*** 本記事は、「2015年企業概況ニュース 特別新年号」の初版が掲載され、「2015年度 デすまス帳押 Vol.19」に転載、2016年改定版が「2016年度 デすまス帳押 Vol.20」に掲載予定のものですが、前回の「私がHMOを選ぶわけ」と関係が深い内容と判断したため、ここにブログ記事として再掲載いたします。***
2014年から本格導入されたオバマケア。毎年新しいタイプのプランが追加され、ますます複雑化する健康保険選び。保険を買うのも使うのも一筋縄ではいかない現状。アメリカ健康保険をとりまく状況について、消費者の立場から抑えておきたいポイントについて考えてみます。
オバマケアでどうなった?
まずはオバマケアの導入で何が変わったか見てみましょう。オバマケアの狙いは、カバー内容が一定基準に満たないような健康保険をなくし、すでに健康上の問題を抱えていたとしても誰でも健康保険に加入することができ、金銭的な問題があればサポートを行うことで無保険者を減らしていくことです。無保険だった人も、各州が提供するHealth Insurance Exchanges(オンラインの保険検索・比較・購入サイト)を通し、収入と家族の人数に応じて助成金を受けるとともに、条件にあった保険に加入することができるようになりました。同時に、公的保険であるMedicaidの対象者枠が広められ、より多くの無保険者がMedicaidを受けられるようにもなりました。既往症があるため健康保険に加入できないということがなくなると同時に、病気になったからといって契約を中止されることもなくなりました。また、一昔前までよくあった1年間の医療費補償の限度額や、ライフタイム限度額を設定してはならないということになりました。健康状態や性別によって保険料に差が出るということもなくなり、26歳までの子は親の健康保険に加入することができるようになりました。また、50人以上のフルタイム雇用者を抱える雇用主には、健康保険の提供が義務付けられました。そのうえ、すべての保険プランで必ずカバーせねばならない基本的な医療サービス10項目が規定され、カバー内容が不十分な保険は存在しなくなりました。10項目には、外来診療や入院、緊急医療、処方箋などに加えて、マタニティケア、精神ケア、リハビリや、ラボなどの検査費用、予防ケアや慢性病対処なども入っています。とくに予防ケアについては、カバーせねばならない項目が決められ、それらは無料で提供されなければなりことになりました。特定のがん検診や糖尿病、婦人科検診もそれに含まれています。子どもについては別項目が決められており、予防接種、自閉症スクリーニングやカウンセリングなども含まれています。
保険内容が充実した一方で、内容が規定に満たない保険は提供中止を余儀なくされ、そのような低コスト保険に入っていた人々は以前より高い保険に入らざるを得なくなったという副作用も出ています。実際、州のHealthcare Insurance Exchangesで保険を検索してみても、本当に値段的に買いやすくなったと感じる人は少ないかもしれません。また、法規に準拠するためのコスト高を相殺するために、医師ネットワークを小さくする保険プランも出てきました。これにより保険のカバー内容自体は充実していても、医師や病院の選択肢が少なくなるという弊害が出始めています。この問題に対してどのような新しいトレンドが出てきたかについては、後ほど解説します。
アメリカ医療の現状
さて、アメリカ医療にはオバマケアをもってしても、簡単には解決されない問題が山積みです。健康保険はますます複雑化しています。HMO、PPO、POS、EPOなどといろいろな種類のプランが存在し、それぞれが異なるDeductible、Out-of-pocket Maximum、Co-pay、Co-insuranceの条件を設定し、また医師・病院ネットワークは同じプランでも年々変わるという現状。本当に理解して保険を購入し、本当に理解して保険を使うということがますます難しくなっています。よく理解しないで医療措置を受けてしまい、あとで大変な請求が来たというケースはよくあることです。
医療を受ける上で消費者を混乱させる要因のひとつは、医療価格のバラツキです。まるで同じ医療措置を受けても、病院によってその値段に驚くべきバリエーションが存在します。たとえば、カリフォルニアで盲腸の手術を受けた場合、もっとも安くて$1,500、最高は$182,995までのバラツキがあるという報告があります。ケタが2つ違います。ダラスでコレステロールレベルを調べる血液検査を受ければ、$15から$343まで、フィラデルフィアで頭部CTスキャンを撮れば、$264から$3,271までのバリエーションがあるという具合です。これらはすべて同じ保険のネットワーク内の病院・施設を対象にしており、どれもルーティン措置です。この値段の差は何なのか、誰も把握していません。また値段が高いほうが質が高いという調査結果も見当たりません。アメリカ医療の値段は、あってないようなかなりの「思いつき価格」であるといっても過言ではないかもしれません。DeductibleやCo-insuranceで自己負担するとなれば、これは私たちにとって大きな問題です。Deductibleが$5,000だった場合、費用が$1,500のA病院で盲腸手術を受ければ自己負担は$1,500ですが、費用が$5,000のB病院で受ければ$5,000です。Co-insuranceが30%だった場合、費用が$300のC病院でCTスキャンを受けると自己負担は$90ですが、費用が$2,000のD病院では$600です。手術を受ける場合も、まるで中古車を買うようにあらかじめ値段を調べて比較するということが必要になります。中古車を買うときはKelly’s Bluebookを使って値段吟味をしますが、医療の場合はHealthcare Bluebook(https://healthcarebluebook.com)などを使って値段を吟味することになります。質にももちろん注意を払わねばなりませんが、そもそも施設や医師の質に関してのデータは、入手が困難なことも多いでしょう。ホテル選びのように、オンラインで値段と質の情報がすぐに確認できればよいのですが、残念ながら現在のアメリカはまだその段階に来ていません。
消費者を困惑させる二つ目の要因は、医療ネットワークの複雑さです。ご存知の方も多いと思いますが、アメリカで手術を受けると請求書は複数個所から届きます。まずは医療施設、それから執刀した医師、麻酔科医、生体検査をする病理医、その他ラボテクニシャンなど、さまざまな医療サービス提供者が独立して関わりあい、ひとつの手術が成立しています。それらすべてのサービス提供者がネットワーク内であることを確認するにはかなりの労力が必要になりますが、保険プランによってはその責任が患者にあります。こんなホラーストーリーがあります。「子どもが、ネットワーク内の病院で、ネットワーク内の執刀医によって心臓の手術を受けたところ、アシストした外科医がネットワーク外であった。患者にはその事実は知らされないまま手術が行われ、アシスト外科医からの請求額は$6,400。健康保険では$1,400のみがカバーされ、残高の$5,000は個人負担となった。」また、手術とまでいかなくても、こんな例もあります。「ネットワーク内の放射線センターで、乳がん検診(マモグラム)の定期健診を受けたところ、マモグラムの結果を読み診断をした放射線医がネットワーク外であった。放射線医からは後日$110の請求があり、この女性は$110を個人で支払うことになったうえ、健康保険会社はそのうち$58.64分しか、Deductibleの計算に数えてくれなかった。」知らず知らずのうちにネットワーク外のサービスを使ってしまうと、医療費ががくんとつり上がるだけでなく、DeductibleやOut-of-pocket Maximumにもフルにカウントしてもらえないことで、さらに自己負担が増加します。特に医療のバックグラウントがない一般人には、自分の受ける医療措置にどんな人がどのように関わるか把握することは至難の業とも言えますが、これもアメリカ医療の自己責任です。
さらに消費者を直撃する三つめの混乱要因は、緊急医療のエリアにあります。緊急性の低い医療措置の場合は、値段の見積もりをとったりネットワーク内かどうかの確認をする時間もありますが、救急の場合はなかなかそうはいきません。たとえばこんな例も。「脳内出血のため運ばれたネットワーク内の病院では手術の準備がなかったため、ネットワーク内の他の病院に搬送されそこで手術を受けた。執刀した脳外科医はネットワーク外の医師であったため、後日$40,091の請求が来た。保険会社は、ネットワーク外扱いとして$8,386だけをカバーし、残りの$31,704は患者の個人負担となった。」 先ほどの「医療の値段は思いつき価格」が、救急医療のエリアではさらにエスカレートする傾向があるようです。ある調査では、緊急医療での放射線科、耳鼻咽喉科、神経外科、医師アシスト、ラボサービスのエリアでとくにその傾向が激しく、適正価格(メディケア規定価格を基準とする)と比較した場合、その20倍から30倍以上の価格設定がされていたという結果でした。患者自身が意識がなかったり、あっても他を選んでいる余裕がなかったりするのが救急ですが、そんな状況にあっても残念ながら安心して医療を受けることが難しくなっています。
消滅しつつある消費者保護
さて、この選びにくく使いにくい健康保険には消費者である私たちにとって大きな頭痛ですが、同時に保険会社や雇用主も高騰し続けるコストという大きな問題を抱えています。オバマケアという言葉はメディアに取り上げられ注目されることも多いトピックですが、実はアメリカの健康保険にはこれとは別に、もうひとつ根底に流れる大きな変化があります。それは、高騰するコストをコントロールするため、じわじわと消費者への保護が削られると同時に、消費者は医療費コントロールに関してより大きな責任を負わされるようになってきていることです。前者は、保護の手厚いプランから手薄のプランへの移行という形で進められ、後者は、High Deductibleプランなどの消費者主導型保険への移行という形で進められています。まずは、前者から見てみましょう。
そもそも医療費の高騰は昨今に始まったことではありません。1980年代には医療保険料抑制のために、マネージドケアという概念が導入され、保険会社が、保険給付の対象となる医療サービスの範囲を制限したり、受診可能な医療機関の範囲等を制限するなどのマネージメントを行う保険が登場しました。HMOがその先駆けです。1980年代に大きく浸透し一定のコスト削減をみたHMOですが、その後も医療コストは増え続け、保険会社はさらなるコスト削減策を迫られました。そこで登場したのがPPOです。HMOよりも自由度の高い医師選択が積極的にPRされ1990年になるとPPOの加入者はHMOのそれを上回りました。その後も異なる形態の保険プランが出現し、POSやEPOなどと呼ばれるものも開発されました。ここで、消費者にとって問題となるのは、新しいプランが登場するにつれ消費者保護の度合いがだんだんと低下している傾向があるということです。
消費者への保護という意味では、HMOの横に出るものはありません。PPOやPOSの台頭とともに、ネットワーク外の利用が極度に限られ、プライマリー医を通さねば専門医にアクセスができないHMOは「自由度が低い」として敬遠される傾向がありました。しかしながらここには、自由度が低い分、HMOや医師が責任を請け負ってくれる部分が大きいという利点があります。まずHMOでは、保険会社がネットワークの中に「十分な」医師、専門医、その他の医療サービス提供者を揃えることが法的に義務付けられ、各州がそれを検査評価することになっています。もしも、必要な医療措置や治療を行うことができる医師がネットワークの中に見つからなかった場合には、追加料金なしでネットワーク外で医療サービスを受けることができるという権利も法的に守られています。またプライマリー医やメディカルグループなどのアレンジで専門医にかかったり、手術を受けたり、特殊施設を利用した場合は、その中にもしもネットワーク外のサービス提供者が関わっていたとしても、その支払いや交渉はすべてHMOの責任になり、患者は差額を支払う義務はありません。救急医療が必要だった場合は、規定のCo-payなどの負担を超える医療費については個人の責任とはならないことも法的に規定されています。HMOをルールにのっとって使う限り、上で挙げたような医療費ホラーストーリーはほぼ心配無用といえましょう。
