エステートプラニングを怠ると?

シリーズ第一回目「エステートプラニングとは? 相続を考える」では、エステートプラニングは、お金持ちだけがすればいいものではなく、また遺書だけで終わりというものでもないということを書きました。遺産税(日本でいう相続税)がかかることを心配する必要のある人はそれほど多くないとしても、プロベートという問題についてはみな考えておく必要があることも書きました。では、エステートプラニングをちゃんとしていないと、どういうような問題が起こるのでしょうか?ケーススタディーで見てみましょう。

 

ケース1: もらって欲しい人に渡らない

GregとAnnaは結婚後、お互いに生命保険を掛けました。それぞれの生命保険金のベネフィシアリー(受益者)は、お互いを指名しました。5年後、ふたりは離婚しました。その後、GregはJennyと一緒に生活をするようになり、Jennyの連れ子だったRyanとSeanとの4人家族として5年間暮らしました。Gregはある日職場で倒れ、脳梗塞のため戻らぬ人となりました。Gregの収入が減ったため、生活の維持に苦悩するJennyは、以前Gregが生命保険を掛けていたことを発見しました。ところが、生命保険のベネフィシアリーは、離婚後も変更されず前妻のAnnaのままになっていたので、生命保険金はAnnaに支払われました。Gregが生きていれば、きっとJennyに受け取ってもらいたかったと思ったでしょう。

 

多くの州では、生命保険金は離婚があろうが、その後再婚があろうが、指定されたベネフィシアリーにそのまま支払われます。一部の州では、離婚があると、自動的にベネフィシアリー指定(元配偶者の)が無効になる州もありますが、これは少数派です。上のような事態を防ぐのは簡単です。定期的に、すべてのベネフィシアリー指定を見直し、最新の自分の意思が反映されているかを確認します。離婚だけでなく、新しく子どもが生まれた、家族が亡くなったなど、ライフイベントが起こったあとは、特にベネフィシアリーの再確認が必要です。

 

ケース2: 残された子どもの運命はいかに?

DanとVictoriaには、EricとAngelaの二人の子どもがあります。Ericは7歳、Angelaは5歳です。ある日、DanとVictoriaは子どもたちをベビーシッターに預けディナーに出かけ、帰宅途中、飲酒運転の車に衝突され、ふたりとも病院で息を引き取りました。ふたりには遺書がありませんでした。この場合、ふたりが誰に子どもたちを引き取ってもらいたいか、後見人になってもらいたいかということについては、公的に指定する文書がないということになります。Angelaには仲のよいいとこがおり、Angelaが生きていたら、おそらくこのいとこに後見人になってもらいたいと思ったに違いありませんが、それを公的に確認するすべはもはやありません。

 

こうなるとアメリカでは裁判所が登場します。裁判所が、子どもや家庭環境、亡くなった親の考えなどできる限りの情報を集め、子どもにとって最良な結果となるように後見人を指定します。指定された後見人は、Angelaの思っていたとおり彼女のいとこかもしれませんし、まったく意にそぐわない他の親戚かもしれません。後見人が決まるまで、子どもたちも不安な日々を過ごすことになります。

 

解決法は簡単。遺書をつくり、その中で後見人を指定しておくだけです。

 

ケース3: 遺産税以外の相続コスト・・・

SamとKateはお互い再婚同士。13年前に出会い、しばらくしてからKateが住んでいた家にSamが引っ越してくる形で結婚生活が始まりました。その後ふたりはしあわせに暮らしましたが、一昨年持病の再発でKateは亡くなりました。ふたりともふだんから、金銭や財産の話し合いをすることを避けており、お互いの死後のことなど考えてもいませんでした。Samは気持ちを取り直して、他州に引っ越し新しい生活を始めようと決意しました。ふたりで住んでいた家を売り、Kateの残してくれた預金を使い、新生活立ち上げの費用に当てようという目算でした。ところが、家は再婚してからもタイトルの変更をしていなかったので、Kateだけの所有となっていました。また銀行口座もKateだけの名義でした。このふたつは法的に相続人を決めるためにプロベート(検認裁判)にかけられました。

 

7ヶ月待って、やっとプロベートが終わり、Samは家と銀行預金を手にすることができました。合計$400,000ほどのKateの財産に対してかかったプロベート費用は、$11,000の弁護士費用、$1,200の裁判所費用、$11,000の執行者費用で、合計$23,300の出費となりました。

 

もしKateとSamが事前に話し合い、家はふたりのジョイント所有に、銀行預金もジョイント口座にしておけば、7ヶ月待つ必要もなく、また$23,300のプロベート費用も払うことなく、Samは財産を引き継げました。

 

ケース4: 親の愛を賢く残すトラスト

Lauraは離婚後ふたりの子どもを育てました。Calebは21歳、Bethは18歳です。Calebはカレッジに入りましたが、半年で休学し今は家に戻ってきてLauraと暮らしています。働くつもりもないようで、食費や交際費などもLauraが支払っています。最近はあまりたちのよくない友達と付き合っているようで、ドラッグなどに手を出しているのではないかと心配しています。Bethはこの秋から州外の私立大学に通うことが決まっています。Bethはお金に執着がないと同時に、お金のことに関心もないので、一人暮らしをするにあたって、マネーマネージメントを学んでいく必要性を感じています。

