健康保険プランを比較して選択する

健康保険プランを選ぶとき、HMOとかPPOなどというプランのタイプの理解も大切ですが、それと同じくらいかそれ以上に大切なのがその内容の理解です。いざ医療サービスを使うときにどのようなコストがどうかかってくるのかを、しっかりと理解したうえでプランを選択したいものです。

まずは基本的用語から学びましょう。

基本用語から

Deductible

健康保険が支払いを始める(補償が始まる)前に、自己負担しなければならない額です。Deductibleが$1,000であれば、まず$1,000を自分で支払ってはじめて、その後の医療費について保険がカバーしはじめます。Deductibleは、医療費をコントロールするという意味で、注意しなければならない要素です。医療サービスをあまり受けなければDeductibleはあまり問題にはなりませんが、ある程度の医療サービスを受けたならDeductibleまでは自分で支払わなければなりません。

自分で支払うということは、医療サービスの比較検討、値段の吟味が必要になるということです。いくつかの手術や施術を一年のうちにまとめてしまうことで、Deductibleを早々にクリアし、保険でカバーされる額が多くなるようにするなどの計画性も必要になります。

Copay

医療サービスを一度受けるたびごとに、自己負担する定額のことです。安いと$15くらいから高いと$50などで、プランごとにさまざまです。

Copayは、もちろん低いほうが好ましいですが、医療費をコントロールするための決定的な要素ではありません。年を通じての最終的な医療コストの合計額を決める重要な要素ではないからです。Copayは低いほうがいいものの、低いCopayに目がいって他の要素の吟味がおろそかにならないようにしなければなりません。

 また、Copayの発生する条件についてもきちんと確認する必要があります。たとえば、PCPのOffice Visitについて、“$20 Copay after deductible” と“$20 Copay (deductible waived)”というプランでは大きな違いがあります。前者はDeductibleまで自己負担を払って初めてCopayが$20になるという意味です。つまりDeductibleに達するまでは全額自己負担です。後者は、Deductibleがwaiveされる、PCPに診察をしてもらう限りは、Deductibleに達していなくてもCopayの$20を払えばよいという意味です。保険プランについての説明をよく読む必要があります。また、保険会社によっても表現が微妙に異なったりするので、わからないことは保険会社に確認しましょう。

さらには、払ったCopayがDeductibleに含まれるか除外されるかもプランによって異なります。確認が必要です。

Coinsurance

医療サービスを受けた場合、全体の医療コストを保険会社と自分で共同で負担しあうときに、自分が負担せねばならない割合のことです。Deductibleの設定があるプランでは、保険会社が負担をし始める(補償を始める)のは、自己負担額がDeductibleに達した後です。Deductibleまでは、Coinsuranceではなく全額負担となります。

Coinsuranceは、Copayに比べ、ずっと気をつけねばならない要素です。なぜならCopayは絶対額($)であるのに対しCoinsuranceは割合(%)であるからです。たとえば、Copayが$15で、Coinsuranceが20%だとしましょう。$100のサービスを受けても$1,000のサービスを受けても、Copayは$15です。一方で、Coinsuranceはそれぞれ$20、$200となり、医療費が高額になるにつれて負担はつりあがります。

Coinsuranceは全体のうちの自己負担パーセンテージですから、結果的に、そもそもの医療費がいくらであるかということを注意せざるを得なくなります。そもそもの医療費が高ければCoinsuranceの負担額も高くなるし、医療費が低ければ、負担額も低くなるからです。場合によっては、医療サービスのショップ・アラウンド(いいサービスを安く得るためにリーサーチすること)が必要になるかもしれません。

Out-of-pocket maximum

年間の自己負担額の最高額です。自己負担額とは、Deductibleや Coinsurance、Copayなどです。これらの合計額が、このOut-of-pocket maximumに達した時点で、その後の医療費については保険が100%カバーするというものです。しかし、プランによっては、DeductibleはOut-of-pocket maximumにはカウントしなかったり、特定の医療サービスに支払ったCopayはOut-of-pocket maximumにカウントしないなどの条件がついていることがありますので要注意です。保険プランについての説明をよく読む必要があります。

Out-of-pocket maximumは、このように医療費負担の上限を設定するもので、低ければ低いほど低リスク、高ければ高いほど高リスクということになります。なんとなれば、この額までの負担が必要になります。必要なら現金にアクセスできるように、HSAなど口座やその他でお金をプールしておくことが肝要です。