PPOにもある程度の法的保護があるもののHMOに比較すると限られ、その他のプランにいたってはさらに手薄になる傾向があります。この法的保護の有無はよく見かけるプラン比較表などではとりあげられることがなく、保険プランの詳細冊子などをよく読んで比較して初めてわかることです(追記しますが、法的保護は州によっても差があります)。年々のオープエンロールメントで保険プランを選ぶ場合、Deductible、Co-payment、Co-insuranceなどの情報は比較表に載っていますが、このような消費者保護の違いについてはほとんど言及されません。この差をよく知らないでPPOに加入する人も多いでしょう。National Committee for Quality Assuranceの最新のレポートでは、加入者数ではPPOがHMOよりはるかに優勢であるものの、実際の満足度という面ではHMOのほうがはるかに優勢であるとしています。トップ20に選ばれた保険プランのうち16がHMOプランでした。この満足度は、おそらくプライマリー医と専門医、その他の医療施設の間のスムーズなコーディネーションがゆえに、ストレスの少ない治療と請求が実現されているからだろうと推測されます。
さて、ここまでが消滅しつつある保護という側面ですが、もうひとつの側面、増え続ける消費者責任という側面に焦点を移しましょう。
消費者主導型保険の登場
ここ数年で加入者数が力強い伸びを示しているのが、High Deductible プランと呼ばれるものです。控除額を上げることで保険料を安くするとともに、もしも病気になったときのために一定額以上の医療費の補償だけは確保するという高額医療保険です。2016年では、Deductibleが個人で$1,300以上、ファミリーでで$2,600以上であり、かつOut-of-pocket Maximumが個人で$6,550以上、ファミリーで$13,100以上であるものがHigh Deductibleプランと定義されます。従来の(High Deductibleでない)プランにHMOやPPOなどの形態があったように、High Deductibleプランの中にもHMOやPPOの形態が存在します。High Deductibleプランを持っている場合、Health Savings Account(HSA)を利用する資格が得られます。実際、雇用主がHigh Deductibleプランを提供する場合、HSAと一緒にパッケージ化されて提供されることもよくあります。これらは、消費者主導型保険(Consumer-driven Healthcare)と呼ばれます。
High Deductible プランは、設定されたDeductibleを消費者が負担し終えるまでは、保険のカバーが発生しません。HSA口座にお金を貯めておき、Deductibleを満たすまでの医療費や、Deductibleを満たした後に発生するCo-insuranceなどの医療費をそこから捻出します。医療の選択や医療費の支払いに消費者がより直接的に関わることになります。先に書いたように、医療機関によっての値段のばらつきを調べ、できるだけ安い機関を選んだり、ネットワーク内での医療を調整確認したりという責任を消費者が負うことで、消費者は自分の医療費を低く抑えようというモティベーションを持つことになり、ひいてはシステム全体としての医療費の削減を実現することを目標にしていています。これが消費者主導型と銘打たれる所以です。
High Deductibleプランは、健康であまり医療サービスを使わない人であれば保険料が非常に低く抑えられるという特典があります。場合によっては雇用主がHSAにいくらか積み立ててくれるおまけもついてくることもあります。またHSAに自分で積み立てた金額は、所得税控除対象となります。HSA口座内では、IRAなどと同じく利回りに税がかからないまま投資することができ、将来的にはリタイヤメント資金にも充てられるなど魅力的なポイントがたくさんうたわれています。このPR戦略が功を奏し、ここ数年で人気がぐんと高まり、従来のプランからHigh Deductibleプランへの移行が進みました。2015年にはHigh Deductible プランの加入者は全体の24%にまで伸び、今後もこの傾向は加速度的に進むと考えられています。