 

Lauraが自分の体調の不全に気づいて病院に行ったときには、すでに進行の早いガンにおかされていることがわかり、それから入退院を繰り返し6ヵ月後には亡くなりました。自分にもし何かあったときに備えて、Lauraは以前から、リタイヤメントアカウントや生命保険などベネフィシアリーは50%、50%でCalebとBethに指定しておきました。よって、CalebもBethもまとまったお金を相続しました。

 

しかしながら、Lauraにとってこれは願うべきことだったでしょうか?Calebはまとまったお金をもらってどうなるでしょう。うまく運用できないどころか、大金がころがりこんだのをいいことに余計に復学したり仕事を探す意欲をなくすかもしれません。もっとひどいとドラッグにお金をつぎ込むかもしれません。Bethもまだお金の扱いを知らない18歳です。一度に大きなお金をもらっても戸惑うに違いありません。

 

こんなときLauraの大きな味方になったであろうしくみがトラストです。、トラストをつくり、自分が亡くなった場合は、リタイヤメントアカウントの残高や生命保険金をトラストという器で管理し、知識のある人に管理をお願いすることにします。そして、そこからCalebとBethの必要に応じお金の引き出しを許したり、あらかじめ決められたタイミングで数回にわたってお金を拠出したり、さらにはカレッジの卒業などある一定の条件が整ったときにまとまったお金を配分するというように、細かい指示を指定しておくことができます。

 

ケース5: 安らかに逝かせて欲しいのに・・・

Russは78歳で一人暮らし。ある朝、自分で不調に気づきすぐ病院に向かいましたが、そのまま意識不明に陥り、その後8時間の手術を受けるも、意識は回復しないままICUで看護を受けています。他州に住む弟のBillは兄の回復を心待ちにしていましたが、なかなかよいニュースが来ないまま1ヶ月がたちました。待ちきれずRussを病院に見舞ったBillはRussの様子を見てショックを受けました。彼は、人工呼吸器と人工透析機につながれ、生命を感じさせる状態ではなかったのです。3ヶ月がたちました。BillはRussの延命はRuss自身が望むことではないと確信し、医師にその旨を伝えましたが、医師からの返事は、「あなたはRussのためにそのような決断をする権限がありません」の一本やりでBillの意向は反映されませんでした。結局5ヶ月間、Russは機械につながれたまま過ごし、最後には大きな医療費を残し亡くなりました。

 

RussがPower of Attorney(委任状)を用意し、このような場合には、Billに判断を任せることを明確にしておけば、このような結果にはなりませんでした。

 

ここでとりあげたケース1~5は、あらかじめきちんとしたエステートプラニングによって故人の意向がはっきりと明示されていれば、もっとスムーズで最適な対処がなされたであろうことがらです。次回は、エステートプラニングでとりあげられるべき内容についてカバーしていきます。

 

注)エステートプラニングは、専門知識が必要な分野で、州によっても法律が異なったり、また法律は刻々と変化するということもあり、それを専門にした弁護士などに相談されることをお勧めします。Smart & Responsibleはパーソナルファイナンスの中の一要素としてエステートプラニングをカバーいたしますが、弁護士ではありませんので法的な手続きや詳細に責任をもつことはできません。以下に記しますことは、あくまでファイナンシャルプラニングの観点から見た場合の一般論としてご理解ください。

4 comments

  1. こんにちは!カリフォルニア在住です。エステートプランナーは、弁護士資格を有した人にお願いするのが基本ですか?それとも弁護士ではなくても、それを専門としてサービスを提供する人というのは存在するのでしょうか?また、エステートプランニングをしてくれる弁護士は、どうのように探すのが一番よいですか?人の紹介が安心ですが、周りに紹介してくれそうな人がおりません。

    1. 遺書もリビングトラストもその他法的書類も、たとえばオンラインサイトなどやソフトウエアを使って作ることは可能です。簡単でストレートフォワードなケースならそれで十分かもしれません。弁護士さんにお願いすれば、それらのサイトやソフトではキャッチできない細かいところや複雑なところをカバーできるということでしょう。ケースバイケースの相談などが必要であれば、エステートプラニング専門の弁護士さんが最適だと思います。

  2. とても詳しい情報有り難うございます。日本人がアメリカのエステートプラニングのスキームを利用することは可能だと聞きました。そのためには株式会社を設立する必要があると聞いたのですが、この人の言っていることは正しいのでしょうか?また日本人で保険を扱う資格を持っている人はこのエステートプランニングをアレンジすることは可能なのでしょうか?教えてください。

    1. コメントありがとうございます。エステートプラニングは非常に範囲が広く複雑でケースバイケースですので、ご質問いただきました件は簡単にお答えできるものではないと思います。返答は控えさせていただきます。

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