健康保険 プランを比較する

保険はリスク・マネジメントのツールです。万が一のとき、生活を脅かすような出費・損失によって家計が窮地に陥らないように加入するものです。

Deductibleは高ければ高いほど、Coinsuranceが高ければ高いほど、Out-of-pocket maximumが高ければ高いほど、保険料は安くなります。そのうえ、HSAのおまけもついてくるかもしれませんが、その分許容せねばならないリスクは高く、消費者としての責任も重いことになります。ただし、病気にならなければ、とてもお得な結果になるかもしれません。病気になるかならないかの「賭け」ということです。投資でいうならば、このようなプランはハイ・リスク&ハイ・リターンのプランです。反対に、DeductibleなしCoinsuranceなしのHMOプランは、月々の保険料は高めで、おまけもないかもしれませんが、医療費というリスクはきちんとマネージされている、ロー・リスク&ロー・リターンのプランです。自分たちのニーズを把握し、それに見合ったプランを選択する必要があるのです。

たとえばこんなプランのチョイスがあった場合、何をどう比べればいいのでしょう。どんな病気になって、どんな治療が必要で、それがどのくらいつづくか誰にもわかりませんから、きちんと計算してベストのものを選ぶというのはほぼ不可能です。今回は、そんなふうに迷った時のポイントみたいなものを考えてみたいと思います。

Deductibleを見る

まずはDeductibleがあるかないかを見てみましょう。Deductibleの設定のないもの、つまりDeductibleがゼロのものは、年が明けてすぐ医療サービスを受けても、その最初のサービスからすでに保険のカバーが始まるものです。一方で、Deductibleの設定のあるものは、まずはその額を自分のポケットから支払ったところではじめて、保険のカバーが始まります。

ゼロDeductibleプランは、HMO(Health Maintenance Organization)のことが多いです。HMOプランは、ネットワークにとどまることが必要だったり、スペシャリストにかかりたい場合はPCPからのReferralが必要だったりとしばりがあることもあります。ですが、補償面ではとにかく低リスクで保守的なプランです。多少月々の保険料が高めでも、値段を気にしながら病院に行きたくないひとにとっては心強い選択です。

AとBはゼロDeductibleプランです。Office Visit(外来)は$20のCo-payを自己負担すれば、あとは保険がカバーし、Impatient(入院)は$250を自己負担すれば、あとは保険がカバーします。Surgeon(執刀医)は自己負担がなく、保険がカバーします。AとBでOut-of-pocket Maximum(1年間で自己負担しなければならない最高限度)がかなりちがいますが、カバー内容的にはどちらも非常に手厚いです。なので、何度も入院したり、何度も通院したりということがなければ差が出ない(AのOut-of-pocket Maximumより自己負担額が多くなる確率がかなり低い)かと予想されます。AとBではおそらくネットワークの範囲や提携病院グループが違うと予想されます。好みのお医者さんや病院系列がある場合には、内容を見て決めるのがよいでしょう。

残念ながら最近では雇用主ベネフィットで、ゼロDeductibleプランが提供されていないケースが多くなりました。また、州のMarketplaceなどでもゼロDeductibleプランは少なくなったように思います。

Deductibleがあるプランならば、そのDeductibleまでは払う心づもりとお金の準備があるべきです。「なるべく医療費をかけないように」、「なるべく病院に行かないように」ではなく、あらかじめDeductibleまでは自腹を切るつもりでいることです。「おかしいな」と思ったらすぐ病院に行くけど、もしもあまり行く必要がなければラッキーくらいの構えのほうがよいように思います。とくに小さなお子さんがいる場合や健康問題が出始める年齢以上の方の場合は、お医者さんに行くのを躊躇するのは避けたいところです。

C、D、EはどれもDeductibleの設定があり、段階的に高くなっていきます。Eなどは、かなりDeductibleが高額なので、ちょこちょことと受診するようなケースはすべて自己負担になります。あらかじめこの心構えをしておくことと、Deductibleまでの額を払えるようHASやエマージェンシーファンドで準備しておく必要があります。

