モーニングスター社が、ファンド評価基準を改定し、2019年から2020年にかけて新評価システムへの移行を実施しています。35年前に開発された5つ星評価システムは、過去の投資成績にのみ焦点を当てたものであり、その後の数々のリサーチで、過去の投資成績は将来の投資成績を正確に予想するものではないことが明らかになりました。と同時に、ファンド手数料こそが、将来の成績の決定要因として信頼性が高いことが示されました。今回の評価基準改定はそれを汲むものであり、今後、手数料をより正確に反映されたファンド評価がなされていくことになると思います。この改定と相まって、アメリカでの投資ファンドの手数料化は目を見張るものがあり、投資家においても、またファンド側においても、今や「手数料を低くする」ことの重要性はコモンセンス化しました。今回は、ファンドの手数料に関してのトレンドをご報告します。
ファンドの低手数料化のトレンド
アメリカのミューチュアルファンドとETFのファンド手数料(資産規模における全米平均値)は、1999年には0.87%だったのが、2019年には0.45%まで下がっています。20年間の間にほぼ二分の一になったわけで、これは大きな変化です。2000年当初には、たとえば0.60%程度の手数料であれば、「比較的低い部類」に入っていたものが、現在では「比較的高い部類」に入ることになります。
この裏には投資家の低手数料投資への広がる理解があります。投資家がより低い手数料を好み、低手数料ファンドを積極的に選んでいることを示しており、また同時に手数料の高いファンドを拒否する傾向が明らかになっています。2019年に、手数料によって低いほうから高いほうにファンドを並べた場合、一番低い10%のファンドグループには$526ビリオンもの投資資産が流入した一方で、それ以外のファンドグループでは投資資産の流出が大きく目立ちます。これは、投資家がただ「低めの手数料」ではなく、「できるだけ低い手数料」を求めて投資を行っていることを示しています。
投資家意識の変化により、ファンド間の手数料削減努力が進みました。面白いのは、もともと手数料の安かったファンドはもっともっと安くなり、手数料が高かったファンドは案外そのまま高めという傾向があることです。アクティブファンドの2019年手数料平均は0.66%、インデックスファンドの手数料平均は0.13%でした。投資家セグメントに二分があり、できるだけ低手数料を好むマジョリティの投資家と、高手数料を気にしないマイノリティの投資家とに分かれているということのようです。
ファンド間での低手数料化競争も激しくなり、これは投資家にとって大きなベネフィットです。2018年から2019年の一年で、全米投資家が払う手数料は合計で$5.8ビリオンの削減があったとモーニングスター社は発表しています。低手数料ファンドはBlackRock/iShares、State Street などの努力も見られますが、依然として最低レベルの手数料を誇るのはVanguard社であり、同社平均0.09%です。
ブローカーやセールスエージェントを通して購入した場合、アドバイス料がファンド手数料に加えられるような形となり、同じファンドであっても手数料が高くなるということがありますが、競争の激化により、このような形のファンドは投資資金が流出傾向にあり、ブローカー/エージェントのアドバイス料などがかからない/少ないファンドへの移行も進んでいるようです。
手数料とファンド評価
モーニングスター社は評価システムの改定の狙いは、評価のレイティングが、ファンドの将来成績の予想と直結したものになることであると発表しています。ファンド手数料が、ファンド成績を予測するベストの判断基準であるという理解から、手数料により大きなウエイトが置かれるようになります。
この改定により、43%のファンドにおいて評価レイティングが変更になると予想されており、アップグレードされるファンド数よりもダウングレードされるファンド数のほうが2倍多いとしています。とくに、手数料の高いアクティブファンドはダウングレードが相次ぐと予想されており、さらにはブローカー/エージェントを通して販売されるアドバイジング料/販売手数料の設定のあるファンドの多くがダウングレードをされると予想されています。以前のシステムでは高手数料ファンドの半数が平均以上の評価レイティングを受けていましたが、新システムではこれが26%に下がるという予想です。
一方で、市場インデックスに追随するインデックスファンドで平均以上の評価レイティングを受けるファンドは増えると予想されています。
また、2019年から2020年の評価システムの移行が完了した後は、評価レイティングが頻繁に変わることはないとモーニングスター社は発表しています。以前の5つ星評価システムであれば、その時々でファンドの成績が変化するとともに成績の良いファンドが入れ替わります。これは、必ずしもそのファンドがとくに優れたものであったというよりは、たんにその時の経済状況でそのファンドの投資するセグメントがたまたま成績がよかったというだけのことが多く、その時々で成績のよいセグメントは頻繁に変化することもわかっています。あるファンドをとってみたとき、星の数も時系列上で変化することになるわけですが、新システムでは手数料とその他ファンド運営の質的な面にフォーカスしていますので、ころころと評価が変わることはないというわけです。「いったん投資したら、あとはなにもしないでほったらかす」長期パッシブ投資の考え方と相いれるシステムになるように思います。
2019年全米平均の手数料0.45%、インデックスファンド全米平均では0.13%、Vanguard社平均だと0.09%というのがひとつの目安です。みなさんのファンドの手数料はどのくらいでしょうか?
注) なんでもかんでも低手数料のファンドに投資すればよいということではありません。リスク分散と許容リスクの設定も大変重要な要素です。「わかる長期投資」シリーズなどをご参照ください。