子どものお友達がお母さんと一緒にうちに遊びにきたとき、そのお母さんが玄関から入ってくるなり言いました。“Nice house. How much did you pay for this?” 一瞬耳を疑いました。そんなに親しいわけでもないのに・・・、いや、たとえ親しくても、家の値段はフツウ聞かないでしょ・・・。だけど不思議なものであんまりストレートに聞かれると、別に隠す必要もなくストレートに答える私。日本人ではなかなかありえませんね。私たちは年収とか家の値段とか、聞いたり話したりすることは案外タブーと思っているところがありますよね。「そんなこと聞いちゃあ失礼」とか、「お金の話をするなんて何かえげつない」とか、「子どもの前でお金の話をするもんじゃない」とか。でも、お金の話をすることって本当はとても大事です。お金にとらわれて生きるのは悲しいことですが、お金の話を全くしないで生きることは決して美徳ではありません。一緒に暮らしている配偶者、それなりの年齢になった子どもなど、生活を共にしている大切な人とお金について十分なコミュニケーションをもち、意識合わせをすることは非常に大切なことだと思います。今日は、配偶者とどうそれをしていくかについて思うところを書いてみます。
お金についてあれこれ話す
「あれこれ」というところがポイントです。きちんとテーブルに座って、「今日はお金の話をしよう」と気負う必要はありません(というか気負わないほうがいいのでしょうね)。ドライブしながら、買い物しながら、ぶらぶら歩きながら、お金のことを話してみましょう。パーソナルファイナンスや家計のやりくりのことを話すのでなくて、お金に対するスタンスとか思いを共有するというところから始めるといいと思います。お金のことは、かなり個人的な感情が絡むところが多いです。お金についてどう考えるかは決して理性だけではなく、生い立ちや経験に大きく影響されるのです。
まずはお金に関わること全般で、自分自身がどう感じているかを認識すること(自分でも気づいていないことってありますよ)と、それから同様に相手がお金にどういう感情を持っているかを認識する(いいか悪いかの判断ではありません。認識!)ところから始めてみましょう。たとえば、下のような質問を考えてみるとよいかもしれませんよ。
- お金が好きかきらいか。それはなぜか。
- 両親はお金にどのような考えを持っていたか。お金に対してどのような環境で育ったか。
- 今まで育ってくる中で、「自分だったらこんな風にしたのに・・」とお金のことで後悔したり、残念に思うことはあるか。
- 反対に、お金のことで、「これはすばらしい!」と感動したような出来事はあるか?
- 人生の中でお金をどうとらえているか(生活していくためのツール、ステイタス、目的、ないほうがいいもの、かえって面倒なものetc)
- お金で自分が傷ついたり、家族や親しい人が傷ついたのを見たことがあるか。
- 思いがけずお金を手にしたら、それをどうしたいか(使う、貯める、困った人にあげるetc)
- お金のことを考えたいか、避けたいか。それはなぜか。
ここで自分とは違ってもそれをどうこう言わず、ふんふん、へ~と言って聞くとよいです(難しいです)。「それってダメでしょ」と言われると人はそれ以上話したくなくなります。自分が正直に考えを言ったのに、「さばかれた!」と感じるともう二度というまいと思います。そして本当のことを隠したり、うそをつくようになります。英語でいうところの「ジャッジしない」ことが大切。この段階は、お金に対しての自分と相手の経験、態度、感情をきちんと理解するステージです。これがこれからの傾向と対策を練るベースとなります。「相手はお金についてこう感じているから、〇〇(たとえば大きな買い物など具体的アクション)についてはきっと△△と考えるだろうな」と予想をたてることができると同時に、「自分はお金についてこう感じているから〇〇についてはきっとこう考えるだろうし、そして相手がそれに対して△△と反応したら、きっと●●とリアクションしてしまうだろうな」という自分についての予想もたてられます。これがよいコミュニケーションのキーとなります。
家計の具体的なことについて話してみる
次の段階では、家計の具体的なことについて話してくことになります。これは決してけんかの最中とか、なにか購入や契約など決断が差し迫った段階でしないのがよいです。二人とも感情的に落ち着いている時に、少しずつ進めていきましょう。生活していくにあたって、パーソナルファイナンスに関わるさまざまなことがらがありますね。まずは夫婦での役割分担を決めるのもよいでしょう。
Billの支払い・管理、収支チェック、銀行の残高管理などに始まり、投資や保険額の決断などなど、チェックしたり管理したり判断したりが必要ですが、こういうことは案外得意な人と不得意な人がはっきりわかれます。夫婦のうちどちらかが得意で、どちらは全くお任せというのもよくあるパターンです。あなたが得意な人なら得意に生まれたことをよろこび、謙虚に引き受けましょう。不得意な人は相手がしてくれていることを感謝すること、そして自分が得意な他のことをすればいいと思います。