Out-of-pocket Maximumを見る

まずは、最悪ケースが起こったとき、一年で負担しなければならない最大額がこれだということを確認します。AとBに関してはCoinsuranceの設定がありません。つまりすべての出費は固定費で起こります。よって、Out-of-pocket Maximumにまで達する可能性はかなり低いと言えます。ただ、何度も通院、入院をすれば、その可能性はないとは言えませんのでこの額はすぐに払える準備がなければなりません。

Cが最も高いOut-of-pocket Maximumが設定してあり、Familyで$14,200です。このプランは、Deductibleが低いので少し自己負担すれば保険カバーが始まるという気楽さがあります。その一方で、その後のCoinsuranceが30%と高く、ちょっと入院、手術となれば費用がかさみ、Out-of-pocket Maximumまでの費用負担が起こりやすいプランであるといえます。保険料は安いかもしれませんが、危険度は高いプランです。健康ならばコスト削減も可能かもしれませんが、いったん医療サービスが必要になると費用がかさむプランです。

DとEはOut-of-pocket Maximumは$6,400と$9,000なので、最悪ケースが起こってもCよりは負担がしやすいです。DのほうがOut-of-pocket Maximumが低いだけでなく、Deductibleも低いので早く保険のカバーも始まります。しかしDのCoinsuranceはEのそれの2倍の20%です。Deductibleが低いので早く保険カバーが始まるものの、Coinsuranceが20%のため、自己負担額はEの2倍になります。ただし、どんどん医療費がかさんだ場合は早くOut-of-pocket Maximumに達するので、$6,400以上の負担にはならないプランです。High Deductible PlanなのでHSAが使え、Employerが$1,000積み立ててくれるのはプラスです。

一方でEは、Deductibleが高いのでなかなか保険カバーが始まりませんが、いったんカバーが始まると、Coinsuranceが10%なので自己負担は比較的楽なプランです。もし医療費がかさんでいっても、最悪$9,000までしか負担しなくてよいプランです。High Deductible PlanなのでHSAが使え、Employerが$1,500積み立ててくれます。健康なのでほとんどお医者さんにはかからないと思うが、もしも病気やケガの場合には、なるべく負担を少なくしたい人にはよいプランかと思います。

そもそも保険は、不慮の出来事が起こって家計が立ち行かなくなるほどの損害があった場合に対応するためのリスク・マネージメントですから、保険を持っているのに立ち行かなるようなことがあってはなりません。Out-of-pocket Maximumが想定内であることを確認します。

Coinsuranceを見る

上ですでにCoinsuranceは話に登場していますが、再確認です。Coinsuranceは%で提示されており、それが自己負担になります。一方で、一番初めに出てきたCopaymentはドル表示されているものです。なんとなく似たことばですが、Copaymentは比較的気楽にとらえて大丈夫、Coinsuranceは注意が必要です。

なぜかというと、前者は絶対額で$20とか$50とか$250とかと指定してあるものでその額さえ負担すれば、あとの自己負担はありません。トータル費用が$500だろうが、$50,000だろうがあとは保険会社がカバーする*わけです。一方、Coinsuranceのほうは%なので、トータル額が$500か$50,000か大きな違いができます。たとえばCoinsuranceが10%であった場合、自己負担は$50か$5,000かの大きな差になります。これがさらにCoinsuranceが30%だったらば、自己負担は$150とか$15,000という数字になってしまいます。%はクセモノです。 (*たまに、Copaymentが設定されており、それを超えた部分にはCoinsuranceが設定されているような組み合わせ型もあります)

実際にいくらかかるかを計算してみる

できればCoinsuranceは低くOut-of-pocket Maximumも低いのが一番です。

Coinsuranceは低くOut-of-pocket Maximumが高い(プランE) のと、

Coinsuranceが高くOut-of-pocket Maximumが低い(プランD)とだったら、

どちらがいいかというと悩むところです。 とにもかくにも、

CoinsuranceもOut-of-pocket Maximumも高いもの(プランC)は

高リスクなのでできれば避けるのがよいです。

HSAがついてきてEmployerが積み立ててくれるのは魅力かもしれませんが、そこを先にみるのでなく、まずは保険プラン自体ののリスク対応レベルをきちんと見ることろから始めるのがよいように思います。

