大学の入学者/在籍者数は、パンデミックの影響でここ2年間下降しています。2020年、2021年の2年間でトータル6.5%の在籍者数の減少で、過去50年なかったことだそうです。フレッシュマンの入学者数は2年間トータルで12.3%の減少です。10年くらい前まではインフレを大きく上回る率でのカレッジ費用の高騰が叫ばれていたものの、パンデミック以前より高騰率はインフレ相当かそれ以下に収まりつつあったところ、今回は大学に行きたい学生の人数が減ったわけで、今度は大学経営のありかたにも変化が起こるかもしれないと分析する専門家もいます。
減少・・・
2年間でトータル6.5%減の在籍者数ですが、減少がもっともはげしかったのは、4年制For-profit(営利)大学とコミュニティカレッジのふたつのセグメントでしたでした。
4年制For-profit大学では、2021年にフレッシュマン入学者が25.2%減ったそうです。大学はたとえNot-for-profit(非営利)であったとしてもやはりある程度はビジネスであり、できるだけ「よい」学生を集めつつも、できるだけたくさん授業料や寮費を納めてもらうための「経営努力」をしています。その傾向はFor-profit大学ならなおさら強く、その多くでは学生(顧客)を集めるためにある程度のスカラシップを(特に初年度に多く)出して囲い込み、その後の期間でできるだけお金を徴収すること(利益の最大化)に努めています。学生が足りない分は比較的簡単に借りられる学生ローン(といえば聞こえがいいがローンビジネス)がそろい、卒業して就職しても多額すぎる返済は若者には負担なところ卒業しないでローンだけが残るというような悲惨なケースも少なくありません。ビジネス色の強いFor-profitカレッジの在籍者が減ったことは、そういう意味ではうなづけることかもしれません。
また、コミュニカレッジには別の問題があるようです。本当に勉強する気があり2年間みっちり授業をとって立派に4年生大学にトランスファーする学生や、仕事をしながら勉学を続ける勤勉学生がいる反面で、だれでも希望すれば入学をさせる・・・というちょっと聞こえはいいポリシーのせいで、実際は大学レベルの勉強をする準備ができていない、あるいはその決心がないような学生も多いのだそうです。志願するならとにかく誰でも受け入れ、高い率のドロップアウトがあっても特に問題にもせず、とりあえずPell Grantと学生が負担する授業料で収入は確保できることにあぐらをかいていたようたコミュニティカレッジ環境を背景に、今回の在籍者減少があるようです。
減少率は、4年制大学の中でも難易度の低い大学に偏りがあり、そのカテゴリーは2021年度は平均の3.1%を上回る4.7%の減少を見ました。一方で、難易度の高い4年制大学は在籍者数が2.1%増えました。
人種で言うと、White、Black、Native Americanが2年間の間にそれぞれ10.6%、11.1% 、 12.7%の減少、Latinx、Asianはその半分程度で5.1% 、5.5%,の減少でした。留学生も(当然といえば当然ですが)21.2%の減少です。
興味深いことに、Graduate Schoolの在籍者数は増えており、2年間で5.3%増えました。
州で言うと、もっとも在籍者数が減ったのが、Mississippi (-9.2%), Indiana (-7.1%), New Mexico (-6.8%), California (-6.5%)でした。
専門については、Undergraduateではbusiness, health, liberal arts, engineering, biological sciences and biomedical sciencesが減り、逆にpsychology、computer and information が数パーセント増えました。Graduateでは、MBA、education master’s programs が減り、health 関連分野 が若干の伸び、. Computer and information sciences (19.9%)、 engineering (9.7%)、biological and biomedical sciences (9.5%) は伸びました。
不健全か健全か・・・
大学教育を受ける人の人数が減るということは、「社会がより不健康に向かっている」とか、「ミドルクラスへの切符とされる大学をあきらめる人が増えたのは、社会として不健全」と批判的な声も聞こえますが、その一方で逆に「社会が必要な調整を経て健全になる兆しだ」とみる人もいます。