実は、High Deductibleプランは、雇用主がコストの一部を雇用主から消費者個人(雇用者)に転嫁することができる、態のよいコスト削減策であるということはあまり知られていません。雇用者がHigh Deductibleプランを選ぶと、雇用主は従来の(High Deductibleでない)HMOプランに比べて20%のコスト削減、従来のPPOプランに比べて17%のコスト削減が実現するというデータがあります。雇用主が17%なり20%なりのコスト削減ができるということは、押しなべて平均すればそのコスト分を患者が負担せねばならないということかもしれません。消費者に対するPRでは低い保険料や税金上優遇されたHSAが強調され、実際にその利益を享受する人も多くいるでしょうが、反対にいったん病気になると大きな医療費を抱えて困窮する人もすでに出てきています。消費者主導型保険はいってみれば、私たちにとってはハイリスク・ハイリターンの健康保険です。甘いPRは耳にやさしいですが、利点の裏に 隠れる消費者に求められる責任というものについてはあまり触れられていません。消費者主導型保険では、消費者は自分が受ける医療について主導的立場をとることを期待されているのです。医療行為の取捨選択、医療サービスの値段と質の比較吟味、医療を受ける施設や措置をする医師がネットワーク内かどうかを確認すること、請求に問題がないかを確認することなどを含む、医療費コントロールの責任を自分で負うということです。44%の雇用主が今後3年から5年かけて、High Deductibleプランだけの提供に切り替える予定であるという調査結果もありますから(2014年時点)、今後選べる保険がHigh Deductibleプランのみということになる可能性も高いでしょう。負わされる責任はよく理解して臨むこととHSAなどの提供されているベネフィットは賢く使うことが、後悔のない保険利用につながるでしょう。
401(k)型 健康保険
雇用主経由で健康保険に加入している人は、今後も引き続きさらなる変化を見ることになるようです。今後数年間で導入が始まると予想されるのが、Private Exchange型での健康保険提供です。コスト高と複雑化する法律遵守に悩む雇用主は、外注化の魅力を感じています。現在各州が提供しているHealth Insurance Exchangeの民間版である、Private Exchangeと呼ばれるものを利用する方法です。雇用主は、自社用にカスタマイズされた健康保険プランを提供する代わりに、健康保険購入のために一定額を雇用者に付与します。雇用者は、そのお金を使って、第三者が運営するオンラインサイトのPrivate Exchangeにいき、そこで提供されている健康保険プランの中から自分のニーズにあったものを買うというしくみです。いわば「企業年金から401(k)へ」の健康保険バージョンともいえるでしょう。従来の企業年金は確定給付年金であり、将来もらえる年金額が決まっていました。雇用主が投資し、投資リスクは雇用主が負い、個人はリタイヤメント後あらかじめ定められた年金額をもらえました。一方、401(k)は確定給付年金と呼ばれ、雇用主が一定額を付与して、それを雇用者が好きに投資し、将来もらえる額は自分の投資成績次第です。個人は投資の自由を得たと同時に、投資を選択し維持する責任を負うことになりました。投資リスクは、雇用主から個人に移されました。これと同様に、Private Exchange 型では健康保険に関しても雇用主の責任は一定額を付与するだけにとどまり、保険の選択、購入、利用に関しては個人の責任ということになります。現在44%の雇用主が、このようなやり方が好ましいという意向を表明しているというデータがあり、消費者主導の自己責任での医療確保というものに拍車がかかっていく可能性があります。
この制度が導入されるときには、はじめてPPOやHigh Deductibleプランが導入されたときと同様、華々しいPR活動がされるでしょう。「自分で自由に保険が選べます」とか「雇用主から付与されたお金をどう使うかはあなたの自由です」などというように。自由の裏には責任があります。私たちはそれが本当に自分にとって有利なものか、適切なものかを見極めていく必要があります。また、責任を負うことになった場合は、その責任をよく把握しておくことも必要です。
短期健康保険
ここまで、雇用主提供の健康保険を中心に話を進めてきましたが、個人市場でのトレンドを付け加えておきます。
