転職するとき、401(k)をどうするかについてご相談を受けることも少なくありません。ご相談いただく方は、401(k)があることを分かっておられるのでよいのですが、今回の記事は「忘れられた401(k)口座」の話です。この「忘れられた401(k)口座」、かなりの数と残高に上るようでなんとももったいないことです。転職は、職場環境、もしかしたら住む場所なども変わる変化のとき。今ある401(k)をどうするか・・は、なかなか考える機会がないまま・・ということもあるでしょう。
Capitalize社の調べによると、 転職によりそのまま残される401(k)は、一年間で280万口座あまりと予想され、2021年5月現在で、累積2,430万口座がそのまま放置されており、残高の合計は$1.35トリリオンにも及ぶとしています。たとえ最初の残高は微々たるものでも、そのまま忘れ去られた401(k)はそれなりの投資に回されていればですが年々着実に増えていきますから、累計でこんなにも大きな額になったのではないかと思います。
アメリカでは(今では日本でもですね)転職は珍しいことではありませんし、ミレニアム世代に至っては人生で12回転職すると言われています。若いころは401(k)など大して積み立てていないかもしれないし、新しいキャリアで忙しい時期に随分先のリタイヤメントのことなど考えもしないかもしれないですね。また、最近では本人が「積み立てている」という感覚がなくとも、デフォルトで給料の一定パーセンテージが自動的に(Opt-outしない限り)401(k)に積み立てられているということもよくあります。こんな場合は、余計に忘れ去られることになるでしょう。
401(k)があることを忘れていなくても、転職するときいったいそれをどうするべきか悩むひとも少なくありません。お金を出したり動かしたりするのには、それなりの思い切りと手間が要りますから、悩んだけれどとりあえずそのままにしておこうと考えるのも無理がありません。そのうち、その口座のことを忘れてしまったり、また忘れていなくても口座番号やログイン情報を忘れてしまいどう確認すればいいかわからなくなってしまって、ついついそのままということもあるでしょう。また、年々401(K)の新しいプランが開発されていますから、雇用主が401(k)自体を変更するということもよくあります。そうなると以前の古い401(k)の情報がそのまま使えない(口座がなくなることは決してないはずです)ということもあるでしょう。つまり、そのままにすればするほど、どんどん忘れ去る確率が高くなると思います。
転職したとき、既存の401(k)をどうするかにはいくつかのオプションがあります。
1.そのまま残す
これは、忘れ去るのではなくて、意識的にそのまま残す方法です。とくに現行の401(k)のプラン内容が充実したものであるのなら、この選択は大いに意味があります。 例えば以下のような理由があります。
投資の選択肢が魅力的: 質のよい401(k)プログラムだと、ふつうでは利用できないような良質ファンドが選べたりということもあるでしょう。大きな企業や団体だと、その雇用者専用のファンドをつくっており、外からでは利用できないようなものもあります。
手数料が低い: これも上と関係しますが、企業や団体がまとめて投資するからこそ、非常に低い手数料でファンド運用が可能な場合もあります。
こんな場合は、そのまま運用が理にかないます。
2.転職先の401(k)にロールオーバーする
転職先の401(k)のほうが、より内容が充実したプランを提供しているのなら、今まで貯まっているお金を新しい口座にロールオーバしてしまい、これから積み立てる分と一緒に運用する方法です。これは、転職先の401(k)がルールオーバーでの入金を許している場合にのみ可能です。これは401(k)プランによりますので、直接問い合わせます。
3.IRAにロールオーバーする
現在の401(k)の内容がそれほどよくない、転職先の401(k)にはロールオーバーできない(あるいは、ロールオーバーできても、プラン内容がそれほどよくない)場合には、第三機関にIRA口座を開いて(あるいはすでにあるIRA口座へ)ロールオーバーをすることを考えます。VanguardやCharles Schwabなどの低手数料のファンド会社を使えば、多くのファンド選択肢の中からきニーズにあった低手数料ファンドを選ぶことができます。
4. キャッシュアウト
最後に、401(k)を解約して引き出す(キャッシュアウトする)という選択肢です。ただし、結論からいいますとこれはお勧めではありません。比較的若い人だと、どうせ少ない額だしもらえるならもらってしまおうと引き出しを考える人もいるようです。401(k)からの引き出しは所得税課税と10%ペナルティ(59歳半以下なら)の対象になりますが、給料がそれほど高くなければ税率も知れていますし、残高がそれほど多くなければペナルティも大した額ではないかもしれません。
しかしながら、401(k)に入っているお金は利回りが非課税のまま増え続けますし、今若くてリタイヤメントまで何十年もあるならなおのこと、現在の残高がたとえたいした額でなくとも、将来にはものすごい額に増えていきます。たとえば、25歳のとき$10,000の残高も、そのまま6%の利回りで運用しつづければ、55歳の時には$57,000の資金に成長します。引き出しはできるだけ避けるのが得策です。
・・ということで、転職のときには401(k)もきちんとチェックし、1か2か3の選択肢から最適なものを選んで対処しておくことが肝要です。後でやろうと思うとわからなくなってしまったり、ついつい忘れてしまう、どんどんおっくうになりますから、転職のときにやってしまうのがいいと思います。そして新しい401(k)と合わせて全体的に最適なポートフォリオを組み、運用していくのが良いと思います。