リタイヤメント資金の積立フェーズは割とシンプルです。とくに、インデックスファンドをベースにした高分散のパッシブ投資に徹しているなら、ただただ積み立てればいいだけで、多くの場合ファンドを選んで投資比率をセットしたらあとは月々の積立運用はシステムがやってくれます。一方でリタイヤした後は案外考えることがたくさんあります。いくら引き出すか、どの口座から引き出すか、どのファンドを現金化するか、どのタイミングでするか・・などなど考えることも多くなります。資金が早期枯渇してしまうことは大きな問題ですから慎重にならざるをえません。
月々いくらの生活費を見込むか・・これは考えなくてはならない要素の中でも大変重要なものです。毎月毎月のことですから、正しく見積もるか間違えるかで、その影響も一生間に及びます。多くのファイナンシャルプラニングのツールや記事などで「給与の70%」などというように、リタイヤ前の給料をベースに、その一定パーセンテージをリタイヤ後生活費として見込むということが良く行われます。
たしかに何かの予想を建てるとき、どこかスターティングポイントを設定して始めなくてはならないので、最終給与というのが使われるわけですが、いったいこれは的を得たものなのか、よく使われる70%という数字は適切なのか、今日はそのあたりを吟味してみたいと思います。
消滅する費用
「今手取りが〇〇ドルで、毎月それでなんとか生活しているから、それくらいはないと困るのでは」と、ついつい銀行に振り込まれる給料を念頭に考えがちですが、リタイヤ後は意外にも「手取りが増える」効果があります。リタイヤメント生活に入る時点で、消滅したり、あるいは減額する費用というものがあるからです。主なものは以下です;
- 所得税(連邦): 老後の収入のうち、Roth IRA/Roth 401(k)などすでに税を払ったお金を積み立てて準備した資金は税金がかかりません。401(k)やTraditional IRAは全額が課税されます。ソーシャルセキュリティは年収に寄りますが、最大で85%までの額が課税されますが、全額課税ではありません。よってたとえ同じ額を得るとしても、労働収入で得るのと、リタイヤメント後の収入で得るのを比べると、税額が減ることがほとんどです。
- 所得税(州):所得税がない州ならそもそもこれは全くかからないことになりますが、州の所得税がある州であってもソーシャルセキュリティについては非課税という措置があったりするので、税額が減ることがあります。
- リタイヤメント積立:401(k)やIRAなど、月々/年々積み立てていた額は、もはや必要なくなります。リタイヤメントが眼中に入ってき、給料もそれなりに増えた50代以降は、月々$1,000~$2,000のレベルで積み立てていらっしゃる人も多いでしょう。これが実際リタイヤメントに入るとすっかりなくなるわけですから、大きな費用削減です。
- ソーシャルセキュリティ税とメディケア税:雇用されている人は、給料の6.2%を収めています(雇用主も同様に6.2%を負担)。リタイヤしてソーシャルセキュリティ年金、ペンション、アニュイティの受け取り額、401(k)やIRAからの引き出し額は労働収入でないため、これらの税金はかかりません。
- 529への積立て/大学費用: お子さんが大学をすでに卒業されてからリタイヤされるケースがほとんどでしょうから、この時点では529への積立金や、大学の費用負担は考慮しなくてよくなります。アメリカの教育費は大きいですし、習い事/スポーツ/塾などもかなりまとまった額です。お子さんが複数人いらっしゃる場合にはさらに大きな額になります。これがリタイヤ後にはなくなるとすると、かなりの費用減少となります。
- 保険料: 万が一のことがあった場合のために、勤労時代には、生命保険や所得補償保険をお持ちの方も多いと思います。リタイヤメントに入った時点では、すでにお子さんの扶養義務はなくなり、十分な資金も準備できている状態でしょうから、多くの場合これらの保険は必要なくなります。
- 交通費: 通勤にかかっていた費用、ガス代、パーキングパーミットの料金などもなくなります。
試算してみる
年収レベル別に、リタイヤ前の給料から差し引かれる費用やその他かかる費用などを試算してみたものが下記です。それぞれブルーがリタイヤ前、グリーンがリタイヤ後の試算です。
たとえば、リタイヤメント前の年収が$100,000の場合、月々のグロス収入は$8,333となり、そこからFederal Tax、State Tax、Social Security Tax、Medicare Tax、State Disability Taxなどが引かれ、雇用主提供の健康保険料(Health Insurance Premium)と任意で積み立てる401(k) Contributionが引かれた上で、手取り額は$5,562となります。ここから教育費や生命保険費、交通費などの費用を引くと、「残った生活費」つまり、住居費、ユーティリティ、食費、生活衛星費、被服費、娯楽費などをカバーするための額が$4,612となります。
