あなたのバランス・シートで財務診断

前回はバランス・シートの構成要素を整理し、純資産(Net Worth)の意味を考えてみました。バランス・シートというと純資産の計算を思い浮かべることが多いのですが、それ以外にもバランス・シートの利用法はあります。せっかく、持っているもの(資産)と抱えている負の資産(負債)をリスト・アップしたのですから、その内容を詳しくチェックするいいチャンスです。純資産の計算以外に、どんな使いかたができるのか、どんなことをチェックしたらいいのか見てみましょう。

 

Rainy Day Fundは十分か

まず、チェックしたいのは、Rainy Day Fundは十分かということです。Rainy Day Fundというのは、「雨降りの日の資金」とでも訳すのでしょうか、まさにその名のとおり順風満帆でないときの非常時の蓄えのことです。急な病気や事故、失業や一時的な休業などの非常事態にあっても、月々の生活を滞りなく続けられるようにすることを目的にしています。

基本的には、月々の必要経費の3倍から6倍を用意するのがよいとされています。昨今では長引く不景気のため、6倍から9倍は必要などとする専門家も出てきました。3倍から9倍というのはかなりの開きがありますが、これはそれぞれの個人的状況に応じて決められるべきものです。

たとえば、失業の可能性はかなり低く、月々の収入も安定し、加入している医療保険も充実したものであり、所得保障保険なども充実しているというのであれば3倍で十分ですし、反対に医療保険のカバレッジが限定的であったり、一定した収入が期待できにくい場合などは6倍くらいあったほうがよいでしょう。また、月々の生活費以外にはとくにローンなど抱えていない場合は、生活費の数倍でもいいかもしれませんが、家や車のローン返済がある場合は、生活費に加えて返済額も考慮にいれなければなりません。収入が途絶えてもローン返済は待ってくれないからです。

このRainy Day Fundには、前回で分類した資産のうち、流動資産がカウントされます。流動資産とは、銀行口座やCDなどの換金しやすくすぐ使えるお金でしたね。たとえたくさんの不動産や美術品、投資商品を持っていても、それらは流動的ではありません。つまり、何かあったときすぐ換金して使える資産ではないということです。流動資産をある程度持っておくこと、これが必要です。

 

資産の種類は多様か

リタイヤメントなどの投資資産の場合は、アセット・アロケーションといって、自分のリスク・リターンに見合うように、資産を各種の投資媒体に分配することが基本です。この資産分配の考え方は、投資商品だけでなく、私たちの持っている資産全体にも応用できます。

バランス・シートでは、持っている資産がうまくばらけていること、ある一定の資産ばかりに集中していないかをチェックすることができます。住んでいる家は豪華だけれど、将来へのインベストメントはないというのでは困りますね。住んでいる家のほか、不動産ばかりに資産が集中していて、ほかのタイプの資産はほとんどないというのも危険です。反対に、持っている資産はほとんどが、利子の低い銀行口座に入っているというのも考え物です。インベストメントとして持っているのが自社株ばかりというのもいけません。

現在のための資産(Rainy Day Funのように)と将来のための資産(リタイヤメントや学資プランなどのように)、投資のための資産(投資で増やしていくもの)と使うための資産(家や車などの動産・不動産)、リスクをとれる資産(長期的なもの)とそうでない資産(短期に必ず必要となるもの)などというように、資産はその性格と用途によってある程度ばらけているのがちょうどいいのです。ある程度の多様性を保ちつつバランスよく持つことが好ましいとされます。

 

守らねばならない資産はいくらか

バランス・シートで資産をチェックすることの利点の一つは、持ち物の洗い出しができることです。自分はいったいどのくらい資産を持っているか、持ち家のエクイティー(家の値段 - ローン残高)はいくらか、などを整理すると、万が一の時に守らねばならないものがどれだけあるかがわかります。

これは保険の掛け金を決める際などに有益な情報です。たとえば自動車保険のライアビリティの掛け金を決める場合など、自分の持っている資産が大きければ大きなカバレッジを、資産があまりなければ小さめのカバレッジを選ぶというように使います。宝石や美術品があれば、家の保険に特約をつけることがいいかもしれません。資産がある程度以上大きければ、アンブレラ保険と呼ばれるエキストラ・プロテクションが必要かもしれません。資産の洗い出しは、守るものの確認ということです。

 

悪い負債はないか

アメリカ人一般にくらべて、日本人は負債を嫌う傾向があります。負債はできれば持ちなくないものです。「お金がたまったら買いなさい」とは子どもにいつも言っていること。。でも、家や車などの場合、お金がたまるまで待っているのが難しいものもあります。そんな場合は、もちろん負債を抱えるのは致し方ないことでしょう。その場合は、課される利子はもちろんのこと、その他手数料、返済のタイミングの条件や、返済をミスしたときのペナルティーなどをきちんと確認し、できるだけ条件のよいものを選ぶ必要があります。よい目的のためによい条件で計画的に選んだ負債はよい負債です。よい負債は、クレジット・ヒストリをつくるのにも役立ちます

反対に、悪い負債に数えられるものの代表は、クレジット・カードの次月繰越バランス(月々支払いきらないもの)です。利子が以上に高いことが多く、さまざまなペナルティーが付与されていることもあります。学費ローンなどの中にも、同様に条件が好ましくないものがあるでしょう。その他、モーゲージなどの中にも、その返済条件などによって、悪い負債に数えられるべきものもあるかもしれません。

負債の利子と資産の利子を見比べてみるのも大切です。年に13%の利子をクレジット・カードの負債に払いつつ、銀行に預けてあるCheckingでは0.1%、CDでも1%の利回りしか得ていないとしたら、それはとても損なことだと思いませんか?すぐに使えるお金がCheckingに$100あるのであれば、それでこのクレジット・カード返済にまわすと、一年で$100x13%-$100×0.1%=$12.90の節約になります。 同じクレジット・カードでも、利子の低いバランス・トランスファーを提供しているものもあるので、それらをうまく使うこともできるかもしれません。

モーゲージやエクイティ・ローンなどは、選び方によって比較的条件がよいものが多いですが、それでも利子が高いときに発行されたものであれば、もっと利子の低いものに借り換えを考慮してもよいかもしれません。車のローンの利子よりエクイティー・ローンの利子のほうが低ければ、乗り換えることもいいかもしれません。

 

こんなふうに、バランス・シートは、資産と負債バランスを見るだけでなく、ひとつひとつの要素を確認して、全体的として資産と負債の各要素がそれぞれのあるべき機能を果たしているかをチェックするのにも使えるのですね。

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2 comments

  1. このNet Worthの記事のことを昨日つれあいに話してたんですが、私がうっかりしてNet Wealthといっていたもんだから「マイナスだったらなんていうんだ?Net Povertyってか」(^0^)
    しかし、そういうのがいるんですよねー。1985年に親から完済の小さな家を相続し、2部屋建て増ししただけなのに、モーゲージを何度も組み替えた挙句、64歳にしてさらに40年間(完済時に104歳?)先延ばししてもらったというケースもある。それでケロッとしてます。ウチなどやっぱり日本人の意識で、車もクレジットカードも、家もすでに、負債は一切なしです。

    ただ日本の場合は、家の時価は下がる一方なので、30年ローンなど組むと間違いなく、Net Lossでしょうね

    1. ほほ、net povertyとは悲しい言葉!アメリカでは「少しはレバレッジ(負債)もないと、財産は増えないよ」なんていわれたりしますけど、「日本人の意識で負債なし」って、今のような経済恐慌のなかでは、「ばんざい!」って感じですよね。

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