本年2月から3月に大きな下落を見た株価はその後比較的早く値を戻し、経済活動が少しずつ再開し経済回復への期待がもたれました。しかしながら全米各地で感染率が再度急増し、振り出しに戻ってしまった感があります。アメリカの第2四半期のGDPは前期比で32.9%減少し過去最悪の下げを記録。失業率は6月に11.1%、7月に多少改善し10.2%となっています。身近でも大手の小売店が閉店に追いやられ、“Closing”のバナーを目にします。
その割には、株価は4月以降横ばい傾向で来ており、感染率の急増、経済悪化のニュースを横目に、大きな下落を見ていません。US市場でもまたグローバル市場でも同じような同じようなパターンで、株価の大きな変化はない状態です。
株式市場の各セグメントの過去1年の動きは以下のようです。US大企業、US市場全体、外国株市場でも、同じような横ばい状態が続いているのがわかります。
グローバルレベルで感染者数が増加しているものの、死者数は増加を見ていない(全体的には減少傾向)ことはencouragingではあるものの、一部の専門家の間では、この株価の小康状態がどれくらい続くのか、今後の経済の悪化に対して抵抗する力があるのかは疑問視する向きもあります。
Charles Schwab、Vanguard、Nuveen-TIAAが7月に発表した2020以降の市場予想の要点だけをかいつまんでまとめてみます。
- Charles Schwabの予想では、2021年の前半あたりからS&P500社全体で企業利益が黒字に転じ上向きに伸び始めるのではないかとしている。Vanguardは、GDP回復は2021年か、もしくはそれ以降に持ち越されるとしている。
- コロナウイルスによる隔離対策のせいで、大きく利益を下げる企業がある一方で、大きく利益を上げる企業が存在している。S&P500社のうちトップ5社がS&P500インデックス価格の22%を締めており高い集中度を示している。
- 倒産率は、車、家財、衣類、レジャー用品などの一般消費財・サービス部門で最も高く、次にエネルギー部門、ヘルスケア部門、ファイナンシャル部門と続く。
- US株式市場内での業種シフトがあり、テクノロジー部門、コミュニケーション・サービス部門、ヘルスケア部門がS&P500の53%を占めている。
- ヘルスケア面での展開が今後どのようになるかが見えないことで、企業各社がアナリストに対して行う企業予測をストップしているということで、アナリスト側の予想値も最低から最高まで大変に開きがある(正確な予想が難しい)状態。
- 経済の回復がたどる形を、下がって上がるV型の代わりに、回復が始まる前にボトム状態がある程度続くU型ではないかとする見方があったが、今となってはW型ではないかとする向きもある。実際は、ワクチン開発と第二波、第三波がどのように拡大し収束するかによって結果は大きく変わる。
- 上昇する企業倒産率を憂い、政府による株式買い入れの向きが出ている。日銀は2010年から2%の物価安定目標(インフレーション率)の実現を目指すことでTOPIX や日経225などのETF(Electronic Traded Funds)の買い入れを行っているが、本年一時的に上限を上げて買い入れを増強。今では日本市場の5%を日銀が保有している計算。このような向きは日本だけでなく、中国、欧州でもみられる。各国政府による(必要に応じて増やされる可能性のある)株式買い入れが、全世界的コロナ経済危機においても株価をある程度安定させている理由だと考えられる。
- US経済の現状に照らし合わせると、現在のUS株式は大きく高値がついているように思われる。ただし、コロナの影響で普段見るパターンとは全く異なる形態/レベルでの経済悪化があったため、通常使われるような指標(PEなど)での分析はあまり有効ではないと思われる。現在の株価をサポートしているのは12か月以上先の企業利益を見据えたもので、いったん経済活動が戻れば利益改善があることを見込んだものである。
- 株式については、USでは小型株(Small Cap)より大型株(Large Cap)、割安株(Value Stock)より成長株(Growth Stock)、USよりUS以外の先進国株(外国株式)のほうが今後の見通しがポジティブ(Nuveen-TIAA)。
- 今後10年間のUS株式の利回りは4から6%、外国(US以外)株式の利回りは7から9%。(Vanguard)
- 金利は2021年までは現状の低レベルに抑えられるだろう。US国債(10年)は0.5%から1.0%のレベルで推移し、その他債券は一般的に低利子と予想される。デフォルトリスク(債務不履行リスク)の低い高グレード債券を中心に、高分散ポートフォリオが賢明(Schwab)。
- 各国政府の金融政策により、全世界レベルで債券利回りは0から2%程度の低レベルではあるが、これまでと同様に債券は投資ポートフォリオの重要なリスク分散手段でありえる(Vanguard)。
- 債券については、クレジット(債務不履行)リスクよりデュレーション(満期までの残存期間による)リスクのほうが取りやすい状態である(Nuveen-TIAA)。
- 不確定要素が大きいことで投資を現金化する向きがあるが、そのアプローチには賛成しかねる。こういう状況であるからこそ、より広い市場へのリスク分散度を高めることが必要と考える。投資ポートフォリオから得られる今後の利回りについては、これまでより低くなると覚悟することが必要であるが、長期的投資ゴールを実現するためにはStay Invested(今までの投資を継続すること)が必要であり、投資を現金化して現金で持つことは、低くなるであろう投資利回りをさらに下げることでゴール実現をさらに遠くしてしまうだけである。
- マーケットタイミング(機を見て売ったり買ったりすること)を避け、コロナ以前までと同じ長期的な投資ゴールにフォーカスを当てて進むのが賢明。
コロナの影響で特定の業種の不調、好調が激しくS&P500社を見ても、株式時価総額での限られた企業への集中化がみられ、今後は当面、大型成長株、デフォルトリスクの低い優良債権への期待が高まっていますが、これも長期投資計画の中で起こる特定セグメントの浮き沈みと見ることができます。ここで、「これからは××はだめで、〇〇がいいから乗り換えよう」とか「当面は現金に変えて持っておいて、あとからまた投資しよう」と考えず、こういうときだからこそ高分散のインデックスファンド投資をしているのだと納得し、長期投資計画を無碍に変更しないことが賢明です。向こう10年のスパンで考えるとき、平均利回りがUS株式は4から6%、外国株式は7から9%(Vanguard)が予想されているというのも期待が持てます。USに集中させず、株式の全世界分散の重要性は以前よりご紹介していますが、それが再確認できます。当面は低い成長率が続くかもしれませんが、長期投資できる部分においては、大きく路線変更をすることは不要であると考えます。