前回の記事では、カレッジ費用の上昇傾向、ネットプライスとスティッカープライスのトレンドについてみてみました。インフレーション率をはるかに上回るレベルで値上がりしてきたカレッジ費用ですが、最近はその上昇率が少し落ち着いてきていること、またカレッジ費用自体が上がってもそれはあくまでスティッカープライスであり、必ずしも自己負担する額(ネットプライス)ではないことなども見てみました。
ならば実際に自己負担することになるネットプライスはいくらなのか・・これが私たちの一番知りたいところでありますが、これは簡単に知ることができません。実際にいくら必要かは、どこの大学に行くか、その大学が州立か私立か、その大学からはメリットエイド(ニードベースでないエイド)がどのくらい出そうかなど、かなりの個別情報が必要で、また実際大学に行くその時になってからこそわかることだからです。
とはいえ、大学に入学する随分前から学資準備をすることが肝要なわけですから、大学入学がまだ先であってもなんらかの目途をつけることが必要です。ネットプライスを知るための目途を立てるためには、まずは自分の家庭のファイナンシャルニードを知ることです。
ファイナンシャルニード
ファイナンシャルニードを決めるシステムにには大きく分けて二つあります。
Free Application for Federal Student Aid (FAFSA)
州立大学のほとんどと、多くの私立大学で使われるシステで、連邦政府によるファイナンシャルニード査定法です。フェデラルエイド、州のエイドなど公的なエイドはもちろんのこと、私立大学の大学独自でのエイド決定にも使われたりします。大学によっては、ニードとは関係ないメリットエイドであっても、FAFSAでの申請を必須としているところもあります。
FAFSAではExpected Family Contribution(EFC)を計算します。EFCは、収入や資産のレベルなど家計の状態をベースに割り出すもので、その家庭が自己負担すべきカレッジ費用額(年額)です。EFCが高いということは、家計にたくさんのカレッジ費用を負担できる力がありニードが低いということを意味し、EFCが低いということは、あまり自己負担できる力がなくニードが高いということになります。高いEFCでは、ニードベースのエイドがもらいにくく、反対にEFCが低いとニードベースのエイドがもらいやすくなります。
ご自分のその年のEFCは、どこの大学に行こうと一定です。つまり、EFCは家計にひとつです。一方、ファイナンシャルニードは行く大学の費用によって変わります。その大学でのご家庭のファイナンシャルニードは、その大学のカレッジ費用(Tuition and fees、Room and Board)からEFCを引いたものです。
アイビーリーグなどセレクティブな大学で使われることの多いファイナンシャルニード査定システムです。同じシステムを使っても、ニード査定の方式はそれぞれの大学独自の設定です。
CSS/Financial Aid PROFILE.の場合は、大学ごとに査定のしかたが違うこともあり、どのようにニードを決めるか、収入や資産がどのように計算に組み込まれるかについて固定的な方程式がありません。EFCに似たような指標を算出すると思いますが、算出法もEFCもひとつではありません。
ここではFAFSAについてだけルールを紹介します。FAFSAルールはニード決定の基本的考え方で、これをもとにしつつも、さらに細かい条件を加えることでCSS/Financial Aid PROFILE.ではさらに繊細なニードを計っていくものだとご理解ください。
数年前に、FAFSA申請についてのルールが変わりました。現在は、進学の年の前年10月1日から申請開始、申請するときのファイナンシャル情報は、進学の年の2年前のタックスリターン情報を使うことになりました。2020年に入学の場合なら、2018年のタックスリターン情報(すでにファイルしてあるので手元に存在する)を2019年の10月1日からFAFSAに入力することになります。タックスリターンから入力する情報は、2年前の収入です。
FAFSAには持っている資産も入力しますが、これはFAFSA申請するとき時点の資産を入力します。よって、年収は2年前のもの、資産は現在のものということになります。
FAFSAのニード決定にもっとも大きくモノをいうのは収入です。
Parentの収入
Adjusted Gross Incomeに、非課税所得、401(k)やIRAなどのリタイヤメントプランへの積立額を足し戻したもので、最高47%までカウントされます。401(k)などののリタイヤメントプランへの積立は、所得税控除になるためAGIを低くしますが、FAFSAでは足し戻されますので、積み立てによってファイナンシャルニードを上げることはできません。自分の会社をお持ちであったりSelf Employedの方なら、2年前の収入をある程度低くすることが有効でしょう。
