コロナワクチンが広まり経済活動が次第に戻るとともに、アメリカのインフレーションは2021年3月に2.6%、4月には4.2%、5月には5.0%となりました。インフレ5%というのはアメリカにしては非常に高いレベルです。この高いインフレ率、今後も続くのでしょうか。多くの意見が、これらの高インフレは今後持続するものではないと見ているようですが、いくつかの記事を読んで見解とをまとめてみました。また、それに対して私たちはどんな姿勢をとればよいかも考えてみました。
- 4.2%、5.0%という物価上昇は、主に車の価格、不動産価格、原材料価格の上昇によるところが大きい。
- コロナによる経済活動の停止によって製造・生産が止まる一方で、Stimulus Checkが本当にお金に困っている人だけにではなく、お金に特に困っていない人々にも送られた。一方で家の外でのアクティビティが規制されたため、お金の使い道も限られ、アメリカに暮らす人々の現金残高トータルは、コロナによる封鎖期間に普段よりも$2トリリオンも増加した。いわゆる金余り状態である。
- 外食や旅行は差し止めになったので、そこで満たされるべき欲求が家のリモデルや不動産及び車の購買意欲を高めた。「コロナ下でも許された限られたお金の使い道」に対し、金余りの消費者が流れ込み、大きな値上がりを引き起こした。
- コロナ渦の初期に、自動車メーカーが車両に搭載する半導体の発注をカットしたため、新車の需要に対応できるだけの半導体が不足している状態が続いている。そのため新車だけでなく、新車の需要が流れた中古市場にも影響が出た。減った供給と増えた需要により、新車・中古車ともに自動車の価格が高騰した。2020年に、新車の平均価格は6%上昇、中古車のそれは14%上昇した。
- 家にこもってやることがない人々が家回りのリモデルに取り組んだ。さらには都市部からリモートワークとたまのコミュートが可能な郊外の不動産物件にオファーが殺到。新築も増え、これにより木材の需要が劇的に高まった。これにともない、木材の単価は300%も値上がりした。
- 全米の住宅価格の中央値は、昨年1年間で17%上昇。場所よっては、ローン・コンティンジェンシー(オファーがアクセプトされても、もしもモーゲージローンが下りなかったら、ペナルティなしにキャンセルできるというバイヤー保護の条件)や、インスペクション・コンティンジェンシー(オファーがアクセプトされても、もしも家のインスペクションで重大な問題が発見されたら、ペナルティなしにキャンセルできるというバイヤー保護の条件)など無しでのオファー、現物件を下見せずインターネットで見学のみでのオファー、何万ドル(場合によっては何十万ドル)も上乗せするというような尋常ではないマーケットも存在する。
- このような車、不動産、原材料の価格高騰は一過性であると予想されている。2022年までには半導体供給も需要に追いつくと予想され、また木材の供給も同様で、高インフレ環境は短期的なものであろうと予想される。Federal Reserveも、インフレの上昇については憂慮していないと再三再四コメントをだしている。(6/19追記:Federal Researveは、予想より大きいインフレ懸念を認め、利上げを当初の2024年から2023年に前倒しする可能性を発表しました。)
- 一方で給料(人件費)の高騰は当面続くかもしれない。未だ、Stimulus Checkが支払われており、いってみれば人々の労働に戻る意欲をそいでいるともいえる。企業は労働力を求めているのに、今は必要な人材を見つけられないでいる状態。雇用主は仕方なく賃金を上げており、Amazonは最低時給$15を$17に、Bank of Americaは最低時給を$20から$25に上げた。
- このような賃金上昇は、コロナ後の新しい雇用だけに影響を与えるのではなく、既存の労働者の賃金にも影響を与えると予想される。この賃金インフレはある程度の間、継続するのではないかと思われるが、Stimulus Checkが落ち着き、より多くの人が人材市場に戻れば、賃金も落ち着くべきところに収まっていくと思われる。
- コロナ災害対応、経済支援などにより、政府は今までに増してより大きな負債を抱えることになった。2020年にUSの負債は$5トリリオン増えて、トータル$28トリリオンとなった。一年で負債が約20%増えたことになる。負債が増えても、利子率が下がったため、利子絶対額は2020年には前年比$50ビリオン下がり$520ビリオンになった。「借りても安いからどんどん借りる、借りるためにどんどん紙幣発行する」のサイクルはインフレ率を上昇させる。ひいてはインフレ上昇により利子(Interest Rate)も上昇させる可能性がある。
- 家、木材、車の値段の上昇によるインフレは一過性のものである一方で、この政府の雪だるま式に増える負債の影響によるインフレは、より大きなリスクである可能性がある。さらに、これはドル安を招く可能性もある。
- 利子(Interest Rate)が上昇すれば、不動産価値の上昇にはストップがかかり、ひいては価値が下がる可能性もある。現在、インフレ上昇、利子の上昇を予測する人は多くはない(実際、過去何年も利子は上がるのではなく下がるものという通念が根付いている)が、2008年に「絶対上がり続けるはずの不動産価格」が下がったように、利子が上がる可能性は決してないとは言えない。そのときには、現在高騰した価格で住宅購入をした人々は、アップサイトダウン(家の価値よりローン残高が大きい状態)にならないともいえない。
- こう考えると、待てるものなら、ここしばらくは家や車を買うベストのときではない可能性が高い。(利子が今後上がる可能性はあるが、それでも過剰に価格が上がった市場での購買は得策でないのではないか。)
- 投資をしている者はどう考えればよいか。インフレが通常の2%レベルに戻るのなら、今まで通りの投資法で全く問題なし。反対にもしもインフレが上がるのであっても、インフレに強い株式インデックスファンドと、インフレには弱いが価格のアップダウンの少ない債券インデックスファンドをリスク許容度に合わせて組んだポートフォリオは、依然として有効である。どちらにせよ、今までの投資法を継続するのがよい。
- アメリカの負債増大は心配課題であり、それにともなりドル安になる可能性もある、ドル安のときには、一般的に外国株式ファンドが有利なので、このブログでお勧めしているとおり、USも外国も合わせた世界分散投資(US株式インデックスファンドと外国株式インデックスファンドの組み合わせ)が依然として有利である。