一方で、この方がリタイヤした後はどうなるかを考えたのがその右(グリーン)です。一般的によく用いられる、リタイヤメント前収入の70%という数字を使ってみました。$100,000の70%は$70,000であり、月額にして$5,833です。Federal TaxやState Taxはかなり少なくなり、またSocial Security Tax、Medicare Taxなどは消滅します。健康保険は雇用主保険がなくなり、自分でメディケアに加入しますので、収入から自動的に引かれる雇用主保険料は消滅します。401(k)の積み立てもなくなります。よって手取り額は$5,392となり、収入は70%レベルに下がったものの、リタイヤ前の手取り額$5,562と比べてほぼ同じくらいのレベルです。
そこからメディケアでの保険料)を自分で支払ったあと(メディケアアドバンテージかメディギャップで程度のよいプランに入ると仮定。場合によっては保険料はソーシャルセキュリティ収入から差し引かれる形の場合もあり)、ここに書いていないそのほかの生活費(住居費、ユーティリティ、食費、生活衛星費、被服費、娯楽費など)のために残る額が$4,392となります。リタイヤ前は$4,612でしたから、収入が70%になってもほぼ同じくらいの生活費が残ることになります。
年収$100,000の場合は、リタイヤ後は70%の収入でとんとんの「残った生活費」が実現しましたが、年収$75,000になるととんとんの「残った生活費」を実現するためには80%の収入が必要となるのがわかります。
また、もっと高収入のケースを見てみると下のようになります。高収入になればなるほど、とんとんの「残った生活費」を実現するのに必要なグロスでの収入パーセンテージが下がるのがわかります。年収$150,000では67%で、年収$250,000なら60%でもほぼ大丈夫ということになります。
残った生活費も実はまちまち
さらに「残った生活費「ですが、上述のとおりこれには、住居費、ユーティリティ、食費、生活衛星費、被服費、娯楽費などが含まれますが、これはリタイヤ後もリタイヤ前と同じレベルの出費があるかないか、減るか増えるかはかなり個別ケースでバリエーションがあります。
たとえば、持ち家をお持ちでリタイヤ前にモーゲージローンを完済する予定にしているのなら、残った生活費の中の住居費のうちモーゲージ返済額が消滅します。火災保険とプロパティ税は残りますが、西東海岸の住宅が高騰している地域ではモーゲージもそれなりの額であることが多いので、大きな費用の削減になるでしょう。
他州に引っ越したり、同じ州でもダウンサイズして住み替えがあれば、住居費の内容と額が大きく変わることもあります。
メディケアに入ってからの保険料ですが、これは雇用主によってはリタイヤ後の健康保険プログラムを用意されていたり、そうでなくともHealth Reimbursement Account(HRA)などを通して補助金が出たりする場合もあります。その場合は費用がかなり削減されます。またもちろん入る保険を変えれば、費用も下がります。
娯楽費などは、リタイヤ後は今までやりたくてもやれなかった趣味に生きたいとか、新しい習い事をしたいとか、世界中を旅行したいなどいろいろな夢もおありでしょう。その場合には大きく増えることもあります。このような費用は、月々の純粋な生活費(固定費用に近いもの)と別に変動可能な費用として認識しバジェットすることが賢明でしょう。
つまるところ、リタイヤメント後の生活費は「年収の〇%」という単純な目安では把握しきれないこと、結局はそれぞれのケースで項目をひとつずつ洗い出して予算を組むことが必要ということになるかと思います。
なお、ここでの試算はカリフォルニア州のご夫婦のケースを想定しました。
かかる税の種類や税率は州によって異なりますので、ご自分のケースは下で試算してみてください。
リタイヤメント前
https://smartasset.com/taxes/paycheck-calculator
リタイヤメント後
これは我々のための様な記事ですね! ところで、Smart&ResponsibleはLLCですか、Sole Proprietyですか?「会社」は作りたくないのですが、来年からももしかするとなにかの責任問題になった時、LLCの方が安全なのかなと考えます。もう一度CPAにも相談しますが、色々な人の意見を聞いておきたいです。