一方で、W2ワーカーの場合、収入を減らすような調整はほとんどできないため、高所得の方は所得だけでニードベースのエイドの資格が得られない場合も多いです。この場合は、資産をどんなに減らしても何の役にも立ちません。
ただし、お子さんが2人かそれ以上同時に大学に通う場合は、カウントされる収入がその人数で割られますので、高収入の方でもニードベースの資格が得られる可能性が高まります。また、州立大学ではニードに資格がなくても、学費がそもそも高い私立の場合いはニードがありと判断される場合もあります。
Student自身の収入
ある程度の控除額(2020年の場合で$6,840)を超えると、50%がカウントされます。収入を得ることはぜひ奨励したいところですが、できればこの控除額以内に収まるようにするのがよいでしょう。なお、Work Studyの収入は、Studenttの収入にカウントされないので危惧する必要はありません。また、Work Study以外の収入についても、Senior時点でのFAFSAにはSophomore時点の収入が考慮され(2年前)、Junior以降の収入はFAFSAには関係なくなります。Junior、Seniorではたくさん収入を得ても問題ありません。
Parentの資産
FAFSAでは、家のエクイティ、401(k)やIRAなどのリタイヤメント口座、生命保険やアニュイティのキャッシュバリューはカウントされません。それ以外の資産は64%の率でカウントされます。
チェッキングやセービングなどの口座、ブローケージなどの課税投資口座、529などの口座は5.64%でカウントされますが、上に書いた通りそもそも収入が高すぎてニードが低くニードベースのエイドの資格がないときには、カウントされる資産を減らしても何の意味もありません。
収入がある程度低い場合には、資産の整理などを数年前から準備し、ニードを上げる(EFCを下げる)調整が肝要です。資産の整理はすぐにはいかないことが多く、また税金面からも短期間でせず複数年で計画的にしたほうがよいというケースも多いので、少なくとも入学前3~4年前までには計画を立てるのがよいでしょう。
Student自身の資産
20%でカウントされます。これもParentの収入が高くニードベースのエイドがもらえない場合には、何の問題もないのでそのまま持っていればよいですが、エイドがもらえそうな場合には、Student名義のお金はあらかじめ必要経費のために使ってしまうなど計画が必要です。
ニードがあるからといって・・・
EFCが決まり、大学ごとのファイナンシャルニードが明らかになったからといって、ニードがスカラシップやファイナンシャルエイドで100%満たされるかというと、必ずしもそうでない場合がほとんどです。
EFCはあくまでニードを測って、限られたファイナンシャルエイドのお金を効率的に学生に分配するための目安として使われるものであり、ニードを100%満たすために存在するものではないからです。
よってご自分のEFCを知ることは大切な第一歩ですが、次に必要なのはそれぞれの大学のネットプライスを知ることです。各大学に対し、Webサイトなどでネットプライスを計算できるしくみを提供することが義務付けられています。大学名と“Net Price”というキーワードでGoogle検索すると出てきます。
大学によって入力するべき情報の種類や情報の量は異なりますが、情報入力するとその大学にお子さんが進学した場合のネットプライス(自己負担額)が計算できるようになっています。
ネットプライス ケース1
たとえば、こちらは州立大学のケース。ParentやStudentの収入や資産、払った税金などのファイナンシャル情報を入力するとNet Priceを計算してくれるものです。EFCは$20,585である一方で、一番下にはトータルのカレッジ費用が$39,428とあります。差額の$18,843はファイナンシャルニードということになるのですが、この大学はニードの100%を満たしてくれません。$18,843のうち$9,343はフェデラルグラントがもらえますが、残った$9,500はStudent WorkとStudent Loanでカバーするとなっています。
実質上、ParentのEFCである$20,585と、Student WorkとStudent Loanでカバーする$9,500のトータル$30,085が自己負担(ネットプライス)ということになります。
ネットプライス ケース2
こちらは私立大学のケース。ParentやStudentの収入や資産に加え、GPAとテストスコアを入れると、メリットエイドのスカラシップまで計算してくれます。トータル費用は$54,046、そこに大学からのスカラシップが$14,000出て、ネットプライスは$40,046になります。これをカバーするためのStudent WorkとLoanのオプションも提供されていますが、基本的には$40,046が自己負担分です。なお、Student WorkやLoanはオプションとして提供され、必ず使わねばならないものではありません。Loanは組みたくなければ、その分を現金で支払うことになります。
