老後に家のエクイティをどうする?

アメリカで持ち家のある人にとっては、ホームエクイティ(家の市場価格からモーゲージなどの負債残高を引いたもの)は資産のうちの大きな要素です。都市部などでは家の値段がそもそも高いうえに、昨今のトレンドでも見て取れるように不動産価格は「上がるもの」であり、経年とともにモーゲージ返済が進み負債が減少するにつれ、ホームエクイティはまとまった額へと成長していくことになります。

すでにリタイヤメントに入っている人も、これから迎える人も、ゆくゆくはこのホームエクイティをどうしたいかについてある程度考えておくのが肝要です。どんなシナリオがあるか、ゆるやかに考えてみます。

リファイナンスやエクイティ・ローン

リタイヤメント期を迎えるにあたって、末永く老後を過ごせるように家のリモデル、改修が必要ということもあるでしょう。費用がすでに貯めてある場合やリタイヤメント資金から調達できる場合はよいですが、そのような資金繰りが難しい場合にはエクイティを担保に現金化する方法があります。

まだモーゲージが残っているのなら、キャッシュアウト・リファイナンスで組みなおし、現金を手に入れることもできます。モーゲージが残っておらず完済済でも、キャッシュアウトしてのモーゲージ組みなおしができることもあります。せっかく完済したのにまたモーゲージという思いもあるかもしれませんが、計画的に行うことでこれから暮らしやすい環境を作ることにつながり、さらには返済が無理のないものなら考慮に足る方法です。

代替として、モーゲージではなくホーム・エクイティ・ローンを組むという方法もあります。5年、10年、15年などの期間、まとまった現金を固定金利で借りる方法です。

手にした現金は、医療費でも旅行でも何にでも使うこともできますが、持ち家のリモデル、改修のために使う分に関しては所得税において利子控除の対象となります(2022年時点で、通常$750,000までのローンが対象)。昨今ではStandard Deductionが増額されたため、ある程度まとまった控除対象額がないとItemized Deductionを選ぶ意味がない場合が多いですが、もしもItemizedをされるのであれば利子分はそこに含めて控除を受けることができます。

モーゲージにせよホーム・エクイティ・ローンにせよ、月々の返済が必要ですから、それをサポートできる収入があることが求められます。ソーシャルセキュリティ、その他の年金、アニュイティ、401(k)などからの収入などがカウントします。無理のない返済額であり、リタイヤメント後の生活を脅かすほどのものではないことをきちんと確認する必要があります。

HELOC

リモデルや改修のようにまとまったお金が必要というわけではなく、ちょこちょこっと発生する特別費用などをカバーするために最適なのがHELOC(Home Equity Line of Credit)です。Line of Creditとは、借りられる上限と借りられる期間が決められて、その範囲でいつでも自由に借りることができるというしくみです。借りられる期間(5年とか10年とか)の内は、借りている分に対する利子分だけを払っていればよく、元金の返済は必要がないのがふつうです。借りられる期間が過ぎると返済期間がはじまり、ここからは元金の返済が必要となります。

モーゲージやエクイティ・ローンに比べると手続きは簡単で、クロージングコストなども課さないものもありますが、その分利子は高めであり、さらに変動金利のものが多いです(固定金利もないわけではない)。モーゲージやエクイティ・ローンと同じく、利子控除の対象にもなります。

変動金利で一定期間後から現金返済が始まるというのは、リタイヤメント後の家計プラニングを難しくします。その意味でHELOCは計画的に借りるというよりは、もしも一時期的にお金が足りなくなった、必要になったという非常時に備えて、いつでも使えるように準備しておくものというようにとられるのがいいと思います。将来引っ越すことが決まっていて、返済期間になったら売却して一度に返済してしまうような場合には、考慮に足る方法かもしれません。

リバース・モーゲージ

リバース・モーゲージは62歳以上の方を対象にした、自宅のエクイティを担保にお金を借りるしくみです。金利や借り方などにいろいろなバリエーションがあり、ローンを組んだり継続維持するための条件や手数料なども複雑なので、きちんと説明を受け納得をして契約する必要があります。しっかり理解し計画的に使うなら、借りたお金は死ぬまで返済する必要がなく自宅に住みながらにしてエクイティを現金化できる便利な方法であり、リタイヤメント後のマネープランには力強いものとなる可能性を秘めています。

借りたお金は死ぬまで返す必要がないものの、ただ契約者がその家に住み続けていることが条件であるので、介護施設などに移転する場合には問題になります。その意味で老後をどのように設計していくかというライフプラニングと合わせて、考える必要があります。

売却

家に住みながらにしてエクイティを使う方法として、リファイナンス、エクイティ・ローン、HELOC、リバースモーゲージをご紹介しましたが、いっそのこと売ってしまってエクイティを現金化するというのも考慮に足る方法です。日本帰国はもとより、もっと気候や条件のよい州、所得税のない州、お子さんの近くの州に引っ越したいという場合や、同じ町の中でもダウンサイズして住み替えを行いたい場合などには、売却をするという選択になるかと思います。また、介護施設に入ったり、長期介護が必要になった場合も、売却することでまとまった現金を手にすることができます。

キャピタルゲイン(市場価格―購入時の価格)がある場合には、シングルで$250,000まで、夫婦ジョイントで$500,000までの税控除があります。ただし、過去5年のうち2年間はその家に住んでいることが条件になります。とりあえず先に引っ越してその間人に貸しておいてから、やっぱり売ることにしようとした場合など、この条件をクリアできないとキャピタルゲイン控除が失われますので注意要です。また、家に対して行ったリモデルや改修費などは、購入時の価格に加えることができる(購入時の価格とリモデル/改修費のトータルが家の原価コストとして市場価格から引かれ、キャピタルゲインが計算される)ので、すべての関連のレシートは管理しておきます。

たとえば、$250,000で購入した家が、長年の間を経て市場価格が$700,000になったとしましょう。$100,000のリモデルをしたとすると、家の原価コストは$250,000と$100,000でトータル$350,000です。$700,000で売却すればキャピタルゲインは$350,000となります。ジョイントリターンのご夫婦なら$500,000のキャピタルゲイン控除があるのでキャピタルゲインはゼロになりますが、シングルの方なら$250,000のキャピタルゲイン控除後、$100,000分に関してキャピタルゲイン税がかかります。

相続

リタイヤメント資金は十分にあるのでとくに家のエクイティを当てにする必要もないという場合は、敢て何もせずそのままお子さんへ相続することになります。相続におけるすばらしいことは、Step-up basisといって、相続時の市場価格が家の原価コストにstep-upする(購入時の価格であった原価コストが、相続時の市場価格にstep-upされる)ということです。

上の例で、$700,000の家を親が売らずそのまま子どもが相続したとしたら、原価が$350,000から相続時市場価格の$700,000にstep-upされます。相続するなりすぐ売却すれば、キャピタルゲインは事実上ゼロ。税金も免れます。あるいは、子どもがその家に移り住んで2年してから$850,000で売った場合、$850,000―$700,00=$150,000がキャピタルゲインになりますが、シングルの$250,000のキャピタルゲイン控除が提供され、やはりキャピタルゲイン税はゼロです。

ローンがある場合でも、相続が起これば同様にstep-upが起こります。通常、ローンの残高は亡くなった人の資産から返済されるか、そうでなければ家を売却したお金から返済がされます。キャピタルゲインが非常に大きく、$250,000/$500,000のキャピタルゲイン控除を上回るような場合には、敢て親が売らないで子へ相続させるというのがキャピタルゲインを消すよい方法かもしれません。

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