高卒と比べれば大卒のほうが生涯給料が平均的に良いということと、高等教育を受けた人のほうが結婚率、離婚率の低さ、健康度などの上で高いということはデータで裏付けられた真実のようですが、ただ、だからといってだれでも大学に行くべきだと決めつけるのは短絡的とも言えます。あるリサーチによれば、大学入学後6年で何らかのDegreeかCertificateを取得して卒業する割合は、全体の62.2%に過ぎないそうです。残りの37.8%は学位をとることなくドロップアウト、あるいは7年以上かかったことになります。
パンデミック前には高校を卒業する学生の65~70%が大学に行ったそうで、そのうちの38%弱が6年以内にドロップアウトかあるいは卒業に7年以上かかるとすれば、ざっと一年で900,000程度の子どもたちが、大学に行っても考えていたような結果が出ていないという計算になるようです。本当に大学で何を勉強したいかわからない(まあ、これはよくある話ですが)、大学に行くべきかもわからないし行きたいかもわからない、でもとりあえず社会や親がそういうから行く・・というトレンドが存在していたわけです。もしもそのような「大学に行かないほうがよかった人」たちが、大学に入ったもののスチューデントローンだけこしらえて学位は持たずドロップアウトするかわりに、そもそもはじめから「大学に行かない」という選択を‘今回の在籍者の減少が起こっているのだとすれば、それは社会的に良いことだという主張もなんとなくうなづけます。
パンデミック期間中は労働市場も好調でしたから、とりあえず仕事を得て実際の社会経験を積んでみることも有意義な選択だったことでしょう。しごとに直結したり人生を生きていくためのスキルを学ぶには、大学より社会での実施訓練のほうがずっと有意義かもしれません。ある程度仕事をしてみて苦労したり考えたりして精神的にも大人になってから、大学に戻るという選択もアメリカでは大いにありです。高校を出たら大学に行くのがミドルクラス確保の唯一の道という考え方がパンデミックで崩れたのであれば、むしろそれは良いことだという考え方です。
また、この学生や親側での考えの変化が、これまで学費上げ放題で進んできた大学にも、大学のありかたを考えるきっかけとなるかもしれません。大きく授業料/寮費/その他の収入が減った大学は、今後学生にどのような付加価値を提供していくべきか、どう生き残っていくべきかという問題に直面せざるを得ないでしょう。おしゃれなカフェや寮をそろえたり、エキサイティングなイベントでひきつけているだけでは立ち行かない、何か本質的な価値の提供ができなければ存続はあやういかもしれません。
この変化がよい方向に向かうとよいと思います。
.
いつも貴重の情報をありがとうございます。私の子供が通学しているハイスクールは低所得者層が過半数ということもあるのか、アカデミーと呼ばれる職業訓練が実施されています。校内であったり、他校に行ったり(自分の学校にないコースを受ける)、職業訓練施設等で授業が行われます。一定期間のクラスを修了すれば、試験を受けて州の資格や免許を取得することができます。卒業後に就職しなくとも、その分野に興味があれば大学進学前にお試しができて、生徒たちには人気があるようです。我が子も医療系に興味があったものの、今一つ何が良いのか決めかね、看護助手のクラスを選択しました。ところが直ぐに合わないと判断し薬剤師補助のクラスに切りかえました。もうすぐ薬局で実習があります。その為に仮免も取得。こうやってハイスクールにいるうちに技術や免許を取得できるのは素晴らしいと思っています。実際に地元のコミュカレは低所得者層向けに授業料無料に(但し職業の需要がある分野のみ)し始めましたが、ハイスクール卒業後、直ぐに家計を助ける必要がある子供たちがいます。その点で、在学中に職業訓練する意義があるようです。就職後は職場からの補助で学校に戻りステップアップできたりもします。大学進学以外に選択権があることは、子供たちに希望を与えて良いと思っています。こちらのサイトの来訪者のほとんどは大学進学の親御さんたちでしょうが、こういう例もあるということでお邪魔しました。
すてきなコメントありがとうございます。本当に高校を卒業した時点で、自分の進路をはっきりわかっていることなどほとんどないですよね。私自身のことも子どものことも周りの人たちのことを考えても、みんなまっすぐ一つの道でやってきた人などなかなか見当たりません。ハイスクールのうちにいろいろ体験できることの価値はもっと見直されるべきだと思います。ドイツとかのように、職業訓練のための高等教育機関などももっとできるといいのにと思います。とくに大学費用がばかみたいに高くなってしまった今、大学では大学でなければできないこと、本当に本人のためになることにお金を使うためにも、いろいろ試してみてから納得して進学できるようにすべきと思います。