必要だと診断した在宅看護である場合などのみカバーするというように、厳しい制限つきでの適用になります。

通常、Activities of Daily Living (ADL)で規定された6つの基本アクティビティ(入浴、着替え、食事、歩行、身の回りの衛生、排泄)のうち少なくとも2つができなくなる場合、あるいは認知上の問題が起った場合を、長期介護の必要対象とみなします。

 

長期介護のコストと確率

 

実際介護が必要になったときどのくらいのコストがかかるのか・・これは、だれもが知りたいことですが、答えは簡単ではありません。介護といってもさまざまなタイプがあるうえ、コストは地域差が大きく、また介護を必要とする期間がどのくらいかも大きな差を生みます。下記はGenworth調べの各種介護タイプ別の平均コストです。

 

·         65歳の人が生涯で長期介護が必要となる率は男性で46.7%、女性で57.5%

·         65歳以上で長期介護が必要になる場合の平均必要年数は2年

·         ナーシングホーム滞在平均年数は、男性で0.88年、女性で1.44年

·         1年以上のナーシングホーム滞在が必要となる人は、男性で22%、女性で36%

·         5年以上のナーシングホーム滞在が必要となる人は、男性で2%、女性で7%

·         Merrill Lynch社の調べによると、女性は平均で5年ほど男性ほど寿命が長いため、男性より$194,000余分にコストがかかる。

·         U.S. Department of Health and Human Servicesによると、2015年から2019年に65歳になる人の48%は有料で提供される介護は必要としない一方で、25%以上の人は$100,000以上の有料介護を、さらに15%は$250,000以上の有料介護を必要とする。

·         Morningstar社の調べによると、平均的な目安としては、認知症状なしでの最後の5年間の介護コストは$217,820、認知症状があった場合は$341,651。

 

長期介護への対処法

 

一番多いと思われるケースは、家族・親戚のお世話になることです。同居、あるいは近くに住むことで、必要なケアをしてもらうというパターンです。

もうひとつは、払える分だけ払って、資産が十分少なくなった時点で、Medcaidの長期介護を申請する方法です。Medicaidの長期介護の資格を得るためは、収入面でも資産面でも一定以下であることが要求されます。人によっては、資産を子どもに分配し、所持資産を低くすることで資格を得ようとする人もいます。これは不可能ではありませんが簡単ではありません。

また反対に、長期介護に耐えうるだけ資金をためておくという方法もあります。生活費だけでなく長期介護も視野に入れたリタイヤメント資金づくりが必要になります。60歳でリタイヤするなら$数ミリオン、75歳になった時点なら$1ミリオン以上の蓄え(ソーシャルセキュリティ年金など固定収入も含める)があれば、長期介護にも備えられる可能性が高くなるといえましょう。

手持ちのリタイヤメント資金以外に、持ち家がある場合は、持ち家のリバースモーゲージなどの仕組みを使って、エクイティを使うという手もあります。

最後に、長期介護保険を購入するというオプションがあります。これは、上のように自己資金が潤沢ではなく、長期介護の費用を自分でまかないきれないが、かといってMedicaidの長期介護を受けられるほど収入・資産が低くない人にとって、考慮されるべきオプションです。介護が必要になったとき、定額の補償を得ることができます。とはいっても、長期介護保険の保険料も決して安くはないので、自分で資金づくりをしてできるだけを蓄えるか、長期介護保険を購入するかはよくよくの考慮が必要です。

 

長期介護保険とは

 

長期介護保険は、Medicareやその他の健康保険ではカバーされない長期介護をカバーする保険です。在宅介護(Custodial care)、介助施設(Assisted-living facilities)での介護、ナーシングホームでの介護などが対象になります。上記ADLのうち少なくともふたつの機能が喪失されたとき、あるいは認知症と認定されたときに補償が始まります。

長期介護保険の保険料は安くはありません。保険料を決める要素は、年齢、健康状態、一日あたりの補償額、補償の期間、インフレ保護の有無と有りの場合はその内容です。少し前までは、性別は考慮されませんでしたが、最近では性別ごとの保険料設定をする会社も現れました。条件が同じであれば、女性のほうが男性より保険料が高めです。

年齢は若いほうがもちろん保険料が低いことになりますが、長期介護保険は完全な掛け捨て保険で、積み立ての要素はありませんから(Non forfeitureオプションがついていれば、少しは戻ってくる確率もありますが、このオプション自体が高額で、つけないほうがいい場合が多いです)、若年で始める人は多くはなく、50代を過ぎたところで考え始める人が多いでしょう。加入を伸ばしすぎ高齢になると、保険料が非常に高くなり、その割には受けられる補償は多くないという状態にもなりえます。また、いったん健康を害すると加入がかなり難しくなるということもあります。最近では保険会社も加入者の健康状態を厳しく吟味する傾向があり、高血圧だけで拒否される場合もあります。

一日の補償額は$150~$200が目安、補償の期間は2年から6年ほどまでです。インフレ保護については下記でも書きますが、非常に大切な要素であり、それゆえ十分な保護がある保険になるとコストが非常に高くなるという側面もあります。目安として、一日$200の補償額で、補償期間が4年、6年、一生涯の場合について、さらに5%複利でインフレ対応がある場合とインフレ対応なしの場合について、年齢ごとの年間保険料は下記のとおり。

長期介護保険の市場動向

 

1980年代には、全米で$30ビリオンだった長期介護コストが、2015年には$225ビリオンまで急激に成長し、ほとんどの長期介護保険を提供する保険会社にあっては、このようなレベルでのコスト上昇は想定以上のものでした。多くの保険会社が採算が合わなくなったため市場から撤退、あるいは大きく保険料を上げることを余儀なくされました。介護保険を提供する会社は100社レベルから、現在では12社ほどまで減少しています。

同時に、加入のための健康チェックの基準は厳しくなってきています。健康上の問題がある場合には加入を断られることもあり、1990年代には希望者の90%が加入できていたのが、会社によっては希望者の50~60%程度しか加入させないところもあります。基準は保険会社で大きく異なることもあります。

長期介護保険のニーズは依然として高いものの、これまであったオーソドックスな長期介護保険の契約は減少傾向にあります。長期介護保険の販売件数も減少しており、2002年には754,000だった新規販売が、2014には129,000に、2017年には70,000件以下にまで減少しました。それに伴い、最近多くなっているのが生命保険やアニュイティと、長期介護保険のハイブリッド型です。

ハイブリッド型は、そもそもは生命保険、あるいはアニュイティですから、長期介護の補償が欲しいから考慮するというものではありません。もともと生命保険やアニュイティが必要であるから入ること、あるいはすでに入っていることを前提に、そこに長期介護の要素を付け加えるというものです。

終身保険をすでにもっておりキャンセルするのも無駄が多いので、1035エクスチャンジ(税制上で、1035Exchangeと呼ばれ、税金が発生しない形で切り替えすることができます)により、長期介護保険特約付の生命保険に乗り換えるというチョイスはいいかもしれません。

次回以降、長期介護保険についてもう少し詳しく見ていきます。

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