2019年12月にSECURE ACTという法律が制定されました。本名は、Setting Every Community Up for Retirement Enhancement Actといい、アメリカで働くより多くの人がリタイヤメン準備を積極的に進めることができるよう、資金準備プランを使いやすくするということを狙った法律です。すでにリタイヤメントプランに参加している人にも、まだ参加できていないという人にも、関与する変更点がありますので、下に挙げていきます。
Required minimum distributions (RMDs) のスタートが70.5歳から 72歳に
高齢化にともなり、リタイヤする時期もくりあがり傾向であることを踏まえ、今まで70歳半だったRMD(お金の必要のあるなしにかかわらず、法律で定められた最低限度額を、当該年に必ず引き出さなければならないもの。Traditional IRAや401(k)などが対象となります)の開始時期が72歳に上がりました。2020年に70歳半になる人から、この新しいルールが適用されます。
2019年に70歳半になった人は古いルールが適用され、2020年の4月15日までに2019年分のRMD引き出しを行わないとペナルティ対象となります。しかしながら、これらの方への2020年分の対応については、暫定対応策もある可能性があり、税理士さんなど専門家にご相談く出さるとよいと思います。
Traditional IRAに70歳半を超えても積み立て可に
これまでRoth IRAについては労働収入がある限り(また収入限度など他の条件に引っかからない限り)年齢制限なく積み立て可能でしたが、Traditional IRAについては労働収入があろうとも70歳半が積み立て可能年齢の上限でした。今回この年齢制限が取り払われ、Traditional およびRothともにIRAには労働収入があれば積み立てが可能になります。
新ルールは2020年分から有効です。
パートタイム労働者も401(k)が利用できやすく
これまでは年間1,000時間以下のパート労働者は、勤めている会社で401(k)が提供されていたとしても、一般的に401(k)に参加することができませんでした。一部のケースを除く、今後は、一年で1,000以上労働した、あるいは連続する3年で500時間以上労働したEmployee全員に対して401(k)プランを提供することがEmployerに義務付けられました。
これまでパートで働いてきて401(k)が利用できなかった方々は、Human Resourcesに利用の権利について確認されることをお勧めします。
相続した Traditional IRA/401(k)は10年以内に引き出しが必要に
これまで相続にて受け取ったIRA/401(k)は自分の予想寿命の期間に応じて引き出せばよいというルールでした。よって、相続人の年齢にもよりますが、比較的若くして相続した人については、かなりの長期間での引き出しが可能でした。生活の必要に応じて引き出したり引き出さなかったり、また引き出し額も一度に多額にならないように分散するというような調整も可能で、結果的に所得税対策をとることが比較的容易でした。
相続人がもともとのIRA保持者の配偶者、Minor Child、障害や慢性病のある者である場合と、IRA保持者との年齢差が10歳未満である限りにおいては、このまま以前のルールが適用されますが、それ以外の相続人については、10年以内に全額引き出しが必要となります。2020年1月1日以降に保持者が死亡したIRA/401(k)が対象となります。
親が死亡し、40代、50代などキャリアピークで収入も多いフェーズの子どもに引きついだ場合などは、10年間での引き出し額にたいする所得税も大きくなるため、あらかじめのプラニングが肝要となります。401(k)やIRAの額が大きい場合などは、あらかじめエステートプラニングの専門家にご相談されるのがよいでしょう。
スモールビジネスに対しリタイヤメントプラン開始タックスクレジット
2019年12月31日以降、Employeeが100人未満(過去3年の間)であるスモールビジネスが、SEP IRA、SIMPLE IRA, 401(k)及びその他Profit Sharingのリタイヤメントプランをはじめる場合に、Employee(non-highly compensated employees)ひとりにつき$250のタックスクレジットを得ることができます(EmployeeではなくEmployerが得る)。ただし最低クレジットは$500、最高は$5,000です。
リタイヤメントプランが、Automatic Enrollment(EmployeeがOpt Outしない限り自動加入)が条件に含まれている場合にはさらに$500のクレジットがあります。
あなたがスモールビジネスオーナーならこの機会にリタイヤメントプラン開始を考慮ください。あなたが、スモールビジネスのEmployeeならば、下のMEPとともにオーナーにこのクレジットのことを教えてあげるとよいでしょう。
スモールビジネスが集まってリタイヤメントを共同提供しやすく
スモールビジネスがいくつか集まって共同でリタイヤメントプランを提供する(Multiple Employer Plan=MEPという)ということは以前からも行われていました。ところが、これまでは参加企業のひとつでもコンプライアンス上の問題があった場合、その該当企業だけでなく参加企業全体に対してペナルティが課されるというルールがありました。またMEPが結成される場合は関連会社や業種の似た会社同士でした。