この大学は、GPAとテストスコアでスカラシップがいくら出るかも公表しています。アプライする大学を決めるにあたって、合格するかどうかだけでなく、合格したらどのくらいの自己負担がかかるかもかなり正確に査定することができます。
世帯年収ごとのネットプライス
世帯年収層ごとの全米平均のネットコプライスのグラフがあります(College Board調べ)。下は4年制州立大学のケースで、オレンジ部分がグラントでカバーされた額、青はTuition and fees、水色がRoom and boardやテキストブック、交通費などののその他のコストです。青と水色の総合がネットプライスです。
一番新しいデータが2015-16年のものとちょっと古いですが、たとえば世帯収入$120,000以上であれば、$29,320のトータルコスト(スティッカープライスと同義)のうち、オレンジのグラント部分は$3,500程度、ネットプライスは$26,000程度という風に読みます。
私立の場合は、NonprofitとFor-profitに分かれます。
Nonprofit私立の場合、$70,000~$119,999までの収入だと、$49,740のトータルプライスに対し、$20,000超のグラントが出て、ネットプライスは$30,000弱になります。
一方For-profit私立の場合、同じ$70,000~$119,999までの収入で、トータルプライスはNonprofitより安い$35,360ですが、グラントは$4,000強しか出ず、ネットプライスは$31,000強となり、ネットプライスレベルではNonprofit、For-profitで変わりない結果になります。
いつも大変興味深く読ませて頂いております。
今回の記事は数年後に大学生を持つ私にとってとてもためになるものでした。
質問ですが、大学はこの高額な一年間の学費を一括で払うように言ってくるのでしょうか。
それとも学期の初めに分割で払えるものなのでしょうか。もしよろしかったら支払方法やローンのことについて教えていただきたいです。
どうでしょう、おそらく大学ごとにいろいろな支払い方が用意されているのではないかと思いますが、もっともオーソドックスなのは、セメスターごととか、クオーターごとなど、学期ごとの請求だと思います。
大学のネットブライスについて、ご参考までに書かせていただきます。
この度、娘がDuKe大学に合格し、喜びも束の間、合格通知と共にやってきたネットプライスをみて、しばし硬直状態でした。が、冷静に家計と比較すると、普段の生活で贅沢しなければ、なんとか支払える金額でした。
合格発表翌日には早速、Zoomによる、学費についての説明会が行われましたが、今回のコロナウイルス騒動で収入が下がった家庭には、新たに価格の設定を変更する準備があると言うことでした。コロナに限らず、家計状況が、変わった場合には、各生徒に用意する学費カウンセラーに相談したら、学費の変動は可能だと言うことで、各家庭から引き出し可能な金額をマックスで設定するような印象をを受けました。なので、収入が上がれば、翌年の学費が上がり、家のローンを終わらせれば、またまた学費が上がり、、、と、逃げ道がない気がします。
ちなみに、支払いに関しては、一括、半期ごと、または、セメスターごとに、5回払いと言う、オプションがありました。
Duke大学合格おめでとうございます! こんな状況ですが、めでたいお話は気が上向きますね。エイド申請後いろいろ状況がかわったり、エイドの申請フォームでは反映できない状況があるときなどは、professional judgementというのが効くようですね。
新学期からジュニアにいる子供がいます。大学のことについて調べ始めここにたどり着きました。いろいろと参考になり勉強させていただいてます。家のローンが3年ほど残っているのですが、貯蓄を切り崩せば完済できる状況なのですがモーゲージがあるほうがないより学費が安くなると聞いたのですがその辺はどうなのでしょうか?年収はそう高くないのでニードベースは高いほうだと思うのですがそれでもモーゲージを終わらせてしまうと支障が出るものでしょうか?
CSS/Profileを使う大学はそれぞれのルールで運営するのでわかりませんが、一般的にはモーゲージの額はエイドには関係しません。もし関係するとしたら、年収がある程度低いのでエイドがでる状態であるのに、現金や投資資産が大きくそのせいでエイド額が下がってしまうような場合に、現金や投資資産を使ってモーゲージを支払うと資産が減るので、それによるエイド増額の効果があるかもしれないことだと思います。