オバマケアでは、Preexisting condition(既往症)のある人、過去に大きな病気をした人でも、差別なく誰でも保険に加入できるようになったため、医療サービスの利用度や利用可能性が高い人々が加入する一方で、健康な人々は買い控えをしている現状があり、保険会社にとってのコストは上昇傾向、ゆえに保険料値上げに踏み切る保険会社も少なくありません。保険が買いやすくなるどころか、上がり続ける保険料ゆえにどんどん買いにくくなっている現状において、比較的安価に加入ができる短期健康保険が人気を集めています。
短期健康保険とは、Short-term Health Insurance とかTerm Heath Insuranceとか Gap Health Insuranceなどの名で呼ばれる新型保険です。これらの保険は、もともとは、何らかの理由でオバマケアのオープンエンロールメント期間に加入することができなかった人のために、短期的な補償を提供することを目的につくられ、あくまで一時的で限定的な保険としてはじまりました。
オバマケア認定の保険(オバマケアの補償内容や条件を満たした保険で、これ以降オバマケア保険と呼ぶ)に比較して限られた補償内容となっており、主に、ある程度高額の医療費がかかった場合にフォーカスして補償を行うものです。また、オバマケア保険では、健康状態や既往症によって加入を拒否されたり保険料が上がることはありませんが、短期健康保険では、生命保険のときの同じような医療スクリーニングが必要とされる場合もあり、健康上の問題を理由に加入できない場合もあります。また、加入が許された場合でも、2年さかのぼり既往症と認められた症状については補償がないなどの限定がある場合も多いようです。 短期健康保険は、健康上のリスクが高い人は加入させず、さらには限定的な補償内容を提供することも許されているため、オバマケアの条件を満たす保険に比べるとその分コスト安にできるという利点があります。オバマケア保険の平均月額保険料は$271であるのに対し、短期健康保険のそれは$100というデータがあるのもそれゆえです。
このコスト安に多くの人が惹かれ、短期健康保険はもはや、オバマケア保険に入りそこなった人の一時的な保険という位置づけを脱し、オバマケア保険の代替保険になりつつあります。短期健康保険加入者の40%は、保険期限が切れた後、同じような短期健康保険に引き続き加入するというデータもあり、オバマケア保険には入らず短期健康保険でつなぎ続ける層も出てきたことを物語っています。とくに、18歳から34歳までの若くて健康なグループが好んで短期健康保険を購入しているようです。
しかしながら短期健康保険は、保険料は安いものの、その限定的な補償内容ゆえに何かあったときの自己負担額は大きくなりがちであるという危険性をはらんでいます。連邦政府の各家庭での医療費負担平均額(Deductible、Copay、Coinsurance)は$3,301という予想データがあるのに対し、短期保険加入者の負担平均額は$4,000弱というデータもあり、コスト安のはずの短期健康保険が結局は高くつく可能性があることを物語っています。さらには、短期健康保険ではオマバケア認定の保険とはみなされず、オバマケア制度上ではあくまで「無保険」とみなされるので、無保険者に課せられる罰金の対象となります。利用には吟味が必要です。
このような変化の中に生きながら、消費者としてどう保険を選びどう保険を使うかの具体的なポイントについては、今後も順を追って考えていきたいと思います。
岩崎淳子 Smart&Responsible代表、CPA/PFS
junko@smartandresponsible.com
smartandresponsible.com
ありがとうございます。とても分かりやすいです。日本のようにどこの医療機関を利用しても請求額に差がない、(あるとすればその他の部分)方が、患者側にしてみれば本当に比較しやすいですが、アメリカではそうはいかないですね。まさに医療はビジネスになっているアメリカです。医療の質は外からでは全く見えません。アメリカのほとんど人がPPOに加入しているのは、アメリカの企業の多くがベネフィットとしてPPOを提供し、HMOを提供する企業が少ないことも関係しているのでしょうか?
おひさしぶりです。turtleさん。そうですね、HMOはどんどん選択肢から姿を消しつつあるようです。。