Morningstar評価基準改定が私たちに語るもの

モーニングスター社がファンド評価の新システムを導入したのが2011年。そして2019年末から2020年にかけて、この新システムがさらに洗練されました。過去の投資成績が将来の投資成績を予想するのには不十分/不正確であるという事実を踏まえ、ファンド運営を質的に評価するしくみが必要になったことと、ファンドの成績を予想するのにはファンド手数料が大きな要素であることの理解が進んだことが変更のポイントであるように思います。2008年の金融大恐慌以降、ファンドの低手数料化とインデックファンド投資が大きく躍進していますが、今回のモーニングスター評価システムの改定も、この流れを組むものです。

2011年 スター評価からアナリスト評価へ 

1つ星から5つ星までであらわされるスター評価は1985年に開始しました。過去3年間、5年間、10年間のパフォーマンスを調べ、それをほかの同様なファンドたちと比較して、どのような成績順位であったかによって星の数を付与するものです。下のように、トップ10%であれば5つ星、その次の22.5%に入っていれば4つ星、真ん中35%なら3つ星という具合で、ボトム10%だと一つ星となります。スター評価は純粋に過去の業績評価でした。

これに加えて、Gold、Silver、Bronze、Neutral、Negativeの5段階であらわされるアナリスト評価が2011年に開始しました。その名のとおり、アナリストがファンドに対して評価を行うもので、ほかの同類のファンドより業績があげられる傾向や、インデックスファンドであればそのベンチマークよりよい業績があげられる傾向など、ファンドの質的内容を問います。評価基準には5つの柱があり、それらは、People(ファンドマネージャーの能力・適正)、Parent(ファンド会社のビジネス傾向)、Process(ファンド運用プロセス)、Performance(業績)、Price(手数料などを含む値)です。

数的データだけではなく、面と向かってのファンドマネージャーとのインタビューなども含まれ、過去の数字だけに頼るスター評価に比較して、より多くの包括的かつ質的情報を吟味します。実際、この評価システムが導入された裏には、スター評価だけでは光を当てられない部分に光を当てるという目的がありました。アナリスト評価はファンドやファンド会社の質的評価を含み、今後このファンドがよい成績を収められそうかを判断するために役立つ未来予想型の評価システムです。

ファンド投資家として学ぶべきこと: 

  • 投資をする者にとって、「何に投資すべきか。どのファンドに投資すべきか。」を考えるとき、過去のパフォーマンス成績に基づく判断だけでは不十分であり、ファンド運営に関する考え方や運営手法などに関する質的な要素がより重要なこと。
  • 過去成績の星の数より、アナリスト評価での上位成績(Gold、Silver)のほうが将来の成績予想に有意義であること。

2019年から2020年 アナリスト評価を改定

2019年11月には、アナリスト評価の方法がより洗練され1年をかけてすべてのファンドに新評価が導入されていきます。2011年の改定では、将来の成績予測にとって必ずしもあてにならない過去の業績評価から、より関連性の高い質的評価システムの導入がなされましたが、今回の評価改定は、将来パフォーマンス予想をさらに精錬するために行われました。

People(ファンドマネージャーの能力・適正)、Parent(ファンド会社のビジネス傾向)、Process(ファンド運用プロセス)、Performance(業績)、Price(手数料などを含む値)の5つあった評価指標から、People、Parent、Processの3本柱での評価へと簡素化される一方で、これまでよりもファンドの手数料がより大きく考慮されようになります。

一般的に手数料の高いアクティブファンドは、これまでは似たような他のアクティブファンドと比較をベースに評価が決められていたところ、改定後は、アクティブファンドとインデックスファンドとの直接比較がしやすくなります。今までは、他のアクティブファンドと比べて成績が「比較的に」良ければ、GoldやSilverが付くこともありましたが、今後は、高い手数料差し引いたあとで残る成績がインデックスファンドの成績よりまさっていなければGoldやSilverなどの成績が付くことはなくなります。アクティブファンドにとっては、これまでのような「ごまかし」がきかない、より厳しい評価を受けることになります。投資家にとっては、「まやかし」のないより明白な判断基準が示されることになります。

さらに、「買い方(シェアクラス)」ごとの評価が始まります。同じファンドでもあっても「買い方(シェアクラス)」によって複数の手数料が設定されているということはよくありますが、以前は異なる手数料であっても同じファンドなら評価がひとつであったところ、改定後はそれぞれの「買い方(シェアクラス)」ごとに評価が付きます。よって、同じファンドであっても、手数料が高ければ評価が悪いということになります。これも投資家にとって、判断がより簡単になる変更です。

同じファンドでも、セールスの人を通して買うのと、たとえばE*TRADEのような低コストブローカーを買うのとでは、「買い方(シェアクラス)」が違うので手数料が違います。まったく同じファンドに投資するのにもかかわらず、ひどい場合は買い方で1%以上も手数料が違うことがあり、それにより投資成績は大きく影響を受けるはずなのにアナリスト評価はひとつというちぐはぐさがありました。これが今後は各「買い方(シェアクラス)」での評価になります。

2019年末時点で123ファンドの 556 シェアクラスに対して、新評価が導入されました。この初期導入バッチでは、評価のダウングレードがアップグレードより多く、ダウングレード数がアップグレード数の2倍でした。また、手数料の高いファンドのダウングレードは、手数料の低いファンドのダウングレードの4倍でした。これを見るに、これまでよりもファンドがより厳しく評価されること、そしてその厳しい評価において特に重要な役割を果たすのが、手数料であることがわかります。

ファンド投資家として学ぶべきこと:

  • ファンドの将来的な成績予想をする際、手数料こそがかなり大きな役割を果たすこと。
  • アクティブファンドとインデックスファンドの単純比較が簡単になったら、おそらく低手数料インデックスファンド投資の優位性がさらに明白になるのではないかということ。
  • 同時に、インデックスを上回る成績を出す力のある数少ないアクティブファンド(ファクター投資とよばれるような低手数料のアクティブファンドと予想される)が明白になる可能性があることが期待できること。

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