アメリカのインフレーション率はだいたい2%前後をうろうろしていたのが、コロナによる経済停止により一時的に激減しました。そして2021年春以降経済活動がオープンし人々が動き出したのにともない、ここ数か月で上昇中です。2021年3月に2.6%、4月には4.2%、5月には5.0%となりました。インフレ高騰を憂慮する記事はあちこちで見ますが、さてこのインフレ率、消費者として、また学費やリタイヤメント費用を貯める者として、私たちにどのような影響があるのでしょうか?
インフレの影響
インフレーションは、一般的に消費者物価指数(CPI=Consumer Price Index)で表されます。前年に比べて、一般的な物価がどのくらい上がったかの率を表しています。
日本においてはインフレ率が極端に低く、マイナスのインフレ(物価が上がるのではなく、下がった)ということも過去においてはよくあり、たとえプラスでも多くの場合1%以下です。年々を相殺すると、過去20年でほぼ価格は変わっていない状態かと思います。
私が留学でアメリカに来ていた30年前は、日本がバブルで何でも値段が高く、アメリカで売られているものを見ては、「なんて安いんだろう!」と思っていました。おかげでなけなしの円をもってアメリアにやってきた貧乏学生でも、十分生活が成り立ちました。日本に帰るたびに、「アメリカで安く買える〇〇」を持って帰ったものです。ところが今は反対になりました。アメリカは随分高い国になりました。今や、日本に帰るたびに、「日本はなんて安いんだろう!」と思います。無理もありません。アメリカは2%前後でずっと物価が上がっているのに、日本は全く上がらないのですから。
実際、日本のファイナンシャルプラニングの記事などを読むと、インフレを全く考慮していないことがほとんどです。その必要がないからです。たとえば、今の食費が10万円なら、65歳で老後に入っても10万円(とりあえず食が細くなったりなどの変化は考慮せず)、そして80歳になっても10万円です。老後の25年間、食費がトータルでいくらかかるか(という計算をする人は少ないかもしれませんが、とりあえず例として)を考えるなら、10万円x12か月x25年と計算します。単なる単純掛け算です。
アメリカではこのような計算は成り立ちません。インフレがあるからです。今の食費が10万円なら、2%インフレを考慮すれば、来年は10万2千円、再来年は10万4,040円かかることになります。30年後には18万1,136円になります。物価がどんどん高くなるのだから、同じものを買って食べていても、より多くのドル建てバジェットを組んでおかねばなりません。
この2パーセントというインフレは、Federal Reserve Board(FRB、連邦準備制度理事会)がターゲットにしているインフレ率です(ちなみに一応、日本銀行も2パーセントを目標としています)。実際のインフレ率はこれより高かったり低かったりしますが、経済の状態を見つつ、金融政策によって2%をなるべくキープしようとするしくみになっています。よって、アメリカのファイナンシャルプラニングでは少なくとも2%はインフレ率として見込んで計画する必要があります。そうでないと、この目標2%インフレがそのまま実現した場合、せっかく計画した目標が達成できないことになるからです。私の使っているプラニングソフトウエアでは、デフォルトで2.25%のインフレを見込んでいます。
名目利回りと実質利回り
名目利回りというのは、私たちがあちこちで目にする利回りです。銀行預金1%利子とか、株式利回り8%とか、債券の利子4%とか、これらはみな名目利回りです。
一方で実質利回りというのは、インフレ率を差し引いたあと、実質的に残る利回りのことです。その時のインフレ率が2%なら、8%の株式の実質利回りは、8%―2%=6%となります。名目上は8%増えるものの、そのうち2%は一般的な価格上昇で‘食われる’ため、実質的にお金が増える利回りは6%ということです。インフレ率が恒常的にある世界に暮らすなら、この実質利回りに注目することがとても大切です。何もしなければ年々2%ずつ上がっていく物価に対して手持ち現金の価値は実質上減っていくことになります。インフレ率と同じ2%で名目利回りを得ていて、やっと物価上昇についていっている状態。インフレ率を上回る名目利回りを確保して初めて、お金が実質的に増えることになるのです。
「銀行預金で1%増えれば元金保証だから安心」という考え方は、今のところインフレ率をほぼ無視できる日本で暮らす分にはまかり通るかもしれませんが、恒常的なインフレ率が2%であるアメリカではまかり通りません。銀行の利子1%―インフレ率2%は、マイナス1%となってしまい、元金保証というのは名目元金(絶対額)では変わらないというだけで、お金の価値としては年々1%ずつ目減りしていくということです。
こういうわけで、学資を貯めるにせよ、リタイヤメント資金を貯めるにせよ、インフレ率というものは常に注意を払わなければならないものです。お金を実質的に増やしたいと考えるならインフレ率以上の利回りを確保すること、お金が増えなくとも所持金の価値を保ちたいと思うならインフレ率相当の利回りを確保することが必要です。