今回の法律で、MEPのルールが解放され、無関係の企業でも共同リタイヤメントプランをつくることができるようになります(Open MEP)。スモールビジネスはOpen MEPに参加することで、比較的大きい企業の後を追うレベルのローコスト、ハイクオリティのリタイヤメントプランを提供できる可能性が高まります。
出産・Adaptionでペナルティフリーの引き出し可に
お子さんの誕生、あるいは養子縁組があった場合には、401(k)やIRAから、親ひとりにつき$5,000までペナルティなしの引き出し(Qualified birth or adoption distributionが可能になります。
でも、これはできる限りお勧めしません。
529資金をStudent Loan返済/Apprenticeshipに使えるように
529はカレッジ関係費用に利用しないと、利回り部分に10%のペナルティと所得税がかかりますが、今回の変更で、卒業後の残存額がある場合、それをStudent Loanの返済(元金および利子)にペナルティ/所得税なしで利用できるようになります。これは少し頭をかしげる変更ですね。529に残るほどお金があるなら、そもそもローンを組まないような気もしますが、ま、お子さんのキャリアへの士気を上げるため、529に十分なお金があっても敢えて(?)ローンを組んだような場合には有効かと思います。
また、さらにこちらのほうが利用価値が高いかと思いますが、カレッジに行かずともApprenticeship(Electrician、Plumber、Carpenterなどの職業訓練・見習い期間の費用)にも、529マネーが利用できるようになりました。
401(k) Automatic Enrollmentの上限%の増加
企業がAutomatic Enrollment(EmployeeがOpt Outしない限り自動でプラン参加させ、デフォルト%を自動的に積み立てるもの)を提供している場合の、Employerが設定できる積み立て%の上限が10%から15%に上がりました。
Automatic Enrollmentの場合、最初は3%など小さいパーセンテージから自動設定され、年々1%ずつ自動で上がっていくというような設定になっていることも多いです(Employerのポリシーによる)。これが15%まで上がり続けるということです(もちろん変更は可能。自分で設定しない限り、自動で上がる)。
401(k)での生涯年金受取額を提示
401(k)でAnnuityを購入したとしたら、生涯年金としていくら受け取れるか(都度必要額を引き出すのではなくて、月々同じ額を受け取り続ける)などの追加情報を開示するようになります。すでに大手雇用主のリタイヤメントプランのオンラインプラットフォームなどでは、このような情報が提供されていることが多いですが、これがさらに進みます。さらに実際に401(k)内でAnnuityオプションを提供するということもしやすくなります。
残高だけの表示だけでなく、将来的に月々いくら受け取れるのかが示されるのは有用だと思いますが、ただ前提条件により大きく結果が影響されるので、その額は確約ではないこと、前提の現実性がどうかなど考慮が必要です。
いつも最新の情報を提供して頂きありがとうございます。
パートタイム労働者も401(k)の提供の義務に関してですが、そもそも企業は401Kを提供する事が義務づけられているのでしょうか?それとも401Kがある会社はパート労働者に加入のチョイスあたえるという理解で良いのですか?
401KにとうとうANNUITY(保険)が入るのですね。過去の記事でANNUTYの説明して頂き有難うございました。読み返します。
すいません、書き方が悪かったですね。”401Kがある会社はパート労働者に加入のチョイスあたえる”ということです。本文にも付け足しました。ご指摘ありがとうございます。
私は労働法は詳しくないですが、州レベルはそれぞれ違うでしょうが、連邦レベルでは雇用主に401(k)提供を義務付ける法律はないように思います。ただ、401(k)は才能ある働き手の確保と維持に不可欠なので、労働者からのリクエストがあれば人事は動く可能性もあり、この点でもHuman Resourcesへの働きかけは有益化と思います。
ご説明ありがとうございます。就職や転職、フルタイム/パートにするにしても401Kがあるのと無いのでは退職時の貯蓄が全然違うと思いました。
もう一つ質問があります。”相続した Traditional IRA/401(k)は10年以内に引き出しが必要”ですがROTH IRAで相続した際は永久に保持できるのでしょうか?レガシーとして残せたら良いと思います。
宜しくお願い致します。
Roth IRAはRMDはありませんので、RMDのような引き出さねばならない制約はありません。永久に保持できるかは、それぞれいろんなケースがあるかと思うので、簡単にYESというのは控えておきますね。レガシーには利用できると思います。
回答ありがとうございます。取り合えずROTHに変更が無い事に安心しました。しかしROTHとTRADITIONALを上手く使い分ける必要がありますね。
米国在住20年になりました。毎回読ませていただいております。日本語でこのようなニュースを配信していただいて大変感謝しております。これからもご無理のない範囲で続けていただけると嬉しいです。
コメントありがとうございます。はい、元気でできる限り頑張りたいと思います!