家計把握に欠かせないのがマンスリーキャッシュフローです。日本語では家計簿と呼ばれたりします。家計把握するのになくてはならない情報ですが、家計簿をつけていなかったらどうします?これからつけ始めて何か月も情報がたまるまで待たなきゃいけない?・・・そんなことはありません。家計簿をつけていなくても、他でためられている情報を使って、ときを遡ってマンスリーキャッシュフローをつくることができます。
世界で一番シンプルな年間収支表
今回は、ご自分がメインで使っておられる銀行の口座明細にもとづいて、「世界で一番シンプルな年間収支表」(下)をすでにつくったところから話を始めます。まだ、年間収支表ができていない方は、こちらの記事で年間収支表をまず作ってみて下さい。
シンプルな収支表から詳細な収支表に変身させる!
この記事では、すでに出来上がっているこの年間収支表の内訳を調べていきます。つまり、シンプルな収支表を、だんだんとより詳細な収支表に変身させていきます。最終的には、その情報をマンスリーキャッシュフローに落とし込みます。
まずはお金の流れ図をつくる
詳細を追跡するためには、お金がどう動いているかを知ることが大切です。そこでまずしたいのが、お金の流れ図をつくることです。銀行口座を中心に、どんなふうにお金が入ってきて、どんなふうに出ていくのかを手書きでもいいので書いてみましょう。これは、お金の動きについてのたいへんよい整理になります。多少面倒でもぜひやってみてください。
手取り収入
銀行に振り込まれる手取りの収入です。収入はオレンジであらわされています。これはすでに、前回の準備段階で把握済ですね。手取り収入は$60,000でした。
自動引き落としアイテム
銀行から自動的に引き落とされる費用をリストします。アパートのレントやモーゲージの支払い、電気代、水道代、ガス代などのユーティリティ費用などがあるかもしれません。また、自動的に貯金や投資に積み立てているものもここに入れてください。支出はグリーンであらわされています。
クレジットカード支払い
今度はクレジットカードの支払いです。複数のカードをお持ちながら、カードごとにその名称を列記します。支出なのでグリーンです。
ATMやデビットカードでの支払い
クレジットカード以外に、銀行口座に紐づけられているATM/デビットカードで現金を引き出してつかったり、直接デビットでものを購入したりする場合があるなら記載してください。支出なのでグリーンです。
Venmo, Zelleなど
これらの送金サービスが銀行口座に紐づけられていたら、項目ごとに合計します。Apple PayやGoogle Payなどが紐づけられていたら、それらも同様にします。支出なのでグリーンです。
チェックでの支払い
最近ではチェックを書いて支払いすることが少なくなりました。チェック支払いは、直接銀行口座からお金がおりますから、銀行口座と結んでください。支出なのでグリーンです。
さて、お金の流れ図ができたら、お金の流れが見えましたね。ここからお金の出入りの把握になります。
銀行口座に出入りする一年分の額を把握する
さて先ほど作った図で、銀行口座と結んだ線に目を留めます。下の図では、唯一のオレンジの線が収入項目で、手取り収入の入金です。一年分の手取り収入(銀行口座への入金額)です。これはすでに把握ずみで、$60,000でした。
次に、数字の1~5で記されたグリーンの線は、銀行口座から支払われた支出です。
この線ひとつひとつを、口座明細上で追っていきます。まずは1から始めて、銀行の口座明細で1に関するエントリーを見つけたら、それをマークし、すべて額を書き出します。そして、最終的にはすべてを1年分トータルした額を計算し書き留めます。これを1から5まですべてに行います。Excelなどを使うと便利でかつ簡単で計算ミスも防げます。
繰り返しになりますが、口座明細の上で、カウントした項目をマークする(ハイライトなどで)のを忘れないでください。あとあと、見落としがないか調べるのに役に立ちます。
1.自動引き落としアイテム
それぞれのアイテムごとに一年分のトータルを計算してください。
レント $12,000
電気・水道 $954
ガス $592
貯金 $2,400
2.クレジットカード支払い
それぞれのクレジットカード支払いごとに一年分のトータルを計算してください。
クレジットカードA $16,231
クレジットカードB $17,410
3.4.5.その他も同様に
同様に、4のAMT/デビットカード支払い、5のVenmoやZelle支払い、6のチェックでの支払いも一年分のトータルを出します。
例)ATM現金引き出し $1,200
Venmo支払い $532
チェック支払い $546
これで一年トータルでの銀行口座からの支出がカウントされました。
年間収支表 ― 変身ステージ1
年間収支表の支出の部分に、今わかった情報を入れてみます。こんなふうになりました。
少しだけ、家計簿っぽくなりませんか?