私はこれで随分長い間苦しみました。まだアメリカで結婚生活をし始めたばかりの20年前、家計にまつわるさまざまなことを一人でこなす責任が重くて、主人と何度話し合い(けんか)をしたことか。主人は忙しく時間もなかったうえに、お金のチェックや管理はまったくピンとこない人。結局3年位かけて、「この人には日常のお金のことを考えるのが非常に苦痛であり、不得意なんだ」ということと、「自分は案外得意なんだ」ということに気が付き、主人には主人が得意なところをがんばってもらい、私はお金のことを一手に引き受けることにしたわけです。結果そのうちファイナンシャルプラナーになりました。
お金のことがまったくピンとこない主人にも、最低限のことは学んでもらえればいいなとノートを書き始めたのがこのブログのはじまり。結局、一番私のブログを読んで欲しかった主人は、未だにあんまり読んでくれません(泣)。たまにはブリーフィングというのでしょうかね、我が家の家計の状態、向かう方向などについては情報共有をします。昔なら同じように分かってほしいと思っていたけど、今は情報共有でだいたいを掴んでくれればオッケーと思っています。
夫婦のどちらが引き受けられる場合はいいのですが、問題は夫婦ともにお金のことが不得意で、だれも管理していない、チェックしていない・・という状態ですね。夫婦ともにお金のことはできるだけ考えたくない、避けたい・・という場合です。ずっとそのまま生活していると、いつか問題が膨れ上がってしまい、かなり厳しい状態になって初めて現実を見ることになる可能性もあります。はじめにお金についてあれこれ話した時点で、二人ともお金の管理が不得意・無頓着・気前よく使ってしまいがちなどということが分かれば、二人でお金の基本的な管理法を勉強して、ファイナンシャルプラナーなども利用しつつ、役割分担することも必要だと思います。
長期的なゴールで同意する
お金に対して似た感覚を持った夫婦であれば、目の前にある具体的なこと(いくら401(k)に積み立てるかとか、いくらの車を買うか、いくら寄付するかとか、旅行や趣味にどのくらいお金をかけるかなど)を話し合うのも簡単かもしれません。うまく同意できればいいのですが、ズレが生じることも多いでしょう。ひとりは「思い切ってお金を使おう」と言い、ひとりは「いやいやそれは無駄遣いだ」と言ったり。ひとりは相手をケチといい、もうひとりは相手を考えなしの浪費家といい・・。人間誰でも自分がいちばんマトモと思いがちですから、どうしても自分の基準から相手をジャッジします。こんなとき同意に至る一番手っ取り早い方法は、相手を説得するのではなく自分と相手の違いを認めることと、とりあえず大枠のことで同意することです。
目前の具体的なことがらから始めるのでなくて、長期的なゴールというか達成したい方向性みたいなもので合意するとよいかと思います。たとえば、〇才くらいで頭金△くらいで買える家を買いたいとか、〇才くらいでモーゲージや負債のない生活がしていたいとか、〇才くらいで日本に帰ってリタイヤしたいとか、子どもの大学費用はできるだけ用意したいとかです。
だいたいのゴールで同意に至ったら、それを実現するためには今、最低限どのくらいのことをしていなくてはならないかを逆算していきます。今積み立てなければならないお金、今貯めておかねばならないお金を認識します。それをしっかり確保した後に残るお金があるとしたら、それは今使ってもいいお金です。今使ってもいいお金があるのなら、思い切って使ってみるのもよいお金との付き合い方です。それは決して無駄使いではないかもしれません。
長期的ゴールからさかのぼって現在を認識することなしに、「使うか」「貯めるか」を議論すると、「浪費家」とか「ケチ」というパーソナルな攻撃で終わってしまいます。お金は使うためにあるもの。お金は天国に持って行けません。要は今使うべきか、(貯めておいて)後に使うべきかの判断です。後に使うべきお金を確保したあとは、今使うというのも決して悪い話ではありません。反対に後々のゴールにダメージを与えるのなら、今はがまんしたほうがいいという議論にも裏付けができます。
夫婦と言えども(夫婦だからかな)、すべてのことに同じように感じ同じように考え同じように判断することは、まったくもって無理です。違いは当たり前と理解し、自分を知るととともに、相手のお金に対する感情を受け入れ、長期的な大枠で合意し、それを現在に落とし込み、得意なことで家計や家事に貢献し、かえって違いを逆手にとって相乗効果を目指せると、すご~くうまくいくのでしょうね。言うは易しです。
個人的なお話をお話しいただき有難うございました。我が家も全く同じ状況でしたので、夫である私が家計及び財産を管理、運用しています。毎回、面白いテーマを見つけて書いて頂いているので参考になります。これからも楽しく読ませて頂きます。
案外よくあるパターンなんですね。お互いがんばりましょう!
いつも興味深い内容有難うございます。
半年前ほど、近所の家にヘルパーとしている方(何度か顔を合わせただけの人)が話をしたいというので、家に来てもらうと、「キッチン改造はいくらしたの」「バスルームはいくら」「家の中ツアーしてくれないの」と言って、2時間ほど居座っていました。びっくりしましたが、後でアメリカ人の旦那に話すと、憤慨していました。
ファイナンスのことは私の方が得意なので、私がこなしていますが、まだまだ勉強の余地ありです。ただ、思うのはお金が不得意な人は、賢く使って、賢く貯めるのも不得意な気がします。この記事を読んで、彼の得意分野をもう少し褒めなければ!と思いました。
お互い、足りないところ(「ない」ところ)でなく、「ある」ところに目を止めて褒め合えたらよいですよね~。