リタイヤメント口座にクリプトカレンシー?

401(K)やIRA口座でクリプトカレンシーに投資できるようになったら、どうしますか?実際、金融機関の中には、リタイヤメント口座でのクリプトカレンシー投資を可能にすべく動きだしたところがいくつかあるようです。この動きに対し、2022年3月10日にアメリカ労働省が、「Cryptocurrency Concerns: Why We’re Working to Protect Retirement Savings from Volatile Digital Investments」というタイトルの警告文を出しました。この警告文が功を奏したのか、その後401(k)にクリプトカレンシーのチョイスが増えた・・というような話はあまり聞いていません。

401(k)でなかったとしても、IRAやあるいはその他の長期投資において、クリプトカレンシーは長期投資のポートフォリオの一部として持つ価値や意味があるのでしょうか。以下労働省ガイドラインを簡単にまとめてみます(労働省は「401(k) Plan Investments in “Cryptocurrencies”」という文書も同時にだしており、その内容も入っています)。

**以下、要点抜粋**

リタイヤメントプランの中の資金は、将来的にリタイヤメント後の生活費や医療費などに使われる重要な資産であり、慎重に保護されるべきものである。このために、リタイヤメントプラン運営に携わる企業スポンサーや投資マネージャーは、Fiduciary(リタイヤメントプラン参加者の信託を受けて、参加者の利益を最優先に行動する人)として、リタイヤメント資産の保護のため高い義務を負っている。

昨今では、401(K)プランの中の投資オプションとして、クリプトカレンシーをプロモートしはじめた金融機関も出現している。このような金融機関の動きは、プラン参加者がクリプトカレンシーやNFT、コイン、その他の暗号資産などの関連商品へ直接的に投資することを可能とする。しかしながら米国労働省としては、クリプトカレンシーの浅い歴史を考えるに、この動きはプラン参加者を高いリスクにさらすことになるのではと深刻に危惧をしている。

クリプトカレンシーは広く普及し知名度も上がっているものの、その市場が今後どう発展するか、投資媒体としての基本的ルールなど、不確定要素が非常に高い。

クリプトカレンシーはリタイヤメント投資運用において、以下のような深刻なリスクを呈する:

価格評価に関する危惧

クリプトカレンシーの価格査定に課しては、専門家の中でも基本的な統一意見が確立されておらず、評価法とその信頼性が不透明である。一般的な投資媒体に適用されるような会計ルール、レポーティング方法やデータ管理の標準が、クリプトカレンシーには多くの場合適用されない。株式評価や負債の信用モデルなどに使われている手法に匹敵するような、健全で学術的なモデルが確立されていない。これまでにも、値段を虚偽に吊り上げるウソの情報を提示し、値が上がった状態で自らが所有するカレンシーを売却して利益を上げるような詐欺も発生している。

Informed Decisionをするための妨げ

クリプトカレンシーにまつわるリスクをよく理解しないまま、高い投資利回りだけを求める経験の浅い投資家がたくさん出る可能性が高い。事実と誇大メッセージとを見極めることは、投資経験のある者にも難しく、経験の浅い者にとっては度を越えて困難である。401(K)がクリプトカレンシーを選択肢として提供すれば、専門家がそれを信用に足る投資オプションとしてapproveしたと、プラン参加者が誤解をするようなことにもなる。結果的に、プラン参加者は関連リスクをよく理解しないまま、巨額の損失を被ることにもなりかねない。

値が短期間のうちに劇的に変化する

クリプトカレンシーの値動きは非常に激しい。Securities and Exchange Commission (SEC)は、クリプトカレンシー投資は非常に投機的である(ギャンブルに近い)という注意文を出している。評価法が確立されていないこと、投資家の中の投機的な行為、虚偽のあおりメッセージの蔓延、ニュース化される盗難や詐欺などにより、非常に度の大きい値動きにさらされる。昨年(2021年)12月にはたった一日のうちに、ビットコインの値段が17%も下落した。このような度を越した値動きは、投資家を巨額の損失にさらすことになり、とくにリタイヤメント年齢に近い参加者にとっては壊滅的な影響を与えかねない。

市場規制が発展途上である 

クリプトカレンシーにまつわる法律やルールはいまだ発展段階である。現在存在する法律やルールであっても、それに準拠しないまま取引をしている投資家も存在する。また、Financial Industry Regulatory Authority (FINRA)は、ビットコインやその他クリプトカレンシーは、麻薬取引、マネーロンダリングなどの不法取引のために悪用されているとの警告を発している。このような悪用が原因で、カレンシーの市場や売買プラットホームなどが法的にシャットダウンされたり制限されるという危険性もあり、そうなると一般プラン参加者も大きな影響を受けることになる。

所有・記録上の問題

クリプトカレンシーは、一般的な投資媒体のように口座内で管理されるわけではなく、その時の残高がいくらかがすぐチェックできたり、必要に応じてすぐに現金化するということが難しい。多くの場合、クリプトカレンシーはDigital Walletの中のコンピューターコードとして存在し、パスワードをなくしたり忘れてしまったら二度とリカバーできないというような場合もある。クリプトカレンシーの維持の仕方によっては、ハッカー被害や盗難の危険もある。

**以上**

ということで、リタイヤメントを主とする長期的な投資において、クリプトカレンシーは安定的に使うことができる投資媒体ではないと言えるかと思います。クリプトカレンシーに投資(というか投機)したければ、リタイヤメントや学資など目的を限った長期投資とは別枠で考え、投資金額を限って(最悪全部なくなっても、長期的には影響のない)持ち方をするのがよいように思います。

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