ここまででリストしていない出入金があったら?
もしも、口座明細を見ていて、今マークした以外にもお金が出入りしているものがあったら、それお金の流れ図をつくるとき見落としている項目です。お金の流れ図に入れるべきアイテムであれば、書き入れ、合計額も計算してください。それらが小さな額であったり、いつもあるわけではない特別なものであれば、「その他」というくくりをつくってまとめてしまって、その合計額を入れてください。
1セント、1ドルの単位で合わせようとしない
ここで大切なのは、今していることは大きなトレンドをつかんで家計把握をすることだということです。1ドル、1セントの単位で会計監査することではありません。数十ドルの差であれば、無視しても大丈夫です。
几帳面な方なら、細かいところまできっちり合わないと気分が悪いという方もいらっしゃるでしょうね。もちろん、それができればそうするのもいいと思います。ただ、案外労力がかかりますし、途中でいやになる可能性もあります。監査ではないので、100%の正確性は必要ありません。家計の把握と診断のためには、ある程度正確であることが必要なだけです。ある程度正確とはどういうことかというと、その数字をもとに判断したり、今後の方針を考えたりして問題が出ない程度正確ということです。
通常、年間で数十ドル単位の誤差ならば、月割りにして数ドルですから問題は起こりません。たとえ、年間数百ドルの差でも、年収や支出の額との相対的な関係にもなりますが、問題がない場合も多いです。誤差が数百ドル以上だと、何が原因かは銀行明細を見なおして追跡してみたほうがいいかもしれません。
いやになって途中で投げ出すよりは、たとえ多少粗くても何らかの結果が出るほうがよいです。判断はその家計ごとにされるべきことなので、判断がつなければとにかくその旨記録だけしておきましょう。記録だけしておけば、後で簡単に戻ることができます。
さらに細かく追跡できるところを調べる
さてここまで来たら、今度はまだ細かく追跡できるところをさらに進んでいきます。
クレジットカード
まずはクレジットカードです。カードごとに見ていくことになりますが、ここで便利なのが、クレジットカード会社が自動的に用意してくれる年間利用レポート(Spend TrackingとかSpending Reportとか名称はいろいろ)です。American Express、Chase、Capital One、Citiなど大手のカード会社は、皆何らかの年間利用レポートを提供しています。使い勝手が完全ではないかもしれませんが、でもこのレポートがあれば大雑把な傾向はつかめます。
カテゴリー分けはクレジットカード会社がするので、自分の望む分け方ではない場合があります。とりあえずは、与えられたものに満足するとして、このままのカテゴリーで入れてみるとよいでしょう。気になったところはあとでじっくりと取り組みます。
複数のカードをお持ちの場合、同じようなカテゴリーが重複することもあります。あとで、カテゴリー整理などはいつでもできますから、今はとりあえずクレジットカードごとに、クレジットカード会社がつけたカテゴリーのまま転記しましょう。たとえばGroceryという項目が、クレジットカードAにもクレジットカードBにもあったら、クレジットカードAの下にGrocery、クレジットカードBの下にもGroceryというカテゴリーを記録しまう。現段階で、無理にひとつに集約しようとしなくて大丈夫です。
AMT現金引き出しとデビットカードとチェック支払い
これは項目的にそれほど多くないのではないかとお察しします。もしも多い場合は、別途、お金の支払い方法の考察が必要かもしれません。
もしも、月額にして少ないレベル、たとえば200ドル以下なら、これはATM/デビット利用としてまとめてしまってよいと思います。もし額として大きければ、何に使ったかの追跡が必要です。デビットカード利用なら銀行口座明細に情報があるはずです。
ATMから引き出して使った現金を何に使ったかは、どこにも明細がないので、ご自分で思い出すしかありません。できる範囲で記憶をだどりましょう。
Venmo, Zelleなど
これは、送金時にメモを残しておけば、何に使ったかの情報があると思います。メモを残していなければ、誰に送金したかだけはわかっても、何の目的だったかはわかりません。わかる範囲で追跡します。
