世界分散投資の意義を再考する

ホームバイアスという言葉をご存じでしょうか?投資をするとき、自分が住んでいる国の株式(債券も同じく)に偏って投資をする傾向のことをいいます。アメリカに住んでいたらUS株式にばかり注目し、日本に住んでいたら日本の株式ばかりに投資するというような具合です。過去にも多くのリサーチでこのようなホームバイアスの存在が認識されていますが、その理由についてはすっきりした説明がありません。ただ、考えてみればなんとなく人間心理的にあたりまえのような気もします。

今回のコロナウイルスの時代、どこか外国に行かねばならないとしたら、自分がいる国の方がよっぼと感染率が高かったとしてもなんとなく行く先での危険が気になったりしませんか。コロナ勃発後、私は日本には帰国していないのでわかりませんが、2003年だったでしょうかSARSウイルスが発生したときに、折をみて日本に帰ったことがあります。「日本に行ってくる」とアメリカ側の人に言うと、みんな口をそろえて、「行って大丈夫なの?危なくないですか?」と言いました。ところが今度は日本に帰ったら帰ったで、みんな口をそろえて、「アメリカから来たんだからアブナイ」と言うわけです。

株式投資にもそのあたりの心理が働くのでしょうか、投資しているポートフォリオを見てみると自分の居住国の株式により比率が置かれる傾向(ひどいと居住国のものしか投資していない)があるわけです。

住んでいるから安全とか、住んでいる国の株式のほうがリスクが少ないということは決してありません。ことに投資に関しては、みなさんご存じのリスク分散という概念があって、その観点からするとできるだけ広範囲で分散を行ったほうがリスクが下がるという真実があります。アメリカに住んでいたとして、US外の外国株(以下で外国株というのはUS以外の株のことです)を全く排除するというのは、かえってリスクを高めることになるわけです。2008年の金融恐慌あたりからじわじわとこの概念が広まってきて、リタイヤメントファンドなどでもUS中心の投資比率が見直され、外国株もポートフォリオに組み込むようになってきました。

世界でのアメリカの比率

グローバル株式市場における各国の市場比率は以下のとおり。アメリカは全世界の55%弱にあたります。アメリカの全部の会社の株式に投資したとしても、まだ世界に45%の投資しきれていない市場があるということになります。

コロナウイルスのロックダウンから社会活動が次第に取り戻されつつありますが、今後実際に株式市場がどのように推移していくかは神のみぞ知るところです。過去10年は、金融恐慌からの回復期を含み、USの株式市場は大変に好調でした。今後もそれが続くかどうか、あるいはどこかの国が上回るか、それを正確に知ることはできません。私たちにできることは、どこかの国に重きを置く形で“賭け”をするのではなくて、世界経済にまんべんなく投資し、リスクをコントロールしながらも全体的な回復と成長を確保していていくことだと考えます。

以下に外国株を持つことの意義をまとめてみます。

より高い成長率

Vanguard Investment Strategy Groupが、現在の株価をべ―スに将来10年間の予想成長率を出しています。将来10年間の予想年間利回りは、US株式は5.5%~7.5%であるのに対し、外国株式は8.5~10.5%としています。もちろんこれは過去のデータなどを使いシュミレーションにより割り出した数字ですので、この通りに絶対なるというわけではありませんが、外国株式への分散投資を大いに後押しする結果であるといえます。

リスク低下の効果

アメリカの株式とは異なる動きをする各国の株式を同時に持つことは、その異なる動きゆえにポートフォリオ全体のリスクを低下させる働きがあります。ひとつふたつの会社に絞らず、多くの会社の株式に分散投資するのと同様に、今度はひとつふたつの国に絞らず、多くの国の株式市場に分散投資します。前述のとおり、US株式:外国株式=55%:45%程度でしたので、世界の株式市場比率にならってこの比率で分散投資という考え方ができるかと思います。

実際、Vanguardが行ったシュミレーションでは、外国株を全体の20~50%程度で持つと、リスクの低下が確認されました。もっともリスク低下の効果が高いのは40%程度という結果でした。

世界のトップ企業に投資する

アメリカ市場全部に投資しても、世界にはまだまだ優良企業がたくさんあります。これから力をもって伸びる企業をみすみす見過ごしていることになります。たとえば、Alibaba,    AstraZeneca, HSBC, Nestle, Novartis, Rocheなどなど、ポートフォリオに入れない理由はないでしょう。

さて、どうやって世界分散するかですが、一番手っ取り早いのは、ターゲットデイトファンドを用いる方法です。

リタイヤメント準備 - ターゲット・デイト・ファンドとうまくつきあう

ターゲットデイトファンドの間違った使い方はキケン

ターゲットデイトファンド と ロボアドバイザー どっちが勝ち?

最近では ほとんどの401(k)で提供がされています。401(k)以外でも、IRAやあるいは課税投資口座でもほとんど問題なく選択することができるはずです。たとえば、下でVanguard(左)とCharles Schwab(右)のターゲットデイトファンドを見てみましょう。ターゲット年は2045を選びました。ブルーがUS株式、ピンクが外国株式です(濃ブルーがUS債券、濃ピンクが外国債券)。

全体の55%をUS株式、30から35%を外国株に振っています。これは、株式投資全体のうち40%弱を外国株式にあてている計算になります。この40%は前述の、リスク低下の効果が最大になるパーセンテージでした。

両社ともこのひとつのファンドに投資するだけで、Vanguardのほうは一万株以上に世界分散、Schwabは2,200程度の株式に世界分散が実現できることになります。世界分散パワーを見直してみましょう。

3 comments

  1. いつも勉強させて頂いてます。
    パンデミック以降、食料品店にて買い物すると物価が高くなっているのに気づきます。品不足で一時的なインフレだと思われますが、このままインフレが続くと株価にも影響を及ぼすのでしょうか?お金の価値が下がるという事は株価が上がるのでしょうか?下がるのでしょうか?影響は無いのでしょうか?
    よろしくお願いします。

    1. 私にはお答えするだけの予想がつきません。債券の値段はインフレが上がる/利子が上がると下がるのが常ですが、株式に関してはストレートフォワードな回答がありません。株式の中でもいろいろなタイプの会社があり、それぞれインフレに対しての値動きの傾向は違うと思います。またインフレだけが株価を左右するものではなく、それ以外のたくさんの要素(認識できているものから、市場心理などのようにどう触れるかわからないものまで)が関与するので、簡単にどう動くかは予想がつかないのではないかと思います。ですので、世界分散が良いかと思います。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください