老後の準備はお進みでしょうか?アメリカで老後資金を貯めるには401(k)が心強いツールです。401(k)を利用する最初のステップは、①積立額を決めてお金を入れる、②リスクとリターンのトレード・オフでアセット・アロケーションを決めて投資することですが、その次のステップ、③リバランスを忘れないで行うこともとても大切です。リタイヤメントへの投資は長期的ビジョンで進めるものですから、毎日毎日残高をチェックして一喜一憂するというのは好ましくありません。しかし、いったん最適なアロケーションを決めて投資したら、あとは放りっぱなしというのもバツです。実際、あるリサーチによると401(k)などのリタイヤメント・プランの利用者の85%がリバランスをしていないという結果です。せっかくステップ①と②はクリアしたのに、③を怠ると老後になって結果が「あれれ?」ということにもなりませんから、気をつけたいものですね。
リバランスとは?
ではこのリバランスとは何なのでしょう。リタイヤメント・プランの中のお金は、アセット・アロケーションにより、さまざまな投資媒体に投資されます。それぞれの投資媒体は利子や配当金を生んだり、値上がりによってキャピタルゲインを生みます。うけとった利子や配当金は再投資され、そのまま401(k)プランの中にとどまります。利子や配当金が多いほど、またキャピタル・ゲインが多いほど、投資の残高はどんどん増えて生きますが、反対にそれらが少なければ投資の残高は増えていきません。この投資パフォーマンスのばらつきのせいで、時を経るごとに投資媒体ごとの残高が変わって、当初のアロケーションの配分と現在のアロケーションの配分が変わってきてしまいます。それを、はじめにリクスとリターンのトレード・オフで決めた、当初のあるべきアロケーションに戻してやること、これをリバランスといいます。
例を見てみましょう。話を簡単にするためにここでは、株40%、債券30%、現金30%のアロケーションが、「あるべきアロケーション」だとします。手持ちの$10,000を、株に$4,000、債券に$3,000、現金に$3,000配分し投資しました。株は年率8%、債券は3%、現金は1%で残高が伸びていったとします。もし何もしないで投資を続けた場合、5年後にはそれぞれの残高が、$5,877、$3,478、$3,153となり、配分は47%、28%、25%という結果になります。これをあるべきアロケーションと比べてみると、株が7%もオーバーしており、全体として、当初設定したリスクよりリスキーな投資ポートフォリオになってしまっていることになります。これをリバランスによって、元のあるべきアロケーション配分に戻してやり、時を経ても当初のあるべきアロケーションが保たれるようにするわけです。このリバランスは、「あるべき」リスク・レベルで、「あるべき」リターンを生むよう投資を続けるために必要不可欠なことです。
どうやってする、リバランス?
では、このリバランス、どのくらいの頻度でいつ行えばよいのでしょうか。頻度については専門家の中でも意見が分かれています。方法としては大きく分けて二通りあって、ひとつは、半年に一度、あるいは一年に一度と頻度を決めてリバランス行うもの。もうひとつは、当初のあるべきアロケーションから一定の基準以上(たとえば5%とか10%とか)配分が変わってきてしまったら、リバランスを行うというものです。
401(k)を提供している金融機関によっては、自動的にリバランスをしてくれたり、あるいは「リバランスが必要かもしれませんよ」とアラート・メールを送ってきてくれたりするサービスをしているところもあります。もしあなたの金融機関がこのようなサービスを提供しているのなら、それを利用することが一番手っ取り早く確実な方法(自分で管理するとどうしても忘れたりするので)です。
たとえばFidelityの場合は、あるべきアロケーションより10%以上配分が変わった場合、アラート・メールを送ってくれるサービスを提供しています。T. Rowe Priceは、四半期ごとにアロケーションをチェックし、あるべきアロケーションより5%以上配分が変わった場合に、自動的にリバランスを行うサービスを提供してます。TIAA-CREFは、一年に一度の誕生日に、自動的にあるべきアロケーションにリバランスを行うサービスをしています。これらは無料で提供されていますが、申し込みが必要です。申し込みは、多くの場合ワン・クリックですむほどの簡単さですから、是非利用したいものです。
残念ながら金融機関によっては、このような自動サービスの提供のないところもあります。その場合は、自分でルールを決めてリバランスを行うことが必要です。一番簡単な方法は、一年に一度、たとえば自分の誕生日とか、年末とかの覚えやすいタイミングで、ご自分のポートフォリオをチェックし、たとえば5%以上配分にずれがあれば、リバランスすることです。
以上は、あるべきアロケーションに戻すためのリバランスでしたが、それ以外にもリバランスが必要なときがあります。
こんな時にもリバランス
リバランスは、「あるべきアロケーション」自体が変更になったときにも必要です。一番身近な例は、年々年を重ねることによりリタイヤメントが近づくにつれ、投資期間が短くなり許容できるリスクが低下していくことによる見直しです。「あるべきアロケーション」自体を、低リスクにみあったアロケーションに変更することが必要になります。具体的には、株の比率を下げていき、その分債券の比率をあげ、さらにリタイヤメントが近づくにしたがってキャッシュ同等品と呼ばれるものの比率も上げていきます。最適なアロケーションは個人によって差がありますが、下記はその一例です。
数年に一度、少なくとも5年に一度くらいはポートフォリオをチェックして、予定リタイヤメントまでの年数を確認するとともに、アロケーションの調整をすることが好ましいでしょう。
その他、「あるべきアロケーション」に見直しが迫られる場合には、たとえば結婚したので配偶者の投資ポートフォリオと自分のものをあわせ総合的なアロケーションの見直しが必要になったときや、不慮のできごとでリタイヤメント資金に手をつけねばならなくなりそうなときなど、大きなライフイベントがあったケースなどが考えられます。
まとめますと、①リスク・リターンのトレード・オフを考慮して最適なアロケーションを決めた後も、それが維持されるようリバランスを行うことと、②時間の経過やライフイベントにともないリスク・リターンのトレード・オフ自体が変更になったときにも、新しいアロケーションを実現するためリバランスを行うこと、このふたつが老後の資金を長期的に運用していくのに必要なことであるわけです。このリバランスの面倒さを軽減するために、最近ではターゲット・デイト・ファンドの利用がさかんになっています。これについては次の機会に。