チェックでの支払い
これも、上と同様ですが、残っているメモや誰に対してチェックを書いたかで、わかる範囲で追跡します。
年間収支表 ― 変身ステージ2
さてこの詳細情報を、今できている収支表に入れて、さらに詳細収支表へと変身させます。
すごい、すごい!なかなか家計簿っぽくなってきたではありませんか。
疲れてしまったら、ここで一息ついて、また明日にでも続けてください。
完成まであと一歩です。
最後に給料天引きアイテムを記録する
最後に把握する必要があるのが、グロスの収入と‘給与天引きのアイテムです。銀行に振り込まれるのは手取りの収入(ここでは$60,000)ですが、手取りになる段階でグロス収入から引かれている費用を記録します。下の赤線で囲まれた部分の把握です。
給与明細(PaycheckとかPaystubと呼ばれるもの)が必要です。一年分集めてください。
グロス収入
まずはグロスの収入(何も天引きされない前の収入)を確認します。一年分を足し合わせます。雇用主と折り合った年収がこの数字のはずです。
手取り収入
次にさまざまなものが引かれたあとで、銀行に振り込まれる(Direct Deposit)金額を確認してみましょう。この額の合計は、すでに把握済の手取り収入、つまり銀行への入金額合計と同じ額になるはずです。
給料天引きアイテム
グロス収入と手取り収入の差が、給料から天引きされる額です。一年分の額を項目ごとにトータルします。
健康保険料や401(k)などの積立額、人によってはFSAやHSAの積立額もあるかもしれません。Federal Tax(連邦所得税)、State Tax(州所得税)、Social Security税、Medicare 税などの税金もあります。
年間収支表 ― 変身ステージ3
そして年間収支表の「手取り収入」の上に、グロス収入と給料天引きアイテムを書き足します。こんなふうになります。
これでグロス収入から始まって、支出がすべて記録され、年間の余剰額が出たことになります。赤字が出ていれば、余剰の代わりに不足とか赤字とか書いておきましょう。
さて次は最終段階です。すごく簡単にできます。
マンスリーキャッシュフロー ファイナル変身
ここまでで、支出の詳細な内訳がある年間収支表ができました。
最後は、すべての項目を12か月で割ります。こんな感じになりました。これが1年を平均してのマンスリーキャッシュフローです。
1年平均がよいわけ
上は1年間の平均マンスリーキャッシュフローです。平均値なので、1月とか4月とか10月とか、どの具体的な月をとっても、これと全く同じ結果ではないかもしれません。ですが、1年を通じて、1か月はだいたいこんなかんじで回っているという傾向をみるには最適です。
というのも、クレジットカードの利用サイクルはかならずしも月の1日から末日までで区切られていないのがふつうですし、そのうえ口座から支払いが生じるタイミングも中途半端な日です。そういう意味では厳密に、月ごとの支出を把握するのはもともと無理があります(このような厳密な把握をするためには、他の方法を使う必要があります)。
現在置かれた家計の診断に必要なのは、細かい監査ではなくて、大きな傾向把握です。12か月平均で、月ごとのアップダウンを超越した安定的な傾向を見ることが目的です。
バランシートと対で使う
このマンスリーキャッシュフローは、もう一つの重要な家計把握ツールであるバランスシートと組みでわれるべきものです。マンスリーキャッシュフローとバランスシートを合わせて、現在の家計の把握、診断、問題点の指摘、ゴールの設定やゴール実現への施策を考えることになります。もうバランスシートがある方もいらっしゃると思いますが、まだの方はバランスシートの作り方についてはこちらをご覧ください。
これからどう管理するかは別途考える
今やってきたことは、過去に起こった家計活動を、手っ取り早く把握することでした。そもそも家計簿をつけていなかったけれど、なんとかして過去情報を駆使してンスリーキャッシュフローを作るのが目標でした。では今後はどうするのかを考える必要があります。家計管理について、ご自分にぴったりの方法を選んでいくことになります。