たとえば手術が必要になり入院、手術で$30,000、5回のフォローアップ通院(1回$150)などで$30,750のトータル費用がかかったとしましょう。各プランでの費用は以下の通り。これと月々の保険料、HSAの有無などを考え合わせて、自分の許容できるリスクレベルを考えていくというかたちでしょうか。

AとBなら、$250(入院)+$0(手術)+$20x5(通院)=$350の負担

Cなら、$500(Deductible)+($30,000-$500)x30%+$150x5x30%=$15,575

=>Out-of-pocket Maximum$7,600の負担

Dなら、$1,400(Deductible)+($30,000-$1,400)x20%+$150x5x20%=$7,270

=>Out-of-pocket Maximum$4,000の負担

Eなら、$2,200(Deductible)+($30,000-$2,200)x10%+$150x5x10%=$5,050

=>Out-of-pocket Maximum$4,500の負担

なお、上は一人の人のケースです。もしFamilyプランを使っている場合、Cで母親が$7,600の負担をしてOut-of-pocket Maximumに達した後は、母親がどんな医療費があっても100%保険が払います。一方で、息子が医者にかかった場合、息子は息子個人のDeductibleを満たす必要があります。息子の自己負担が$6,600に達し、母親と息子合計で自己負担が$14,200になって初めて、それ以降は100%保険がカバーするようになります。

月々の保険料がいくらかも重要なポイントかもしれませんが、上のチャートにはあえて保険料を書いていません。いきなり保険料から比較を始めるより、医療サービスのかかりやすさ、健康維持のしやすさ、もしもの病気やケガのときの補償をしっかり考えてから、保険料に目をとめたほうがよいように思います。

5 comments

  1. いつもブログ拝見しています。

    当記事には関係のないリクエストですみません。PFIC税制についてご存じでしたら、記事にしていただけないでしょうか。

    日本に投資信託を持ったままにしている在米民は多いと思います。FBAR同様申告義務があることを知ってから驚く方が多いようです。

    PFICの手続きは複雑怪奇ですので、概要を記事にして頂くだけでも、道しるべとなる在米民は多いと思います。

    ご検討いただけますと幸いです。

    1. PFICは悩ましいエリアですね。これは税務の専門家のエリアで、私の知識では責任あることが書けませんので、残念ながら取り扱うことができません。お役に立てずすいません。

  2. まさに10月下旬の保険更新でこの記事を参考にさせて頂きました。
    有難うございました。

    今年の保険内容の更新があった際、保険料が9.6%上がるが会社の負担率は変更しません、というお知らせが来ました。更新内容を確認すると、Deductibleが個人$500 > $900、家族$1,000 > $1,800になり(それでも低い方もしれませんね)、OOP が個人$5,400 > $7,400、家族$10,800 > $15,000に変わるというものでした。ちなみにCoinsuranceは0%です。何かあった時の負担額が前年の約40%上がるという事で、私個人としてはかなり驚き、また、自分自身今年手術を経験したので、保険という観点から別の良いプランに踏み切りました。質問ですが、Coinsuranceが0%の時、OOPに達するのはよっぽどの事がないとという感じでしょうか。そのほかの保険のカバー内容にもよるかと思いますが。。また、HSAは会社が提供するようなものですか。あまり聞きなれなく、ご教授頂けますと幸いです。

    1. 今年のオープンエンロールメントではおそらく多くの企業で保険料が上がる(あるいはカバーが下がる)ということが起こっているのではないかと思います。Deductibleが上がったのは残念ですが、でも0%Coinsuranceはとてもうれしいことですね。おっしゃる通り、よっぼどのことがないかぎりOOC Maxには達しないですよね?Deductibleも比較的低いし、DeductibleとOOC Maxの間は、そうするとDrugとかなのでしょうか?
      HSAはHigh Deductible Planを持っているときにしか使えないので、BWSWさんのDedutibleでは使えないです。

  3. お返事ありがとうございます。
    私もこの更新内容は、インフラなどの影響ではないか、と直感しました。どこの企業も同じようなのかもしれませんね。また、やはりCoinsurance 0%(以前と継続)は良いな、と思っていましたが、どうも保険会社の保険料値上率と個人負担額値上率の違いに納得がいかなかったので、参考になりました。$900のDeductibleもこのご時世比較的低い方なのですか。。。でも、良い保険プランに踏み切った結果、いざという時あまり心配しなくても良さそうです。
    HSAのご説明も有難うございました。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください