長期介護保険のねだん

介護保険の保険料は、過去20年間の間、上昇してきています。過去10年間だけを見てみても、一年で10%~20%の値上げは珍しくなく、30%~40%代の値上げもありました。

過去のこれらの値上げの大きな原因は、保険会社側のLapse率の甘い見積もりがあったようです。Lapseというのは、いったん保険を契約した人が、その後保険料が払えなくなったなどのなんらかの理由で保険をやめることをいいます。長期介護保険を契約した人のLapse率を、生命保険のLapse率並みに設定していたところ、長期介護保険の場合はそれよりはるかにやめる人が少なかったので、結果として支払う補償額が減らなかったということです。その見積もり誤りを補てんするために、年々保険料を上げざるを得なかったというわけです。

この経験を通して保険会社も学び、今後は、過去20年に見たような年々の大きな値上げはなくなるはずだ・・という予想ではありますが、それでも5~10年毎ぐらい20%程度の値上げは覚悟しておいた方がよい専門家の意見もあります。

では、現在長期介護保険を買おうとすると、いったいどのくらいかかるのか。American Association for Long-Term Care Insuranceという団体が、全米の長期介護保険の値段調査をしています。2019年版が発表になりましたので、今回はその結果をシェアさせていただきます。

 

ねだん調査

 

この調査では、以下の条件の長期介護保険を55歳で購入した場合の各保険会社の値段を調査しています。保険会社名は明らかにされませんが、同じ条件での介護保険において、値段がどのくらい異なるか、最も高いケースと最も安いケースではどのくらい値段の開きがあるかなどを調べています。

 

保険料比較の保険内容

  • 55歳で購入
  • 90日のElimination(待機)期間あり
  • 一日あたり$150の補償
  • 3年間までの補償
  • 3%/年で補償額のインフレ―ション保護あり

まずは、シングルで購入する場合から。下は、55歳の男性と、55歳の女性が、それぞれシングル(単独)で購入した場合の結果です。

 

男性の場合は、2018年は平均年間保険料が$1,870であったところ、2019年は$2,050と9.6%の上昇でした。2019年で、最も高い保険会社の保険料は、もっとも安い保険会社の保険料の123%、つまり1.23倍でした。おそらく数百ドルレベルの差だと思われます。

女性の場合は、2018年は平均年間保険料が$2,965であったところ、2019年は$2,700に値下がりしました。2019年で、最も高い保険会社の保険料は、もっとも安い保険会社の保険料の1.05倍ということで、ほとんど高低の差がなかったという結果です。2019年に保険料が下がったものの、女性はシングルで加入する(これは結婚していようがいなかろうが、単独で入るという意味です)と、同年男性に比較して1.3倍以上も保険料が高い保険料が必要ということです。

男性の上昇率、女性の値下がりなどを考慮すると、長期介護保険の保険料がまだ安定的に運用されていないような感を受けます。

 

次に、カップル(主に配偶者同士を差しますが、必ずしも婚姻関係になければならないという縛りがない場合もあります)の値段を見てみましょう。

 

二人とも55歳のカップルの場合は、2019年は$3,050でした。最も高い保険会社の保険料は、もっとも安い保険会社の保険料の243%、つまり2.43倍でした。こうなると、おそらく差は数千ドルレベルの差かと思われます。この差はあまりにも大きくショッキングでさえあります。

 

しかしながら、もし55歳の男女がそれぞれ個別に契約をすれば、$2,050+$2,700=$4,750となりますから、カップルで契約するのはひとつの大きなコスト削減策です。

 

またこの調査によると、男性、女性、カップルの場合において、値段が高い保険会社はいつも一定ではなく、また同時に値段が安い保険会社もいつも一定ではないという結果でした。つまり、“いつも安い保険会社”というのは存在せず、ケースごとでまちまちということです。こうなると、自分のケースで保険料を集めてみるまで、どの保険会社が高いのか安いのかはわからないということです。長期介護保険を購入する場合には、できるだけたくさんの保険会社から保険料の見積もりを集めることが非常に大切なのが分かります。

 

保険料の削減策(1) インフレ―ション対応の率を下げる

 

カップルの例をとって値段を比較してみます。上の例では、補償額のインフレ―ション対応率は3%でした。これを2%に下げます。こうすると、平均保険料は3%の$3,050から$2,465に下がりました。インフレ対応は3%あれば安心ではありますが、2%でもやむを得ない場合はなんとか許せる範囲かと思われます。3%の場合は、$150/日の補償額が3%で年々増えますので、85歳で3年間補償を受けると合計$386,500となりますが、2%の場合はこれが$256,735となります。年々のことなので大きな差にはなりますが、保険料にしておよそ年間$600の差がありますので、現時点でどの程度までなら保険料の負担ができるかとのトレードオフになります。介護保険は途中でやめると大変な損になるので、契約時点で、払える分をしっかり払い続けるという心構えを確認のうえ契約することが肝要です。

 

保険料の削減策(2) 補償をプールする

 

一番上のカップルの例は、$150/日の補償を3年まで、夫婦各自が受けられるというものでした。3%のインフレ対応であれば、夫が85歳のときから3年間合計$386,500の補償を使い、かつ妻も85歳のときから3年間合計$386,500の補償を使うことができます。

ただ二人ともフルでこの補償を使う確率はそれほど高くないのではないかという推測から、補償を二人分プール(Shared Care Pool)するという考え方が生まれました。夫婦ひとりずつにフルの補償を買う代わりに、ある程度どちらでも使えるプールというのをもち、夫婦でそれを共有するという考え方です。これはすべての保険会社が提供しているものでもなく、また提供している保険会社ででもプールの運用ルールは異なります。

下では、$150/日の補償を2年間分、3%のインフレ対応をつけて、夫婦のそれぞれが購入。そのうえで夫婦それぞれの保険契約においてRider(特約)をつけて、もしも自分の補償をすべて使い果たしてもまだ介護が必要な場合において、配偶者の補償分を使うことができるというものです。つまり、お互いに自分の補償をシェアし合い、夫は妻の、妻は夫の補償まで使うことができますが、ただもしも夫が妻の補償分まで使った場合は、妻は残された分しか自分のために使うことができません。あくまでプールしてシェアするだけなので、先に使われれば後に残るひとはその分は使えないというしくみです。

 

下の例では、85歳時点で、ひとり$262,144までの補償が受けられ、それ以上必要な時は、相手の$262,144まで使える。つまり合計$262,144×2までシェアできるという状態です。この形態の平均保険料は$2,810でした。

 

一つ上のWAYS TO SAVE TECHNIQUE #1では、インフレ率を削り2%に下げ、補償を一人3年までにして、保険料は$2,465でした。今回のBETTER PLANNING STRATEGYでは、インフレ率は安心レベルの3%にキープしたまま、補償を一人2年、ただしあと2年分配偶者の補償まで使えるという内容にしたところ、保険料は$2,810でした。ただこうなると、一番最初のケース(インフレ3%、補償は一人それぞれ3年)の$3,050とそれほど大きな差はなくなります。

 

インフレ対応を3%から2%に下げてみたところ(インフレ2%、補償は一人2年、配偶者の2年も利用可)、保険料は$2,500でした。ただこうなると、WAYS TO SAVE TECHNIQUE #1の$2,465とそれほど大きな差はなくなります。

ただ、考えようによっては、ひとり3年しか受けられない補償が、プールした場合は、ひとり最高4年(自分2年と配偶者の2年)まで補償が受けられるという利点があり、配偶者のうち一人が特に長い介護が必要だと思われる場合は、個別で3年の補償より安心となります。ただし、ひとりが4年使ってしまえば、残された配偶者は介護保険がゼロの状態になります。このあたりは、どちらがよいかはなかなか判断しづらく、ある程度賭けになるかと思います。

 

 

今回の調査では、保険料を下げるためにはまず、1)カップルで入ること、2)インフレ率を下げてみること、そして3)カップルで補償をシェアするプールをつくること が考慮に足ることがわかりました。とくに1)と2)が大きくコスト削減ができる要因です。3)に関しては、プールを設定することで一人当たりより長い補償期間を確保しつつ保険料を抑えるのに有効です。そして、何よりも大切なのはできるだけたくさんの保険会社から保険料の見積もりを集めることです。ひとつの保険会社の保険料だけをみて決めないことが大切です。複数の保険会社から保険料を集めてくれる独立系の保険ブローカーは心強い味方でしょう。

 

 

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2 comments

  1. いつも勉強になっております。
    やはり結構な金額になりますね。一番安いカップルの見積もりでも年間2500ドル、私はスタートの時期を60歳、(妻55歳)で考えておりますが、更にレートが高くなりそうですね。また、保証金額が150ドル/日(月4650ドル)ですと入れる介護ホームも限られてしまいますね。配偶者の分まで使ってしまいそうです。投資では無く保険なので予算を組んで対応したいと思います。それにしてもアメリカに住むのは高いと感じました。

    1. ほんとうに!私も長期介護保険だけは、いつまでたっても立ち位置が定まらない部分があります。難しい問題です。

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